クリスマス・イブ5日前の月曜日の夜、午後8時頃。マキとアミは、社の近くのイタリアンレストラン「グラッチェグラッチェ」で、
二人で飲んでいた。
「イブまで、もう5日よ・・・」
と、マキはさすがに焦りの色を隠せなかった。
「そうねー・・・」
と、アミは、どこ吹く風という風に受け答えしている。
「ねえ、アミは、今年のイブ、もう、諦めちゃったの?」
と、マキ。
「諦めたって?」
と、アミ。
「好きな男と過ごす、素敵なイブの夜のことに決まっているじゃない」
と、マキ。
「ああ、それね・・・」
と、アミはあまり乗り気な顔ではない。
「だって、わたし・・・昨日ガオくんとデートしたんだけど・・・その時に気づいちゃったのよ・・・」
と、アミ。
「あ、そうか。昨日、アミは、ガオくんとデートだったのよね・・・で、どうだった、ガオくん。若いマッチョは?」
と、マキは興味深そうに話を聞く。
「ああ、ガオくんね・・・タケルくんに比べると、1万倍くらい子供だったわ・・・まあ、若いマッチョではあったけれど・・・」
と、アミは、ガオを、ばっさり切っている。
「え、そうだったの?アイリの話だと、タケルくんより、大人みたいなこと、言ってたじゃない?」
と、マキ。
「うん。どうも、それ、タケルくん効果みたい。タケルくんと一緒にいると、大人っぽく振る舞えるんだって。ガオくん、自分で言ってたもの」
と、アミ。
「なあんだ・・・もし、アミが「割りといいかも」なんて言ったら、私もガオくん、考えようかと思ってたのに・・・」
と、がっかりな表情のマキ。
「なんていうのかな。私たちタケルくんを知ってしまったじゃない・・・だから、素晴らしいモノを知ってしまったら、それより下がるモノは、価値を感じられないの」
と、アミ。
「そうね・・・でも、アミはタケルくんのことを、今でも思ってるけど・・・そのままだと、今年のイブはひとりでってことになりかねないから」
と、マキ。
「うーん、わたしは、それでもいいと思ってるの・・・タケルくんのことを思って、イブを過ごせれば、それでいいもの、わたし」
と、アミ。
「でも、現実問題として、タケルくんは、アイリの旦那になるひとなのよ・・・いつまで待ったって、手も握ってくれないわよ」
と、マキ。
「それは、そうだけど・・・手くらいなら、握ってくれるんじゃない?タケルくんなら、サービスで!」
と、笑顔になるアミ。
「わたしが言ってるのは、そういうことじゃなくて・・・そんなことを楽しんでいるうちに、ひとり、おばさんになっちゃうってことなの」
と、厳しい表情のマキ。
「それは、わかっているけど・・・今のところ、タケルくん以外を探すつもりには、全然なれないわ・・・」
と、アミ。
「そういうマキはどうなの?今年のイブの相手、探してるの?」
と、今度はアミが聞く方だ。
「まあね・・・電報堂の河田さんに、それとなく、探りをいれてみたんだけど・・・焼けぼっくいに火はつかなかったわ」
と、マキ。
「よく元カレなんかに、いけるわねー・・・そういうところが、マキは行動的なのよねー」
と、アミ。
「だって、タケルくんが私に何かしてくれるわけないし・・・待っても無駄なことはしない主義なの、わたしは」
と、マキ。
「わたしを好きだって言う噂のある子が、今年は3人いるの・・・だから、今日の昼休み、そのひとりに、ちょっと釜かけて見たんだけど・・・」
と、マキ。
「え、誰それ。教えて!」
と、急に目が輝きだすアミ。
「「Boys Be」編集部の柿澤くん(26)・・・」
と、マキは言う。
「え、あー、上智卒のトオルくんだ。知ってる知ってる・・・わたし、何回か誘われて飲んだことあるわよ・・・去年の今頃かな」
と、アミ。
「え?そうなの・・・それで?」
と、マキ。
「ううん、それっきり・・・なんか、わたしに気があったみたいだったけど、まだ、子供だしって、感じだったから」
と、アミの方が一枚上手だったよう。
「やっぱり、そう思う?・・・わたしも今日、ちょっと話してみたんだけど、頼り甲斐がなさそうだったから、バツにしたの」
と、マキも同じ答えだったよう。
「ほんと、今の男たちは、全然ダメよね・・・頼り甲斐はないし・・・女性をリードしようなんて、てんでそんな気ないんだから」
と、マキは、ぷりぷり怒っている。
「ふふふ・・・そういう意味じゃあ、昨日のガオくんは見るべきところはあったわ。わたしをリードしようとしてたもの・・・」
と、アミは思い出し笑い。
「へー、そうなんだ。じゃあ、ガオくんも満更捨てたもんでもないんじゃない?」
と、マキが言うと、
「それが、ガオくん、自分では気づいていなかったけど、ドMなのよ・・・わたしにリードされて喜んでたから・・・だからバツなの」
と、アミはバツの理由を教えてくれる。
「えー・・・ガオくんもそうなの・・・最近の男共は、ほんと、やーねー」
と、マキは口悪く罵っている。
「じゃあ、何・・・マキは、マキに気がありそうな、若い男どもに探りをいれて・・・バツじゃなければ、イブを一緒に過ごす気なの?」
と、アミ。
「そ。でも・・・なんか、先行き不安よねー」
と、さばさばしてるマキ。
「でもさー・・・マキって、青山大輝(45)さんが、あこがれのひとじゃなかったっけ?タケルくんに会う前は」
と、アミはマキの過去を知っている。
「それは・・・今も変わらず、そうよ。今でも・・・エレベーターで一緒になったりすると、笑顔をくれるし・・・それはかっこいいし、頼り甲斐もあるし、素敵な方よ」
と、マキ。
「わたし、大輝さんの方もマキのこと好きなんじゃないかって思ってるんだけど・・・」
と、アミはズバリ言う。
「え?ほんと?」
と、マキはワイングラスを手から落としそうになる。
「うん・・・わたしの目が確かならば・・・大輝さんもマキのこと気に入っていると思う・・・少なくとも大輝さんの、私を見る目とマキを見る目は全然違うもの」
と、アミはズバリ言っている。
「えー・・・ちょっと待ってよーーーー」
と、うろたえるマキ。
「でも、マキは、「大人の恋」は、いやなんでしょ?」
と、アミ。
「それはそうだけど・・・タケルくんの場合は、アイリの将来の旦那だから、諦めてるまでで・・・大輝さんはまた、別じゃない?」
と、マキ。
「そうなの?・・・だって、大輝さんも結婚してるし、子供も確か2人くらい、いたはずでしょ?」
と、不思議そうにアミ。
「離婚する可能性だって、ないわけじゃないじゃない・・・」
と、マキ。
「それは・・・どうかなあ・・・まあ、マキの出方次第だけど・・・」
と、アミ。
「でも・・・そうね・・・あの大輝さんが、家族を不幸にするようなことは・・・しないか」
と、マキ。
「でも・・・マキも相当満更でもない・・・それだけは、今の反応でわかったわ」
と、ニヤケ顔のアミ。
「でも、大輝さんだよ・・・あんな素敵な大人の男性に、嘘でも好きになられたら・・・女冥利に尽きるじゃない」
と、マキ。
「まあ、それはわかるけどね・・・マキも今年は「大人の恋」で、我慢したら?「大人の恋」も、悪くないよ」
と、アミ。
「うーん・・・「大人の恋」か・・・それとも、頼り甲斐のない男の子との「本当の恋」か・・・究極の選択よね」
と、マキ。
「というか、タケルくんみたいに、若くても、頼り甲斐のある男性が少ないのが問題なのよねー」
と、アミ。
「そう。それそれ・・・そうなのよ・・・大人の女性をリード出来る、さわやかな若い男性って、タケルくんくらいしか、いないのかしら・・・」
と、マキは頭を抱えていた。
「大輝さんか・・・」
と、マキは切り替わった頭で、あこがれの男性のことを思っていた。
「頼り甲斐のない、若い男なんて・・・一緒にイブを過ごしても・・・つまらないだけだと、思うけど」
と、アミは白ワインを飲み干しながら、ぽつりとつぶやいた。
そんな風にして、クリスマス・イブ5日前の月曜日の夜は更けていった。
クリスマス・イブ4日前の火曜日の朝、午前6時頃。
ガオは、いつものように、鎌倉の街を走っていた。足取りは軽かった。
「しかし、昨日は、リサさんから電話が来なかった・・・」
と、ガオは走りながら考えている。
「仕事の拘束時間もそれこそ、まちまちのようだし・・・リサさんって、何か強い性格のようだし・・・」
と、ガオはリサのことを考えている。
「なんとなく、女豹を思わせるんだよな・・・俺に襲いかかろうとしている、女豹のような・・・」
と、ガオはリサのことしか考えられない。
「思い出してみれば・・・胸はCカップくらいはあったし、スポーツウーマンのように鍛えられた身体だったし・・・」
と、ガオは考えている。
「さぞや、魅力的な身体なんだろうな・・・リサさん」
と、思いながら、リサの全裸のイメージをいつの間にか考えているガオだった。
「エッチしたら、それは気持ちよさそうな・・・本物の大人の女性の身体だ・・・」
と、ガオは走りながら、考えている。
「ふーん、ガオくん、わたしのこと、抱きたいんだ?」
リサの言葉が、頭の中に、明瞭に、蘇る。
「抱きたいんだろうな、本音では・・・あんな魅力的な女性に俺は会ったことすら、ないからな・・・」
と、ガオ。
「そんな大人な女性が、俺を・・・アミさんより大人な女性が、俺を落とそうとしている?そういうことなのかな・・・」
と、ガオ。
「だったら・・・はっきり言って、一度、寝てみたい・・・俺の人生をかけて・・・」
と、ガオ。
「ただし、寝ちゃダメ。それだけは、なんとしても、回避しなさい。最も、責任は、あなたが取るはめになるのよ。女性は流されやすいんだから」
アミの言葉が、頭の中に、明瞭に、蘇る。
「確かに、アミさんの言うとおりなんだよな。一時の感情に流されるなんて、それは子供と女性のすることだ・・・」
と、ガオ。
「男は理性で持って、女性と子供をしあわせに導く義務がある・・・それが男である意味だ・・・そこは履き違えてはいけない・・・」
と、ガオ。
「俺は理性が強い・・・それが俺の特質でもある・・・その特質で、俺は・・・リサさんをなんらかの形でしあわせにする・・・それが俺に課せられた使命なんじゃないかな」
と、ガオは一応の結論を出している。
「本音は抱きたい・・・だが、抱かないことで、彼女をしあわせにする、なんらかのかたちがあるはずだ・・・それを俺は模索するんだ・・・」
と、ガオは心の中で決意する。
「それが、俺がリサさんに出会った意味なんじゃ、ないだろうか・・・」
と、ガオは結論ずけている・・・。
「ふ・・・走ろう」
と、ガオは思うと、スピードをあげて、鎌倉の坂を登って行った。
ガオは、さわやかな表情をしていた。
クリスマス・イブ4日前の火曜日の午前7時頃。八津菱電機鎌倉華厳寮203号室のイズミの電話が鳴り響く。
「ん・・・ああ、もう、7時か・・・と、誰だろ、こんな時間・・・」
と、イズミは電話に出ると、
「もしもし、沢村ですが・・・」
と、話す。、
「イズミさん?おはようございます。美緒です!」
と、美緒の元気な声が響いた。
「おお、美緒か・・・電話で起こしてくれたのか・・・ありがとう」
と、自然穏やかな笑顔になるイズミだった。
「今朝7時に起きられるかどうか、わからないって言っていたから、少しでもさわやかに起きられるには・・・わたしが電話で起こしたら、いいかなって思って」
と、美緒はイズミのことを思って、わざわざ電話をしてきたのだった。
「ありがとう・・・そんな俺の下らない愚痴にまで、気を使ってくれて・・・」
と、イズミは、少し感激気味。
「だって、イズミさんは、わたしのイケメンの彼氏だもん・・・そんなの当たり前ですよー」
と、笑う美緒は、本当にしあわせそう。
「美緒は、今日は大学は何時からなの?」
と、イズミは美緒が話しやすいように、質問してあげる。
「今日は9時からです。卒論の調べ物があって・・・午前中はそれですけど、午後は私の研究に取材にくるんです。雑誌の記者の方が!」
と、美緒はうれしそうに話している。
「へえ・・・で、どんな研究なんだっけ?」
と、イズミはちんぷんかんぷん。
「「ライネルのねじれ理論」・・・イズミさんも知ってますよね?」
と、美緒はイズミを試している。
「ああ・・・なんか黄金比の比率がねじれた形で続いていくっていう、あれだろ?」
と、イズミもさすがは元数学科だったりする。
「そうです。あれをケーキ作りに応用して・・・そのレシピの分量を「ライネルのねじれ理論」で計算しているんです。そのケーキ、生協で売り出したら大人気で・・・」
と、美緒はうれしそうに話している。
「へー・・・それは珍しいなあ。数学の理論を洋菓子のレシピにかー・・・それはマスコミが食いつきそうな女性向けのネタだね」
と、イズミも感心している。
「ですよね・・・だから、当初の狙い通りに行って、先生もわたしも、嬉しがっているんです」
と、美緒。
「それはよかった・・・たくさんサービスして、記者のひとと仲良くなれれば・・・今後もいい関係が続けられるかもしれないね」
と、イズミ。
「わかりました。そうすることにします。やっぱり、大人の方を彼氏に持つと、いいことばっかり!なーんて言って」
と、ころころと笑う美緒だった。
「今度、大学に行ったら、美緒のケーキを食べて見ることにするよ。・・・さて、俺もそろそろ、出かけるわ」
と、美緒とのおしゃべりを楽しんで、満足そうな表情のイズミだった。
「はい。いってらっしゃい。また、電話するね」
と、美緒は嬉しそうに電話を切った。
イズミは朝から、上機嫌だった。
「今年はいいイブを過ごせそうだ・・・美緒は明るいし、賢い・・・」
と、イズミは笑顔になると、部屋を出ていくのだった。
クリスマス・イブ4日前の火曜日の朝。それぞれに、さわやかな時間が流れていた。
(つづく)
→物語の主要登場人物
→前回へ
→物語の初回へ
二人で飲んでいた。
「イブまで、もう5日よ・・・」
と、マキはさすがに焦りの色を隠せなかった。
「そうねー・・・」
と、アミは、どこ吹く風という風に受け答えしている。
「ねえ、アミは、今年のイブ、もう、諦めちゃったの?」
と、マキ。
「諦めたって?」
と、アミ。
「好きな男と過ごす、素敵なイブの夜のことに決まっているじゃない」
と、マキ。
「ああ、それね・・・」
と、アミはあまり乗り気な顔ではない。
「だって、わたし・・・昨日ガオくんとデートしたんだけど・・・その時に気づいちゃったのよ・・・」
と、アミ。
「あ、そうか。昨日、アミは、ガオくんとデートだったのよね・・・で、どうだった、ガオくん。若いマッチョは?」
と、マキは興味深そうに話を聞く。
「ああ、ガオくんね・・・タケルくんに比べると、1万倍くらい子供だったわ・・・まあ、若いマッチョではあったけれど・・・」
と、アミは、ガオを、ばっさり切っている。
「え、そうだったの?アイリの話だと、タケルくんより、大人みたいなこと、言ってたじゃない?」
と、マキ。
「うん。どうも、それ、タケルくん効果みたい。タケルくんと一緒にいると、大人っぽく振る舞えるんだって。ガオくん、自分で言ってたもの」
と、アミ。
「なあんだ・・・もし、アミが「割りといいかも」なんて言ったら、私もガオくん、考えようかと思ってたのに・・・」
と、がっかりな表情のマキ。
「なんていうのかな。私たちタケルくんを知ってしまったじゃない・・・だから、素晴らしいモノを知ってしまったら、それより下がるモノは、価値を感じられないの」
と、アミ。
「そうね・・・でも、アミはタケルくんのことを、今でも思ってるけど・・・そのままだと、今年のイブはひとりでってことになりかねないから」
と、マキ。
「うーん、わたしは、それでもいいと思ってるの・・・タケルくんのことを思って、イブを過ごせれば、それでいいもの、わたし」
と、アミ。
「でも、現実問題として、タケルくんは、アイリの旦那になるひとなのよ・・・いつまで待ったって、手も握ってくれないわよ」
と、マキ。
「それは、そうだけど・・・手くらいなら、握ってくれるんじゃない?タケルくんなら、サービスで!」
と、笑顔になるアミ。
「わたしが言ってるのは、そういうことじゃなくて・・・そんなことを楽しんでいるうちに、ひとり、おばさんになっちゃうってことなの」
と、厳しい表情のマキ。
「それは、わかっているけど・・・今のところ、タケルくん以外を探すつもりには、全然なれないわ・・・」
と、アミ。
「そういうマキはどうなの?今年のイブの相手、探してるの?」
と、今度はアミが聞く方だ。
「まあね・・・電報堂の河田さんに、それとなく、探りをいれてみたんだけど・・・焼けぼっくいに火はつかなかったわ」
と、マキ。
「よく元カレなんかに、いけるわねー・・・そういうところが、マキは行動的なのよねー」
と、アミ。
「だって、タケルくんが私に何かしてくれるわけないし・・・待っても無駄なことはしない主義なの、わたしは」
と、マキ。
「わたしを好きだって言う噂のある子が、今年は3人いるの・・・だから、今日の昼休み、そのひとりに、ちょっと釜かけて見たんだけど・・・」
と、マキ。
「え、誰それ。教えて!」
と、急に目が輝きだすアミ。
「「Boys Be」編集部の柿澤くん(26)・・・」
と、マキは言う。
「え、あー、上智卒のトオルくんだ。知ってる知ってる・・・わたし、何回か誘われて飲んだことあるわよ・・・去年の今頃かな」
と、アミ。
「え?そうなの・・・それで?」
と、マキ。
「ううん、それっきり・・・なんか、わたしに気があったみたいだったけど、まだ、子供だしって、感じだったから」
と、アミの方が一枚上手だったよう。
「やっぱり、そう思う?・・・わたしも今日、ちょっと話してみたんだけど、頼り甲斐がなさそうだったから、バツにしたの」
と、マキも同じ答えだったよう。
「ほんと、今の男たちは、全然ダメよね・・・頼り甲斐はないし・・・女性をリードしようなんて、てんでそんな気ないんだから」
と、マキは、ぷりぷり怒っている。
「ふふふ・・・そういう意味じゃあ、昨日のガオくんは見るべきところはあったわ。わたしをリードしようとしてたもの・・・」
と、アミは思い出し笑い。
「へー、そうなんだ。じゃあ、ガオくんも満更捨てたもんでもないんじゃない?」
と、マキが言うと、
「それが、ガオくん、自分では気づいていなかったけど、ドMなのよ・・・わたしにリードされて喜んでたから・・・だからバツなの」
と、アミはバツの理由を教えてくれる。
「えー・・・ガオくんもそうなの・・・最近の男共は、ほんと、やーねー」
と、マキは口悪く罵っている。
「じゃあ、何・・・マキは、マキに気がありそうな、若い男どもに探りをいれて・・・バツじゃなければ、イブを一緒に過ごす気なの?」
と、アミ。
「そ。でも・・・なんか、先行き不安よねー」
と、さばさばしてるマキ。
「でもさー・・・マキって、青山大輝(45)さんが、あこがれのひとじゃなかったっけ?タケルくんに会う前は」
と、アミはマキの過去を知っている。
「それは・・・今も変わらず、そうよ。今でも・・・エレベーターで一緒になったりすると、笑顔をくれるし・・・それはかっこいいし、頼り甲斐もあるし、素敵な方よ」
と、マキ。
「わたし、大輝さんの方もマキのこと好きなんじゃないかって思ってるんだけど・・・」
と、アミはズバリ言う。
「え?ほんと?」
と、マキはワイングラスを手から落としそうになる。
「うん・・・わたしの目が確かならば・・・大輝さんもマキのこと気に入っていると思う・・・少なくとも大輝さんの、私を見る目とマキを見る目は全然違うもの」
と、アミはズバリ言っている。
「えー・・・ちょっと待ってよーーーー」
と、うろたえるマキ。
「でも、マキは、「大人の恋」は、いやなんでしょ?」
と、アミ。
「それはそうだけど・・・タケルくんの場合は、アイリの将来の旦那だから、諦めてるまでで・・・大輝さんはまた、別じゃない?」
と、マキ。
「そうなの?・・・だって、大輝さんも結婚してるし、子供も確か2人くらい、いたはずでしょ?」
と、不思議そうにアミ。
「離婚する可能性だって、ないわけじゃないじゃない・・・」
と、マキ。
「それは・・・どうかなあ・・・まあ、マキの出方次第だけど・・・」
と、アミ。
「でも・・・そうね・・・あの大輝さんが、家族を不幸にするようなことは・・・しないか」
と、マキ。
「でも・・・マキも相当満更でもない・・・それだけは、今の反応でわかったわ」
と、ニヤケ顔のアミ。
「でも、大輝さんだよ・・・あんな素敵な大人の男性に、嘘でも好きになられたら・・・女冥利に尽きるじゃない」
と、マキ。
「まあ、それはわかるけどね・・・マキも今年は「大人の恋」で、我慢したら?「大人の恋」も、悪くないよ」
と、アミ。
「うーん・・・「大人の恋」か・・・それとも、頼り甲斐のない男の子との「本当の恋」か・・・究極の選択よね」
と、マキ。
「というか、タケルくんみたいに、若くても、頼り甲斐のある男性が少ないのが問題なのよねー」
と、アミ。
「そう。それそれ・・・そうなのよ・・・大人の女性をリード出来る、さわやかな若い男性って、タケルくんくらいしか、いないのかしら・・・」
と、マキは頭を抱えていた。
「大輝さんか・・・」
と、マキは切り替わった頭で、あこがれの男性のことを思っていた。
「頼り甲斐のない、若い男なんて・・・一緒にイブを過ごしても・・・つまらないだけだと、思うけど」
と、アミは白ワインを飲み干しながら、ぽつりとつぶやいた。
そんな風にして、クリスマス・イブ5日前の月曜日の夜は更けていった。
クリスマス・イブ4日前の火曜日の朝、午前6時頃。
ガオは、いつものように、鎌倉の街を走っていた。足取りは軽かった。
「しかし、昨日は、リサさんから電話が来なかった・・・」
と、ガオは走りながら考えている。
「仕事の拘束時間もそれこそ、まちまちのようだし・・・リサさんって、何か強い性格のようだし・・・」
と、ガオはリサのことを考えている。
「なんとなく、女豹を思わせるんだよな・・・俺に襲いかかろうとしている、女豹のような・・・」
と、ガオはリサのことしか考えられない。
「思い出してみれば・・・胸はCカップくらいはあったし、スポーツウーマンのように鍛えられた身体だったし・・・」
と、ガオは考えている。
「さぞや、魅力的な身体なんだろうな・・・リサさん」
と、思いながら、リサの全裸のイメージをいつの間にか考えているガオだった。
「エッチしたら、それは気持ちよさそうな・・・本物の大人の女性の身体だ・・・」
と、ガオは走りながら、考えている。
「ふーん、ガオくん、わたしのこと、抱きたいんだ?」
リサの言葉が、頭の中に、明瞭に、蘇る。
「抱きたいんだろうな、本音では・・・あんな魅力的な女性に俺は会ったことすら、ないからな・・・」
と、ガオ。
「そんな大人な女性が、俺を・・・アミさんより大人な女性が、俺を落とそうとしている?そういうことなのかな・・・」
と、ガオ。
「だったら・・・はっきり言って、一度、寝てみたい・・・俺の人生をかけて・・・」
と、ガオ。
「ただし、寝ちゃダメ。それだけは、なんとしても、回避しなさい。最も、責任は、あなたが取るはめになるのよ。女性は流されやすいんだから」
アミの言葉が、頭の中に、明瞭に、蘇る。
「確かに、アミさんの言うとおりなんだよな。一時の感情に流されるなんて、それは子供と女性のすることだ・・・」
と、ガオ。
「男は理性で持って、女性と子供をしあわせに導く義務がある・・・それが男である意味だ・・・そこは履き違えてはいけない・・・」
と、ガオ。
「俺は理性が強い・・・それが俺の特質でもある・・・その特質で、俺は・・・リサさんをなんらかの形でしあわせにする・・・それが俺に課せられた使命なんじゃないかな」
と、ガオは一応の結論を出している。
「本音は抱きたい・・・だが、抱かないことで、彼女をしあわせにする、なんらかのかたちがあるはずだ・・・それを俺は模索するんだ・・・」
と、ガオは心の中で決意する。
「それが、俺がリサさんに出会った意味なんじゃ、ないだろうか・・・」
と、ガオは結論ずけている・・・。
「ふ・・・走ろう」
と、ガオは思うと、スピードをあげて、鎌倉の坂を登って行った。
ガオは、さわやかな表情をしていた。
クリスマス・イブ4日前の火曜日の午前7時頃。八津菱電機鎌倉華厳寮203号室のイズミの電話が鳴り響く。
「ん・・・ああ、もう、7時か・・・と、誰だろ、こんな時間・・・」
と、イズミは電話に出ると、
「もしもし、沢村ですが・・・」
と、話す。、
「イズミさん?おはようございます。美緒です!」
と、美緒の元気な声が響いた。
「おお、美緒か・・・電話で起こしてくれたのか・・・ありがとう」
と、自然穏やかな笑顔になるイズミだった。
「今朝7時に起きられるかどうか、わからないって言っていたから、少しでもさわやかに起きられるには・・・わたしが電話で起こしたら、いいかなって思って」
と、美緒はイズミのことを思って、わざわざ電話をしてきたのだった。
「ありがとう・・・そんな俺の下らない愚痴にまで、気を使ってくれて・・・」
と、イズミは、少し感激気味。
「だって、イズミさんは、わたしのイケメンの彼氏だもん・・・そんなの当たり前ですよー」
と、笑う美緒は、本当にしあわせそう。
「美緒は、今日は大学は何時からなの?」
と、イズミは美緒が話しやすいように、質問してあげる。
「今日は9時からです。卒論の調べ物があって・・・午前中はそれですけど、午後は私の研究に取材にくるんです。雑誌の記者の方が!」
と、美緒はうれしそうに話している。
「へえ・・・で、どんな研究なんだっけ?」
と、イズミはちんぷんかんぷん。
「「ライネルのねじれ理論」・・・イズミさんも知ってますよね?」
と、美緒はイズミを試している。
「ああ・・・なんか黄金比の比率がねじれた形で続いていくっていう、あれだろ?」
と、イズミもさすがは元数学科だったりする。
「そうです。あれをケーキ作りに応用して・・・そのレシピの分量を「ライネルのねじれ理論」で計算しているんです。そのケーキ、生協で売り出したら大人気で・・・」
と、美緒はうれしそうに話している。
「へー・・・それは珍しいなあ。数学の理論を洋菓子のレシピにかー・・・それはマスコミが食いつきそうな女性向けのネタだね」
と、イズミも感心している。
「ですよね・・・だから、当初の狙い通りに行って、先生もわたしも、嬉しがっているんです」
と、美緒。
「それはよかった・・・たくさんサービスして、記者のひとと仲良くなれれば・・・今後もいい関係が続けられるかもしれないね」
と、イズミ。
「わかりました。そうすることにします。やっぱり、大人の方を彼氏に持つと、いいことばっかり!なーんて言って」
と、ころころと笑う美緒だった。
「今度、大学に行ったら、美緒のケーキを食べて見ることにするよ。・・・さて、俺もそろそろ、出かけるわ」
と、美緒とのおしゃべりを楽しんで、満足そうな表情のイズミだった。
「はい。いってらっしゃい。また、電話するね」
と、美緒は嬉しそうに電話を切った。
イズミは朝から、上機嫌だった。
「今年はいいイブを過ごせそうだ・・・美緒は明るいし、賢い・・・」
と、イズミは笑顔になると、部屋を出ていくのだった。
クリスマス・イブ4日前の火曜日の朝。それぞれに、さわやかな時間が流れていた。
(つづく)
→物語の主要登場人物
→前回へ
→物語の初回へ