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社会なめなめ放題

カーキ色の男(短編小説)

2019-05-11 01:02:58 | 日記
いらっしゃいませー

初めてのお客様ですか?

うん そう 男だけど ウィメンズの服屋やってるんすよ

珍しいでしょ?でもね 商品はいいもん揃ってますから

はーい ごゆっくりご覧ください

「あの すみません」

はい こんにちは ん? え っと ?

あ 彼女さんか奥様へのプレゼントをお求めですか?

「違うけど」

あ じゃあお母さま用ですか?

「違うけど」

お姉さんか妹さん?

「違うけど」

え っと え?あの 失礼ですが まさかあなた 女性なんですか?

「違うけど」

え そしたらなんなんですか?

「なんだと思う?」

めんどくせえな さっさと言えよ

あの 何かお買い求めで来られたお客様ですよね?

「違うけど」

客じゃねえのかよ なんなんだよ

「働きに来たんだが 店員募集してるって聞いたもんで」

あーね なるほどね はいはい

いや だとしたらスッと言えや

スッと言ってくれやマジで 今の時点で君十中八九落ちるよ

「え?なんで?男だから?」

タメ口やめろ

働きたいならタメ口やめろ

男だからとか以前の問題だよ タメ口とか スッと言わないところとか 色々だよ

「まあまあ そう言わず 話だけでも聞いてよ」

うーん じゃまあ一応ね 一応話聞くわ

あとタメ口やめろ

まあね ウチは見ての通り店主の僕が男だし 男性でも女性でもやる気ある人は大歓迎ですよ

「やったるで」

タメ口やめろ

でね 僕 面接とか履歴書とか そういうのすんの苦手でさ まずファッションチェックで見ることにしてんだわ

「マ?」

あんまり 働きに来てる先で マ?とか言わない方がいいと思うよ

服装ってさ その人のひととなりも 出るし ファッションへの知識とかセンスも全部出るからね

「たしかに それは一理ありやすね」

テーマはフェミニンな感じとか 中性的なイメージでお願いね

ウチは女性相手の商売だし パステルカラーとかの系色メインでやってるから

使うのは持ってるメンズの服でいいんだけど その引き出しの中でそういう雰囲気を出せるかっていうのを見たいです

「わかりやした」

なんで江戸っ子口調なの?

江戸っ子口調はキツイよ

婦人服屋に 江戸っ子口調の男は キツイ

「いやあんたが言ったんでしょう マ って言わない方がいいって」

そういうこと言ってんじゃないんだよ

真面目にやれよ わかるだろ大体

とにかく 明日の朝 ファッションチェックで君を採用するかどうか決定しますので 今日は帰っていいですよ

「え じゃあ俺 マ って言ってもいいってこと?」

さっさと帰れ

〜翌日〜

「おはようございやす」

おはよう

マ って言ってもいいよ

あと 君 不採用ね

「なんでですか」

それはこっちのセリフだよ

なんで全身 軍服なんだよ

特攻隊かと思ったわ

「え?パステルカラーで統一してみたんですけど」

いや どこがパステル

どえらいカーキ色だし

すげえサバンナとかに馴染みそうだわ

「カーキ色は淡い系色だから実質パステルカラーでしょ」

初めて聞いたわその主張

そんなこと言ってる人いないよ

思いっきり軍服だし ミリタリ風とかじゃなくて一式揃ってる完全なる軍服

「お言葉ですが これは自衛隊の服を模造したものですから 軍服じゃありませんよ 自衛隊は軍隊ではないので」

やかましいわ

そんで中性的でもねえじゃねえか

「女性自衛官もこれと同じデザインの服着るんだからボーダーレスだろ」

やかましいわ

そんで 百歩譲ってそれがパステルカラーだとしてもさ 迷彩柄はありえないでしょ

「え?これ迷彩柄なんですか?」

いやいや どう見てもどえらい迷彩だよ

「すみません 俺 色盲だから単色に見えてました」

え ちょっと待って

色盲?

「はい」

やっぱり君不採用だわ

「ちょっと待ってください 差別するんですか」

いや そういうことじゃないけどさ

「そういうことじゃないですか 色盲だからって不採用なんて 今時ヤバイよアンタ 訴えるよ」

ヤバイのはお前だよ

色盲でダサい男が 婦人服屋の求人来るなよ

「どういうことだよ」

男ってのは別にいいんだよ 俺も男だし

そんで色盲ってのもまあ この業界じゃ不自由かもしんないけど そこは助け合っていけばいいし 考えなくはないよ

ダサいってのもさ こっちで教育していけばいい話だし 別にいいんだよ

でも合わせ技はヤバイんだよ

色盲でダサい男は だいたい婦人服屋の求人来ねえんだよ

「ダサくねえよ」

ダサいよ

「裏テーマとして護国思想を表現してんだろうがよ」

裏テーマとして護国思想を表現してくる奴はだいたいダサいんだよ

「はぁ 男でウィメンズの店やってるって聞いたから どんなフレッシュな店かと思ったら 凝り固まってんなアンタ」

ガチガチの極右に凝り固まってるって言われちゃったよ

「この店 売り上げ落ちてんだろ?」

… なんで知ってんだよ

「わかんだよ 俺がこの店に 新しい風 吹かしてやるぜ」

お前 … 随分自信ありそうじゃねえか

秘策があるようだな 一応聞かせてもらおうか

「いいか まず客層を変えろ パステルカラーを基調とした婦人服店なんて腐るほどある お前は男だから女の子たちがやってる店には競争で負けちまう」

ううむ 一理ある

「そこで ミリタリ専門店だ」

うーん

「ミリタリといえば欠かせないのは銃器だ 銃器も置こう」

ちょっと待って

「女の子の買い物の間 彼氏や旦那は暇だからな 銃器があればそこのニーズを埋められる」

ちょっと待て

「目玉商品も欲しい 戦車も置こう」

ちょっとは待てよ

「店の内装も変えなきゃダメだな 壁紙全部迷彩柄にして 横断幕とか貼ろうぜ 『憲法9条改正 大日本の軍事力を示せ』」

全然待たねえなお前

特攻隊かよ

やっぱファッションには ひととなりが出るんだなあ