原発なくそう 茨木

阿武山原子炉設置反対運動の歴史と意義
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原発事故の影響調査 「原産報告」から考える

2012-05-14 19:06:48 | 日記
原発なくそうの思いで集まっている茨木市民有志グループです。
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原発事故の影響調査  原産会議報告書から考える
                              神山治夫
★再稼動に不安を抱き反対する国民は過半数に達する
今、大飯原発の再稼動を進めようとする政府の動きに対して、地元の福井県、おおい町、UPZ(緊急防護措置を準備する区域)30キロ圏内に入る滋賀県、京都府にとどまらず、全国的な関心を呼び起こし、世論調査でも再稼動反対62%、政府の安全基準が信頼できない82%に達している。(毎日新聞調査) 

★再稼動が無謀で危険きわまりない暴挙であると国民が感じている理由
今、国民の多くが再稼動を認めるべきではない、政府の再稼動をなにがなんでも進めようとする姿勢には、道理がない、無謀極まりないと考える根拠は大きくは6点あると思える。
① 福島のあの重大な事故がいまだに原因も究明されておらず、事故の収束もできていないこと。 未だに原子炉格納容器の蓋さえあけられず、原子炉内の核燃料の状態も把握できない状態にあること。 事故の原因が津波だけによるものか、地震によってどのようなダメージを受けていたのかすらわかっていないという現状であることだ。
② 政府がたった3日間で急いで作りあげた30項目の安全対策も完全実施されてはおらず、重要な部分で計画だけがあるという状態であること。 事故が起こった時に対処する上で欠かすことのできない重要施設である「重要免震棟」さえ3年以内に作るという計画だけである。 もし、事故が起こって、放射能プルームが拡散せずに舞い降りて来た時には、事故対応を放棄して職員や事故収束のための応援隊も全て退避でざるを得なくなる。 そのような安全対策上も不完全な状態のまま再稼動することは認められない。
③ 福島事故と地震との関連はまだまったく解明されていない中で地震・津波の危険性については学会でも見直し再検討をせまられる課題となっている。 2007年7月16日に起こった中越沖地震では、柏崎刈羽原発1号炉において想定基準値振動450ガルをはるかに越す1699ガルの振動に見舞われた。 大飯原発では近辺の熊川断層2本の連動で700ガル、3連動で760ガルを想定基準値振動としてるが、中越沖地震のような震度5弱、マグニチュード6.8で1699ガルの振動に見舞われると、大飯原発では限界点(cliff edge)1260ガルをはるかに越えてしまい、破滅となる。 
④ もし事故が起こった場合、どのような被害が予測されるのか、その予測に基づいて住民の安全をどのように守り、完全な避難が可能な計画が出来ているのか。 実際は科学的な根拠のある被害予測もされておらず、したがって住民の安全を守る対策、避難対策も立てられていない。
⑤ 経済産業省下におかれている原子力安全保安院も内閣に所属する原子力安全委員会も、まったく原子力規制の役割を果たさなかった。 国際的な基準となっている、推進機関と完全に分離し、独立した権限を持つ規制機関が日本ではなかった。 そのことが国民の大きな不信感となっている。 したがって、今は、科学的な知見と専門技術を持ち、推進機関とは完全に独立した、強力な権限を持つ適正な規制機関がない状態である。 にもかかわらず、科学的知見もない、専門技術も有していない、内閣の一部大臣だけで、判断して再稼動をさせるということは全く規制のおよばない暴挙である。
⑥ 福島の事故の被害が未だ収束の見通しすら立っておらず、多くの人たちの生活基盤を奪い、違憲状態が続いている現状で再稼動を許すことは被害者に対する冒涜である。


★被害予測調査について
 今稿では、上記の国民の懸念の内、④の被害の想定について、少し検討したい。 今まで日本の政府が本格的に原発の事故の被害がどのようなものであるかを住民の安全を確保するためという観点から調査した例はない。 ただ、1960年に科学技術庁が原子力産業会議に委託して行い、同会議から政府に提出された「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害に関する試算」という調査結果がある。 これは、住民の安全をどう確保するかという観点から調査されたものではなく、原発事業を推進するにあたって、電力会社が負うリスクを試算し、電力会社をバックアップするための「原子力損害賠償法」の制定のために行った調査である。 しかし、それでも、この調査は原発の持つ危険性が並はずれた規模のものであり、破滅的なものであることを浮き彫りにした。 この調査を普通、「原産報告」と呼ばれている。

★「原産報告」が示したもの
「原産報告」は第1章冒頭にこう書いている。 「いうまでもなく、大型原子炉が万一大事故を生じた場合、敷地外の公衆に災害を与える可能性をもつ所以は大抵の大型原子炉中に大量の放射性物質が貯えられているためである。 大ざつぱにいえば原子炉が停止して後約1日後において、内蔵されている放射能は熱出力1Wあたり1キュリーであるといえる。 つまりここで取扱おうとする熱出力 50 万KWの原子炉では内蔵されている放射能の全量は約 5×10の8乗キュリーになるということである。多くの核分裂生成物に対する人体の許容量がマイクロキュリー(1キュリーの100万分の1)のオーダーで測られるものであることを考えるならば、核分裂生成物から生じうる潜在的危険は非常に大きいものであることがわかるであろう。」
※キュリー(C1)は現在使用されているベクレルに換算すると 1C1=3.7×10の10乗ベクレル=370億ベクレル(bq)となる。 熱出力50万キロワットの原子炉に作られて内臓されている放射性物質の放射能は5億キュリー=5億×370億ベクレル(1850京ベクレル)となる。

この調査で予測の基礎となる事故によって放出された放射能の規模を次のように設定している。 「本調査では10の4乗キュリーをこえる量が大気中に放散される事故を対象とする。」 つまり重大事故が起こって、370億ベクレルの×10000=370兆ベクレル以上の放射能が環境中に放出されたと云う事を基準としている。
 これを基準として、アメリカのオークリッジ国立研究所が開発した計算方法WASH740と云われる計算方法でシュミレーション調査されている。 
シュミレーションの設定条件として次のように設定している。 
「考察する原子炉は事故が起きる前に約 4 年間運転した熱出力 50 万 KW の動力炉とする。
(1)分裂生成物の放出について次の場合を示す。その他の場合の大体の傾向は以下の結果から推定できよう。
(イ)揮発性放出稀ガスの全部と沃度の 50% と向骨性元素の 1% とセシウムの 10% とが放出。キュリー数としては (24 時間後の値で) (イ) 10の5乗キュリー    (ロ) 10の7乗キュリー
(ロ)全放出。炉内の内蔵分裂生成物に比例した割合で放出 (イ)10の5乗キュリー (ロ)10の7乗キュリー
(2)放出温度については2つの場合を考える。 (a)低温(普通の大気温度) (b)高温(3000度F)
(3)放出粒子の大きさについては質量の中央値が次の直径であらわされる2つの典型的分布を考える。
(a)1ミクロン。煙の粒度分布に相当。 (b)7ミクロン。工場塵の粒度分布に相当。
(4)気象条件については次の2つの気象変化の組み合わせを考える。 (a)気温逓減または逆転。 (イ)普通の温度逓減状態。日中に相当。 (ロ)かなり強い温度逆転状態。夜間のある時間に相当。  (b)乾燥または湿潤。 (イ)雨無し。 (ロ)0.7mm以上。最もよくあると思われる降雨量率。」
計算の結果をその結論をまとめた表の一つが次にあげる表である。






★上記の結果から読みとれるもの
福島の事故の場合に最も近い想定条件は放出条件が「揮発性粒度小」であって、気象条件が「逓減雨有」であった。 したがって急性死亡者、急性障害者はゼロ、要観察者が3100人である。 しかし、もし放出条件が同じであって、気象条件が「逆転雨無」であった場合の計算結果は、急性死亡者720人、急性障害者5000人、要観察者130万人という驚くべき結果を示している。 これは全くの偶然の支配するところであって、人為的に避けられるものではない。 この調査は放出放射能が10の7乗キュリー、つまり37京ベクレルとしている。 福島の場合は77京ベクレルであったとされるので、2倍以上の放射能が放出されたことになる。 人的被害の内、急性死亡者、急性障害者の数は、原子炉周辺の人口分布にもかかわって来るので、一概に2倍の被害とは言えないが、720人をはるかに上回る被害が出る可能性があったことが読みとれる。

★「原産報告書」が想定しないこと
 しかし、この「原産報告書」が全く想定していないことで、現代の問題としては重大な問題がある。 
それは、急性死亡者が720人も出るということの重大さである。 あくまで、この調査では、50万キロワットの原子炉の単独事故としてシュミレーションされている。 それは当時は同じ場所に複数の原子炉が林立するということがなかったからで、想定していないのは当然と云える。 しかし、この「原産報告」が示す事故の重大さを知りながら、同一敷地内に原子炉を林立させるという事を政府、電力会社は行って来た。 その結果、現状ではこの「原産報告」が示していない、次の段階のシュミレーションの持つ大変な問題が明確になっていない。 つまり、福島では、4つの原子炉が同じ地震・津波の被害を受けて全てで爆発が起こり、放射能の環境への重大な放出が起こってしまった。 しかし、この「原産報告」が示すものは、たとえ同じ地震・津波の被害という事態がなくても、一つの原子炉の重大な事故が、急性死亡者が720人(福島ならその倍も出ていたか)も出るという事態のなかで、必然的に他の原子炉への事故の波及が起こってくる。 一切の事故対応人員が緊急撤退をせまられる中で、全ての原子炉が緊急事態に陥ることは十分に予想される。 その場合の放射性物質の環境への放出がどんなレベルのものになるのか、それによってどの程度の人的損害が予想されるのか、全くそういう科学的調査は行われていない。 

★緊急事態での避難計画も立てられない
そのような連鎖的事故が起こり、対応する人員配置も不可能になった時の被害の程度、避難しなければならない地域の想定も何もない。 これで、地元地方自治体が避難計画など立てられるわけはない。 また、影響範囲がUPZ(緊急防護措置を準備する区域)30キロ圏内ではとてもおさまらない。 

★この一点からも再稼動をすることは暴挙だといえる
以上、再稼動に対する国民の批判の内の④項(被害予測)ひとつだけを少し検討したが、これだけでも、今の政府、関西電力の再稼働への動きは無謀、暴挙といわざるを得ない。 原子炉が一つの立地の中に林立させている現状で、それを考慮した被害予測を行えば、それは破滅的な結論を得ること、つまり、原発は日本に置けないという結論を得ることになっても、科学的なこの調査はやらなければならないし、その調査抜きでの原発の再稼動は認められるべきではない。



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