時には目食耳視も悪くない。

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混ぜるな危険?

2017年03月24日 | 演奏会

 2つの異なるジャンルのものを組み合わせて新しいものを作ることを、よくコラボレーションなんて言います。俗に言う「コラボ」ですね。

 和食とフレンチ、和服とドレス、自然とイルミネーション、写真と俳句、ラップと演歌など、組み合わせをあげれば数に限りがありません。
 組み合わせる物同士が異なっていればいるほど、その意外性が見る者に新鮮さを与えて、思ってもみなかった物が注目を浴びることもしばしばです。

 ただ、ここで問題になるのが、AとBをコラボレーションした時、完成したものが「Aっぽい何か」、あるいは「Bっぽい何か」になってしまう可能性があるということです。
 性格の異なるもの2つを使って1つの作品を表現しようとする時、水と油のようにどうしても混ざり合わない、不可侵とも呼べる領域、つまりお互いの個性が出てきます。
 どちらか一方の個性を強調しようとすると、もう一方の個性を呑み込んでしまったり、あるいは付随的な存在にしてしまいますし、どちらも強調しようとすると、作品が成り立たなくなることもあります。

 別々にそれぞれを味わった方がいいんじゃないの?と思ってしまうコラボレーションを見かけたことはありませんか?
 両者がそれぞれの個性を損なうことなく作品の中に存在してこそ、真のコラボレーションと言えるのではないかと、私は思います。

 今回ご紹介するのは、日本の伝統芸能「能」と、西洋音楽の「オペラ」のコラボレーションです。


 あらかわ舞台芸術創造プロジェクト あらかわ創造舞台芸術祭2017

  能×オペラ 隅田川

 公演日:2017年3月20日(月・祝)
 会場:サンパール荒川大ホール
 主催:ACC(公財)荒川区芸術文化振興財団

 第一部 能『胡蝶』
 第二部 『レクイエム』フォーレ作曲(抜粋)
 第三部 能×オペラ『隅田川』

 監修・振付 佐野登(宝生流)
 企画・構成 志田雄啓
 演出    十川稔
 音楽アドバイザー 森島英子
 舞台監督  渡辺重明
 舞台美術  中島貴光
 照明    矢口雅敏


 私は能には詳しくありませんが、どう考えても、日本の伝統芸能と西洋音楽がマッチするとは思えませんでした。
 独特の緊張感のある時間軸を持つ能と、等時性を生み出す西洋音楽とでは、音楽の性格が違うどころの話ではありません。
 また、能の最大の持ち味とも言える「静」の表現の中では、華のあるオペラのベル・カントは異物のように浮いて聞こえてしまうでしょうし、オペラのスピードでは、能の世界観が崩れてしまうような気がしたからです。

 そもそも、能は能舞台で上演されてこその「能」であって、それをコンサートホールで観るのは無粋なのでは?
 どうせなら、別々に鑑賞したいなー、なんて思っていたのですが、見事に期待を裏切られました。

 1つの舞台の上に、なんと、能は能として生きていて、そこへオペラのベル・カントが違和感なく融合されていました。
 演目が能作品をベースにしているので、能寄りの演出ではありましたが、音楽や舞台照明・美術が2つの異なる表現様式をうまく繋いでいたと思います。
 黒を基調にした舞台の上に能の衣裳が映えて、板の間で観るより幻想的な印象を受けました。

 このコラボレーションの成功においては、オペラ側の出演者の皆さんが数年前から、かなり能を本格的に研究しているということが大きく功を奏していたと思われます。
 この数年の努力なくして、能とオペラという表現概念、さらには上演様式からして真逆と思えるものを共存させつつ、完成度の高い1つの舞台作品として成立させることはできなかったと思います。

 公演プログラムの組み方にも工夫が見てとれました。
 最初に、伝統にのっとった能の作品を上演し、次に西洋音楽の合唱作品を演奏、そして、最後に能×オペラを上演する。
 観る人が、両者の様式を実際に目で見て、肌で感じ、それに慣れて鑑賞できる筋道が作られてから、能×オペラが上演されたので、抵抗なくこの舞台の世界に入っていくことができたのだとおもいます。
 あまりに自然なので、途中からは、能なのかオペラなのか、なんてこだわりはなくなり、何か新しい舞台のジャンルなのだと思って観ていました。
 「オペラでも能でもない、新しい音楽劇」とでもいうような。

 普段、オペラの舞台を観る機会が多い私には能が目新しく、その迫力のある存在感・表現力にぐいぐい引き込まれました。
 終わった後、すぐには拍手ができないくらい感動したのですが、幕が降り切らないうちに拍手している人もいて、さすが下町、江戸っ子の皆さんは気が短いなんて、田舎者の私はぼんやり思ってしまいました。
 芝居やステージは公演が終われば、「その場限りの夢」と、消えてしまう儚さを惜しんだりしますが、本当に現実に引き戻されるのが早かったです。
 もうちょっと、舞台の余韻に浸っていたかったなー、と思うくらい素敵な舞台でした。

 またどこかで再演される機会があったら観に行きたいですし、これからの伝統的演目として何度も上演され、長く多くの人に愛されていって欲しいと願ってやみません。





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