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同人サークルA-COLORが北海道をうろうろしながら書いているブログです

マネーボール

2011-11-26 17:24:00 | 映画-2011年

「イチローが写ってた」
メジャーリーグのアスレチックスの名物GMビリー・ビーンを主人公に据えた映画です。

野球が大好きで、野球映画もかなり好きです。
メジャーリーグといえばファミスタのMチーム。
その中でも「かんせこ(かんせい)」にメジャーリーガーの怖さを思い知らされ、DREAM出場でかなりガッカリさせられました。
原作『マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男』もファンなので、今年公開される映画では一番期待していました。

といったカンジの人が、この映画を見た感想……の前に。
ちょっとだけ、マネーボールとは何なのかについて。

原作の内容がAll Aboutの記事でまとめられていたので、こちらを読まれるとスッキリするかも。
『マネー・ボール』を検証する

『マネーボール』で描かれる2002年以降のアスレチックスは、セイバーメトリクスを用いて選手を評価し、戦術を立ててシーズンを戦っていきます。
このセイバーメトリクス、これまでの古くからの慣習による評価とはだいぶ異なっています。
特に目を引くのは打点や盗塁、勝利数や防御率といったタイトルに関わる数字を重視しないところ――つまり、高額年俸の選手が、必ずしもセイバーメトリクス的には高評価とは限らないんです。
裏を返すと、従来の評価では低評価なため、セイバーメトリクス的に高評価のはずの選手が低年俸で、出場機会も与えられずに埋もれているわけです。
ビリー・ビーン率いるアスレチックスは、こういった「埋もれている選手」を釣り上げて、セイバーメトリクス的に合理的な戦術でシーズンで勝ちまくっていくのです。
また、故障や年齢を理由に放出対象となっている選手も、セイバーメトリクス的に高評価であれば安値で買い叩いて獲得します。
(松井秀喜も、こんなカンジで分析されているのかも、と思うと胸熱です)

アスレチックスは常勝球団のため、当然、活躍している選手の年俸は上がっていきます。
そうすると予算が限られているアスレチックスでは、こういう高額年俸の選手を抱えきれなくなるわけですが…そこで、すかさず高額で他球団に放出してしまいます。
他球団は「常勝チームのレギュラーだし、それなりの数字も残しているから」と、ほいほい高い年俸で引き取ってしまいます。
そこで得た資金で、またアスレチックスは「埋もれている選手」を獲得します。
出塁率がそこそこ高い高給取りを選手を一人抱えるより、出塁率が並の安い選手を新たに獲得する方が、予算にもチームの勝利にもお得である、という考え方なのです。

ただし、統計学はあくまでも数字のトリック。
メジャーリーグの年間165試合という長丁場は、統計学を用いるセイバーメトリクスとは相性が良いです。
(機会が多いので算出された確率にどんどん収束していく=期待通りの結果となりやすい)
ところがプレーオフやワールドシリーズのように、一発勝負の短期決戦になると、統計学では計り知れない運の要素がかなり入り込んできます。
そのため、アスレチックスはシーズンでは好成績ながらも、プレーオフではなかなか勝てない……。

こういう戦術とか、チーム運営を引っくるめてマネーボールと呼んでいるようです。
前置きが長くなりましたが、一応、こんなもんなんだということを念頭に置いて、改めて映画の感想です。

まず、ブラッド・ピット演じるビリー・ビーンは、原作の雰囲気がすごく良く出ていたと思います。
オレはビリー・ビーンのことは全然知らないんですが。
イケメンの中年野球崩れ感がイイカンジで。試合に負けて感情を爆発させるところとか、試合中のワークアウトのシーンとか、原作のビーンらしさが伝わってきました。

んで、映画の内容なのですが。

テーマが広い
前述したように『マネーボール』は、けっこういろんな要素が入り組んでいて一言で言い表せる内容ではありません。
これを劇映画にしようとすると、テーマはパッと思いつくだけで、
・セイバーメトリクスvs従来野球の戦術論・勝負論
・マネーボール的チーム運営、トレード、人事
・GMビリー・ビーンの人間像
こんなカンジでしょうか。

では、この作品では、どうだったのかというと。
ビリー・ビーンの人間像を中心に据えるようにしながら、野球的なこととチーム運営的なことを描いている感じでした。
う~ん、これは、どうも中途半端だったような気がします。

開始早々、ロートルスカウトマン達が延々と古くさい野球談義(まさに、アンチセイバーメトリクス)で無駄に時間を費やしています。
しかし、セイバーメトリクス野球の申し子ピーター・ブランドに出会って、スカウトマン達とは全く違う方法でチームの立て直しを図っていきます。
これは「セイバーメトリクスvs従来野球の戦術論・勝負論」な展開かな、と思ったんですが。

ビリー・ビーンの選手時代の過去の話になったり、別れた妻や娘との話になったり(GMビリー・ビーンの人間像)。

故障でクビになりそうなハッテバーグを獲得するため、本人を口説き落としにいったり(マネーボール的チーム運営)。

その後も、別れても家族との絆が残っているビリー・ビーン、古い野球に凝り固まった監督との対立、インディアンスから選手を獲得するための丁々発止のやりとりと、いろんな要素が入り交じっていきます。
シーズン前はどん底気分だったけど、マネーボール理論が開花してメジャーリーグ記録の20連勝を樹立。ところがプレーオフでは敗北し、アスレチックスのシーズンは終わります。
でも、映画はこれで終わらず、ビリー・ビーンがレッドソックスから引き抜きのオファーを受けて、これを断るところまで描いています。

いずれも『マネーボール』を語る上で、欠くことができない面白いエピソードばかりなのですが。ってか、これでもエピソードは全然書ききれないぐらい。
2時間ちょっとの上映時間では尺が足りないぐらい、エピソードを盛り込みすぎています。
でも、上映時間が2時間を超えちゃってるので、正直言って尻が痛くなりました。

オレ的には、もうちょっとテーマを絞ってほしかったです。
というのも…。

エピソードがわかりづらい
たとえば20連勝を達成する試合。本作ではあまり試合のシーンが描かれないんですが、この試合ではそこそこ時間が取られています。
序盤の大量リードを守れなかったけど、最終回に代打ハッテバーグのサヨナラホームランで決着する、というものなんですが。
このサヨナラホームランが、なんとも唐突な演出なんです。
ビリー・ビーンが口説き落とし、将来のホームラン王ペーニャを放出してまで獲得したハッテバーグなのに、なんでこの試合では代打なの?
っていうか、この打席が最終回の打席だっていう説明とか、盛り上げの演出とかあったっけ?
(最終回の説明はもしかしたらあったかも? でも、ここで一発出ればサヨナラ的な盛り上げはなかったと思います)
そのためサヨナラホームランの盛り上がりがイマイチでした。
これはアメリカの野球ファンにとっては自明のことなので、あえて説明するまでもないのかも。
ハッテバーグがここで何を考えていたのか、そんなの『マネーボール』的には関係ないのかも。
でも、劇映画としてみたとき、これで良いのかしら? と思いました。

というか先述したようにエピソードが多すぎるので、一つ一つのエピソードの盛り上がりがどれもイマイチなんです。

「チャンスをくれてありがとう」と感謝していたブラッドフォード。
でも、彼がどういう活躍をしたのかは説明なし。
わざわざ、感謝してくるエピソードを入れたぐらいなんだから、その期待に応えられたのかどうか、ぐらいの描写があっても良いようなのに。

インディアンスから獲得したリンカンという投手。
シーズン前からご執心だったけど獲得できず。でも、シーズン半ばの駆け込みトレードで、丁々発止のやりとりの上にようやく獲得。
でも結局、この選手が何者で、以後どうなったのかの説明もなし。

これらのエピソードもアメリカの野球ファンにとっては、わかりきったことなのかもしれないけど、メジャーリーグを知らない我々には「え、それで?」って感じです。

ビリー・ビーンはGMなので戦力を整えるのが仕事。グラウンドの出来事は関係ないよ、っていう解釈なのかもしれないけど…。
じゃあ『ソーシャル・ネットワーク』みたいに、野球はわりとどうでもよくて、ビリー・ビーンの人間性をフォーカスしているかというと、必ずしもそうではありません。

原作では、ビリー・ビーンの短気な性格が災いして、選手として大成しなかったとあります。
この映画でも、短気を爆発させるシーンはちょいちょい見られますが。
選手時代の記憶は契約金に舞い上がって、スカウトマンに乗せられた、っていう苦い思い出となっています。
それはラストのレッドソックスのオファーを断るところともつながるんですが。
でも、あんまり、それが注目されてるシーンも少ないです。
むしろ少ない予算でやりくりする、金にシビアなやり手の男というイメージが強いです。
だから、家族の絆とかも盛り込んだんだろうけど…。

エピソードを盛り込みすぎたんで、むしろ盛り上げるのが難しかったのかな、と思ったりしました。

そもそも盛り上がる話ではない
『マネーボール』におけるアスレチックスは、シーズンで勝ちまくるチームだけどワールドシリーズで優勝するわけではありません。
マネーボール理論は決して完成された理論ではなく、アスレチックスは発展途上のチームといえます。
トレードを巡る因縁話は、メジャーリーグの事情を知っていて、さらに何年も野球を見ていないと面白くありません。
(ジオンビは後にアスレチックスに出戻り、ペーニャはヨソのチームでホームラン王になる、とか)

『マネーボール』はメジャーリーグの古い慣習がぶち壊される、その過程が野球ファンにはおもしろいのですが。
2002年のアスレチックスにだけ着目すると、ワールドチャンピオンになるようなお祭り的に盛り上がれるエピソードはありません。
なので、シーズン20連勝やトレードなど、わかりやすい「勝ち」のエピソードを多く入れようとしたのかもしれません。
でも作中のビリー・ビーンも言っているように、それらのエピソードはワールドチャンピオンという目標の前には、わりとどうでもいい話です。
そこらへんのバランスが2時間ちょっとの劇映画的には、なかなかうまくフィットしなかったのかな、と思ったりしました。

いろんなエピソードを詰め込んで、長年の因縁話も題材にできるので、むしろテレビドラマに向いているお話なのではないか、なんて思ったりしました。

マネーボール』(映画館)
監督:ベネット・ミラー
出演:ブラッド・ピット、ジョナ・ヒル、他
点数:6点


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