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赤塚不二夫保存会/フジオNo.1

『トキワ荘物語』

『トキワ荘物語』
「COM」1970年5・6月号

掲載誌/タイトル/単行本
「COM」1970年5・6月号/『トキワ荘物語』/①~⑱

・解説
東京の豊島区立トキワ荘マンガミュージアムにて、2023年12月9日から2024年3月24日まで開催される特別企画展「ふたりの絆 石ノ森章太郎と赤塚不二夫」にあわせ、赤塚不二夫の自伝的作品を集めたアンソロジー『まんが 赤塚不二夫伝 ギャグほどすてきな商売はない!!』が、 光文社の“知恵の森文庫”レーベルから2023年12月12日に発行される。

発売を心待ちにしながら、当ブログでも収録作品の中から幾つか深堀りしたい。今回は、新刊の幕開けを堂々飾る『トキワ荘物語』をピックアップする。



そもそも本作は、雑誌からの“お題”に応えて描かれた、珍しいタイプの作品なのだ。

1967年から1973年まで、虫プロ商事が発行していた“まんがエリートのためのまんが月刊誌”「COM」では、1969年10月号~1970年9月号にかけて、漫画家の梁山泊といわれる伝説のアパート・トキワ荘に入居、もしくは通った漫画家11名による競作『トキワ荘物語』を掲載した。

トキワ荘出身者の殆どが故人となった今や、この連作は単なる回顧録に留まらず、日本漫画界における重要な証言録へと変化した。また、今や書店の一角を飾るジャンルと化した“エッセイ漫画”のはしりとも見なせるだろう。なお『トキワ荘物語』は、トキワ荘を広く認知させた藤子不二雄Ⓐの代表作『まんが道』に先行している。



『トキワ荘物語』
「COM」1969年10月号~1970年9月号

水野英子『トキワ荘物語』1969年10月号
寺田ヒロオ『トキワ荘物語』1969年11月号
藤子不二雄(藤子不二雄Ⓐ)『トキワ荘物語』1969年12月号
森安なおや『トキワ荘物語 まんが家志願 のるかそるか』1970年1月号
鈴木伸一『トキワ荘物語』1970年2月号
永田竹丸『トキワ荘物語 漫画少年合作の記』1970年3月号
よこたとくお『out of tokiwasow トキワ荘傍役物語』1970年4月号
赤塚不二夫『トキワ荘物語』1970年5・6月号
つのだじろう『トキワ荘物語』1970年7月号
石森章太郎(石ノ森章太郎)『トキワ荘物語』1970年8月号
手塚治虫『トキワ荘物語』1970年9月号



ここからは赤塚の『トキワ荘物語』に触れる。

赤塚の入居期間(1956年8月から1961年10月)のうち、1956年8月の入居を物語の起点とし、金欠、失敗、仲間達との連携といったエピソードを盛り込みつつ、1958年10月の『ナマちゃんのにちよう日』の掲載及び『ナマちゃん』としての連載化を終点としている。物語の終点と下積み期間の終点を重ねることで、ドラマチックな立身出世伝に演出されている。

赤塚は『ナマちゃん』の他にも、『嵐の波止場』『心の花園』といった描き下ろし単行本、『まつげちゃん』『おハナちゃん』といった連載作、テレビ番組のコミカライズ『まりっぺ先生』『ホームラン教室』、石ノ森章太郎や水野英子との“いずみあすか”や“Uマイア”名義の合作など、数多くの作品をトキワ荘で描いており、寺田ヒロオや横山光輝の元でアシスタントを務めたこともあった。本作だけの情報では、苦労続きの売れない漫画家という印象が残るが、子細な作品リストを確認すれば、いつでも定期的に仕事が舞い込んでいたことが判る。

入居からたった14年後に描かれた作品とは思えないほど、当時を振り返るトーンに隔世の感があるのは、高度経済成長期を背景として、また、赤塚漫画が読者の心を見事に掴んだことで、赤塚とその周辺に非常に濃密な時間が流れていたからだろう。

余談だが、トキワ荘の大黒柱・寺田ヒロオことテラさんに、描きこなせない漫画の道を諦めて喫茶店「ラ・セーヌ」のボーイになろうかと相談する描写があるが、この店は漫画家・富永一朗 の奥方の親族が経営していた新宿のジャズ喫茶で、広告ビラなどにも富永の漫画が使用されていたようだ。グループサウンズ全盛期の1968年には、GSグループ“ヤンガーズ”が、ファンクラブ会長富永の口添えでステージに立っていたことでも知られる。また、アイパッチをした野良猫が印象深い扉コマは『ボクは落ちこぼれ』(1979年、ポプラ社)の挿絵で改めて描かれた。

連作『トキワ荘物語』は、1978年に翠楊社より単行本化される。この際、長谷邦夫の『椎名町奇譚』(『長谷邦夫パロディ劇場』の一篇で、「COM」1969年12月掲載)がここに加えられ、全12作となった。タイトルから分かるとおり、滝田ゆうの『寺島町奇譚』をパロディしている。

藤子不二雄の『トキワ荘青春日記』(光文社、1981年)には、「藤子不二雄、トキワ荘の同窓生と語る」のページがあり、もちろん赤塚も登場している。本作で語られたエピソードをあらためて披露しているが、テラさんにアドバイスを貰った原稿のタイトルを明かしている。

赤塚ー寺さんに「漫画やめて、ボーイになろうかと思うんだけど」っていったら、「いま描いてる物、見せなさい」。それで途中までできてた四十ページを見せて……。
安孫子ーそれは、なんだったの?
赤塚ー曙書房(注・ママ)の単行本で『おかあさんの歌』(注・ママ)っていう少女漫画なんだ。行きづまっててね。
―藤子不二雄『トキワ荘青春日記』(光文社、1981年)

『お母さんの歌』は若木書房から出版されたが、『トキワ荘物語』でも「それアケボノ出版の単行本です」という台詞がある。「出版社を誤認」「作品名を誤認」の2パターンが考えられるが…?この件についてはいずれ『おかあさんのうた』のエントリーで詳しく触れよう。
 


作中では、「そのころみた主な映画」としてトキワ荘時代に鑑賞した映画を列記しており、これを洋画と邦画に分け、括弧内の日本公開日順に並べた。赤塚の居住期間以前に日本公開された作品もある。また、旧作を上映する名画座(二番館・三番館)にて鑑賞した可能性もあり、日本公開と赤塚の鑑賞の間に大きなズレがあるかもしれない。

ここには、作中の貧乏エピソード、1956年の大晦日に「横山孝雄に池袋人世座で奢って貰った映画」も加えた。この年末年始は雑煮と映画で、67年前の赤塚気分を味わうもいいかもしれない。



・洋画
ジョン・フォード『荒野の決斗』(47年8月30日)
ジャン・コクトー『美女と野獣』(48年1月27日)
ルネ・クレマン『海の牙』(48年11月5日)
フランク・ボーゼージ『海賊バラクーダ』(50年1月12日)
マイケル・パウエルほか『赤い靴』(50年3月14日)
ヴィットリオ・デ・シーカ『靴みがき』(50年3月21日)
アンリ=ジョルジュ・クルーゾー『情婦マノン』(50年9月1日)※横山孝雄に池袋人世座で奢って貰った映画
デイヴィッド・ハンド『白雪姫』(50年9月26日)
ジョン・フォード『黄色いリボン』(51年11月2日)
アンドレ・カイヤット『火の接吻』(50年11月3日)※横山孝雄に池袋人世座で奢って貰った映画
ジョン・フォード『リオ・グランデの砦』(51年12月7日)
ロバート・ワイズ『地球の静止する日』(52年3月21日)
ヴィクター・フレミング『風と共に去りぬ』(52年9月4日)
キャロル・リード『第三の男』(52年9月16日)
ヘンリー・ハサウェイ『死の接吻』(52年9月17日)
クロード・オータン=ララ『肉体の悪魔』(52年11月6日)
クリスチャン・ジャック『花咲ける騎士道』(53年1月24日)
チャールズ・チャップリン『ライム・ライト』(53年2月12日)
リチャード・ソープ『ゼンダ城の虜』(53年5月10日) 
バイロン・ハスキン『宇宙戦争』(53年9月1日)
ヴィットリオ・デ・シーカ『終着駅』(53年9月15日)
ジョージ・スティーヴンス『シェーン』(53年10月20日)
ヘンリー・コスター『聖衣』(53年12月26日)
ウィリアム・ワイラー『ローマの休日』(54年4月21日)
ジョン・スタージェス『ブラボー砦の脱出』(54年4月29日)
ジュリアン・デュビビエ『陽気なドンカミロ』(54年6月19日)
エリア・カザン『波止場』(54年6月24日)
アンリ=ジョルジュ・クルーゾー『恐怖の報酬』(54年7月25日)
アレクサンドル・プトゥシコ『虹の世界のサトコ』(54年12月14日)
チャールズ・チャップリン『モダン・タイムス』(54年リバイバル、初公開は1938年2月9日)
アーネスト・B・シュードサック『これがシネラマだ』(55年1月5日)
アルフレッド・ヒッチコック『裏窓』(55年1月14日)
ポール・グリモー『やぶにらみの暴君』(55年3月8日)
ウィルフレッド・ジャクソンほか『ピーターパン』(55年3月22日)
ロバート・アルドリッチ『ベラクルス』(55年4月6日)
エットーレ・ジャンニーニ『ナポリの饗宴』(55年6月1日)
キャロル・リード『文なし横丁の人々』(55年7月8日)
リチャード・ブルックス『暴力教室』(55年8月21日)
エリア・カザン『エデンの東』(55年10月14日)
ビリー・ワイルダー『七年目の浮気』(55年11月1日)
ジョシュア・ローガン『ピクニック』(56年3月14日)
ウィルフレッド・ジャクソンほか『わんわん物語』(56年8月8日)
アルベール・ラモリス『赤い風船』(56年8月24日)

・邦画
黒澤明『酔いどれ天使』(48年4月27日)
黒澤明『野良犬』(49年10月17日)
黒澤明『七人の侍』(54年4月26日)
木下惠介『野菊のごとき君なりき』(55年11月29日)
黒澤明『蜘蛛の巣城』(57年1月15日)

・単行本
①翠楊社・グランドコミックス・『トキワ荘物語』・1978年5月1日発行
②翠楊社・グランドコミックス・『トキワ荘物語』(改訂版)・1983年12月1日発行
③蝸牛社・『トキワ荘青春物語』(B5版)・1987年6月10日発行
④蝸牛社・『トキワ荘青春物語』(A5版)・1989年5月1日発行
⑤蝸牛社・『トキワ荘青春物語』(文庫版)・1995年12月15日発行
⑥河出書房新社・『ラディカル・ギャグ・セッション』・1988年7月30日発行
⑦筑摩書房・ちくま文庫・『マンガ家誕生。』・2004年4月7日発行
➇小学館・オンデマンド版赤塚不二夫漫画大全集・『1970年代 その2』・2005年9月30日発行
⑨朝日新聞出版・『赤塚不二夫のマンガバカなのだ ア太郎+おそ松』・2009年2月28日発行
⑩徳間書店・TCP・『泣けるアカツカ』・2011年5月10日発行
⑪徳間書店・徳間コミックス・『泣けるアカツカ』(文庫版)・2012年4月15日発行
⑫祥伝社・祥伝社新書・『まんが トキワ荘物語』・2012年8月1日発行
⑬筑摩書房・ちくま文庫・『COM傑作選下 1970~1971』・2015年4月10日発行
⑭少年画報社・『少年画報社創業70周年記念出版 天才バカボンの時代なのだ!赤塚不二夫生誕80周年』・2015年9月28日発行
⑮徳間書店・TOKUMA FAVORITE COMICS・『泣けるアカツカ』・2016年9月25日発行
⑯河出書房新社・河出文庫・『ギャグ・マンガのヒミツなのだ!』・2018年1月20日発行
⑰筑摩書房・ちくま文庫・『貧乏まんが』・2018年5月10日発行
⑱光文社・知恵の森文庫・『まんが 赤塚不二夫伝 ギャグほどすてきな商売はない!!』・2023年12月20日発行
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