風に立つライオン さだまさし著 幻冬舎

	風に立つライオン
	さだ まさし
	幻冬舎

　1987年発売のアルバム「夢回帰線」の最後を飾ったのがこの「風に立つライオン」でした。

	夢回帰線 プライス・ダウン・リイシュー盤
	さだまさし,渡辺俊幸,石川鷹彦
	フォア・レコード

　この「夢回帰線」ってアルバムは、世界各地を歌で巡るというもので、取り上げられた場所はマウイ島ラハイナ、ロサンゼルス近郊マリナ・デル・レイ、チリ・パタゴニア地方、羽田空港、ナイロビなどを舞台にしています。

　そのナイロビで従事する日本人医師をテーマにしたのが「風に立つライオン」で、今回、それをモチーフに小説を書いたってわけです。「風に立つライオン」は発売から四半世紀を超えた今も、さだまさしのライブのオーラスに使われることが多く、またこれもまたずいぶん古い話ですが1990年の紅白歌合戦にも歌われました。

　歌詞をネット上にアップするのは著作権法違反となるので、ここで紹介できないのが残念なのですが、その歌詞通り映画化しても十分なほどの情景描写が素晴らしい曲です。内容は、日本に残してきた元恋人が結婚するとの手紙を受け取り、その返事という形になっています。

　この歌を俳優の大沢たかおが大好きで、彼はさだまさしに「早く小説にしてください。映画の主演は私が」みたいなことを随分前から言ってるんですね。

	まさしんぐWORLDコンサート2008「カーニバル」DVD
	クリエーター情報なし
	ユーキャン

　このライブDVDに大沢たかおとの対談が収録されています。私もこの「風に立つライオン」が小説化され、映画化されたら大沢たかお主演がBESTだと思いました。彼はすでにさだまさし原作の映画化作品「解夏」で主演を果たし、「眉山」でも主要キャストを務めています。

　さて、随分前から小説化を期待されていた「風に立つライオン」ですが、東日本大震災が契機となって、ようやくさだまさしも書く気になったのかもしれません。物語は主人公の医師航一郎の思い出を彼を取り巻いた人々の証言で進んでいきます。ネタバレになりますが、最初から最後まで◯◯の証言、◯◯からのメールって形で進み、独白で進んでいくことになります。

　私が想像するに、東日本大震災が起こる前から、たぶんいろんな形で物語を書いていたんだと思います。しかし、あの大震災でまた一から書きなおしたのでしょう。

ケニアで日本人医師航一郎の前に心を開かない少年兵が現れる。航一郎の熱意にやがて心を開き始めた少年兵は努力し、医師となる。彼は東日本大震災の被災地石巻へ赴き、そこのリーダーに航一郎の面影を見る。またかつての自分と同じ目をした少年と出会い、彼はかつて航一郎が彼と接したようにその少年と接するようになる。

　ケニアの日本人医師から、かつての少年兵、そして被災地の子供へ。「心」のバトンが繋がるというわけです。

　そんなに重くなく、とてもライトな書き方をしていますが、彼にこの小説を書かせたのはやはり東日本大震災であるようです。