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京都国立近代美術館で史上最大の「フジタ」展 ~耽美な乳白色が12/16まで

2018年10月29日 | 美術館・展覧会

東京展を終えた史上最大級の「フジタ」展が、京都に巡回してきています。パリに愛された日本人画家・藤田嗣治(ふじたつぐはる)が2018年に没後50年を迎えます。昨年2017頃から「フジタ」展が各地で開催されていましたが、この展覧会はその集大成のような存在です。

国内やフランスを中心とした海外の数多くの美術館から作品が貸し出されており、藤田の激動の人生を語る名品が見事に勢揃いしています。展示作品数は120点を超え、とても濃厚です。

藤田の作品は絵に関心がない人でも惹きつける不思議な魅力があります。絵を本当に愛しており、彼のスタイルである乳白色のヌードや猫が戯れる描写はとても温かく感じられます。戦争画であっても絵に対する”熱量”が感じられます。

東京・上野に引き続き京都・岡崎の地で、誰もがFoujitaの魅力のとりこになること間違いありません。



明治になって以降現代まで、数えきれないほどの絵を志す若者がパリに渡っていますが、おそらく藤田はフランス社会に最も受容され愛された日本人画家でしょう。

1886(明治19)年、東京で軍医総監を父に生を受けた藤田は画家を志し、東京美術学校(現:東京芸大)に入学します。当時主流だった黒田清輝の教えにはなじめず、卒業後まもなくパリへ渡ります。

第一次大戦前夜の不穏な時代でしたが、当時のモンパルナスにはモディリアーニやピカソたち、後のエコール・ド・パリ時代をリードする画家たちが集まっていました。藤田はすぐに彼らと交友を結ぶようになります。



1918年の第一次大戦終結以降1920年代には、細い線描で透き通るような表現をする藤田独自の画風を確立し、一躍売れっ子画家になります。エコール・ド・パリを代表する画家となったこの時代は、目を引く作品が揃っています。

栃木県立美術館蔵「花を持つ少女」は顔と首が長く、左右の目が不釣り合いです。友人のモディリアーニの影響を感じます。しかしモディリアーニの特徴であるやや赤みがかった肌ではなく、乳白色で描いています。藤田が自分らしさを完成させた頃の名品です。

【公式サイトの画像】 私の部屋、目覚まし時計のある静物

ポンピドゥー・センター蔵「私の部屋、目覚まし時計のある静物」は、白色の壁を背に置かれたテーブルの上の置物を、奥行き感を強調せずに描いています。浮世絵のように平面的に描く方がフランスでは受けると考えたのでしょうか、藤田によく見られる描き方です。トレードマークの丸メガネをさりげなくテーブルの上に描いていることも目を引きます。

日本の帝展にも出品され、国内で藤田の名前を有名にした記念碑的作品でもあります。

【公式サイトの画像】 エミリー・クレイン=シャドボーンの肖像
【公式サイトの画像】 ダヴィド「レカミエ夫人の肖像」

シカゴ美術館蔵「エミリー・クレイン=シャドボーンの肖像」は、120年前のナポレオン時代に新古典主義画家ダヴィドが描いた「レカミエ夫人の肖像」の構図を彷彿とさせます。藤田がルーブル美術館でこの絵を見て刺激を受けていた可能性はあるでしょう。

「レカミエ夫人の肖像」のように胴を長く描いて優雅さを強調し、上流階級の女性らしい気品を表現しています。藤田作品では珍しい黒光りする背景の壁は、モデルの女性を特別な存在に見せています。

【公式サイトの画像】 舞踏会の前

大原美術館蔵「舞踏会の前」は、舞踏会の衣装合わせをしているヌード状態の女性を描いています。東京国立近代美術館蔵「五人の裸婦」と並んで、国内にある1920年代の乳白色作品の傑作です。



1931年になると愛人マドレーヌを連れて南北アメリカで個展を開催しながら旅行し、1933年に日本に帰国します。

メキシコの太陽の下で白地のワンピースに身を包んだ京都国立近代美術館蔵「メキシコに於けるマドレーヌ」、白いカーテンの中でヌードで戯れる大阪リーガロイヤルホテル蔵「裸婦マドレーヌ」。共に芯の強そうな目線で描かれており、情熱的だった女性であることをうかがわせます。

藤田作品のコレクションで著名な秋田の平野政吉美術財団蔵「町芸人」は、原色を多用しラテン的な情熱あふれるタッチで町芸人を描いています。明らかにメキシコを意識して表現した興味深い作品です。

【公式サイトの画像】 争闘(猫)

1939年に描かれた島根県立美術館蔵「サーカスの人気者」は、珍しく犬を描いています。彼らしい明るい白色のトーンでまとめられており、迫りくる戦争への実感はまだ感じられません。

東京国立近代美術館蔵「争闘(猫)」は1940年、陥落直前のパリで描いたものです。黒い背景の地面や狂ったように争う猫の描写に、迫りくる戦争の恐怖と狂気を感じさせます。

パリ陥落後に藤田は再び帰国し、よく知られる「アッツ島玉砕」など従軍画家としての大作を残します。終戦後に戦争協力者と批判されるたことに嫌気を差し、フランスに渡ってフランス国籍を取得します。晩年を過ごしたランスで洗礼を受け、一度も帰国することなく、1968年に生涯を終えます。

晩年の作品は、町の少女や宗教をモチーフにしたものが多く、派手な彩色も目立つようになります。しかし自身の波乱の人生を振り返るような深い精神性があり、緻密な表現も多くなります。

【公式サイトの画像】 フルール河岸ノートル=ダム大聖堂

ポンピドゥー・センター蔵「フルール河岸ノートル=ダム大聖堂」は、フランスに渡った直後に、昔から好きだった風景を描いています。日本での批判に疲れた藤田が、新しい人生を始めようとする思いを込めて描いたのでしょう。白い壁の表現が藤田らしく絶妙です。

この作品は製作翌年に「私の部屋、目覚まし時計のある静物」とともにフランス国立近代美術館に寄贈されています。楽しかったフランスでの思い出を描いた記念碑的な作品を、永遠にのこしてほしいと願う藤田の思いを感じます。


秋が深まる岡崎公園

藤田はやはり白色の表現が好きだった画家とあらためて感じました、これほど多様に緻密に白色を表現した画家はそうはいないでしょう。人生も波瀾万丈です。作品を通じて藤田の人生そのものが見えてくるような展覧会です。

こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。



フジタの猫はなぜ愛おしいのか?

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京都国立近代美術館
没後50年 藤田嗣治展
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:京都国立近代美術館、朝日新聞社、NHK京都放送局、NHKプラネット近畿
会期:2018年10月19日(金)~12月16日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~19:30)

※11/18までの前期展示、11/20以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、2018年10月まで東京都美術館、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。



おすすめ交通機関:地下鉄東西線「東山」駅下車、1番出口から徒歩10分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→東山駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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