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八月に読む=「素晴らしきラジオ体操」髙橋秀実著  その②

2020年09月23日 | 本・文芸

第5章 自由で平等な気分
 前章の国民運動や軍隊の体操に比べて、音楽が入り誰でも気楽にできるラジオ体操は受け入れられていきました。それによって工場や様々な職場、町内会などで統制が取りやすくなっていきました。しかも、このラジオ体操は誰もが指導者になれる、まさに男も女もない、金持ちも貧乏人もない、命令する人もいないという、当時の差別社会にあってまさに自由で平等な気分にさせてくれるものだったといいます。
 逓信省では家庭ラジオ体操人形、NHKでは「ラジオ体操桃太郎」まで作って、国民に広めていったのでした。桃から出た桃太郎がいきなりラジオ体操を始めたのです。しかも、はしたないと女性は小股で歩き、いちいち人の目を気にしていたのが、ラジオ体操では女性も堂々と大股を開ける。そのためにはそれがやりやすい服装も改善するというように生活に変化をもたらしてくれたのでした。こうした一方、ラジオ体操であちこちから、病気が治った、夫婦円満などの効能が聞かれるようになってさらに普及していたのでした。

第6章  愉快なファシズム
 こうして昭和3年始まったラジオ体操は10年代には全国に爆発的に広がりました。都内では下町を中心に2561会場でやられ、無休でやっているところもあったといいますから大変な勢いです。
 政府は昭和12年「国民精神総動員実施要項」を発表し、日常生活に「尽忠報国の精神」を具現させることとしました。そのためにまず、「心身の鍛錬運動」が大切となり、その一番にラジオ体操が挙げられました。
 米英絶滅のために、すべての国民がラジオ体操をやり、愉快になり、非常時を乗り切ろうということが盛んに言われるように変化していきました。やがて皇室でも行われていることは報じられ、ついには全国組織「ラジオ体操連盟」などが作られ、愛国団体などがこぞって加盟し、ラジオ体操はますます愛国運動の一翼を担わされることとなっていきました。

第7章  隠れラジオ体操
 占領軍のいる戦後、ラジオ体操人たちが、いかにGHQを欺いてラジオ体操を復活させたのかがわかる章です。戦前は米英絶滅のための心身の鍛錬でしたが、戦後は、アメリカの好きな民主主義のための活動や生産のためには健康な体づくりなどなどの項目を掲げてスタートしました。当然、国民を総動員するようなラジオ体操などもやめてという声や投書が多かったのですが、巧みに復活させました。GHQ向きのラジオ体操「号令なし、やっていると愉快になる思わずアメリカ的な気分になる」など情緒的に,徐々に全国へ広めていったのでした。

第8章 六時三十分のおつとめ
 平成八年8月25日、6時30分第35回のラジオ体操人の祭典「1千万人ラジオ体操祭中央大会」が千葉マリンスタジアムで開催。郵政大臣、NHK会長などの参加の下、東京からも大勢の人が団体バスを連ねて参加。
 こうして毎朝のラジオ体操人は高齢化社会の進行とともに一層増えています。いつの間にか体が動き出し、天国でも続くラジオ体操と著者は、ラジオ体操人の不可思議な行動を追っていきます。


 ***新型コロナウイルスの拡大の初期、一時は日本人のマスク着用習慣の素晴らしさ、衛生観念の素晴らしさが喧伝され、それが感染拡大を防いでいる要因ともいわれました。そして自粛と言われて忠実に守る国民性の素晴らしさも。ある大臣は「民度が違う」とまで言って批判を浴びました。
 確かに衛生観念など素晴らしい面がたくさんありますが、なにか引っかかるものがあるのも事実です。そのうち日本人だけではなく、アジア人全体に欧州人とは違う感染症の罹患歴があり、それが幸いして死亡などは比較的少ないという面も分かってきました。

 さて、終息しないコロナに自粛警察が現れたり、一斉に行動しないと許さないような雰囲気が生まれたりしています。著者がラジオ体操という国民的な運動の歴史や、それに動かされている日本人についての考察が今日の現象を説明するのに役立つ気がします。
 私自身もかつては、ラジオ体操に抵抗を感じてストレッチなどをやっていたのですが、高齢化とともに関節運動の多いラジオ体操の効能を信じていてやっている一人です。
 しかしラジオ体操が利用され、あるいはそれ自体が持っている集団統制する力があるという面を自覚しておかなければと思いました。皆さんはいかがでしょうか。(歴史的な面ではコメントもいただきました。ありがとうございました。)***



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2 コメント

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Unknown (りんごゆきチョコ)
2020-09-27 00:37:18
新型コロナウイルスでの対応について発言を求められた麻生財務大臣が誇らしげに言い放った「民度のレベルが違う」には唖然とさせられました。彼はさらに「いろいろな意味で国民が政府の要請に対して、きわめて協調してもらった。」とも言っていました。
作家、演出家である鴻上尚史氏はこれを「同調圧力」と呼んでいました。
同調圧力とは「みんな同じに」、多数派や主流派の集団の「空気」に従えという圧力だそうです。
数人の小さなグループや集団のレベル、職場や学校、PTAや近所の公園での人間関係にも生まれ、日本はこの「同調圧力」が突出して高い国だそうです。
異論を許さない空気、ルールを守れ、非常時だから自粛するのは当然。
「新しい生活様式」というスローガンまで出てきて、まるで戦時中と同じです。
子供の頃、せっかく夏休みに入ったというのに、朝早く起きて行かないといけないラジオ体操…私は正直嫌でした。
でも、嫌だから行かないという選択肢はそこにはなかった。
これも同調圧力だったのでしょうか?
おかげで私の体にもラジオ体操は染み付いています。
あんなに嫌いでしたが、老化が始まった今となってはラジオ体操の運動も悪くはないかなとようやく思えるようになりました。
頚椎症で激しい動きは出来ないのですが、少し始めてみようかなと思います。
気になる同調圧力 (マーちゃん)
2020-10-14 23:04:07
コメントとても学ぶことが多かったです。長い間に作られてきて、日本人には染みついているのでしょうね。私もその一員であることはもちろんで、批判するくせに、そのような感覚に気が付くことがありますから。人の権利まで奪うような同調圧力には、くみしたくはないものです。SNSの発展とともに、それが増幅される面も気になります。同調圧力で始めるのではない!自分のためのラジオ体操!同感です!

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