なんでも評論家

さまざまな分野についての評論・エッセイ等を書き綴る。
(大切な目を傷めないために、一定時間ごとに目を閉じましょう)

世界最大の花火。

2008-05-24 | Weblog
 以前民放のテレビ番組で、片貝町の四尺玉よりも大きな花火玉を作成して、タイだったかどうか記憶はあいまいですが、どこかの熱帯アジアの国に運んで打ち上げたものの、玉が上昇せずに落下して水中で爆発したというのが放映されていたのを記憶している。打ち上げまでは出演者は盛りあがっていたが、失敗したのを見てがっかりしていた。機会があれば再度挑戦すると言っていたような気もするが、記憶が定かでない。
 
 「花火というものは、大きければ大きいほど良いというものではない」などという、どこかで聞いたような台詞を持ち出す気はない。打ち上げ花火は大きければ大きいほど良いというのは事実であり、尺玉以上の大玉の迫力にはすさまじいものがある。ただし、花火玉の大きさとこのことが比例するのは二尺玉までである(この記事を書いた後に、片貝で玉殻の観客への落下事故が起こり、それ以前にも別の打ち上げ場所で二尺玉の殻の落下による死亡事故が起きているので、二尺玉の保安距離も遠くなっているかもしれない)。
 玉の内容積は径の3乗に比例して増えるうえ、玉が大きくなるほど上昇高度も高くなる。このため、大玉の発射時の衝撃は大変なものになり、三尺玉の殻の重量は140kgもあるのである。これは、玉の全重量の半分に相当し、爆発時に殻が20等分したとしても、1個の破片の重量は7kgもあるのである。こんなものが600mの上空から落下してくるのであり、観客に当たれば大事故になる。当然ながら、保安距離はとても長くなり、三尺以上の大玉の開花時の見かけ上の大きさは、尺玉よりも小さいくらいである。おまけに、三尺以上では、発射時の衝撃で玉の内部の火薬に引火して地上で爆発するという事故が起きやすい。
 
 ついでに、ギネスブックに載っている、洞爺湖で打ち上げられた、直径が1200mに広がった世界最大の花火についても触れておく。この本には、「打ち上げられた」と書いてあるがこれは嘘であり、打ち上げたのではなく、花火玉をイカダに載せたまま爆発させたのである。

 打ち上げ花火は、どこまで大きな玉を打ち上げることが可能なのか?

 よく知られているように、世界最大の打ち上げ花火は四尺玉である(最近これを超える玉が打ち上げられたらしいので、おそらく「毎年定期的に打ち上がる花火としては・・」というのに変更されるべきだろう)。では、さらに大きな五尺玉や六尺玉も打ち上げることが可能なのかどうかということについて思案してみた。

 論点を列挙しておく。

1技術的にどこまで可能なのか?
2どのような問題が生じ、何が障害になってくるのか?
3どのような諸条件の中で可能なのか?

 たんにできるだけ大きな玉を上げて爆発させればいいというのであれば、六尺どころか十尺玉でも不可能というわけではない。しかし、それにはさまざまな問題が発生するのだ。まず、玉が大きくなれば重量も重くなり、発射時の衝撃も大きくなる。現在のような、紙を糊で張り合わせた殻を使うのであれば、一定の大きさ以上では硬性上限界に達するだろう。もしあえてそれでもできるだけ大きな玉を打ち上げるとすれば、殻を厚くするしかないが、そうするとその分だけ内容積が狭くなり、火薬が少量になってしまって、大きな玉を打ち上げたけど、花火の開花が小さなものになってしまうだろう。これでは意味がないのではないか。このほかに、殻を厚くすると、爆発後落下してくる殻の破片が大きくなり、その分だけ保安距離が長くなってしまってえらく遠くからでないと眺めることができなくなってしまうのだ。三尺玉の重量が約280kgあり、殻の重量は約140kgに達し、なんと玉の重量の半分ほどが殻で占められているのだ。爆発後殻が十等分して落下するとすると、1個の破片は14kgにも達する、こんなものが頭上に落下したら大事故になる。かりに事故防止のために、強化ガラス製のシェルターのような見学施設を設置して観覧するというのなら、保安距離を縮めることは可能だろう。この条件下であれば、五尺か、ひょっとすると六尺玉くらいでも打ち上げる価値があるかもしれない。ただし、火薬取締り法に抵触しないで五尺玉を作るとすると、中に入れる火薬が制限されてしまうので、その不足分を殻の厚みによる強度で補完することになり、六尺くらいになると玉を大きくする意味が無くなってくるかもしれない。





 諸外国については知らないが、日本の打ち上げ花火には、開花直径と同じくらいの高度にまで打ち上げるという暗黙の法則があり、もしこれを踏襲して五尺以上の大玉を打ち上げるとすると、かりに火薬取締り法を無視したとしても、発射時の衝撃が大きくなるので玉が暴発する危険が増大するため、玉に入れる火薬を弱いものにしなければならなくなる。もしこの法則を無視してもよいのなら、もう少し低空で爆発させることになるので、五尺以上の大玉も上げやすくなるだろう。防護シェルターを使って観覧するのなら、殻の素材に頑強なものも使えるので、その分内容積も大きく確保でき、さらに大きな玉を打ち上げることも可能かもしれない。

 そもそも「世界最大の花火」とは、何が世界最大なのか?

 定義をはっきりさせないと決めようがないのだ。

1打ち上げる玉の直径のことか?
2爆発してから最大の大きさに達した時の直径のことか?

 1について、極端な話が、例の洞爺湖で筏に乗せてそのまま爆発させた花火ですらギネス記録として認定されているくらいだから、打ち上げなくてもできるだけ大きければいいというのなら、煙火協会の会長であった武藤氏が指摘していたように、十尺以上の、いくらでも大きな花火玉を作成して爆発させることが可能でしょう。打ち上げた玉という条件付きですと、すでに説明したとおりです。
 2についてですが、打ち上げなくてもかまわないのなら1の説明通りですが、さらに条件を緩くして、そもそも爆発などさせずに、放射状に飛んでいく星自体を多数の筒からそれぞれ別方向に発射させれば、直径が数千メートルくらいに達する「花」を夜空に描くことも可能でしょう。このほか、通常の打ち上げ花火の開花直径をわざと小さくして、それをひとつの星として利用するという方法も考えられます。観客席が円の中心位置に来るようにぐるりと筒を円形に配置しておき、一斉に発射させて爆発させれば、直径が5000mくらいある花を開花あるいは演出することすら可能になってくるでしょう。打ち上げる玉の直径を小さくすれば、3000mくらいの高さまで打ち上げることは可能でしょうから。

 打ち上げ花火はどこから眺めても同じ形に見えるのか?

 この質問はよく見かけるが、打ち上げ花火にもいろんな種類があり、それによって異なるだろう。「上から眺めても丸く見えるのか?」と訊くひとがよくいるが、球形に広がる花火にも種類があり、広がってからすぐに消える「牡丹」や「菊」型の花火ならどの方向から眺めてもだいたい同じだろう。球形に広がる花火でも、火が消えずに垂れ下がる「冠」であれば、横から眺めるのと真下から眺めるのと真上からとではだいぶ違うだろう。この花火は真下くらいから眺めるのが最高だ。

 「なんで花火には丸いのばかりで四角や三角のがないんですか?」

 だいぶ前にテレビでたまたまこの種の質問を聞いたことがある。この質問自体がかなり思考停止気味であり、設問自体をもう少し高級にしたほうがいいが、ようするに、そうしたほうが何かと都合がよいので球形のものを主に作っているのだ。たとえば、立方体状の花火のために、打ち上げる玉も立方体状に作成すると強度が低下して一定以上の大きさと打ち上げ高度のものが作成できなくなるだろうし、充填する火薬の威力が十全に反映されず、無駄が多くなるし、見た目の迫力も低減する。書いていくと面倒なのでこれ以上の説明は省略する。





 最新の世界最大の打ち上げ花火について

 最近たまたま知ったのですが、米国の会社が直径約四尺七寸で、重量が1tくらいあるらしい花火玉を製造して打ち上げたらしい。詳細は不明ですが、動画で見た限りでは、米国製にしてはうまく開花しており、さすがに小割浮模様は入っていませんし、開花の直径がどれくらいなのかも不明ですが、上昇高度は1000mくらいには達しているようです。アラブの石油成金が資金力にものを言わせて打ち上げたみたいですが、保安距離は2kmかそれ以上もありそうで、なにしろ花火の外観上の大きさと音の大きさは距離の2乗に逆比例してしまいますから、至近距離での尺の打ち上げのほうが迫力がありそうです。アラブの富豪など見たこともないのでしょう。だいぶ前に読んだ記事ですが、米国の花火職人が三尺玉を製造している煙火会社に入社して三尺の製造法を習得してから帰国し、どこかの州で三尺玉を打ち上げていたとかいうのがありましたが、このひとがチームリーダーになって製造したのかもしれません。たぶん国内よりも規制は緩いでしょうし、広大な国土と軍事と経済の超大国ですから、その気になって取り組めば打ち上げ花火の大型化には最適かもしれません。これに対抗して五尺玉を製造して打ち上げようという国内の会社はたぶん出てこないでしょうが、そのような計画があれば応援しますし、やる以上は成功してほしいものですが、むしろどちらかといえば、いかにして保安距離を短くできるか? という技術を優先してほしいです。
 三尺玉ですら火薬取締法の限界に近い、というよりも、むしろ三尺が違法にならないように事後的に作られたという感じもします。上記と重複してしまいますが、あえて五尺玉を打ち上げるなら、四尺玉の玉皮を厚くして打ち上げ火薬を増量するということになるでしょう。発射時の衝撃が大きくなりますから、割火薬はさらに弱くして巣割れが起きにくいようにしなければならなくなってきそうです。



 これがその玉らしいです。四尺玉とあまり変わりませんが、米国人は体がでかいからでしょうか??



 ついでに、玉皮を貼り付ける装置も添付します。さすがに合理的な米国ならではという感じです。

 動画で尺の打ち上げコンテストを見ましたが、予想以上に素晴らしかったのでびっくりしました。ここまで高品質になってくると審査員も悩むでしょう。これだけ手の込んだ玉を作成するのは出品用だからこそで、もしもあえて値段を付けるとすれば、すくなくとも数十万円くらいにはなるのではないかという気がします。尺一発の相場が六万円くらいですから、いかに手間暇がかかるかということです。一般の人は尺が六万円もすると知ってびっくりするかもしれませんが、手間だけでなく火薬の量だけでも玩具花火とは比較になりませんから。

 相次ぐ花火大会の中止 花火の価格や運営費の高騰が深刻 打開策は「有料席の導入」

 なるほど、いずれこういう流れになってくるとは予想していた。要するに、片貝まつり化していきそうだということだ。「どこどこの誰さん。厄年満願。尺でございます。」とアナウンスがあり、ドーンと打ち上がるというやつで、あの単発打ちは素晴らしいのだ。良い意味での時間稼ぎにもなっているのだ。
 やはり何事も、只で手に入るというのはいずれ行き詰まるものなのだ。ヤフコメもついもながら優秀で、夏でなくても良いのではないかという書き込みも散見された。これはほんとにそのとおりで、煙火会社は夏の間はほぼ毎日のように打ち上げが続くので、疲労が蓄積しやすいし、他の季節に分散するというのは良いことなのだ。






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