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札幌・円山生活日記

ドレスデン国立古典絵画館所蔵「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」

17世紀オランダを代表する画家ヨハネス・フェルメール初期の傑作 《窓辺で手紙を読む女》。隠されていたキューピッドの画中画が姿を現した修復後の姿を公開するドレスデン国立古典絵画館所蔵「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」が北海道立近代美術館で4月22日(金)~6月26日(日)の予定で開催中です。修復後の作品が公開されるのは所蔵館以外では世界初だそうです。併せてドレスデン国立古典絵画館が誇る17世紀オランダ絵画コレクションの名品約70点が展示されています。

今日は北海道立近代美術館で開催中のドレスデン国立古典絵画館所蔵「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」の鑑賞です。当初は先般【どうみん割】活用の「春のミニ懐石コースのランチ~なだ万雅殿 札幌~」で利用した「阪急交通社」のフェルメール展鑑賞プランを申し込む予定でした。近代美術館の鑑賞チケットに札幌市営地下鉄1日乗車券付と「北菓楼(きたかろう)」のお土産が付いて実質支払額がチケット代より安いという魅力的なプランだったからです。しかしキャンペーン開始当初にはあった当該プランが5月に入って無くなってしまい復活を待っていたのですが現在においても見つけることができません。「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」の会期は6月26日(日)までなので会期末近くになると混雑が予想されるため「阪急交通社」のお得プラン利用は諦め通常料金で鑑賞してきました。予想通りの人気で平日でもかなりの人出でした。


北海道立近代美術館の東側入り口。

「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」チラシ。
“フェルメールの初期の傑作《窓辺で手紙を読む女》。このたび修復によって塗り潰されていた背景のキューピッドが現れ、描かれた当時の姿を取り戻しました。本展では、所蔵館であるドレスデン国立古典絵画館に次いで世界に先駆けて公開。所蔵館以外での公開は世界初で、北海道は東京を経て国内2番目の会場になります。また、ドレスデン国立古典絵画館がこの傑作を収蔵するきっかけになったザクセン選帝侯の貴重なコレクションを中心とし、フェルメールと同時代に活躍した巨匠レンブラント・ファン・レイン、ハブリエル・メツー、ヤーコプ・ファン・ライスダールなど、17世紀オランダ絵画の黄金期を彩る珠玉の名品約70点もあわせてお楽しみいただきます。” 


「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」会場入り口付近。平日にも係わらず盛況です。展示室内も作品前に列を作るように鑑賞者が連なっていました。

展示会場は7つのパートに別れ、「レイデンの画家 ― ザクセン選帝侯たちが愛した作品」、「レンブラントとオランダの肖像画」、「オランダの風景画」、「聖書の登場人物と市井の人々」と続きます。そして今回の目玉フェルメール「《窓辺で手紙を読む女》の調査と修復」のコーナーでは《窓辺で手紙を読む女》修復プロジェクトの過程が修復前後の作品とともに紹介され、「オランダの静物画 ― コレクターが愛したアイテム」、「複製版画」と続きました。

【レイデンの画家 ― ザクセン選帝侯たちが愛した作品】
ドイツ東部ザクセン州の州都・ドレスデンにある「ドレスデン国立古典絵画館」のコレクションの基礎を作り上げたのは17世紀から18世紀にかけての2代のザクセン選帝侯アウグスト1世と2世。17世紀オランダ絵画の中で彼らが特に好んだのが当時繁栄を極めたオランダ南部の都市レイデンの画家たちの作品です。レイデンはレンブラントの生地でもあります。

ハブリエル・メツー《レースを編む女》。
この時代の風俗画には画面のあちこちに細かい寓意がちりばめられてそうです。この《レースを編む女》では、手仕事は「女性の勤勉さ」の象徴である一方、足元の暗がりに潜む足温器に乗った猫。下半身を温める足温器は「性的な誘惑」や「興奮」を表現し、多産な猫は「官能」の象徴で、勤勉な女性の回りにも誘惑や悪が存在することを表しているそうです。


ヘラルト・テル・ボルフ《手を洗う女》。
手を洗う行為は「清純」を表し、足元の犬は「誠実」のシンボルで若い女性に求められる要素を表現した絵画だそうです。同時に「手洗い」は自分の手でもう一方の手を洗うことから「恋愛には別の恋愛を伴う」との意味もあり貞操を守る戒めともなっているそうです。
 

フランス・ファン・ミーリス《化粧をする若い女》 。
赤いビロードの上着やシルバーのサテンのドレス、そして膝の上には「誠実」と「富」の象徴の犬。テーブル上には手紙と楽器があり、楽器は「感覚的な喜び」を表現しているそうです。ラブレターをもらい外出するために化粧をしているのでしょうか。

【レンブラントとオランダの肖像画】
17世紀に著しい発展を遂げたオランダの肖像画の展示。巨匠レンブラントはこの分野においても大きな足跡を残しました。

レンブラント・ファン・レイン《若きサスキアの肖像》。
レンブラントが自身の妻を描いたとされる《若きサスキアの肖像》。レンブラントらしいスポットライトを当てたような光の明暗描写で彼自身の技法が確立されつつあることが伺えるそうです。ただ妻のサスキアはあまり若くは見えず怪しげな微笑みがミステリアスです。ちなみにサスキアがかぶる羽根付きの赤いベルベッドの帽子など豪華な衣装や小物をレンブラントは「絵のためだから」と言って買いすぎ後に破産したそうです。それを予見するサスキアの微笑みとは考えすぎでしょうか。



ピーテル・コッド《家族の肖像》。
夫婦は手を握り合い、息子は書物を持ち、娘たちは流行の服を身に纏っている。そして「善良」「誠実」のシンボル犬が描かれており、当時のオランダやレイデンの繁栄を象徴するような裕福で理想的な家族の肖像だそうです。


ミヒール・ファン・ミーレフェルト《女の肖像》。
ミヒール・ファン・ミーレフェルトは、オランダのデルフトで最も人気と影響力のあったとされる肖像画家で、彼に肖像画を書いてもらうことは大変な名誉であると多くの依頼を受けていたとか。《女の肖像》に描かれているのは黒のビロードに金ボタンの衣装からも判るように裕福な女性で、しかも輝くような肌の色つやと質感には当時の人気も納得できるような魅力な女性の肖像画に仕上がっています。

【オランダの風景画】
フィリップス・ワウウェルマン《説教をする洗礼者ヨハネ》。
オランダとは思えない山間の土地で説教を試みる質素な服の洗礼者ヨハネと、赤、青、黄の色彩豊かな服装の聴衆、それに馬にのった二人のローマ軍の兵士。この絵が「聖書の登場人物と市井の人々」ではなく「オランダの風景画」として展示されているのが不思議ですが、低地地帯にすむオランダの人々には、この風景が魅力的に映ったそうです。

ヤーコプ・ファン・ライスダール《城山の前の滝》。
オランダにはありえない山などの風景で北欧やアルプスの山々から着想を得ているとか。このジャンルで珍しい縦の作品は山の高さを強調するためで、山の上の城、樹々に囲まれた一軒の民家、手前の急流等で自然の雄大さを感じることが出来る構図となっているそうです。

【聖書の登場人物と市井の人々】
オランダの画家たちは、聖書の物語と市民たちの日常という聖と俗の両方の場面を描き出しています。

ヤン・ステーン《ハガルの追放》。
旧約聖書の有名な一説話を描いたもの。
予言者アブラハムと妻のサラの間には子が出来なかった。そこでサラは女奴隷のハガルをアブラハムに差し出し、イシュマエルが生まれる。
ところがその後、サラにイサクが生まれる。ちなみにその時アブラハムは100歳、サラは90歳。
そこでアブラハムは妻に迫られハガルとイシュマエルを荒野に追放してしまう。荒野に追いやられた二人は死にそうになるが、天使に助けられるという説話。
ヤン・ステーンの作品を見ていると上記の旧約聖書の物語が隣の村の風景のような当時の風俗で描かれています。この作家がどんな思いで描いたのか不明ですが、聖と俗、相続問題はいつの時代にも存在するということでしょうか。

ヘンドリク・アーフェルカンプの「そりとスケートで遊ぶ人々」。
こちらは一転して楽しい絵です。オランダには溜池が多く冬になると凍るので氷上での遊びが盛んだったとかで、ソリとスケートで市民が遊ぶ冬景色が描かれています。
 
【《窓辺で手紙を読む女》の調査と修復】
本展の中心となるパート 「《窓辺で手紙を読む女》の調査と修復」です。
サビーネ・ベントフェルト《窓辺で手紙を読む女(フェルメールの原画に基づく複製)》。
17世紀オランダを代表する画家ヨハネス・フェルメール(1632-75)の《窓辺で手紙を読む女》は、窓から差し込む光の表現、室内で手紙を読む女性像など、フェルメールが自身のスタイルを確立したといわれる初期の傑作です。

1979年に行われた《窓辺で手紙を読む女》のX線調査で壁面にキューピッドが描かれた画中画が塗り潰されていることが判明、長年、その絵は幾度もの手直しを繰り返していたフェルメール自身が消したと考えられてきました。しかし、その画中画はフェルメールの死後、何者かにより消されていたという最新の調査結果が2019年に発表されました。当時はフェルメールは未だ無名で、既に有名だったレンブラントの作品に似せる為にキューピッドを塗り込めて消しレンブラントの作品として所蔵されていたとのこと。 そして専門家チームによる修復プロジェクトにより元の姿が復元。ドレスデン国立古典絵画館でお披露目されました。

ヨハネス・フェルメール《窓辺で手紙を読む女》(修復後)。
修復により現れた画中画には、愛の神であるキューピッドが「嘘」や「欺瞞」を象徴する仮面を踏みつける場面が描かれており「誠実な愛の勝利」を表すと考えられるそうです。

修復前の女性はどこか感情の読み取れないミステリアスな印象で、憂いや落胆といった少し陰鬱な気配も受け取れましたが、ラブレターを前提に修復後の作品を鑑賞してみると、頬の赤らみが目につきますし、そっと落とされた眼差しには手紙の相手への深い思いがにじんでいるような気がします。部屋の雰囲気全体も明るく柔らかい空気が漂っているように感じられます。ただ、会場で放映されている解説ビデオにもあったように、修復前の作品の大きな壁は鑑賞者が自由に想いを描ける大きなキャンバスのようなもので、より神秘的な想いを描ける修復前の作品を好む人も少なくないかと思われました。

【オランダの静物画 ― コレクターが愛したアイテム】
この時代のオランダにおいて隆盛を極めた静物画は、オランダ貿易の繁栄によって生まれた裕福な市民の私邸を飾るために描かれ絵画の一ジャンルとして確立されました。特にトロンプ・ルイユ(だまし絵)や花や果物をモチーフにした静物画は、貿易で富を築いた市民に非常に人気がありました。 

ヤン・デ・ヘーム《花瓶と果物》。
当時はオランダはチューリップバブルの時期で、絵の中に描かれているチューリップは富の象徴とされ、特に黄色と紫のチューリップは高価だったそうです。
 

ヨセフ・デ・ブライ《ニシンを称える静物》。
最も人気のあるオランダ料理のひとつであるニシンは、この絵が描かれた17世紀には貧乏人の食べ物だと見なされていたとか。しかしながら当作品では、詩人で医者の画家の叔父がつくったニシンの塩漬けの詩を絵の中に引用しており、ニシンは二日酔いの特効薬で様々な体調不良にも効果ある重要なたんぱく源としてすばらしい!というものとして賞賛しているそうです。


ワルラン・ヴァイヤン《手紙、ペンナイフ、羽根ペンを留めた赤いリボンの状差し》。
これは当時流行った「騙し絵(トロンプ・ルイユ)」で遠目に見ると実際に状差しがあるように見えます。手紙の住所には作家の知り合いやフランクフルトの商人の名前が書いてあるそうです。次の「複製版画」パートを回り本日の鑑賞終了(会場内は写真撮影禁止のため掲載写真はウェブサイトより拝借)。

展示会場外のフォトスポット。正面からはキューピッドは見えませんが・・。

角度を変えて見るとキューピッドが現れます。


ロビーには図録やポストカード等関連グッズを販売するコーナーがあり人気でした。

帰路に見た近代美術館の林。《ニセアカシア》の花が咲いていました。
《ニセアカシア》です。

これを見た後で帰宅して「円山」斜面に目を向けると《ニセアカシア》が咲いていました。

17世紀オランダを代表する画家「ヨハネス・フェルメール」の名前に惹かれていった絵画展ですがそれだけのものではありませんでした。もちろんフェルメールの名画を身近に見ることが出来たのは有難く、しかも並んで展示されている「修復前」と「修復後」の作品を鑑賞できたことは貴重な体験でした。好みは色々でしょうが印象がこれほど変わるとは驚きでした。それとともにオランダ絵画黄金期の名作の数々には様々なメッセージで思考力を試される材料が多く含まれ楽しく鑑賞させていただきました。大変結構な絵画展でした。ありがとうございます。

「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」
日時 2022年4月22日(金) ~ 6月26日(日)
午前9時30分~午後5時(5月6日を除く金曜は午後7時30分)
※月曜休館
会場 北海道立近代美術館
(住所:札幌市中央区北1西17/電話:011-644-6881)
(2022.6.1訪問)

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