時には目食耳視も悪くない。

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人に優しく、女性に優しく。

2017年03月17日 | 文学
 当ブログ記念すべき初投稿は、大好きなドイツ文学から本を一冊ご紹介したいと思います。

 選んだ本は、《女のいえに男がひとり(原題:Ein Mann im Haus.)(1991)》
ウラ・ハーン著/越智和弘訳(1996、同学社)です。

 内容を大雑把に言いますと、女が自分の家に男を監禁して、思う存分いたぶる話です。

 作者のウラさんは、実生活で長年、ドイツの著名人の愛人をなさっていて、後年、その
不倫相手とちゃんとご結婚なさったそうですが、この本を読む限り、果たして結婚して
良かったものかどうか、旦那さんの安否が気遣われるところです。(笑)

 長年、妻のある男性の愛人として、「都合のいい女」を務めてきた主人公(女)が、
彼から一方的に別れを切り出されそうになった途端、彼を寝室のベッドにくくりつけ、
エゲツない仕打ちをしまくります。
 ここで、勘違いしてはいけないのが、彼女がこの行動に走ったのは、彼への愛情ゆえでは
ないということです。彼をまだ愛しているから、別れたくなくて監禁したのではなく、
むしろ、その行為は「彼の性的奴隷だった自分」と決別するための儀式のように、私には
感じられました。
 そこには、彼に踏みにじられた人としてのプライドを取り戻す目的もあったと思われます。
だから、いわゆるSMプレイとは、ちょっと意味合いが違うかなと思います。

 女性を男性の従属物のように扱う風潮の世間一般への抗議でもあると思います。作者が
この本を通じて本当に言いたかったことは、これなのかな?と私は勝手に推測するのですが。

 体格や腕力において、女性はどうしても男性には敵いません。だからといって、女性が
男性より劣っているわけではありませんし、男性が女性をまるで家来や召使いのように
扱っていいわけでもありません。にもかかわらず、家庭において、女性が家事をするのは
当然だと思っている男性は少なくないですし、そのうえ、専業主婦の妻よりも、会社で働いて
お金を稼いでいる夫の方が偉いなんて言う男性もいるようです。そんな男性と結婚してしまった
女性は本当に災難です。

 最近では、「主夫」や「育メン」など、従来から女性の役割だと目されている家事や育児を
する男性が話題になりますが、本来ならば、それがありふれたことにならなければならない
はずです。だって、家事や育児をしているという理由で、女性は取材されたりしないですよね。
会社で働いているという理由で、男性が注目を浴びないのと同様に。

 そんなふうに、「女性なら」あるいは「男性なら」、誰でもすることだと、世間一般によって
決めつけられている固定観念に揺さぶりをかけたい。作者のそんな意気込みを感じました。

 ドイツ文学界はやはり男性中心というイメージが強い中、ウラさんがこういう作品を書いた
ということは、単純に同じ女性として凄いなって思います。私も、社会は男女同権であるべきだと
思いますが、なかなかその主張を形にして、広く世間に知らしめることって、ちょっとやそっとの
覚悟ではできませんよね。尊敬します。

 本の内容に戻りますと、かつては恋人関係にあった男に対して、復讐してやろうと監禁したものの
うっかり情にほだされそうになって、心が揺れ動いたり、また監禁行為が周囲にバレそうになって
ハラハラしたり、そしてこの復讐劇がどんな結末を迎えるのか、読み応え十分な作品です。

 読み終わった後に、「よくやった!」と胸がすく思いになるか、女の人の恐ろしさに心底震え
あがるか、はたまた、その程度ではまだまだ男を許せないと思うのか、感想は様々だと思います。
 逆に、こんなことされてみたい!なんて思われる殿方もいたりして?!(それこそ驚きです。)

 最後にひとつだけ。男性の皆さん、女性には優しくしましょう。
 後でヒドイ目に遭わないように…







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