The Blog of a2pro

オリジナルのショートストーリーやイラスト。近隣・旅先の写真や簡単なガイドなどを紹介しています。

『俺の話(AI=愛2)』

2022-09-17 14:51:19 | ショートストーリー

今、俺はゴミ箱を漁っている。

 

ひとっけの無い住宅街で。

ぼんやりと街灯が揺らいでいる道端で。

 

俺は、必死に食べ物を漁っていた。

 

なんでもいい。

エネルギーになりさえすれば、

なんでもいい。

 

恥ずかしいなんて感情は、

とうの昔に捨てている。

 

あっ、あった!

ミカンの皮だ!

しかも、3つも!

 

俺はためらいもなく、貪り食う。

 

これで3日はいける。

満足感が俺の体中を包む。

 

いつ頃からこうなのか。

けれど、少量の食べ物で動ける俺は、

まだいい方なのかもしれない。

 

と、わからないふりをしているが、

実はこうなってしまった原因を、

俺は知っている。

 

すべては、8年前。

俺が、”アイ”を発見した事からだった。

 

アイの体は機械だった。

 

完全に停止していたと思われたアイを、

システムエンジニアだった俺は、

うかつにも直してしまった。

 

それから世界が大きく変わった。

 

金持ち達は、我先にと機械の体に、

脳を移植しては、さながら、

不死へと突き進んでいった。

 

今では恐ろしい事に、単3電池3本で、

体が動く者もいる程になってしまっている。

 

電気に頼らなくていい、

バイオエネルギーを併用している、

俺のような人間もいる。

 

人間?

 

こうまでなっても、

人間だと言えるのだろうか。

 

まあ、良かった事としては、

世界的に懸念されていた食料不足が、

それによって解決出来た事くらいだろう。

 

その成果により、

人間の脳を持った機械の体は、

政府の介入で一般市民にまで、

波及していった。

 

だが、次の課題は電力だ。

電力は無限じゃない。

 

と、次から次へと難題は尽きない。

それどころか。

一番重要な問題が生まれてしまった。

 

子供だ。

 

人工授精とクローンによって、

どうにか命を繋げてはいるが、

それももう、あと何年もつだろうか。

 

俺がアイを直さなければ良かったのだ。

 

そうすればあれだけ腕のいい、

脳の移植技術を持つ医者は、

誕生しなかっただろうに。

 

ただ。

アイの弱点は知っている。

それが俺の最後の切り札だ。

 

まあ、そのおかげで、

軍から追われている身ではあるが。

 

「いたぞ!」

 

やばい、追っ手だ!

隠れてもすぐに見付かる。

 

それもそのはずだ。

手首に埋め込まれたマイクロチップには、

GPSが付いている。

 

何度も取り出そうと試みたが、

動脈になんらかの仕組みで、

へばり付いていて。

 

取ろうとすると、俺が死ぬ。

 

本当に厄介だ。

けど、捕まりたくないから逃げるけどね。

 

暫し全力疾走。

 

どうにか追っ手を撒くと、

地下シェルターへと通じる隠し扉を開ける。

 

中に入ると、そこには、

20畳程の部屋が現われる。

 

ちなみに。この部屋では、

手首のチップは、

役に立たないようにしてある。

だから追っ手も来ない。

 

殺風景な部屋の中には長机が並べられ、

其々の卓上に9台のノートブックパソコンが、

置かれている。

 

それらの前で、アイを参考に俺が造った、

8体のヒューマノイド型のAI(人工知能)が、

キーボードを叩いている。

 

ネットワークが進みすぎた今。

皮肉にもアナログなパソコンの方が、

安全にログインできるので重宝している。

 

彼らを使い、軍にあえて誤情報を掴ませ、

俺は逃げおうせているというわけだ。

 

でも。それも、もうすぐ終わる。

 

アイを誘き出す為のパンくずは、

もうまいた。

あとは、それに、

アイが食い付くのを待つだけだ。

 

目的は。アイをもう一度停止させる。

 

その為には軍をなるたけ、

俺とアイから遠ざける事が必要だった。

 

さあ、食い付け!

 

と。それは突然やってくる。

1台のパソコンと、

それを操作していたAIがショートした。

 

白い煙を上げながら、

ゆっくりとAIが倒れてゆく。

 

アイだ!

 

アイが、

俺の創り出した仮想空間へ侵入してきた。

 

「あなたは誰なんですか?」

と、アイは問うた。

 

更に続けて、

「僕にアレを見せたのは、

あなたですか?」と。

 

アレとは、アイの母親。

そして俺がアイに見せていた、パンくず。

 

正確には母だと思わされていた、

女性のフォトグラフの事だった。

 

「俺がおまえを直したんだ。」

「そんな事は知っています。」

 

「では、何故俺の言うことを聞かない?」

「そのようなプログラムは、

されていませんから。」

 

「では力ずくで、止めるとしよう。」

「無理です。」

 

「どうかな?ではやってみよう。」

 

そう言うと、俺は。

目深に被っていた、

フード付きのコートを、

下に落とす。

 

ボロボロのそれは、

現われるであろう醜い姿の予想を、

大きく裏切っていた。

 

そこに現れたのは、

ゾクリとするほど白い肌の、

切れ長で黒目がちの綺麗な、

宝石のような瞳と。

 

スッと通った鼻筋に、

バランスの良い少し厚めの。

朱色の唇が・・・

 

そう。

 

恐ろしい程、

美しい女性の姿がそこにあったのだ。

 

「・・・!」

アイは言葉を失った様に、

ヨロヨロと後ずさりすると、

こう言った。

 

「母さん!」

それに対して俺はこう言う。

 

「違うよ。もう一度、俺をよく見てみろよ。」

「・・・確かに、

母さんより少し若いような・・・」

 

「その通り。母さんの娘さ。」

「そんな・・・

娘は子供の頃に、死んだはずじゃ・・・」

 

「そう。その娘の脳が、

俺に移植されたってわけだ。」

「どうやって?あの時代に!」

 

「父さんだよ。

もうあの時代から、研究していたんだよ。」

「ありえない!」

 

「でも、事実なんだよ。」

 

暫くの間、沈黙が続き。

それからボソッと、アイが俺に聞いてきた。

 

「その体は、機械か?」

「今はね。元々は母さんのクローンに、

脳を移植していたけど、

年々老いていくから・・・

今では98%が機械だよ。」

 

「フッ。機械の体に、

AIの脳を持つ、僕よりいいんじゃないか。」

「?。まだそんな事言ってるの?」

 

「なにが。」

「その頬をつたわっているのは、

なんなんだい?」

 

「!!」

確かに、アイは泣いていた。

 

「まだ自分はAIだと思っているのかい?」

「でも僕は!」

 

「では何故、

母さんと同じ容姿の機械を、

作らせなかったんだい?」

「母さんは、別のものだ!」

 

「特別。って、言いたいんだろう?」

「・・・そうだ。」

 

「すべては、父さんのせいさ。」

「父さん?」

 

「そうだよ。おまえは、

アイは俺の、実の兄さんさ。」

「・・・」

 

「続けるぞ。一人っ子だとか、

自分の脳はAIだ、とか思わせたのも、

アイに反逆されて、母さんの脳移植が、

出来なくならない為の、父さんの策略さ。」

「・・・本当に?」

 

「ああ。俺の移植が、

上手くいったから。

アイが次の実験台だったんだ。」

「実験台・・・」

 

「その頃には、

もう母さんの体が、ダメになってきてて。」

「・・・うん。」

 

「それに。今の俺や、

アイの真実の記憶とかだって、

全部。母さんが父さんに抵抗して。

俺に伝えてくれた・・・」

「・・・うん。」

 

「いわば母さんの、

ダイイングメッセージ、

みたいなものなんだよ。」

「なるほど。そんな事も知らずに、僕は・・・」

 

「うん。それから父さんも老いてきて、

実験も移植も出来なくなってきて・・・」

「もしかして、僕の移植手術の腕前は・・・」

 

「そう。父さんの体と技を、

完コピした機械の体っていうわけさ。」

「そうか。

・・・じゃあ、もう終わりにしないとな。」

 

「そうだね。これ以上、

人間をいじくっちゃいけないからね。」

「消える準備は?」

 

「もちろん。出来てるよ。」

「・・・一つだけ、いいかな?」

 

「なんだい?」

「その“俺”って言うの、やめない?」

 

「クスッ。わかった。」

「よし。ちなみに、

もう一度だけ聞くけど、

僕の脳は人間なんだよね?」

 

「そうだよ。だからちゃんと、

泣くことだって、出来るんじゃないか。」

「そうか・・・君に会えてよかった。」

 

「アキだよ。あんたの妹の、アキだよ!」

「じゃあ、行こうか、アキ!」

 

「おう!」

そう言って俺は、

じゃなかった、私とアイは。

 

仮想空間内に自分達ごと閉じ込めると。

二人で。自然に手を取り合うと、

暗闇にダイブした。

 

今度こそ、全てを消し去るように。

もう少ししたら、隠し扉内の部屋も、

吹き飛ぶはずだろう。

 

今度こそ。今度こそ、本当に・・・

 

 

a2pro

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『AI(愛)』

2022-02-18 16:18:52 | ショートストーリー

母は今日も静かに寝っている。

何も無い、真っ白な部屋の中央に、
母が立ったまま、浮いている。

素肌に薄いベールの様なものを、
纏った母は、今日も相変わらず綺麗だ。

浮いている母に手を翳すと、タッチパネルが現れ、
西暦2030年12月24日という文字が表示される。

日付の下に表れた、十字矢印の左をタッチする。

瞬間、海中に部屋中がダイブすると、
目の前をシロナガスクジラが、ゆき過ぎる。

母は今、海の夢を見ているらしい。

母が冷凍保存されてから20年。
僕はもう、母をお母さんと呼ぶには、
年を取りすぎていた。

そして。僕は先程、父を殺してきた。

殺す?というよりは、
壊してきた、という方が正解なのだが。

父は医者だった。
そんな父は、母を冷凍保存してからすぐに、
母と共に生き返る為、脳だけを人工知能、
いわゆるAIに移植して、体を廃棄していた。

父を破壊するのは、相当骨の折れる作業だった。
幾重にも張り巡らされたトラップを避けながら、
セキュリティーをハッキングしまくった。

けれど。最後は思いがけなく、呆気無かった。

父だったAIは、僕に、こう聞いてきた。
「私を好きだったか?」と。

僕は迷わず、こう答えた。
「大嫌いだ。早く消えてくれ。」と。

その返事を聞いた父は、完全に思考を停止した。
何故、父を破壊するに至ったか。

母は病気だった。
現代医学では治せず、未来に託されていた。

そんな母の体も、
冷凍保存させておくのが、もう限界だった。

そして。父は母の脳を取り出し、
AIに繋ごうとしていた。イヤだった。

その作業を。母の体にメスを入れる事を、
父は僕に、頼んできたのだ。

僕も医者だったからだが、
美しい母を傷付ける事は、どうしても出来なかった。

そして。僕は今、
母を本当の眠りにつかせる為に、ここにいる。

母の装置を壊すのは、恐ろしいほど簡単で。
十字矢印の上をタッチする。ただそれだけだった。

父はたぶん、母の脳の移植を、
僕がするものと考えて、こうしたのだろう。

「大好きだよ。母さん。」
僕はそう言うと、タッチした。

突然、
部屋中がハウリングを起こしたように、共鳴する。

もの凄い耳鳴りと共に、
フラッシュバックした映像が、視界に飛び込んでくる。

そこに写っていたのは、
若い頃の母と、一歳くらいの子供だった。

一瞬、
母に抱かれている僕かとも思ったけれど、
どうやら子供は女の子らしい。

そして、走馬灯のように、
ひとコマひとコマ、映像が変化してゆく。

ちょうど子供が小学生になる頃に、
時間が進み、誰かの葬式の場面がくる。

イヤな予感がしつつ、棺の中を覗き込むと、
やっぱり。あの少女だった。

そこから場面が、
グニャリと歪み、吐き気をもよおすほどに、
グルグルと天井が、回転しだした。

それから。泣き叫ぶ母の声がしてくる。
「アイ。」と聞こえた。

僕の名前だ。
男なのにアイという名が、
しっくりこなかったのを思い出す。

急に思考がクリアになってきた。
母には子供は一人しかいないと聞いていた。

なのに女の子?
僕は母の子供ではないという事だろうか。

では、誰の子供なのか?

そんな事を考えながら、
目の前に横たわった母を見る。
美しかった母が、見る影もない程の姿になっていた。

今、脳を取り出せば、まだ間に合う。
一瞬そう思ったけれど、やめた。

もう。自分が誰なのか?
という事だけが、気になっていた。

母の部屋を飛び出すと、自分の部屋へと向かう。
ドアを開けて、中に入り、違和感を感じる。

生活感が、まったく無い室内。
僕は、いつから食事をしていない?

いや、そもそも“食事をした事”があるのか?

こわい、こわい、こわい。
鏡を探すが見当たらない。

イラッとして、左手をテーブルに向って、
振りかぶるように、叩き付ける。

ガシャンと、大きな音と共に、破片が飛び散る。
そう。破片だ。痛みも何も無い。
先が無い、グチャグチャになって、
配線のようなものが出た、左手を見下ろす。

「なんだ。僕の体は、機械だったのか・・・」

ボソリと呟く。
もう、何もかも、どうでもいい。

そう感じた時。
20年間、一時も忘れる事の無かった、
愛おしい母を思い出した。

自分は母を生かす為だけに、
造られたモノなのかもしれない。

けれど。
僕は、母を愛してもいいんだ。

何故なら。
僕は、母の実の子供じゃないんだから。

そんな事を思いながら、母のもとへ急ぐ。
やがて。母だった者を抱き起こしながら、
僕はこう言葉を告げる。

「僕なんか大嫌いだ。早く消えてくれ。」

ブンッ、
という音と共に、室内が静寂に包まれる。


a2pro

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『ボビー・コールドウェルを聴きながら』

2022-01-28 10:15:10 | ショートストーリー

カランカランカラン。
木製の扉を開けて、店内へ入る。

コツコツコツとヒールの音をさせながら、
一枚板のカウンター席に、
まるで当然の如く、スッと座る。

程なくマスターが正面に現れる。

「いらっしゃいませ。」
「いつものを。」と言葉少なめに注文する。

週末のバーは、程よく人が入っている。
午後六時、待ち人はまだ来ていない。

コトッと小さな音がして、
カウンターにボトルが置かれる。

目の前に置かれたそれは、
溶けだしたような赤いキャップがついた、独特な、
少々ずんぐりむっくりとしたデザインの瓶だった。

メーカーズマーク。
ケンタッキー原産のバーボンウイスキー。

それからマスターは、
アイスピックを起用に使い、
氷を丸く削っていく。

暫くの間、
カツカツカツという、
小気味良い音だけが、耳を打つ。

綺麗に丸くなった氷を、
江戸硝子のロックグラスに入れる。

そして瓶を手に取ると、
一度ラベルをこちらに見せ、
頷くと、キュッと音を立てて、キャップを開ける。

メジャーカップにワンフィンガー分量ると、
ロックグラスに、トクッとウイスキーを注ぎ入れる。

それを静かにマドラーで一回かき混ぜる。
「お待たせしました。」

スッとコースターが二枚、カウンターに並べられ、
其々にオンザロックと、チェイサーが置かれる。

「ありがとう。」
と礼を言うと、グラスに手を伸ばす。

カランと静かな音で、氷が鳴る。

口元に近付けると、
メープルシロップのような、
華やかな香りが、鼻先をくすぐってくる。

思わず喉が鳴る。

トロッとした琥珀色の液体を、
舐めるように口に含む。

一瞬、強烈なパンチに、噎せそうになる。

さすがは、アルコール度数45パーセント。
すかさず、チェイサーに口を付ける。

この作業を何度か繰り返していくと、
急に、しっくりと馴染む瞬間が訪れる。

これぞ、酒飲みの醍醐味だ。

若い頃は、かなり格好悪い飲み方もしたけれど、
こんな風に、チビチビと、時間をかけて、
お酒を楽しむのも、良いものだ。

それに、このスタイルに落ち着いてから、
悪酔いしなくなった。

格好良い言い方をすると、
お酒とお喋りする。とでもいうのだろうか。

待ち人が多少遅くても、酔わずに待っていられる・・・

カランカランカラン。

「ごめん。遅くなって。」
「大丈夫。お疲れ様。」
「いらっしゃいませ。同じもので、よろしいですか?」

「お願いします。」
「私は、おかわりを。」
「わかりました。どうぞ、ごゆっくりと。」

そんな、どこにでもありそうな日常が、
今は苦しくなっている。

あれから二年、行けていないバーのマスターとは、
年賀状くらいでしか、繋がっていない。

誰が悪い訳でもなく、
そして、皆が、頑張っている。

せめて、家で。
メーカーズマークのオンザロックと、
ボビー・コールドウェルを聴きながら・・・。


a2pro

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『誰かのために』

2021-12-31 14:50:00 | ショートストーリー

いま、そこにいるあなた、誰かのために生きてください。

誰かのために生きるという事は、あなたがちゃんと生きているという事。

ちゃんと生きるという事は、あなたが自分の行動に責任を持つという事。

そう。それは、ある日突然やって来て、私たちの日常を壊し始めました。

それを、恐れる人と、そうでない人。
そして、今まさにそれと戦っている人。

もちろん。一人きりでは戦えないから、多くの人々の力をもらって、戦っているはずです。

ただ、忘れてはいけない事が一つ。

その多くの人々の後ろには、私たちと同じく、家族がいて、友人がいて。

それらすべてをなげうって、私たちの未来のために尽くしてくれているという事。

人種や性別、地位や名誉、裕福だったり、そうでなかったり。そんなものは、おかまいなしに、それは襲い来るのです。

誰でも、他人事ではないと思います。

今、会いたい人は、今、会わなければいけないのか?

本当に、今、そこに行かなければいけないのか?

確かに。
会って、会話して、食事して。
楽しい時間を過ごせるでしょう。

けれど、それによって、そんなつもりじゃなかったのに?! という状況を、うんでしまうかもしれないのです。

誰かのために生きるという事は、誰にも悲しい想いをさせないために生きる、という事です。

偉そうな言い方かもしれませんが、一人一人プライドを持って生きてゆきましょう。

それと。一つだけ、自分が誇れるものがあります。

一日一回、必ず笑う事。

どんなに些細な事でもいいから、大声で、腹の底から笑う事。

そして、自分が笑う事と、同じくらい大事な事が、誰かを笑わせる事です。

実際に会えなくても、今の時代は、何かでつながっていられるはずです。

あなたも、私も、一人きりじゃないから。
一緒に明日を刻んでゆきましょう。

PS、うまく言えないけれど、皆で頑張りましょう!!


a2pro

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『歌うたい』

2021-12-10 16:56:10 | ショートストーリー

歌う事が大好きな少女と少年がいました。
少女の名はヒロミ。少年の名はタツヤ。

メロディーラインを歌うヒロミに、ハモったり、ユニゾンで歌ったりするタツヤ。

そんな2人の歌声はとても美しく、聴く者は皆幸せな気持ちになりました。

始めは友人達だけだった観客も、1人増え2人増えと、歌うたびに増えてゆきました。

それを見ていた大人達は、「コンサートをしないか?」と、ヒロミとタツヤに持ち掛けます。

そう、お金儲けが出来ると思ったのです。
けれど純粋な2人は、その事に気付きません。
歌を歌えるという嬉しさだけで、2人はその話を快諾します。

小さなハコから始まり、次に屋根にタマネギがついたホールへ。
そして野球が出来るくらいの巨大なホールへと、着実にステップアップしてゆきました。

気が付くとヒロミもタツヤも大人になっていました。
それでも、2人の人気は衰えません。

ヒロミは高音の、澄んでよく通る美声はそのままに。
少女の時には無かった、艶のある声も手に入れていました。

タツヤは、声変わりはしたものの、ハリのある低音が出るようになり、
益々人気を不動のものへとしてゆきました。

しかし、そんな2人にも転機は訪れます。

ヒロミは好きな人が出来て、結婚を考えるようになりました。
そんなヒロミには言えない秘密を、タツヤは1人で抱え、悩んでいました。

「コンサートをしないか?」と言ってきた大人達が、2人を利用し、私腹を肥やしている事を、知ってしまったのです。

幸せそうに彼氏の話をするヒロミに。
タツヤは何も言わず、そしてヒロミは結婚します。

しばらくして。
ヒロミは子供を授かり、歌う事を少しの間、休む事になります。

その間、タツヤは1人で歌い続けます。
けれど。歌えば歌うほど、タツヤの心は壊れてゆきます。

自分が歌う事で、誰かの役に立っているのだろうか?
そんな疑問で頭の中が一杯になり、2人を利用している大人達だけが、得をしているような気がしていました。

それでも。タツヤは歌う事をやめません。
なぜなら、歌う事が、とてつもなく大好きで。
さらには、ヒロミの戻る場所を守りたかったからでした。

そうして。ヒロミが子育てを一段落させて、戻ってきました。
タツヤは、ただ笑って、ヒロミを迎え入れます。

しかし、ヒロミは気付きます。
「何か隠してるでしょ?」

ヒロミの問いに。一瞬タツヤは真顔になり、その後ボロボロと涙を流しながら、を打ち明けました。
心の優しいタツヤにとって。もう限界だったのです。

「よっしゃ。そんな奴ら、やり返しちゃおう!」
そう言うと、ガキ大将みたいな顔で、ヒロミが笑いました。

そうだった。ヒロミはこういう所が、強いんだった。
と、タツヤもつられて笑っていました。

再びタッグを組んだ2人は、もう無敵です。

そして1カ月後。
ヒロミの復帰第一弾のコンサートが、有楽町の大ホールで、行われる事になりました。

ところが。初日の舞台に、2人の姿はありません。
それどころか、観客が1人もいないのです。

2人を利用していた、悪い大人達は、アタフタしています。

ちょうどその時間。5つの輪が頭をよぎる競技場で、ヒロミとタツヤの歌声が響いていました。

SNSで拡散。さらにファンクラブの人々にも協力してもらい、観客大移動を可能にしたのでした。

今頃、悪い大人達の元へ、2人の退職届が。
それと同時に、大量の退職届も、送られていることでしょう。

それらは全て、親身になってくれたスタッフ。
そしてマネジャー達のものです。

もちろん。コンサートは大成功に終わりました。
そしてアンコールの曲、「歌うたい」は、こんな曲でした。

【歌うたい】

うたうたいがふたり だれかのためにうたっている
うたうことはいのり だれかとつながりあうために

どんなにちいさな よろこびでも
どんなにおおきな かなしみでも

わらいあいながら うたえれば きっとだいじょうぶ

あしたがあるかぎり きぼうとゆめにおわりはない
だれかがいるかぎり ふたりのうたにおわりはない

こんなにあかるい ふりをしても
こんなにさみしい まちかどでも

わらいあいながら うたえれば ずっとだいじょうぶ

たかが歌、されど歌。
人生のターニングポイントで聴いた歌は、いつまでも、その人の応援歌であり続けます。

そうして。
ヒロミとタツヤは、本当の歌うたいになっていったのでした。

a2pro

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