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「戦場心理ノ研究 総論」-その1

 「戦場心理ノ研究」は、早尾乕雄(1890~1968)が陸軍に提出した報告書である。

 
 軍紀・風紀の乱れに悩んでいた陸軍では、様々な方法を用いてその対策に当たっていた。その一つに、戦場での将兵の心理状態・精神状態を観察し、心理・精神の側面から対応することを考え、当時金沢医科大学に勤務していた早尾乕雄(精神科)に依頼する。依頼内容は「戦場犯罪調査の任務」(解説13頁)であった。
 
 早尾は1937(昭和12)年11月に召集され上海へ。同年12月20日には南京へ入っている。そしてこのころは、南京で日本軍による中国人への虐殺、つまり南京事件が起きている最中である。早尾はその様子を報告書に書き留めている。この時点で揚子江に沈められた死体は「凡二万人位」(41頁)と書いている。
 
 1938(昭和13)年4月からは上海にある兵站病院で勤務、召集解除されるのが翌39(昭和14)年11月である。
 
 「戦場心理ノ研究」には、前線・第二線・兵站部での将兵の行動や心理状態を精神科の視点から明瞭に書いている。依頼内容が「戦場犯罪調査の任務」であったため、将兵が起こした犯罪に関することがその大部分である。また軍医として上海兵站病院に勤務していたときに診察した患者(将兵)の記録もこの報告書には書かれてある。
 
 この「戦場心理ノ研究」は、かなり前からその存在を指摘されていた文書である。日本軍の軍紀・風紀問題や、南京事件、将兵の戦場体験によるPTSDなどが書かれており重要な文書であるので一般公開を求められてきたが、この文書を所有する防衛庁防衛研修所戦史室は一般公開を拒否してきた。
 
 だがようやくこの「戦場心理ノ研究」は2009年に不二出版社より復刻された。復刻内容は、「戦場心理ノ研究 総論」、「戦場ニ於ケル特殊現象ト其対策 戦場心理ノ研究各論」、「戦場神経病・精神病及犯罪 各論第一編」、「中支戦線に於ける精神鑑定書」、「戦場に於ける自殺企図に就て」、「戦場心理ノ研究ヲ終了スルト共ニ将来ヘ希望ス」の六点である(早尾文書にはもう一点国府台陸軍病院での病床日誌があり、こちらの方は同じく不二出版社からの『戦争と障害者』に所収されている)。
 
 これから不定期になるが、第一冊目の「戦場心理ノ研究 総論」をしばらく見ていきたい。
 
 内容は、
 
緒言
 
第一章 精神興奮ノ起源
 
第二章 敵前ニ於ケル心理状態
 
第二(ママ)章 第一線将兵ノ心理
 
第三章 第二線将兵ノ心理
 
第四章 後方兵站部隊ノ心理
 
第五章 戦功ノ心理
 
第六章 勝利者ノ心理
 
第七章 戦傷病者ノ心理
 
第八章 戦争ト性欲
 
第九章 犯罪者ノ心理
 
第十章 総括及結論
 
の以上である。
 
 なお、特にことわりなく頁数のみを記載しているものはここからのものと思っていただきたい。
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