箕島高校の尾藤監督。
この名前を聞いて、
その采配の姿や声が思い浮かぶ人は、
”昭和の高校野球”ファンですね。
ワタシを含め尾藤監督を知っている層の人たちも、
すっかり”オールドファン”という枕詞をつけて語らなければならないようになってしまいました。
時の流れって、本当に早いものです。
尾藤監督の訃報に触れて、
いろいろな感慨がどっとワタシの中に湧き出してきました。
名監督の訃報を知って動揺してしまったのは、
早実・和田監督、池田・蔦監督に続いて3度目です。
【箕島高校】
昭和40年代から50年代にかけて、
まさに高校野球の代名詞でした。
剛腕・東尾を擁して鮮烈デビューを飾った甲子園ベスト4。
甲子園のアイドル”コーちゃん”こと島本講平でのセンバツ制覇。
”定時制の星”東投手の4完封での選抜2度目のV。
そしてあの”星稜vs箕島戦”。
その年、3校目の春夏連覇を成し遂げ、
箕島高校はそのピークを迎えました。
尾藤監督は、
昭和40年代の隆盛の後一度監督の座を辞しています。
再度就任して、
その後あの【尾藤スマイル】が誕生しました。
いろいろな経験をした後、
尾藤監督は『選手に練習の力を十分に試合で発揮させるためには、監督がこわばっていてはダメ。そこで、ベンチの中では、どんなプレーが出ようとも笑っていようと心に決めた』と語っていました。
猛練習と試合での尾藤スマイル。
厳しさとリラックスを両方手に入れたチームは、
昭和50年代の間ずっと、
高校野球界の頂点を極め続けたといっていいでしょう。
箕島の野球はスキのない完成された野球でした。
好投手が常にチームの中心にいたのは間違いないのですが、
バックの守りは素晴らしく、
何度も何度も投手を助けました。
そして、
打撃面に目を移すと、
何と言ってもあの”プッシュバント攻撃”が瞼の裏に残っています。
箕島のベストゲームとして語られるのはあの延長18回の激闘【箕島vs星稜】戦ですが、
ワタシは箕島高校としての最高のゲームは、
その年の選抜決勝【箕島vs浪商】戦だと思っています。
エース石井が連投の疲れから香川を中心とした浪商の猛打線に打ち込まれますが、
バックがそれこそ”総力を挙げて”援護。
剛腕・牛島を足元から崩していった、
あの投手-1塁手-2塁手を結ぶ三角形の間に落とす絶妙のプッシュバントは、
高校野球の花でした。
その素晴らしい切れ味、
忘れることはできません。
今の高校野球とは違い、
箕島高校はほとんどすべての選手が地元出身。
地元出身の”野球小僧”を集めて鍛えに鍛え上げたチームが、
【箕島高校】なのです。
尾藤監督は満面の笑みを浮かべながら、
いつもベンチにどっかりと腰を下ろして選手たちのプレーを見つめていました。
選手と監督が一体となった、
素晴らしいチームだったと思います。
箕島はその春夏連覇の昭和54年の後も、
昭和57年には”箕島史上最強”というチームを作り上げて甲子園にやってきました。
昭和59年には”ドラ1二本柱!”の投手陣でスケールの大きなチームを作り優勝も期待されましたが、
木内監督率いる取手二の前に初戦で逆転負けを喫してしまいました。
この年を境にして、
箕島はその力を徐々に落としていきました。
60年代に入って、
尾藤監督の息子・強投手で”親子鷹”の甲子園出場を狙いましたが、
すんでのところでその夢はついえました。
後日TV番組か何かで、
尾藤監督が酒を酌み交わしながら(あるいは食事だったかもしれません)、
ぽつりと『監督生活でやり残したことと言えば、この息子と一緒に甲子園の土を踏めなかったこと』
とつぶやいていたことが忘れられません。
そして、
『俺はいつまでたっても、この息子が一番!いつまでも大好きなんだ!!』
と言っていたのを思い出します。
それまで高校野球の監督がそんなことを言うのを聞いたことがなかったので、
(高校野球の監督である親父が選手である息子について語る場合、いつもベースになるのは【星一徹-飛雄馬親子】みたいなもんだと思っていたので、驚いたと同時に尾藤監督の愛情の深さを、本当にほほえましく思ったのを覚えています。)
『こんな監督いたらいいなあ』
と思うような監督さんでした。
晩年は大病を患い非常に厳しかったと思いますが、
何度かTVでも放映されている【箕島vs星稜】のOB戦では、
あの激闘で最後になるはずだったファールフライを落球した星稜・加藤1塁手を、
いつも気にかけていましたっけ。
ああやって気にかけてもらうのって、
男にとって一番嬉しいことだと思います。
【加藤です。今日はやってきました】という加藤選手に対して、
【お~加藤か。いろいろ苦労しただろうなあ。元気でやっとるか】
と満面の笑みで握手を求める尾藤監督の姿、
忘れられません。
こうして名監督の訃報に触れ、
まさに【巨星堕つ】の心境です。
高校野球好きにとっては、
たまらなくさびしいニュースでした。
合掌。
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