◆【北朝鮮ミサイル 私はこうみる】元米国防副次官 ジェド・バビン氏
「危険な存在」誇示、援助狙う
北朝鮮のミサイル発射の目的は、米国や欧州連合(EU)がイランに核兵器開発放棄を交換条件に提示したようなパッケージの報償を得ることだと思う。
米国やEUは愚かにも、イランに対し安全の保証や将来の経済的恩恵など大型のパッケージを提供する構えをみせた。
金正日総書記はそれをみて、自分も同じ安全の保証や経済の恩恵が欲しいと考えたのだろう。北朝鮮もイランと同様に欧米にとっては危険な存在だという点を誇示し、認知や援助を得たかったのだと思う。
北朝鮮のミサイル発射は中国のひそかな了解なしには起きなかったことは明白である。北朝鮮は中国の完全な傀儡(かいらい)国家ではないにしても、生殺与奪の権利を中国に握られている。中国からの食糧の輸入が止まれば、北朝鮮の多くの国民は餓死するのだ。だから中国が北朝鮮のミサイル発射を本当に止めたいと欲していれば、確実に止められたはずだ。
中国政府は公式には北朝鮮のミサイル発射を望まず、止めようともしたと主張しているが、これは建前だろう。冷戦時代のソ連のように真実を隠してしまう心理だといえる。中国のこうした反応はいま、米国と中国の間では新たな冷戦が事実上、始まったことを改めて確信させる。
国連の安全保障理事会が北朝鮮非難の決議を採択したが、過大な評価は禁物だ。そもそも国連というのは実効ある外交が進展しうる舞台ではない。なぜなら中国とロシアが安保理の常任理事国として、いかなる無法国家やテロ国家に対する制裁行動も拒否権を使って阻んでしまうからだ。
北朝鮮のミサイル発射だけでなく、イランの核兵器開発、北朝鮮の核兵器開発など米国や日本に脅威を及ぼす問題に対し有効な解決策を打ち出すことは国連にはできない。
国連がこの種の重大な案件を解決できるとして国連に依存することは、まったく不毛だといえる。合理的かつ効果的な対応策を国連が実行できるとみなすことは現実をみないに等しい。
今回、国連安保理で採択された決議も非難や警告だけで、北朝鮮がそれを無視した場合に強制的手段をとることまでは触れていない。
力に支えられない外交はビロードの手袋のように、外観の格好良さだけで終わってしまう。(聞き手 ワシントン 古森義久)
◇
【プロフィル】ジェド・バビン
1970年スティーブンス工科大学卒、73年カンバーランド法科大学院修了、弁護士となる。その後、海軍将校、先代ブッシュ政権の国防副次官を経て、軍事アナリストとして活動。著書に「亡命の内側」「武勇の遺産」「ショーダウン(対決)」(共著)などがある。
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