松本人志の映画といえば以前に『大日本人』を見ました。
それなりには面白かったけど、さほど興味はありませんでした。
その後、ネットのレビューや周囲の人々が、苛烈なまでに本作を批評しているんで「それほど言わせる映画って、逆にどんなもんだろう?」と、かえって興味がわきました。
んで、まずは松本映画の予習ということで、先に『しんぼる』を見てみたんですが…これは、あんまりな内容でした。
じゃあ『さや侍』は、これをも上回るアレなのか、と……以下、ネタバレ上等で感想文です。
物語がはじまって「なんだこれ?」っていうのはありましたが。
全体的に劇映画としてストーリーを進めようという意思が、前二作以上に伝わってきてこれはこれで良いのではと思ってました。
なにからなにまでセリフで説明しようとするキャラクタ達も、『しんぼる』の訳の分からない展開より、よっぽどマシかと。
30日の業のギャグがつまらんという感想もよく見ましたが……まあ、いいんじゃねえの?
んで、最後、自分勝手に切腹して死んじゃうさや侍ですが……今さら自尊心を持ち出すのも遅いけど、それがテーマなら仕方がないんじゃないでしょうか。
っていうか、ここまでを15分ぐらいでまとめてくれてたら、それなりに面白かったんじゃないかな。
そして、さや侍が死んだ後、さや侍が娘へ宛てた遺書を坊さんが読み上げるのですが……自分の死んだ情景はどうだったのか、なんてトラウマ必死な話から始まって、独り残された娘へ幸せな結婚をしてほしいだなんて、ヌケヌケと言い放つ始末。しかも、坊さんが悪ふざけみたいな節回しで。
申し訳ないけど、ここでブチ切れました。ふざるけなって!
奥さんに先立たれたショックで、幼い娘がいるにもかかわらず脱藩。
再仕官するわけでもなく、娘を連れて(勝手に付いてきてる部分もあるけど)流浪の旅。
投獄後、娘や周囲が提案するギャグを、積極的に取り組もうとするわけでもなく、かといって拒否するわけでもなく、なんとなくこなしていく。
こうまでも人生に消極的なさや侍が、よりにもよって最後の最後で、どういうわけかサムライスピリッツに覚醒。
一言喋れば無罪放免になるところを、自分のケチなプライドのために切腹――幼い娘を一人残して。
なんとも自分勝手な男です。
散々、自分勝手に振る舞って、娘のことを顧みようともしなかったくせに、遺書では娘の幸せを願ってますって、アホすぎるでしょ!?
もし、娘の幸せを願っているのなら、むしろ生き恥をさらしてでも生き残って、娘の幸せを見届けてから切腹したっていいじゃない。
娘の幸せより、自分のプライド(脱藩以降、地の底に堕ち果てたちっぽけなプライド)を優先してるようにしか見えません。
っていうか、切腹が先にありきの演出だったんでしょうかねー。
さや侍の墓の前で、娘と藩主の息子がキャッキャはしゃいでるんですが、これもおかしくない?
目の前で自分の父親が、クソガキの気まぐれのせいで腹を切って、首を落とされてるんでしょ?
トラウマ必死なはず。奥さんを流行病で亡くして、侍を辞めちゃうって大前提がある、そんな世界なんだから。
これは根本的に脚本がおかしいのか、価値観が異なるのか。
とにかく、この終わり方には胸くその悪さしか残りませんでした。
なお、さや侍に松本監督が自己を投影している云々といった映画評も目にしていますが、オレが映画を見た限りではよくわかりませんでした。
『さや侍』(DVD)
監督:松本人志
出演:野見隆明、熊田聖亜、他
点数:4点
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