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現代アートビジネス_名著レビュー_村上隆との交流話に読み応えあり

2019年01月31日 | 名作レビュー

アスキー新書、小山登美夫著「現代アートビジネス」を読みました。

著名ギャラリストでもある著者は「日本のアート業界は風通しが悪く、誤解が多い」と感じています。そんな著者がアートをスッキリ理解してもらおうと、業界の仕組みをテンポよく語った一冊です。

  • アーティストをどのように発掘するのか?
  • アート作品の価値をどのように評価するのか?
  • 日本のアートビジネスはどうすればもっと盛り上がるか?


著者は業界内でも情報発信に力を入れることでよく知られます。読み終えるととてもスッキリします。



ギャラリストという職業名に耳慣れない方も少なくないと思います。この職業名の知名度の低さが、アート業界への親近感がまだ不足していることを象徴している気がします。

アート作品を売買する業者は2通りあります。ギャラリストは、アート作品を企画展示して販売し、アーティストを育てる役割を担います。ほとんどのギャラリストが自前の展示空間、すなわちギャラリーを持っています。現代アートを扱う業者の多くがあてはまり、知名度の低いアーティスト作品を積極的に扱います。

もう一つはアートディーラー、いわゆる画商です。企画展示は行わず、単純に売買だけを行います。評価の定まっているアート作品を扱うことが多くなります。

アートディーラーは営業マンに近く、コレクターの立場に立って行動する。ギャラリストはプロデューサーに近く、アーティストの立場に立って行動する。著者は両者の違いをわかりやすく説明しています。


村上隆の国内評価に日本のアート市場の特異性を感じる

著者は、日本の現代アーティストで世界的に有名な村上隆と奈良美智の二人とほぼ同世代で、若い頃の交流の話は興味深く読み進めることができます。村上隆は、若い頃からプレスにどうやって自分を売り込むか、また作品をどうやってブランディングしていくかをがむしゃらに考えていたと言います。

今や村上隆のアイコンのような立場になった「DOB君」を発表する個展を開いた際には、評価が分かれ販売に苦労したようです。オタク的なアニメであって、アートではないとみなした人が多かったのです。しかし村上は日本のキャラクター文化を緻密に追求し、それを表現するモチーフとしてアニメを採用したのです。

以降もオタク的ととらえられる作品を次々発表し、欧米では評価がうなぎ上りに上昇しいていきます。しかし日本にはオタク的表現をアートとして認めたくない”偏見”が根強く、村上隆との距離は開く一方でした。こうした状況をつぶさに見続けてきた著者は「日本のアート市場はまだまだ未熟」と強く認識したと語っています。

2016年に国内各地で行われた展覧会「ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~」で話題になったように、アニメはルーヴル美術館が収集するアート作品の9番目のジャンルとして認められています。欧米では、美しいと見なされれば表現やジャンルにより差別されることはありません。


なぜ日本のアート市場は特異なのか?

日本人は自分で評価して決めるのではなく、他人の評価を聞いて決める方を好むところがあります。話題の美術展があれば2時間以上も行列します。そんなに並んでも作品を見て感動できる保障はありません。みなが良しとしているから良いのです。逆に皆が悪いとしたら悪いのです。バブル崩壊で「絵は大損するリスクがある」という偏見が根強く残っているのはこの典型例でしょう。

この日本人特有の感覚が、日本のアート業界の風通しを悪くしている根底にあると私は思います。この本を読んでそうした感がより強くなりました。現代アートィストで知名度があり、評価の定まっているアーティストはほんの一握りです。自分の目で見て好きか嫌いかを判断するしかありません。

著者は企画展を通じて作品の価値をプレゼンテーションし、顧客の判断材料となる情報を積極的に伝えています。どうやったらギャラリーに来てもらえるかも一生賢明考えています。また日本のメディアにアートを批評する文化が育っていないことにも苦言を呈しています。美術展への来場を促すような”ほめる”論調ばかりで批判がないのです。アートを見る”目力”を育てるにはいずれもとても大切だと共感できます。

世界中のアートフェア会場を飛び回り、海外にも多くの顧客を持つ著者の視点はグローバル標準です。そんな視点で見たグローバルなアート業界の仕組みの解説には納得がいきます。現代アート作品は何のことやらさっぱりわからないような作品が少なくありません。そんな作品を前に作品の好みを判断するにあたって、新しい考え方ができるようになる一冊です。




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現代アートビジネス
著者:小山登美夫
判型:新書
出版:アスキー・メディアワークス
初版:2008年4月10日

小山登美夫ギャラリー
【公式サイト】http://tomiokoyamagallery.com/

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