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ZERO to ONE 君はゼロから何を生み出せるか

2014-11-30 10:48:20 | 日記

 この素晴らしい本の序文を読むだけで全てを読みたくなるだろう。そう思って掲載することにした。これ以上の解説や紹介は出来ない。無駄だ。
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 あたらしい何かを作るより、在るものをコピーする方が簡単だ。おなじみのやり方を繰り返せば、見慣れたものが増える、つまり1がnになる。だけど、僕たちが新しい何かを生み出すたびに、ゼロは1になる。

 人間は、天から与えられた分厚いカタログの中から何を作るかを選ぶわけではない。むしろ、僕たちは新たなテクノロジーを生み出すことで、世界の姿を描き直す。それは幼稚園で学ぶような当たり前のことなのに、過去の成果をコピーするばかりの社会の中で、すっかり忘れられている。本書は、新しい何かを創造する企業をどう立ち上げるかについて書かれた本だ。

 

ZERO to ONE

 ZERO to ONE by Peter Thiel with Blake Masters , Copyright 2014 by Peter Thiel
 Japanese tranlation right arranged with Thiel Capital, LLC, c/o The Garnert Company, New York, through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo.

 

 日本語版 序文 滝本 哲史

 私は、書籍の推薦依頼について、一つのポリシーを持っている。それは、「生きている人の本は決して受けない」というものである。アラン・ブルームの言うところの「尊敬すべき人を同時代に持たない我々が過去に求めるもの」として書籍があるのだとすればこれは必然だ。だから、小学校時代の塾からマッキンゼーまで実に17年にわたり同級生だった友人が起業したユニークな不動産会社のかなり面白い本でもきっぱり断った。

 ※Allan David Bloom  http://www.newyorker.com/books/page-turner/allan-blooms-guide-to-college

 

 しかし、これが、あのピーター・ティールの世界同時発売の本を先に読めた上での「序文」ということであれば、話はまったく別である。これは断るにはあまりにも強力は誘惑である。というのも、ティールは生きているうちにすでに伝説となっている人物でああり、私にとっては、フランシスコ・ベーコン同様に(ティールもベーコンを引用している)、尊敬の念をおかざるを得ない存在だからだ。

 

 ティールを初紹介しようとすると、彼があまりのも多くの顔を持っているので、一言で説明すすのが難しい。わかりやすい説明をすれば、世界最大のオンライン決済システム、ペイパル(PayPal)の共同創業者であり、現在は、エンジェル投資家(ごく初期のベンチャー企業に自己資金を投資する)、ヘッジファンドマネージャーとして、様々なテーマに投資をしている人物である。ペイパルを創業し、のちに電気自動車のテスラ・モーターズを創業したイーロン・マスクのXドットコムと合併させ、これを株式公開(IPO)させたあと最終的にイーベイに売却した。その後、活動の中心を投資業に移す。

 

 投資家としてのティールの最も有名な顔は、フェイスブックの最初の外部投資家ということである。ティールはフェイスブックに50万ドルを融資し、のちに7パーセントの株式に転換した。これが最終的には、10億ドルになった。映画『ソーシャル・ネットワーク』をご覧になった方は、ファンドが投資を決定するシーンでティールが搭乗しているのを見ているはずである(もっとも、ティール本人は、俳優の服装が自分とは違うのでかなり不満らしい)。ティールはビジネス向けソーシャル・ネットワーキング・サービスのリンクトインにも投資しており、このIPOも大成功している。他にもめぼしいところでだけでも、ヤマー、イェルプ、クオラなどに投資しており、イーロン・マスクの宇宙ロケット開発会社スペースXにも出資している。ペイパル出身者が次々と会社を立ち上げ、あちこちの分野で成功して、その人的、経済的ネットワークが大きな影響力を持っていることから、彼らを俗に「ペイパル・マフィア」と呼ぶが(先述のスペースX、リンクトイン、イェルプの他にも、ユーチューブ、テスラ・モーターズ、キヴァなど各分野でのトップ企業がことごとくペイパル出身者による創業なのである)、ティールはこの「ペイパル・マフィアのドン」だと、彼らを特集したフォーチュン誌で評されている。

 

 そのティールがベンチャーについて本を出した。いわゆる「イケてるベンチャー」を量産している起業家、投資家グループの中心人物が、スタンフォード大学の学生向けに行った「起業論」の講義をもとに書いた一冊だ。そうなれば、これだけで「即買い」ということになりそうではないか(今すぐレジに向かおう)。『スタンフォード式起業の教科書』と改題して、私が「これがアメリカの学生に配られている武器だ」と帯に書けばベストセラー間違いない(もちろん、そんな本だったら私は序文は書かないだろう)。

 

 ただ一方で、ウェブで読めるような「○○を成功させるための10の法則」的な、内容を薄めた本じゃないのかと、心配にもなるだろう。安心して欲しい。実は、ティールはそんな単純な人物ではないし、本書もそんな「わかりやすい」本ではない。例えば、今流行りのリーン・スタートアップなどは、手厳しく批判している。

 ※リーン・スタートアップ  http://theleanstartup.com/  http://leanstartupjapan.org/

 

 実際、ティールはいろいろな顔を持っており、かなり複雑な人間だ。ティールの世界観が垣間見える出来事がある。フェイスブックの上場まもなく、フェイスブック株をほとんど売ってしまったのだ。これが原因でフェイスブック株は大幅に下落した。証券市場も非常な驚きをもってこれを受け止めた。なぜ、そうしたのか。そのヒントはディールが設立したベンチャー投資ファンド、ファウンダーズ・ファンドのサイトに載っている。いわく、「我々は空飛ぶ自動車を欲したのに、代わりに手にしたのは140文字だ」。このコピーはツィッターを揶揄したものだが、要は、フェイスブックを含めてソーシャル・ネットワーキング・サービスの未来が、ティールにはあまりに小さく退屈だったということだろう。

 ※140文字 Twitter の文字制限上限数 SNS の 160文字の制限数から来ている。

 

 その証拠に、ティールが力を入れている他のプロジェクトのある種の荒唐無稽ぶりを見てみるといい。ティールは、世界的ベストセラー『選択の自由』の著者で新自由主義を提唱したミルトン・フリードマンの孫で、グーグルの元エンジニアであるパトリ・フリドーマンが創った Seasteading Institute を支援している。これは、公海上に石油採掘プラットフォームのような人工島を建設し、そこに完全に規制のない自由な実験国家を作ろうとするプロジェクトである。ティールはこれまで125万ドルを寄付したと報道されている。ある意味、とても馬鹿げている。他にも技術的なブレークスルーで世界を変えるプロジェクトに出資している。それは延命技術であったり、人工知能が人間の知性を超えるポイント(シンギュラリティ)に達した後の世界はどのようなものかを研究するプロジェクト(本書でも人間と人工知能の関係に触れている)などで、その他、基礎科学にも寄付をしている。特に延命技術はSFチックで、投資先には、死体の冷凍保存が社員の福利厚生に含まれている会社すら存在する。医療の発達による延命の可能性を残そうというものである。

 ※ Steasteading Institue   http://www.seasteading.org/

 ※ Singularity:技術的特異点 ( Technological Singularity ) とは、未来研究において、正確かつ信頼できる、人類の技術開発の歴史から推測され得る未来モデルの限界点を指す。 http://singularityu.org/

 

 最近、物議を醸したのはプロジェクトは、ティール・フェローシップである。これは、20歳以下の若者に対して、学校をやめる他には特に条件なしに2年間で100万ドルを支給し、研究や仕事に没頭させるというプログラムである。これはあまりにも大胆な社会実験であり、一定の批判を受けた。しかし、ティールによれば、今の高等教育の隆盛はバブルでしかなく、飛び抜けて優秀な頭脳の持ち主にとって大学は、集中すべき活動に割くための時間を奪い、一般的な活動しか与えていない有害なものである。「完全に自主的な知性、何か新しいものを作る決意、そして、それを実現する力を持った者」をその課題に専念させれば、大きな成果を上げることができるから、そのための資金を出そうというわけである。その内容は消費者向けの新サービスの開発から、基礎科学、政治に絡んでくるイシューまで様々であり、すでに一定の成果を上げている。

 

 このプログラムの応募書類の質問の中には、本書でも紹介される、ティールが最も重視する質問が出てくる。それは、「世界に関する命題のうち、多くの人が真でないとしているが、君が真だと考えているものは何か?」というものである。つまりティールは、強い個性を持った個人(ただし、実際にはティールは少人数のチームを重視する)が、世界でまだ信じられていない新しい真理、知識を発見し、人類をさらに進歩させ、社会を変えていくことを、自らの究極の目的としているのである。一見、金持ちの道楽としか思えない様々なプロジェクトも、個性ある個人の知性と技術による社会改革の一つと考えれば、了解可能だ。

 

 ティールは多数の意見を積極的に覆すことを意義あることと考える。であるから、政治的には個人の絶対的な意志、自己決定を重視するリバタリアンの立場をとり、先ほど紹介した人工島国家計画を支援したり、さらには、リバタリアン系の政治家に大口献金をしたりするわけである。そんなティールが起業に関する本を書けば、世の中の流行と同じものになるわけがない。ティールは、ヘッジファンドのマネージャーとして世界経済の流れに逆張りして投資していたこともあるくらいの「逆張り投資家」であるから、本書の内容も逆張りである。

 

 ティールの主張で最もコアとなる部分は、「リーン・スタートアップ」と呼ばれる今流行りのコンセプトとは真逆である。リーン・スタートアップでは、事前にあまり計画せずに、少しずつ改善することを重視するが、ティールはそうしたスタートアップは結局は成功しにくいと考える。むしろ、あるべき姿は、「競合とは大きく違うどころか、競合がいないので圧倒的に独占できるような全く違うコンセプトを事前に計画し、それに全てを賭けろ」というスタンスである。Yコンビネーターや500スタートアップスといった、「どれが成功するかはわからないので、一定の基準を満たしたら全て投資する」という最近のインキュベーター型の投資会社とは真逆のスタンスだ。私自身の経験からも、皆が反対する投資の方が結局リターンが良いという実感がある。

 

 ティールは競争ではなく、独占の重要性を強調する。実際、完全競争下では超過リターンは消失するというのが経済学の教えるところであり、競争を避けて利益を追求することがイノベーションの源泉であることは、私自身が著書『僕は君たちに武器を配りたい』で散々強調したことでもある。これはティールの人生の初期段階でのキャリアチェンジとも関係しているようだ。ティールは元々スタンフォード大学のロースクールを出て法曹を目指していたが、狙っていた最高裁判所のポジションが取れず、同じ道で競い合って大量の人が微妙な差で勝ったり負けたりするゲームのむなしさ、リスク/リターンの悪さを痛感したらしい(これは私自身の経験とも被る)。そこで、デリバティブのトレーダーになるのだが、これも実は違いを作り出せない仕事だとティールは考えたようだ。そして最終的には起業家へと大きくキャリアを切り替えていく。

 

 だから、ティールは、優秀な学生が経営戦略コンサルタントや弁護士、投資銀行などのキャリアに就いて、「あいまいな楽観主義」にもとづいた小さな成功(「選択肢が広がる」だけである)しか手にせず、社会を大きく進化させる力を持たないことを批判する。むしろ、積極的な計画、あるべきものを提示することによって社会を動かし、自分の人生のコントロールを取り戻す試みとしての起業を、人生における正しいアプローチと位置づける。まだ多くの人が認めていない「隠れた真実」を、利害とビジョンを共有したマフィアによって発見して、それを世界中に売り込む。少人数のチームが、テクノロジーを武器に、社会に非連続な変化を起こす。こうしたプロジェクトのポイントを、ティールは本書で順々に説明していく。

 

 この「隠れた真実」を明らかにしていく、つまり本書の署名が意味する「ゼロから1を創り出す」アプローチの観点から、昨今、盛り上がりを見せている日本のスタートアップ、起業界隈を振り返ってみると、「0 to 1」とはほど遠いことがわかる。隠れた真実を追究するというよりは、アメリカ流行っているテーマの焼き直し日本に向けにアレンジしている起業がとても多い。一般個人投資家にとってのみ目新しい、流行りのビジネスモデルや経営者の話題性(性別、学歴、職歴など)、資金調達の規模をもとに、ベンチャー界隈でお互い褒め合ったりして、評価が決まってしまっているところもある。

 

 こうなると、あるテーマがビジネスになりそうだとなると、一斉に同じコンセプトの会社が市場に参入する。例えば、現在ソーシャルゲームにはあまりにも多くのプレーヤーが参加してお互いにつぶし合っていて、独占とはほど遠い状況である。結果、ほとんど似たようなコンセプトを互いに模倣し、最終的には広告投入競争になってしまっている。すると、今度は、ソーシャルゲーム会社からスマホ向け広告の出稿を見込めるので、各社メディアアプリ競争が勃発した。しかし、これもどんどん後発が先行プレーヤーをまねるため、結局は広告の投入合戦になっており、ついには、あれほど凋落したと言われていたテレビCMさえちょっとした活況を呈している。しかし、いずれはどれも超過リターンを取れなくなっていくだろう。

 

 「タイムマシン経営」と言われる海外成功事例のパクリも多い。アメリカでバイラルメディアが流行すれば、日本でもバイアルメディアが乱立し、ニュースメディアが流行りそうであれば、これまた、同じようなサービスが乱立する。ティールはペイパルとXドットコムがつぶし合いになりそうなときには合併することで不要な競争を避けたが、日本では逆の方向である。こうした会社がなんとか大きくなって上場したとしよう。この場合、上場がゴールになってしまい、その後株価が急落する会社も多い。一見すると目新しいけれど大企業が容易に模倣できるサービスを提供する会社が、社長の個人的話題性で株価をつり上げることに成功するも、大企業が本気で参入したとたん「利益が急落、株価が数分の1に」などということは日常茶飯事である。

 

 日本人はスタートアップにおいても、「隠れた真実」とは真逆の「皆が知っているが実は間違っていること」に賭けて損をする人が多い。投資の世界では、「日本人が来たら売れ」などとやや皮肉めいた格言があるが、こんなことでは、日本で成功したベンチャー企業が、国内市場の成長性では株価が維持できそうにないので無理に海外進出し、結局、現地で返り討ちに遭い、グローバリゼーション失敗という展開になっても無理からぬ話である。一方、ティールが手がけている投資先の場合、当初はそんなことがビジネスになるのかと言われ、あるいは技術的に現時点で疑問点があるからこそ、世界でトップになることができるわけである。

 

 以上を踏まえると、本書はぜひ、様々な立場にある日本人に幅広く読まれて欲しいと思っている。また、ピーター・ティールという、アメリの快進撃の象徴であると同時に思想的にかなり変わった人物、しかも、その一見特異に見える思想を本当に実現してしまいかねない人物について、興味を持つキッカケにして欲しいと思う。

 

 ます、一番読んで欲しいのは、起業家ないし起業志望者の人達だ。スモールビジネスで起業するのも良いが、全く新しい世界を変えるような巨大な起業を創り出そうとする本書のアプローチは一度目にしておいた方が良いだろう。必ず、目線をあげるキッカケになるだろう。

 

 また、大企業で働き、新規事業を開発しようとしている人達には、その必要な規模感に見合う思考法を身につけるのに良いはずだ。

 

 いわゆる、高級サラリーマン、プロフェッショナルにも良い刺激だ。実際、ティールは年収20万ドルぐらいの一流大学卒業生、「雇われ身分」の人達を一番挑発しているように思う。それは、ティール自身が、「あいまいな楽観主義」による選択肢の拡大、分散投資的発想の際限のない競争の世界から積極的に「ドロップアウト」した人物だからでもある。

 

 科学やテクノロジーの力で社会を変えよう、今までにない発見をしようと思っている自然科学者、エンジニアにとっても、起業に対するイメージを変える一冊となるだろう。最近、京大でノーベル賞に最も近い研究室の一つと言われている研究室に属するとびきり優秀な研究者に起業の概念を説明する機会があったのだが、実は、「隠れた真実」を発見するという点において、両者は似通っている。

 

 ひょっとすると、あるべき社会像やリバタリアンに興味がある人、また、現在の知識人像についいて思いを馳せてみたい人にも面白いかも知れない。ティールはある意味で近代合理主義の元祖によく似ている。つまり、フランシスコ・ベーコンが典型であるように、ルネサンス期には科学と技術、ビジネス、政治といった、現在においてばらばらの分野も互いに融合しており、一人の人間がそれを担っていたのだ。

 

 そして、なりよりも、未来を担う若者に勧めたい。なぜなら本書は、ティールが、世界を進歩させるために世界中で配ろうとしている武器だからである。

 

 さらに言えば、本書を起点に、「隠れた真実」を見つけ出す「マフィア」が生まれることを期待している。ボン・ヴォヤージュ!冒険の途中で会いましょう。

 

ZERO to ONE  ゼロ・トゥ・ワン
君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン 目次

 

日本語版序文 瀧本哲史 3
はじめに 19

 

1.僕たちは未来を創ることができるか 22
2.1999年のお祭り騒ぎ 30
3.幸福な起業はみなそれぞれに違う 43
4.イデオロギーとしての競争 58
5.終盤を制する 70
6.人生は宝くじじゃない 88
7.金の流れを追え 115
8.隠れた真実 129
9.ティールの法則 147
10.マフィアの力学 160
11.それをつくれば、みんなやってくる? 170
12.人間と機械 187
13.エネルギー2.0 202
14.創業者のパラドックス 227
終わりに 停滞かシンギュラリティか 247

 

はじめに

 ビジネスに同じ瞬間は二度とない。次のビル・ゲイツがオペレーティング・システムを開発することはない。次のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが検索エンジンを作ることもないはずだ。次のマーク・ザッカーバーグがソーシャル・ネットワークを築くこともないだろう。彼らはコピーしているようなら、君は彼らから何も学んでいないことになる。

 

 もちろん、新しい何かを作るより、在るものをコピーする方が簡単だ。おなじみのやり方を繰り返せば、見慣れたものが増える、つまり1がnになる。だけど、僕たちが新しい何かを生み出すたびに、ゼロは1になる。何かを創造する行為は、それが生まれる瞬間と同じく一度きりしかないし、その結果、まったく新しい、誰も見たことのないものが生まれる。

 

 この、新しいものを生み出すという難事業に投資しなければ、アメリカ企業に未来はない。現在どれほど大きな利益を上げていても、だ。従来の古いビジネスを今の時代に合わせることで収益を確保し続ける先には、何が待っているのだろう。それは以外にも、2008年の金融危機よりもはるかに悲惨な結末だ。今日の「ベスト・プラクティス」はそのうちに行き詰る。新しいこと、試されていないことこそ、「ベスト」なやり方なのだ。

 

 行政にも民間企業にも、途方もなく大きな官僚制度の壁が存在する中で、新たな道を模索するなんて奇跡を願うようなものだと思われてもおかしくない。実際、アメリカ企業が成功するには、何百、いや何千もの奇跡が必要になる。そう考えると気が滅入りそうだけれど、これだけは言える。ほかの生き物と違って、人間には奇跡を起こす力がある。僕らはそれを「テクノロジー」と呼ぶ。

 

 テクノロジーは奇跡を生む。それは人間の根源的な能力を押し上げ、より少ない資源でより多くの成果を可能にしてくれる。人間以外の生き物は、本能からダムや蜂の巣といったものを作るけれど、新しいものやよりよい手法を発明できるのは人間だけだ。人間は、天から与えられた分厚いカタログの中から何を作るかを選ぶわけではない。むしろ、僕たちは新たなテクノロジーを生み出すことで、世界の姿を描き直す。それは幼稚園で学ぶような当たり前のことなのに、過去の成果をコピーするばかりの社会の中で、すっかり忘れられている。

 

 『ゼロ・トゥ・ワン』は、新しい何かを創造する企業をどう立ち上げるかについて書いた本だ。僕がペイパルとパランティアの共同創業者として、その後フェイスブックやスペースXを含む数百社のスタートアップへの投資家として、直接学んだことのすべてがこの本の中にある。その過程で起業には多くのパターンがあることに気づいたし、本書でもそれらを紹介しているけれど、この中に成功の方程式はない。そんな方程式は存在しないのだ―起業を教えることの矛盾がそこになる。どんなイノベーションもこれまでにない新しいものだし、「こうしたらイノベーティブになれますよ」と具体的に教えられる専門家などいないからだ。実際、ひとづだけ際立ったパターンがあるとすれば、成功者は方程式でなくなる第一原理からビジネスを捉え、思いがけない場所に価値を見出しているということだ。

 

 本書は、2012年にスタンフォード大学で僕が受持った起業の授業から生まれた。大学で専門分野を極めても、広い世界でそのスキルをどう使ったらいいかまで学べる学生は少ない。僕はこの授業を通して、専門分野によって決まった路線の外にもっと広い未来が広がっていること、その未来を創るのは君たち自身であることを教えたかった。学生のひとり、ブレイク・マスターズが詳しく記してくれた授業ノートは、キャンパスを超えて拡散し、そのノートに僕と彼が修正を加えて、より幅広い読者向けにこの『ゼロ・トゥ・ワン』ができあがった。スタンフォードやシリコンバレーだけに未来を独占させていいわけがない。

 

1.僕たちは未来を創ることができるか

 採用面接でかならず訊く質問がある。「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」

 

 ストレートな質問なので、ちょっと考えれば答えられそうだ。だけど実際には、なかなか難しい。学校では基本的に異論のない知識しか教わらないので、この質問は知的なハードルが高い。それに、どの答えは明らかに常識外れなものになるので、心理的なハードルも高いからだ。明晰な思考のできる人は珍しいし、勇気ある人は天才よりもさらに珍しい。

 

 僕が聞かされるのは、こんな答えだ。

 

 「この国の教育制度は崩壊している。今すぐに立て直さなければ」
 「アメリカは非凡な国家だ」
 「神は存在しない」

 

 どの答えも感心しない。最初の二つは真実かもしれないけれど、多くの人が賛成するだろう。三つ目はおなじみの論争の一味に味方しているだけだ。正しい答えは次のような形なるはずだ。「世の中のほとんどの人はXを信じているが、真実はXの逆である」。僕の答えは本章で後ほど紹介しよう。

 

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか
 2014(平成26)年9月25日 第一刷発行

 

 著者 ピーター・ティール、ブレイク・マスターズ
 序文 瀧本 哲史
 訳者 関 美和
 発行者 溝口 明秀
 発行所 NHK出版

 

http://akim.mo-blog.jp/


旅で成長するトラフグ 最後は生まれ故郷に回帰

2014-11-29 07:00:00 | 日記

2014年11月29日 日本経済新聞


正面から見るととぼけた愛嬌がある(東海大学海洋科学博物館提供)正面から見るととぼけた愛嬌がある(東海大学海洋科学博物館提供)

 ロサンゼルスの水族館で聞いた魚の講演会は、繁殖生態などのユーモアたっぷりな講師の話しぶりに笑いが絶えなかった。フグの話もあって、毒があるフグを日本では食用にしていて、年間10人ほどが中毒で死ぬという話に会場が沸いた。毒がある魚を、なぜ日本人はわざわざ食べたがるのかという雰囲気を感じて、複雑な気持ちになった。フグのおいしさを知らないのだろう。

 

■怖いフグ毒、実は外部から取り込み

 もっともフグ中毒で年間10人が死ぬというのは古い情報で、最近は5年間で1人だけだ。フグ毒は神経や骨格筋をまひさせる神経毒で、中毒になると、手足がまひして呼吸困難になり、ついには窒息死する。有効な直接の治療法や解毒剤はないが、人工呼吸などで一定時間呼吸を維持すれば助かることが多いという。

 フグはどうやってフグ毒(テトロドトキシン)を持つようになるのだろうか。昔はフグだけがフグ毒を持つと考えられていたが、40年ほど前に奄美大島のツムギハゼにもフグ毒が見つかり、その後、ヒトデやタコにもフグ毒を持つ種類が見つかった。

 いろいろな動物にフグ毒があるのは、それぞれの動物が毒をつくるのではなく、何かがつくった毒を食べてため込むのだろうと予測された。研究の結果、フグ自身にフグ毒をつくる能力はなく、海で普通に生活する細菌がつくった毒を他の動物が順々に食べ、つまり食物連鎖によってフグなどに蓄積されるということが分かった。


水揚げされるトラフグ。体を膨張させている(浜名湖学習館ウォット提供)水揚げされるトラフグ。体を膨張させている(浜名湖学習館ウォット提供)

 フグ毒が普通にいる海洋細菌によってつくられるならば、なぜ特定の動物が毒を持つようになるのだろうか。フグ毒に対する魚の抵抗性を調べた東海大学の斎藤俊郎先生によると、イシダイなど一般の魚はフグ毒に対する抵抗性がほとんどなく、毒を食べると微量でも死ぬのに対して、毒フグはその300~700倍の強い抵抗性を持つという。つまり、フグ毒を持つ動物には、体内にフグ毒を蓄積する能力があるというわけだ。


円い黒斑がトラフグの特徴(東海大学海洋科学博物館提供)円い黒斑がトラフグの特徴(東海大学海洋科学博物館提供)

 フグは何のために毒を持つのだろうか。有毒フグでは体表の粘液にも毒があるので、外敵から身を守るのに役立っているのは確かだろう。ただそれだけでなく、フグ毒を含む餌で育てたトラフグは、毒を含まない餌で育てたトラフグよりも病気への抵抗力が増し、成長率、生残率なども向上するという。最近では、腸内細菌を活性化させて消化能力を高める機能があるらしいこともわかってきた。フグ毒には、身を守るだけでなく、それを摂取することによって成長がよくなるという積極的な機能もあるようだ。

 

■有明海や瀬戸内海で回帰を確認

 トラフグは日本列島周辺に広く分布し、3月から5月に九州北部では有明海湾口、福岡湾口など、瀬戸内海では尾道、備讃瀬戸など、特定の比較的狭い範囲の場所で産卵する。産卵場所は潮通しの良い湾口などで、孵化(ふか)した仔魚(しぎょ)は湾内の干潟域で稚魚期、幼魚期を過ごす。その後、成長に従い分布域を拡大し、東シナ海などの外海に回遊して成長する。

 よく知られているように、サケは川で生まれて海に下って成長し、生まれ故郷の川に帰って産卵する。最近の研究の結果、トラフグも外海を回遊して成長したのに、自分が生まれ育った産卵場に戻ってくると考えられるようになってきた。

 有明海湾口で生まれ、標識をつけて放流したトラフグの幼魚は、エサを求めて東シナ海などの外海に出たところで福岡湾や瀬戸内海から来たトラフグたち魚と交じり合うが、2年から3年後には産卵のために再び有明海湾口に戻ってくる。その群れの中に他の場所から放流されたトラフグは混じっていなかったという。一方で、瀬戸内海の尾道の産卵場で放流されたトラフグの成魚が翌年も同じ場所に戻ってきたという調査結果もある。

 トラフグもサケと同じように、産卵場に回帰する習慣を持つ、ロマンを感じさせる魚なのだ。

 

 虎河豚(とらふぐ)の威嚇ともあれご愛嬌(あいきょう) 建一郎

(葛西臨海水族園前園長 西 源二郎)

 

西 源二郎(にし・げんじろう) 1943年生まれ。専門は水族館学、魚類行動生態学。70年、東海大学の海洋科学博物館水族課学芸員となり、2004~09年に同博物館館長。同大学教授として全国の水族館で活躍する人材を育成した。11年4月から14年3月、葛西臨海水族館園長。著書に「水族館の仕事」など

仔魚:魚類の成長過程における初期の発育段階の一つ。幼生とも呼ばれる。

稚魚 : 魚類の成長過程での初期のステージのひとつ。生物学上は仔魚と稚魚は明確な定義で区別される。仔魚の次のステージが稚魚である。

幼魚:未成魚のことで、魚類の成長過程における段階の一つを指す(稚魚の次の段階)。一般的に使われることが多い、幼魚や若魚はこれに含まれる。その種として見分けが付く程度に成長しているが、成魚とは模様などの外見的特徴が異なることが多い。しかし種によっては大きさを除いた外見(色、模様、体形など)が、成魚とそれほど変わらないものもある。行動の様子や生理機能は成魚のそれに近づく。

成魚:魚類の発育過程における一つの段階で、繁殖が可能になった魚を指す(未成魚の次の段階)。体の大きさや外見が成魚と変わらない場合も、繁殖の準備ができていなければこれに含まない。

2014年11月29日 日本経済新聞

http://www.nikkei.com/article/DGXMZO80094490V21C14A1000000/

http://akim.mo-blog.jp/


「勝ち組」日立・東芝と「負け組」ソニーを分析

2014-11-27 06:30:00 | 日記

 日本の政治も、産業構造も、自社もここに記載されている SONY 自身も"成功のトラウマ"に陥っている。それに自らが気づいていても既得権者からの圧力に屈していることが多い。1票の重みの是正、社会保障制度の見直し、医療制度改革、都州制度、農協改革、農地法改革など行うべきことは山積みなれど先延ばしにされていく。

 あれだけ明治維新の英雄達が他のアジアの国に先んじて、開国、富国強兵に果敢に挑戦したにも関わらず、太平洋戦争時の戦前、戦中の為政者達は現在と同じように理由無き楽観主義で問題点の解決を後回しにし、結果として国を滅ぼしたことをもっと教訓とすべきだとこの記事を読んで思う。

 Apple ( iPod ) よりも、SoftBank ( Pepper ) よりも先んじていたはずの企業でさえ、成す術を知らない。

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「勝ち組」日立・東芝と「負け組」ソニーを分析

進む家電の2極化、負け組みに明日はあるか http://toyokeizai.net/articles/-/54910
2014年12月3日 小宮 一慶:経営コンサルタント 東洋経済新報社  http://toyokeizai.net/


日立製作所は今期も最高益更新(中西会長(右)と東原社長、撮影:今井康一)

 電機メーカーの二極化が進んでいます。2014年9月の中間決算を見渡しますと、日立製作所や東芝、パンソニックなどは増益となった一方で、ソニーは大幅減益となり、まさに独り負けになっているのです。

 勝敗を分けたのは、何でしょうか。リーマンショックが起こった2009年3月以降、電機メーカーの業績は、世界同時不況と円高の波に飲まれて急速に悪化。しかしその後、収益環境が平常に戻った今、それ以前からも含めた構造改革が収益の明暗を大きく分けています。そこで、今回はこの中から日立製作所と東芝、ソニーの3社を分析をしながら、二極化の理由を探ります。

 

「選択と集中」によって復活した日立製作所

 日立製作所(以下、日立) の2014年9月期中間決算(4~9月)から見ていきましょう。

 損益計算書から業績を調べますと、売上高は、前年同期からほぼ横ばいの4兆4967億円。売上原価を少し抑えたことで、営業利益は23.4%増の2140億円となりました。まずまずの状況です。

 貸借対照表から安全性を調べますと、自己資本比率(純資産÷資産)は35.4%ありますから、財務的にも安定していることが分かります。

 注目したいのは、事業別の業績です。収益を伸ばしているのは、総じて B to B 向けの事業なのです。

 セグメント情報を見ますと、売上高の大きなものは、金融や公共サービスのシステム構築などが含まれる「情報・金融システム」9349億円と、鉄道やエレベーター、昇降機といったインフラ事業の「社会・産業システム」6597億円。それから、電線ケーブル、半導体やディスプレイ用材料等が含まれる「高機能材料」6886億円です。いずれも前年同期より伸びており、好調です。

 

高機能材料で稼ぐ日立、家電などの貢献はわずか

 これらのうち、特に営業利益を稼いでいるのは「高機能材料」の529億年で、全体の25%を支えています。「情報・通信システム」も368億円の利益を上げており、全体の17%を占める主力事業です。

 一方、家電が含まれる「生活・エコシステム」は、売上高は3883億円(構成比8%)、営業利益は143億円(構成比7%)と、全体に占める割合としては小さくなっています。かつては15%弱あったことを考えると、家電事業は縮小されていることが分かります。

 「生活・エコシステム」のこの期の営業利益は、前の期より145.4%も伸びていますが、これは海外向けの空調設備が好調だったためです。

 もう一つ、地域別の業績をまとめたセグメント情報を見てみましょう。全体の売上高のうち、国内が占める割合は53%。続いて大きなものは、アジア22%、北米10%、欧州10%となっています。

 アジアの新興国は成長が著しく、インフラの整備が進んでいることから、需要が増えているのです。特に、発電設備などの重電が強いと思われます。

 家電はコモディティ化が進み、海外でも安くて高品質の商品が作られるようになりましたから、競争力が低下してしまいました。一方、重電はカスタムメイドするものですから、他社との差別化がしやすく、価格も崩れにくいものです。

 そこで日立は、 B to C を縮小して、 B to B の割合を高めました。同社は、かつてはテレビや白物家電、パソコンなどの事業にも注力していましたが、業績が悪化し始めてから、いち早く「選択と集中」の構造改革を行ったのです。

 2007年には価格競争が激しくなったパソコン事業から撤退し、2009年3月期に7873億円の最終赤字を計上した時には、一気に構造改革を進めました。不採算事業から次々と撤退し、 B to C から B to B へとシフトしていったのです。この戦略が功を奏しているというのが、現在の状況です。

 

インフラ系や半導体んど B to B で勝ち残った東芝

 続いて、東芝の2014年9月中間決算を見てみましょう。東芝も、日立と同様に、B to B 事業で稼いでいる様子がわかります。

 損益計算書(10ページ)を見ると、売上高は前の期より 3.5 % 増の3兆1083億円。売上原価、販売費ともに微増しましたが、営業利益は 7.7 % 増の1151億円となりました。こちらも好調だと言えます。また、自己資本比率は 26.8% ありますので、安全性にも問題ありません。

 次に、事業別の業績をまとめたセグメント情報(14ページ)を見ますと、やはり B to B 事業が伸びています。

 特に収益を上げているのが、発電システムなどの「電力・社会インフラ」で、売上高は前の期より16.9% 増の9158億円。営業利益もほぼ倍増の300億円を計上しています。

 それから、昇降機や流通・事務用機器、空調事業などを含む「コミュニティ・ソリューション」も好調で、大幅な増収増益となりました。売上高は7.7% 増の6456億円、営業利益は70.8% 増の158億円となっています。新興国でのビルの空調や昇降機が伸びたのです。

 最も利益を稼ぎ出しているのは、半導体やハードディスクなどが含まれる「電子デバイス」で、1066億円の営業利益を計上しています。中国をはじめとする新興国向けの安価なメモリが好調で、収益を伸ばしているのです。また、9月に発売された米アップル社の「iPhone 6」の製造に伴って需要が増えたという要因も重なったと思われます。

 半導体などの装置産業は、製造するための工場や機械などに膨大が固定費がかかりますが、損益分岐点を超えると大きな利益を生むことができます。ですから、たくさん作るほど、利益がうなぎ登りに上がっていくのです。

 一方、苦戦しているのは、テレビやパソコン、白物家電などが含まれる「ライフスタイル」です。前の期は351億円の営業赤字となり、この期も293億円の赤字を計上しました。やはり、差別化の難しい B to C ではなかなか利益が確保できないでいるのです。

 

B to C に主力を注ぐソニーは大苦戦

 次に、独り負けしているソニーの業績を見ていきましょう。損益計算書(18ページ)を見ると、同社の2014年9月中間決算は、4年連続の最終赤字となりました。

 売上高は、前の期より 7.2 % 増の1兆9015億円。ところが、売上原価と販管費が膨らんだため、営業利益は、前の期は139億円の黒字を出していたのが、この期は855億円の赤字を計上しました。最終損益である四半期純損失も、前の期の62億円の赤字から、この期は1200億円の赤字となり、マイナス幅が拡大しました。

 なぜ、ここまで悪化を続けているのでしょうか。セグメント情報(22ページ)からもう少し詳しく見てみますと、大きく営業利益を落としているのは、スマートフォンなどが含まれる「モバイル・コミュニケーション」です。前の期は 213億円の黒字を確保していましたが、この期は 1747億円の赤字を計上しています。

 これは、収益が悪化したことで 1760億円の減損が発生したためです。スマホ事業が苦戦している様子がうかがえます。

 稼ぎ頭は、ソニー銀行やソニー損害保険などが含まれる「金融」で、914億円の営業黒字となっています。主力の家電製品やモバイル製品よりも利益を上げていますね。

 B to C に重点を置いているソニーは、なかなか収益を伸ばせないでいるのです。その分、収益力の高い金融事業に助けられているという構図になっています。

 日立と東芝の勝因は、早い段階で選択と集中を行い、B to C から B to B へシフトしたことだと言えます。

 2社はかつて、白物家電やパソコンなど、手広く事業を行っていましたが、リーマンショックが起こる前から、価格競争の激化によって業績が陰り始めていました。特に日立は悪化のスピードが速く、お茶の水にあった本社ビルを売却したことが話題になりました。

自動車強化するパナソニック、ソニーの巻き返しも注目

 しかし、そこでいち早く社会インフラや重電などの B to B へ方向転換できたからこそ、いわばV字回復することができたのです。自分たちの強みを活かし、将来的にも差別化できる事業に資源を集中したのです。

 逆に言えば、家電など B to C でなんとか延命できていたソニーやパナソニック、シャープなどは、かえって大きな痛手となってしまったと感じます。

 ただ、パナソニックに関しては、自動車部品の製造など、この先、B to B に注力していくとのことですから、それらが軌道に乗れば今後は業績が上向く可能性があります。

 ソニーもオリンパスと提携して、医療機器事業を拡大しようとしています。オリンパスは、内視鏡など医療機器について、世界シェアの約70%を握っていますから、ソニーは映像技術を提供することで、これに乗っかろうとしているのです。こちらもうまく業績を伸ばせるかに注目したいところです。
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 厳しい時代に伸び続けている企業は何が違うのか? 苦境から奇跡的な復活を遂げた企業は何をしたのか? 成功しているビジネスパーソンは何を実践しているのか? その秘密は「離れる戦略」にあります。過去の常識から離れ、商習慣から離れ、古い組織構造から巧みに離れることで、勝者の座に就くのです。この連載では、勝ち続ける者だけが知っている「離れる戦略」を、古今東西、最新の戦略理論もからめて易しく読み解いていきます。
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 勝ち続けるソフトバンクの"離れる戦略" http://toyokeizai.net/articles/-/53985
 卸、ケータイ、ロボット・・・コア事業を変える
 鈴木 博毅 : MPS Consulting 代表 http://www.mps-consult.com/
 2014年11月27日 東洋経済新報社 http://toyokeizai.net/

2014年11月4日、ソフトバンクの決算発表会見での孫正義氏 (写真:梅谷秀司)

 

■一代で売り上げ高6兆円の企業を創った孫正義氏

 携帯電話・インターネット通信企業のソフトバンクは今年、中国最大のネット通信会社アリババのニューヨーク証券取引所上場でも話題となりました。ソフトバンクは2000年、創業期のアリババに出資しており、3割を超える筆頭株主です。アリババ上場による保有株時価総額は約10兆7000億円(11月24日時点のニューヨーク証券取引所でのアリババの株価:114ドル、為替:1ドル=118円で算出)です。

 携帯電話や検索サイト Yahoo ! で私たちの生活に浸透している同社は、孫正義氏の創業から33年、極めて短期間で巨大企業への飛躍に成功している希有な存在です。そして着目すべきもうひとつの特徴は、コア事業が何度も変化していることです。

 ○1981年の創業時:ソフト流通業
 ○1980年代後半:LCR(最も安い通信事業者を自動選択するシステム)
 ○1990年代半ば:検索エンジンのヤフー
 ○2006年:ボーダーフォン買収による携帯事業参入

 成長の過程で多数のM&Aを行い、米国第3位の携帯電話会社スプリント・ネクステルなども傘下に収めており、現在はテレビCMにも登場している対話型パーソナルロボットの事業にも注力を始めています。

 このように驚くべき成長を成し遂げている同社は、時価総額で現在9兆円を超え、2014年の11月下旬時点で、日本国内ではトヨタ自動車、三菱UFJファイナンシャル・グループに次いで3位です。売り上げ高は2013年度、6兆円を超えます。同社はなぜ、これほど成功できたのでしょうか。

 

■離れる戦略とぬるま湯の恋愛関係とは?

 前回の記事で、企業と消費者の関係を「あなたに過去の姿でいてほしいと願う恋人」に例えました。新たな恋の発見には古い恋を手離すことが必要ですが、通常、これまで恋人と別れることイコール、新しい恋の始まりとはなりません。失恋すれば空白期間が必ず生まれ、寂しくつらい思いをしなければならないのです。

 寂しさや苦しみを乗り越えて、古い恋を手離す2つの場合があります。ひとつは現状の関係がすでに破綻して、修復不可能となったとき。もうひとづは、現状の恋では自分の理想とする人生がかなわない、自分の成長もできないと悟ったときです。

 逆に、古い恋を手離せないときは、ふたりの関係が不満ながら破綻するほどでもなく、自分自身にも具体的な理想や目標がないときです。これは売り上げや利益がまったく伸びず、しかし日々、なんとか食べてけるビジネスに似ています。生活していける、という状態以上の目標や理想がなければ、人も企業もこの状態にとどまることが多いのです。

 したがって現状から離れるためには、極端な危機か、現状に安穏とさせない大きな目標や理想が必要なのです。

 

■離れるために、牽引してくれる目標が不可欠

 ビジネスでも人生でも、本格的な危機を迎える前に離れる戦略を実行できるほうが当然、有利です。孫正義氏は、離れる戦略の実行に不可欠な大胆な目標設定において、ずば抜けた能力を持っている人物です。

【孫社長が掲げてきた大胆な目標】
 ○社員2人の創業期に「やがて売り上げを1兆円2兆円とするような企業を創る目標」
 ○2010年の「新30年ビジョン」で、30年後までの時価総額200兆円、世界トップ10

 上記のような強烈な目標を掲げ、達成するたびにより遠大な目標に切り替えていますが、自社にぬるま湯の状態から離れさせ、新たな進歩を促進するためだと推測できます。売り上げ目標が兆の単位であれば、ソフト流通業の成功だけで満足するわけにはいきません。

 世界的なベストセラーとなった書籍『ビジョナリー・カンパニー』(ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス著)は、時代を超え際立った存在であり続ける企業の特徴が分析されています。その特徴のひとつに、永続する企業は「大胆な目標を定期的に掲げる」というものがあります。書籍内では Big Hairy Audaciou Goal ( BHAG = ビハーグ )と呼ばれていますが、驚くほど大胆な目標を掲げて、進歩を促す強力な仕組みとして活用しているのです。

 ソニーはわずか十数人の創業期、社員が食べていくために炊飯器や電気毛布を開発して販売していました。そのような時期に、創業者のひとりである井深 大氏は「会社の創立趣意書」を創り上げています。

【ソニーの会社創立の目的】※書籍『ビジョナリー・カンパニー』から筆者が現代語訳
 ○技術者たちが技術することに喜びを感じ、思いきり働ける職場をつくる
 ○日本再建、文化向上に対する技術面、生産面からの活発な活動
 ○(戦時中に)高度に進歩した技術の国民生活への即時応用

 このような大胆な目標があったからこそ、十数人の小企業ソニーはそのときの現状に甘んじることなく世界に挑み、やがて世界のソニーになったのです。また大胆な目標が組織にとって有益なのは「それが達成されていない間だけ」だと本書は強調しています。ぬるま湯から引き離す力を持つ理想、進歩の必要性を突き付ける新たな目標こそが必要なのです。

 残念ながら現在、ソニーは凋落が指摘されています。世界のソニーと呼ばれた輝かしい時代が過ぎ、多くの夢を達成したあと、ソニーは将来の成功に自らを牽引する新たな目標や夢を掲げられず、結果、過去から離れることができなかったと考えられるのです。

 ※『ビジョナリー・カンパニー』 http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/916400.html
 ※『 Built to Last 』 http://books.google.co.jp/books/about/Built_to_Last.html?id=rFLvnNfgk-oC&redir_esc=y

 

■「未来の繁栄」を見つめること

 孫正義氏の著書『孫正義 リーダーとしての意志決定の極意』には、家業の造船業が斜陽化したときに、必死で立て直した企業家について厳しい言及をした箇所があります。

 「なぜ沈みゆく産業に自分の人生を懸けるんだ。もうその時点で経営者として、事業家として失格だ(中略)。もし僕がその立場にいたら、造船業で培った製造する力、マネージする力、営業力、そういう基礎力を使って造船以外をやる。あるいは日本でやらずに、そのノウハウを持っていって中国やロシア、インドの賃金でやる」

 「親から受け継いだ仕事をやらざるをえなかった。それは理解できるけれど、僕が同じように受け継いでいたらいち早く業態転換する。先祖代々の家業を意地でも守っていく、そんなことは絶対にしない。少なくとも僕の後継者になる人は、それでは失格です」

 離れることは痛みが伴います。心理的な抵抗感も強烈にあるでしょう。それでも離れなければ「1兆円2兆円の企業」を実現できない。大胆な目標を掲げ、その目標から俯瞰をすることで、現状にとどまり成長が停止した状態に甘んじる無意味さを実感できるのです。

 逆に目標が現状維持の場合、孫氏のように業態転換をする必要はありません。その意味で「未来の繁栄」を思い描き、どのような未来を見つめるかが重要になります。時間軸を変えることで、現状から私たちの発想を引き剥がすのです。創業者の孫正義氏が掲げ、更新し続けている大胆な目標こそが、ソフトバンクという企業に「離れる戦略を実行し続ける力」を与えて、今後、伸びていく事業領域への進出を可能にしているのです。

 人工知能の発達は、やがて対話型ロボットが人のコミュニケーション介在者として大きな役割を得る可能性を秘めています。そのとき、私たちはほとんど消費行動をロボットとの対話を通じて行うかもしれません。ここでも「未来の繁栄」を自ら設定して現状から離れ、新たな一歩を踏み出す"離れる力"が発揮されているのです。

 

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 「獺祭」「黒霧島」ヒットの陰に"離れる戦略" http://toyokeizai.net/articles/-/52887
 逆境から躍進した旭酒造、霧島酒造の秘密
 鈴木 博毅:MPS Consulting 代表 http://www.mps-consult.com/
 2014年11月12日 東洋経済新報社 http://toyokeizai.net/

「獺祭」(左)と霧島酒造「黒霧島」(右)。大人気の背景に「離れる戦略」があった!

 

 当初、霧島酒造について「1996年前後に倒産直前だった」と記しましたが、この表現は実際とは異なっており、当時も売り上げ成長を続けていました。表記を訂正し、お詫びいたします。

 

■苦境から大ヒット

 トンネルの先に復活の光が見え隠れする日本経済。2013年からのアベノミクスの恩恵などで売り上げを伸ばす企業がある一方、変わらず閉塞感の中で苦しむ企業もいまだに少なくありません。特に歴史が長い業界では、かなかな企業も消費者も変わらないのが現実ではないでしょうか。

 ところが、いわゆる伝統産業と呼ばれる業界の中でも、さらに歴史のある業界である日本酒、焼酎の世界で過去十数年間、躍進に次ぐ躍進をしている2社があります。

 純米大吟醸の「獺祭」で有名な旭酒造と、クセのない上品な香りを実現した芋焼酎「黒霧島」の霧島酒造です。現在ではおいしさで有名かつ人気の製品として、不動の地位を誇る2社の製品が、両社とも現在の社長に交替した頃は、新たな打開策が不可欠の状態でした。

 旭酒造の桜井博志社長が家業を継いだ1984年当時は、生産量がピークの3分の1の700石(1石=180リットル)まで低下、さらに地ビール事業での失敗によって多額の借金を抱えてしまいます。

 霧島酒造の現社長、江夏順行さんが就任した1996年は、業界が増税などで打撃を受け、ライバル企業が地元にも進出し、新たな飛躍を模索する状態でした。

 そのような2社ですが、現在では旭酒造は日本酒の生産量が5万石、霧島酒造は焼酎メーカーの売り上げランキング(帝国データバンク)で2004年の業界6位から、2012年に売上高500億円を達成し、三和酒類を超えてトップに躍り出ています。

 極めて厳しい経営環境から、2社はどのようにして飛躍のきっかけをつかんだのでしょうか。そこには通常とは真逆の「離れる戦略」の存在を垣間見ることができるのです。

 

■古い顧客は、あなたの過去の姿でいてほしいと願う恋人

 読者の皆さんに考えていただきたい点があります。

 販売量が数十倍に増えること、売上高が10倍以上に増えることが、消費としてどんな状態を意味するかです。販売量が過去10年で20倍に増えた製品があるとして、週1回、お酒を楽しむこれまでのお客様を、1週間で20回、お酒を楽しむ消費者に変身させることができるでしょうか。

 イメージすればすぐにわかりますが、これは「物理的に不可能」です。毎週金曜日の夜の晩酌を楽しみにしていた人が、20倍を飲むためには週7日、朝昼晩の3食すべてでお酒を飲まなければ、20倍の消費を達成できません。

 このたとえで何をお伝えしたいかと言えば、売り上げを劇的に伸ばすためには、既存の古い顧客の枠組みを超える必要があることです。既存のお客様に20倍の消費をしてもらうのが不可能なら、これまで目の前にいなかった消費者を「外から20倍、吸引しなければならない」のです。見たことも出会ったこともない人たちが、あなたの顧客になるイメージです。

 ところが、ここで深刻な葛藤が生じます。これまで長い間、愛用してくれた顧客は、その会社の今の製品が好きであり、自らの嗜好に合うから買い続けていたのですから、既存顧客のことだけを考えると「この製品を変える、ビジネスのやり方を変える」ことに強い抵抗感を感じるのです。

 打開策を求めていた旭酒造にも霧島酒造にも、最も苦しかった時期でさえ、過去から愛飲してくれた貴重な顧客はいたはずです。

 しかし、古いお客様に既存の製品を提供する過去のコミュニケーションでは、売れる数量や利益は増やすことができないジレンマがあります。古い顧客は、あなたに変わってほしくない(成長してほしくない)と願う恋人のようなものなのです。

 逆説的に言えば、多くの歴史ある企業は古い(愛用してくれる)顧客によって小さな自己像、限られた売り上げに閉じ込められている状態であるとも言えます。

 

■古い目標・コミュニケーション方法を手離す

 新たな躍進には、多くの場合「古い顧客を手離す」という思い切った決断があります。旭酒造の桜井社長は著書『逆境経営』で、量を売ることを目指すのではなく、徹底的においしい酒を造ろう、酔うのではなく味わう日本酒を目指して舵を切った、と書かれています。

 同じように、霧島酒造も「全国の人に飲みやすい、女性でも飲める芋焼酎」を製品開発のコンセプトにしています。既存顧客から離れ、古い自社像や古い製品コンセプトからも離れた英断が、新たな消費者を同社の製品に引き付け、驚くべき飛躍のきっかけとなったのです。

 企業側は製品開発や新技術によって、より顧客単価の高い販売を成功させたいと願うものですが、古い顧客はたいていの場合、製品単価が上がることを好みません。古い価格帯だからこそ引き寄せられた顧客なのですから、ニーズが根本的に違うのです。

 そのため単価を上げたいと思ったら、新単価を快く受け入れてくれる別の顧客に売る必要があります。古い顧客によって規程された自己像(自社像)から離れ、新しい顧客と関係と作り上げる自社をイメージできるかどうかが、飛躍か停滞かの分かれ道となるのです。

 これは日本国内のスポーツ市場と、海外リーグの選手年俸が大きく異なる場合と似ています。1本のヒット、1本のシュートの報酬が10倍以上になる市場に彼らは移動したのです。

 製品コンセプトの刷新は、古い顧客像から離れることで生み出されていますが、注目すべきもうひとつの改革は、社員との古いコミュニケーション方法も手離していることです。

 桜井社長の著書『逆境経営』には、
 ○「がんばらないけど、あきらめない」
 ○「失敗を恐れるな(次に必ずやり方を変えればよい)」
 ○「絶対に、社長を信頼するな」

 などのユニークなスローガンが描かれていますが、これらの言葉は「試行錯誤」への挑戦を続けるため、ひとつの方法に固執して精神的に息切れしないために、また新しいことへの挑戦を続ける社長に「黙ってついてくれればいい!」ではなく、社員一人ひとりが頭を使って主体的に動かないと、会社は危険なんだぞと健全な危機感を持たせるためと推測できます。

 霧島酒造のホームページにも「考動指針」として「夢がなくては始まらない」「会社の主役は『私』です」「やり過ぎぐらいがちょうどいい」など、独自のメッセージを社員に投げかけて、旧来のコミュニケーションから離れて、自主性とチェレンジ精神を鼓舞しています。

 変化を鼓舞し、社員が自主性を発揮する主役になることを求めており、よくある「頭を使わず、ついてくるだけでいい」という古い管理思想から離れていることがわかります。

 ※霧島酒造株式会社 企業理念 https://www.kirishima.co.jp/company/philosophy.html

 

■新しい目標・製品・スローガンで「上手に離れる」べし

 苦境からの飛躍を実現させた2社にかぎらず、過去、危機からのV字回復を成し遂げた企業を見ていると、危機から生まれる空白こそが、イノベーションのサイクルを始める起点となっていることがわかります。同じことをやり続けても、行き場がもうないという八方ふさがりの状態が、最後に過去を手離すことをリーダーに思いつかせることになるからです。

【離れる戦略の5原則】
 ○強みを生かしながら古い戦略から離れる
 ○古い目標を手離し、新しい目標を掲げる
 ○消費者と新しいコミュニケーションを始める
 ○社員と新しいコミュニケーションを始める
 ○古い自己像から離れ、新しい自己像を高く評価する顧客と出会う

 2社は共に「最高においしい製品を磨き作り上げる」という1点だけはぶれていません。その本質的な目標を固く維持しながら、ほかの古いすべてのものから正しく離れています。

 現代日本のビジネスシーンは、もはや頑固一徹な執着ではなく、健全な形で「離れる戦略」を実践できる企業と個人が飛躍を始めているのです。

 大切な人ではありながら古い愛を手離すことで、人が新たな成長を実現できるときがありますが、企業が社会と新しい関係を育むためには、古い姿に閉じ込められることを避け、より多くの消費者に出会い愛される新たな自社像を打ち立てなければならない時代を迎えているのです。

 http://akim.mo-blog.jp/


China's War On Malaria: A Tiny Nation Pushed Into A Test-Tube

2014-11-24 23:26:00 | 日記

11/24/2014  11:26PM  Forbes
http://www.forbes.com/sites/ericrmeyer/2014/11/24/chinas-war-on-malaria-a-tiny-nation-pushed-into-a-test-tube/

 

 Artepharm, a Cantonese medical drugs laboratory, has been engaged for the past few years in a remarkable venture against malaria, a health scourge that has long plagued humanity and has been responsible for every second human death since the Middle Ages.

 

 Having developed a treatment partially based on a molecule with a Chinese origin, Artemisinin, Artepharm has been administrating it freely and systematically to the whole population of the Comoros, which is a small archipelago inhabited by 700.000 souls in the Indian Ocean West of Madagascar.

 

 Backed by the local Comoros government, the drug firm began distributing Artemisinin to the 36.000 inhabitants of Moheli, one of the smaller islands in the archipelago.  At the end of the campaign, after a few months, the result was dramatic: infection rates that had been as high as 90% in some villages were reduced by 95%. Artepharm then began enlarging the program to the whole population of Comoros. By November of 2014, the company could claim, according to Prof. Li Guoqiao, of Guangzhou University, one of this project’s fathers, that the disease had been eradicated in Comoros.

Artequick by Artepham

 

 This was a first in human history.  It was also highly controversial news, as China, a total newcomer in the field of global public health, had appeared to have done something that Western medical had been trying, without success, to accomplish for ages.

 

 But since this achievement was based on an approach which is fiercely contested by established medical experts, it remains a very contested issue. Classical malaria eradication programs in Africa and South East Asia have focused on eliminating the female Anopheles mosquitos who carry the disease through draining the ponds and stagnant pools of water where they spawn.

 

 Artepharm, however, does not target the carrier of malaria. It instead tries to destroy the parasite germ (plasmodium) in the organism.  Its remedy, Artequick, consists of nothing more than a box of four pills. Rather than being a vaccine, the pills are a strong purge that drains down the parasite.  If all humans are purged at the same time, the mosquito population may remain alive and continue to sting, but will simply have no more germs to propagate.

 

 The international public health community, however, has raised its eyebrows at this novel approach and its apparent success. A whole nation has been cured, but not according to conventional global health rules. Thus, according to Andrea Bosman, the head of the anti-malaria campaign at WHO, an entire community has served as guinea pigs in a risky experiment. Even worse, they were never advised about the potential adverse side-effects of the drug and treatment.    Moreover, many local people in Comoros have complained about high fever, while admissions to hospitals in the archipelago have risen significantly following Artepharm’s malaria eradication campaign.

 

 Western experts also suspect that the drug might be linked to four deaths recorded over the past five years, even though none of them could be directly linked to the anti-malaria pills. WHO does not appear to be hostile to Artepharm, nor does it contest the successful outcome of its campaign against malaria. It simply advocates caution in the face of this this “very, very new approach”. Bosman complains that no systematic monitoring of the campaign has been performed over the years, nor were Western style evaluation methods, such as double blind, random or placebo tests, conducted.

 

 Another worry is that children may lose the natural “immunization” they acquired by taking the drug. Indeed, in case of a massive return of the scourge, there is no evidence that the germ will not have mutated, rendering Artequick useless. Prof Song Jianping, a professor at Guangzhou University of Chinese Medicine and head of the program, is certain that this will not happen. His team has trained more than 200 Comorans to monitor rates of malaria, with a view of preventing its return. Another means of prevention is simple, but straightforward: anyone taking the boat to any of the islands, has to take an Artequick pill before getting on board. Song also dismisses the likeliness of side effects, as the dosage of active principle is so low.

 

 Artepharm’s President Pan Longhua and Fouad Mohadji, the Comoros vice-President and health minister have made no effort to avoid blame for this breach of the global health drug testing protocol. Through this plan, Mohadji’s, his country has become malaria-free, which can potentially save Comoros the 11 million dollars required to treat malaria victims. On top of that, people who might be stricken with malaria will instead continue to be productive workers, further boosting the local economy. For his part, Professor Song dreams of spreading his cure to the whole of Africa, “freeing the whole black continent of the germ in a decade”.

 

 Before Song can realize this dream, however, WHO will have to certify his radical new remedy for malaria, which is shows no sign of doing anytime soon.  Afriquejet.com, a francophone magazine, reports that “Chinese researchers don’t understand why their revolutionary discovery has not yet been granted the necessary license”. Fouad Mohadji goes further, suggesting that strong lobbies might be at work to slow down the certification in order to give others time to develop their own competing Artemesinin-based Combination Therapy (ACT) drug, such as Coartem, by Swiss company Novartis .

 

 My concluding thoughts on this matter are twofold:

 

 First, through this conceptual breakthrough, China has not only expressed its fearlessness, new vigor and inventiveness, but has also shown its determination to play a role in improving global health.

 

 Second, the current leaders in the pharmaceutical field will play hard ball, and not gracefully concede a level playing field to Chinese drug firms.  To succeed, the latter will have to fight hard, and they seem ready to do that.