サンチョパンサの憂鬱

ロシナンテの翼 (10)

有名大リーガーの元通訳の男がギャンブル依存症だとなって今ではその症状も一般的に知られるようになった。

性別も年齢もなく症状は全く同じ。
考えてみれば当たり前の話である。
それはれっきとした『メンタルの病』だからである。
胃癌の人が心臓が痛くなるなぁ~んて事がないのと同じである。

彼等は息をする様に嘘をつき、隙があれば盗む。刹那にしか通用しなくても、瞬間的に自己正当化のための嘘を付く。
それに騙される人多く、何人もの人間が彼の嘘に踊り、僕を酷く謗り中傷もした。

中間多数派の安易で安っぽい正義の味方ゴッコはとても厄介だった。
日々を綱渡りしながらの疲れ切ってる人間に……彼等の口だけ駆使する正義ゴッコは執拗にして下劣極まりないものがあった。

店にまでやって来て、アカラサマな嫌味をしつこく繰り返す?そんなのは日常茶飯事だった。
しかし、Sのペテンからカネを騙された途端彼等は『貴方を信用してた』からこそ買っていた?なぁ~んて事を宣い僕に弁済を求めるのである。

信用してた?

笑ってしまうしかなかった。どの口が言ってるの?あのアカラサマな悪態は一体誰が言ったの?
たかだか一万円の寸借詐欺に合うと途端に正義の味方気取りで庇ってた奴を一転して悪しざまに貶してしまう。

イイカッコ一つにポリシーもなく矜持もプライドもない。
重宝な口一つで言を左右して見せる。
哀しく虚しく……怒りを向ける価値さえない人間達だった。

ギャンブル依存症の人間が嘘と表裏一体である様に中間多数派の正義ゴッコは面白い様に変節を繰り返すのである。

Sの巻き起こすカネの問題もさることながら、一万円で豹変し変節する彼等の正義ゴッコはブラックホールみたいに僕からエネルギーを吸い取って行った。

他人の土俵にズカズカと上がり込み、Sの騒動にフンドシ借りて彼等は恥ずかし気もなく自分のカネも気も使わずに飽くこともなく安普請の口相撲を取るのだった。

それはそれで…中間の毒でも薬でもない道を生きる人達の哀しさだった?

そう気付くのに随分と時間を必要とした。
演りたくても出来ない、その勇気がない人の気持ち……それは往々にして人の不幸を待つしかなくなるのかも?……その境地になると僕のメンタルはとても楽になった……。

税務調査ってのが会社を作って初めて入った。
如何にも役人?ってな風情の中年の男は新卒の女性を引き連れて意気揚々とやって来た。
いくら話しても彼は鼻の下を少々伸ばし、その女性に手柄を建てさせるのに躍起だった。

些末な経費を一括して上げている所に目を付けて彼女は執拗に食い下がった。
成る程……君の論理を認めるならばそちらはその何倍も損失が出るけど良いんだね?

中年の役人はタカを括っていた。粉飾を演っといて何を偉そうに?そんな雰囲気だった。
過去にSの横領を売上として処理したのは粉飾ですからそれじゃそれも過去に遡って修正させて貰います……と僕は言った。

『それが本当か?徹底的に調べさせて貰います!』彼は意気揚々と吠えた。
ワザワザ粉飾して税金、社会保障費を多額に払う奴なんて居るもんか?……と。

彼は調べれば調べるほど顔色が悪くなっていった。鼻の下を伸ばして新人女性にイイカッコして彼は手酷い深手を負うことになった。
五年分だけで数百万の税金還付をせざるを得なくなったのである。

連日押し掛けていた彼等は顔を出さなくなった。
電話をして呼び出し……シロクロハッキリ付けろと迫った。
渋々顔を出した中年の役人は独りでやって来た。新人に見られたくなかったのだと思う。

まさか?貴方がそんなそんな大損を引き受けてるなんて思いませんでしたもん……。
税務調査に入ってカネ払う羽目になるなんて前代未聞だと散々愚痴った。

『覚悟が違うんだよ……お前とは』
心の中で…そう呟いた。

しかしこの男がロシナンテの翼を引き千切る事になる?
その後に流れる銀行相手のストーリーが何となく想像出来た。
彼のスケベ心は高く付いたがコッチも無事には行かないことが僕にはもう分かっていた……。






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