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歯科技工士・岩澤 毅

二木 立 (著) 民主党政権の医療政策 [単行本]

2011年03月03日 | amazon.co.jp・リストマニア
「民主党政権の」と言うよりは、小泉政権以降の医療政策分析, 2011/3/3

By 歯職人

 医療政策分析の「定番」というよりは「鉄板」、医療経済・政策学の二木立先生の時評集である。
 無駄なく力みなく、過剰な「政治性」もなく、医療政策の分析を続ける二木立先生の姿勢に貫かれた一冊です。
 特に自民党政権下に築かれた「医療政策形成過程の民主的ルール」を一方的(恣意的)に破壊した、民主党とそのブレーンと言われる医師たちへの舌鋒が鋭い。
 自民党政権末期の福田・麻生内閣での「医療再生への模索」に対する積極的評価は、二木氏の真骨頂と言って良い、あくまで現実を冷静に見る「バランス」感覚の発揮である。
 第6章 医療費抑制政策の検証と改革提言、川上武氏の業績の第3節 川上武先生の医療政策・医療史研究の軌跡と現代的意義は、二木氏の立脚点の再確認の意味を含め、後に続く者たちへのエールも含まれていると読んだ。
 現下の迷走する「医療政策」不在の政権時代に、医療関係者が、過剰に政党・政治家に振り回されず(最低は政党・政治家の走狗を演じること)、かと言って政治過程から逃避することも無く、必要な発言と行動を行う上で押さえておきたい一冊です。
 
http://www.amazon.co.jp/gp/product/432670070X/ref=cm_cr_mts_prod_img

民主党政権の医療政策

二木立
勁草書房 (2011/02 出版)

195p / 22cm / A5判
ISBN: 9784326700707
NDC分類: 498.13


価格: ¥2,520 (税込)

はしがき
「政権交代後の民主党の医療政策を振り返り、どのような点を評価されていますか」。これは、2010年末のある医療雑誌のインタビューで、記者の方から冒頭に受けた質問です。それに対して私は、大要、次のように答えました。

私は政権交代そのものの歴史的意義は高く評価しているし、他分野の政策には評価すべき点も少しはありますが、民主党政権が実施した医療政策で評価すべき点はまったく思いつきません。一般には、10年ぶりの診療報酬プラス改定(2010年4月)が政権交代の成果と喧伝されていますが、次の2つの理由から疑問があります。第1は、自由民主党も2009年総選挙マニフェストで2010年診療報酬のプラス改定を約束していたからです。第2は、診療報酬の「全体改定率」はわずか0.19%にとどまり、しかも薬価の「隠れ引き下げ」を加えると、実質ゼロ改定と言えるからです。

民主党関係者は、小泉政権の置きみやげである社会保障費自然増の2200億円抑制方針の廃止を成果としてあげますが、この方針は福田・麻生政権時代から、事実上棚上げ・放棄されていました。

逆に、民主党政権の医療政策で、マイナスの評価をすべきことが2つあります。第1は、手続き民主主義を無視した乱暴な「政治主導」です。特に、政権交代直後の、少数の幹部と「ブレーン医師」主導の厚生労働省医系技官と日本医師会叩きは目に余りました。ただし、これは政権発足後半年間でほぼ終息したと言えます。

第2のマイナス評価は、小泉政権時代に政治的・政策的に決着した混合診療原則解禁論等が蒸し返されたことです。しかし、最終的には、2010年6月18日の閣議決定で「保険外併用療養の範囲拡大」はごく限定的にとどまり、細川厚生労働大臣も、混合診療全面解禁は「適切でない」と明言しました(2010年10月21日参議院厚生労働委員会)。

前置きが長くなりましたが、本書には、私がこのような厳しい判断をするに至った、民主党政権成立後1年余の医療政策をリアルタイムで分析・検証した20論文を収録しています(2論文は統合)。分析が短期的視点に偏らないよう、いくつかの論文では、民主党(政権)の医療政策を戦後の医療政策全体の中で位置づけて分析しています。

第1章「政権交代と民主党の医療政策」は、本書全体の序章かつ総括の章で、2009年9月の政権交代後1年間の民主党(政権)の医療政策を包括的・概括的に検討します。まず日本の政権交代が、他の先進国の政権交代とは異質であることを指摘します。次に、民主党の2009年総選挙マニフェスト中の医療政策を振り返り、自民党の医療政策との違いは意外に小さかったこと、および民主党の医療政策は底が浅いことを指摘します。第3に、短命に終わった鳩山政権の医療政策を検証し、公約違反と「政治主導」による混乱と総括します。第4に、菅政権が2010年6月に閣議決定した「新成長戦略」中の医療政策を複眼的に検討し、「総論」には積極的な側面もあるが、「各論」に含まれている医療改革の大半(混合診療の拡大、医療ツーリズム、健康関連サービス)が、医療分野への市場原理導入の呼び水になる危険が大きいことを指摘します。最後に、民主党政権の今後の医療政策を簡単に予測し、個々の医療政策は不確定要素が多く流動的だが、医療(保険・提供)制度の「抜本改革」はなく、「部分改革」が続くことを強調します。合わせて、政権交代の先進国でも、政権交代で医療制度・政策の根幹は変わらないことが「経験則」であることを指摘します。

第2章「民主党政権の医療政策の逐次的検証」には、2009年8月の総選挙での民主党の地滑り的大勝による政権交代から、2010年7月の参議院議員選挙での民主党大敗による「ねじれ国会」の再現に至る激動の1年間の民主党政権の医療政策と政策論争を、「ライブ」で逐次的に検討した6論文を収録します。第3章「民主党政権下の混合診療原則解禁論争」には、政権交代後、民主党政権の内外でゾンビのように復活した、さまざまな混合診療原則解禁論を批判的に検討した6論文を収録します。第4章「政権交代と今後のリハビリテーション医療」では、前政権と民主党政権の医療・介護政策には連続性があることを示した上で、今後のリハビリテーション医療が、(相対的には)「安心と希望」に満ちていることを示します。第5章「自公政権末期の医療改革提案批判」には、民主党政権成立直前の麻生自公連立政権時代にまとめられた財政制度等審議会「建議」中の医療改革提案を批判した2論文を収録します。それらの改革提案は決して「過去のもの」ではなく、民主党政権下でも部分的に復活しているからです。第6章「医療費抑制政策の検証と改革提言、川上武氏の業績」には、医療費抑制政策の歴史を鳥瞰し私の医療改革案を示した2論文と、日本の医療史・医療政策研究の先駆者である故川上武先生の業績の現代的意義を検証した論文を収録します。

2009年7月の参議院議員選挙による民主党の大敗後続いている同党の激しい内紛により、民主党政権の医療政策は麻痺状態と言えます。菅政権の早期退陣や民主党政権の崩壊を予測する気の早い方もいます。「政界は一寸先は闇」ですから、「政局」がどう動くかは分かりませんが、医療「政策」については、確実なことが2つあります。

第1は、今後も、医療費が着実に増加し、医療が「永遠の安定成長産業」であることです。第2は、今後も日本の医療制度の根幹(国民皆保険制度と民間非営利医療機関主体の医療提供制度)が維持されることです。と同時に、「公平で効率的で良質な医療」を実現するためには、医療者の自己改革が不可欠です。本書がその一助になることを願っています。

2011年1月

二木 立

目次 
•はしがき
•第1章 政権交代と民主党の医療政策
■第1節 2009年の政権交代の意味-イギリス・アメリカ・韓国の政権交代とは異質
■第2節 民主党の総選挙マニフェストの医療政策-実は自民党との差は小さかった
■第3節 鳩山政権の医療政策-公約違反と「政治主導」による混乱
■第4節 菅政権の「新成長戦略」の医療政策の複眼的評価
■第5節 民主党政権の今後の医療政策-不確定で流動的だが「抜本改革」はない
•第2章 民主党政権の医療政策の逐次的検証
■第1節 民主党政権の医療政策とその実現可能性を読む
■第2節 民主党政権の医療改革手法の危うさ
■第3節 2010年診療報酬改定報道の3つの盲点
■第4節 参院選後の医療政策の見通し
■第5節 「新成長戦略」と「医療産業研究会報告書」を読む
■第6節 医療ツーリズムの市場規模の超過大表示
•第3章 民主党政権下の混合診療原則解禁論争
■第1節 混合診療に係る高裁判決と全面解禁論の消失
■第2節 混合診療原則解禁論の新種「ビジネスクラス理論」を検証する
■第3節 行政刷新会議WGが投じた混合診療原則解禁論の変化球
■第4節 「保険外併用療養の範囲拡大」はごく限定的にとどまる
■第5節 混合診療原則解禁論はなぜゾンビのように復活するのか?
■補論 国民皆保険解体論の系譜とその顛末
•第4章 政権交代と今後のリハビリテーション医療
■第1節 前政権の医療・介護政策から今後のリハビリテーション医療を予測する
■第2節 民主党(政権)の医療政策から今後のリハビリテーション医療を予測する
■第3節 今後のリハビリテーション医療についての2つの選択
•第5章 自公政権末期の医療改革提案批判
■第1節 財政制度等審議会「建議」の医療改革方針を読む
•第2節 医療提供の仕組みを国が統制してはいけない
•第6章 医療費抑制政策の検証と改革提言、川上武氏の業績
•第1節 日本における医療費抑制政策の転換と財源論争
•第2節 医療・健康の社会格差と医療政策の役割
•第3節 川上武先生の医療政策・医療史研究の軌跡と現代的意義
•初出一覧
•あとがき

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