赤ひげのこころ

お客様の遺伝子(潜在意識)と対話しながら施術法を決めていく、いわばオーダーメイドの無痛療法です。

毛ばり談義 ①

2016-11-20 17:04:31 | 私の昔語り・渓流編


毛ばり談義 ①
             灯 渓酔
(昭和59年12月・未発表原稿)

 「いつも思うんだげっとサァ、毛ばりはやっぱり、色だぞナ」
 「そーだごと、アッカ! 色はカンケ―ねぇって」
 またにぎやかになりそうな、渓酔会の例会である。

 春の彼岸から秋の彼岸まで、暇さえあれば渓流釣り。
その合間に山菜採りやらキノコ採り・・・と、
野山を歩きまわっていたメンバーたち。
 しかし、アカンボ(クリタケ)など、秋の最後のキノコを採り終えてしまうと、
もう酒でも飲むしか手が無い。
一年で一番退屈な季節がやってきたのだ。
 退屈を紛らわすために、月に一、二度仲間の家に集まっては、
酒を酌み交わしながら釣談議に花を咲かせて、春を待つ。

 渓酔会───といっても、別に私の会というわけではない。
那須連山のふもとで、主にヤマメなどの川魚を、
ウサウサと釣り歩いていた連中が集まって、
渓流釣りの会を作ろうという話になった時、
たまたま飲兵衛が多かったので付いてしまった名称なのだ。

■毛ばりはカンケ―ねえ!?
 
「あの色の胴だ、この色の羽根だ、なんて言ってっと、

しまいには、はあ、ワゲわがんなぐなっちゃって、
自分で鳥飼い出すようなハメになんだわ、会長みでーに」
 
本日の会場「居酒屋ともしび」のアルジである私が、
渓酔会会長であるシャチョーを冷やかす。

 「しゃーんめ!それがまた、たのしーんだがら!!」
 
会長は、毛ばりを作る羽根欲しさに、自宅でチャボやナゴヤコーチンを飼っている。
なんでも、板室温泉の毛ばり釣り名人が、特別に交配したヤツを卵で貰ってきて、
自分家のニワトリに抱かせてヒナを孵して、育ててきたのだそうだ。

 凝り性とは恐ろしいもので、今度は
 「キジのケンバネ(剣羽根)を取ってくる」
と言ってテッポーを始めた。
・・・が、キジはなかなか獲れないらしく
 「鍋にすっぺ!」
と持ってきたのは、今日も大量の鴨のぶつ切りであった。 
もう、そろそろ煮えるころである。

 毛ばりの色は、釣り人に見やすければいい、という私と。
時季によっては虫の種類が変わるのだから、
羽虫に似せた毛ばりも当然色や形が変わるべきだ、という会長。
 一年に及ぶこの論争は、未だ決着を見ていない。

 「毛ばりは、なんだってイイんじゃねえのげ?
俺ァ、自分で巻げねェがら、人に貰ったいろんな毛ばり使ってっけど、
どれでもみんな、おんなじみてーだゾ」
鍋の蓋を取ながら渓善が口をはさむ。

 すかさず銀行屋の迷釣が反論する。
 「イヤ、やはり色は関係ありますね。去年、遠野へ行ったとき
茶色系と黒系のまだら胴の毛ばり使ったんですけど、アレ、当たりましたよォ。
他のは全然ダメ。蜂か何かに見えたんですかねェー?」
 渓酔会に入るまでは、ヤマメの餌釣り専門だった迷釣だが、
去年の遠野への釣行会で、初めて毛ばりでイワナを釣ったのだった。

 「それがオガシー(おかしい)って言うの!
俺なんか、あん時、黄緑胴の毛ばりだゾ。虫に見えっか見えねえがなんて、
人間が勝手に思ってるだけで、魚の方じゃ気にしてねーって!」
 私は断固として言い切った。

 「毛ばりをいかに餌に見せるか、という、
つまりは流し方の問題だ、というわけですね」
 一番若い渓狂が、私の気持ちを察して先回りをして言う。
 「ピンポーン。セーカイ!魚がね、毛ばりを見つけた瞬間に、
”エサだ!”って、直感してくれればいいわげよ」

 実をいうと、私だって腹の中では時々、
毛ばりの色とか形とかが、魚の食いに関係あるのかもしれない・・・と、
密かに思ってはいるのである。
 でも、それを気にしだすと、
次から次へと毛ばりを取り換えてばかりいて、
ほとんど釣りにならなくなってしまう。
 迷いは精神衛生上よろしくないし、釣果にも影響する。
 だから
「毛ばりは、なんだってイイ!!」
としておくのが一番イイのだ。

*②へ続く。

 


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