花子と呼んでくりょ1
昭和20年東京。
夜更け
すらすらと原稿用紙にペンを走らせる音。
「曲がり角を曲がった先に何があるのか
わからないがでも、それはきっと・・・」
大きな辞書を片手に英語を読み
お話をつづっているのか。
そこに突然
空襲警報がなった。
「きっと、一番良いものに違いないと思うの・・・」
焼夷弾が降ってきた。
火が町を焼き尽くすように、降ってきた。
★昭和20年4月15日東京の夜空に
百機を超えるB29が現れ大森の街も
恐ろしい爆撃を受けました。
娘が「お母様」と言ってきた。
その女性は娘に逃げようと
いった。
火が迫ってくる。天井が焼けて落ちてくる。
さきほどまでつづっていた原稿のもとになる
原書が・・・。
あれを焼くわけにはいかない。
★もしも、この夜たった一冊の原書が
燃えてしまったら私たちは永遠に
出会えはなかったかも
しれません。
★みんなが大好きなあの赤毛のアンに。
女性は、そこにあったクッションでたたいて
火を消して、原書と辞書をもって
防空頭巾をかぶった。
「なに?」娘は母に聞いた。
「命よりも大切なもの・・・」
二人は手を取って走って行く。
そこに、親にはぐれた子供が泣いていた。
「大丈夫よ、お寺まで行くのよ。」
女性は声をかけた
「こわいよ~~」
「こわいよぉ~~」
子供たちはおびえている。
夜空をおおうように落ちてくる
焼夷弾は火を噴いていた。それをみて
女性は、「花火みたいね」といった。
「いい?想像してみて
これからみんなであの花火の中を
走り抜けるの。恐くないでしょ?
いきましょ、急いで。」
子供たちはうなずき、一緒に走った。
★この勇ましいおばさんは
村岡花子といいます。
★赤毛のアンを初めて日本語に訳した
翻訳家です。これは花子とアンが出会い
日本中の人たちに夢と勇気を
送り届ける物語です。
★花子こと安東花です。
甲府の貧しい農家の家に生まれました。
甲府はブドウの豊穣の時をむかえ
美しくその実は陽に映えて輝いて
いた。それを見て花子は目を輝かせた。
花子は家の家事をやっていた。
水汲みは朝からの日課だった。
とはいえ、寒い朝のこと。
川の水は冷たく、そして
重い・・・。
花はそこに来ていた白鳥の群れに
声をかけた。
「おはよう、お前たち、早起きじゃね?」
すると、白鳥たちは空へ飛んで行った。
「あ、待ってくりょ」
そして、「ようおし・・」といって
目をつぶった。
えがいたのは自分がもし空を飛べたら
こんな感じに下界が見えただろうと
いう想像だった・・・。
★花は小さいときから夢見る力を持っていました。
眠い朝や辛い力仕事の時こうやって
想像の翼を広げれば
どんな鳥より高く飛べるのでした。
「富士山だ~~」遠くに富士山が見えた。
「あああーーー」持っていた水桶を落として
夢から覚めた。
重たい水を汲んで家に届けた。
「おじいちゃん、
お兄さん
お母さん・・」
みんなが野良に出て行く。それを
見送る。
花は背中には妹を背負い、
ご飯を炊き、おむすびを作り
野良に出た家族に届ける。
川に水汲みに行くと
ふと見上げれば土手の上を
本を読みながら歩く少年が
いた。
それをみて、花は「いいなぁ~~」
と思った。
そこへ、男の子たちが
ばらばらとやってきた。
そして、「花、はなたれ」
「お前んちは小作で貧乏だから
学校へもいけないんだぁ!!」
貧乏、貧乏
はなたれ
貧乏
と口々にいう。
「なんとか言え、はな!!」
「はなじゃない、花子と呼んでくりょ。」
「はぁ???
花子と呼べっし?」
「こいつなにいうだ?
小作のくせに
花子だって、笑わせるジャンけ」
はなたれ花と
口々にいって逃げて行った。
そこにさきほど本を読んでいた少年が
やってきて
「花、大丈夫か?」という
「花じゃない、花子と呼んでくりょ」
そういている間に悪がきたちが
なげつけた水桶が川に流されて
行く。
大変だと思ったときだった。
一人の男性が走って桶を取ってくれた。
その人は、一年の半分は家にいない
東京に行商に出ている父親だった。
安東吉平・・・安東家の養子だ。
「花~~ほれ!!」
「お父、帰ってきたのけ?」
二人は明るく輝く野原を歩いて帰った。
父親が買ってきた土産は
絵本だった。
食い物のほうがよかった・・・
と子供たちは言う。
「誰が読むべ?」と母親ふじ。
周造爺さんは、「婿殿しか字が読めない」
という。
ところが花は「本物の本ジャンけ。
おら、初めて本に触った。
夢みたいだ」と喜ぶ。
「夢みてぇか?」父親がきくと
花は「うん」と答えた。
「お父ありがとう。」
「やっぱり花はお父のこじゃ。」
父親は喜んだ。
絵本を読む花に、父親は
本がさかさまじゃという。
実は、家事手伝い、子守が
忙しいので、花は学校へ行って
ない。本来なら一年生。
・・・字が読めないのだ。
それを聞いた父親は早速
翌日、花の手をひいて
学校へ連れて行った。
花は、どうしてそうなのかと
不思議だった。
子守も、ご飯炊きもだれがするのかと
言ったが・・
本が好きな花が字が読めないことに
ふびんさを感じた父親。
★ああ、夢にまで見た学校でした・・。
実際、花は学校へ着くと、本物の学校だと
喜んで入って行った。
「新しく入学した安東花さんだ。
みんな仲良くしてくれ。」
と先生が言った。
みんな、「はい」、と答えた。
「とりあえずここに座れ」と
先生は机を指差した。
「はい」、と花は答えた。
が・・・花は椅子がわからないのか
机を指差したのでそのとおりに
机の上に正座した。
クラス中はあっけにとられて
大笑いをした。
先生は、どうしてそこに座るのかと
いったら、先生がここに座れといった
と、花は答えた。
「花のいうとおりじゃ、先生の指示がまち
がっとる」
と、父親が後ろの扉から顔を出して
いった。
「余計なことを言わんでくれ」と先生は言った。
修身の時間だった。
「学問してよき人と成れ・・・ずら。」
と、先生は黒板に書いてある文字を
読んで「ずら」とつけた。
子供たちはその通りに読んで
「ずら」までつけた。
花はきょろきょろした。
するとまた父親が顔を出して
「そういうなまった言葉で教えると
は?東京では通じんぞ。ずらずら・・と。」
「お前またいたんけ?
授業の邪魔ずら。けーってくれずら。」
「俺は子供たちの教育のために
いっているのだじゃ。」
「先生は、尊とみ敬えずら。」
と先生はいう。
子供たちは声を合わせて
「先生は尊み敬えずら・・・」と言った。
父親は、怒りながら帰り道
つぶやいた。
「あんな田舎教師に花を任せられない。」
そして一週間後。
花はみごとに本を読んだ。
先生は一週間で読めるようになったと
ほめた。
それをよく思わないタケシたちは,
授業中ふざけていて
先生からお小言を食らった。
その腹いせに、タケシは花がおぶっていた
赤ん坊の髪の毛をそっとひっぱった。
赤ん坊は火が付いたように泣いた。
先生は「誰だ?赤ん坊を泣かしたのは」と
いう。
「朝市君でごわす・・・」とたけしが答えた。
たけしは、一列置いた別の列に座って
いた。そこから悪さをしに移動したのだ。
花のすぐ後ろにいたのが朝市で・・
朝市がやったのだと花は思った。
朝市はおとなしそうな子で
違うという前に花の怒りに触れて
石版で花に殴られた。
それを見た先生は、怒って
花と朝市を、水桶をもって
廊下に立たせた。
そのころ花のお父は・・・
★とんでもない場所でとんでもないことを
考えていたのでした。
「ここけ~~~~~。」
見上げたものは
洋風の建物・・・。
★この続きはまた明日
ではみなさま、ごきげんよう・・・
さようなら・・・。
花は水桶を両手に持って
廊下に立っていた・・・。
****************
はい・・・ついに始まりました。
花子とアン。
あの赤毛のアンの翻訳家の村岡花子さん
の少女時代ということです。
雰囲気は、カントリー風です。
おしんとは違います。
その点がメルヘンですが
どうも、この方言がよくわかりません。
でもカントリー風ってきれいです。
なんだか、おしゃれです。
豊穣のぶどう畑・・・きれいな赤紫の
ブドウの実・・・生き生きとした
生命力を感じます。また、光の色が
美しいです。
空を飛ぶ白鳥・・・これもきれいです。
空から見た花の村・・・。
自然豊かな村です。これも絵本のように
きれいです。
空を飛んでいるときに落ちていく水桶。
現実に戻るきっかけです。
誰も文字が読めない家族に
本をお土産に買ってくる父親。
彼は・・・なぜかしら、教育に
情熱を持っています。
花をどう育てようというのでしょうか。
ナレーションは美輪明宏さん。
やさしい上品な語りです。
わたくし・・このお話・・・最後まで
おつきあいできますでしょうか?