パソコンの前にスーツを着た男がいる。
彼はさっきから虚ろな目のまま考えている。
ジャケットを脱ぐか脱がないかだ。
汗はかいていないものの、どこか蒸し暑い。
でも、彼は秋を感じたかったのだ。
このまま着るか、いっそのこと脱いでしまうか。
夜、トイレに行きたくなって目が覚めたものの、
めんどくさくって行くか行かないかで迷っているときの感覚に似ている。
今もまだ、彼はジャケットを着たままパソコンのキーを叩いている。
そしてそれが「僕」だった。
やばいな。
ちょっと頭もボーっとしてきたぞ!
どうする?
どうしよう。
さっきから頭のなかで芸人が叫んでいる。
「なにぃ!! やっちまったなぁ。
男は黙ってナンチャラカンチャラ」
脱いじゃう?
A「脱いじゃえよ! お前がいまここでジャケットを脱いだところで誰にも迷惑はかけない。 ってか、普通に暑いんだったら脱げよ」
B「男は黙って我慢だ! もう夏じゃないんだからちょっとくらい熱くてもなんでもない顔をして着こなすのが男ってもんだ」
A「おまえバカか!? 暑いときは薄着になる。寒ければ着る。
これ人間の常識だろ? 我慢だか社会性だか知らないけど、そりゃあ「服」というもののレーゾンデートルに反してるだろ」
B「レゾンってなんだよ、しらねぇよ。 いいか、昔の武士はなぁ、寝るときもちょんまげが崩れないようにわざわざ高い枕をして寝てたんだぜ。 それに比べたらジャケットの一枚くらいなんともないだろ。」
A「サムライは関係ないよ。 いま、暑いか暑くないかだよ」
B「暑くても死ぬほど暑くない。 季節に合った着こなしが大事だ」
A「もう駄目だわ、頭悪いな、ちょっと、会話にならなん。
俺普通のこと言ってるよな。
暑かったら脱ぐ。 それだけだ」
B「お前は社会性ってもんがたりないよな」
A「なにおー!」
B「なんだぁとぉ!」
僕「うるさいなぁ」
暑い。
右手が動いた。
ボタンに指をかける。
一つしかないボタンがとれると、前が少しだけ開いた。
後はあっという間だった。
いすの背もたれにジャケットがかかった。
脱いだぁ、ひとりで脱げたよぉ!
AB「っていうかさっさと仕事行けよ!!」
僕「すんません」
そして再びジャケットを着た。
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玲凜
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