秋風吹く夜の街を、河村静香はボーイフレンドと共に歩いていた。
しかしその彼はというと、静香を前に辟易した表情で口を開く。
「お前に振り回されるのもいい加減ウンザリだよ。
いい年だってのに‥もうホドホドにしたらどうだ?」
面倒臭そうに顔を顰めながら、彼はそう言って頭を抱えた。
しかし静香は媚を売ることはせず、「あっそ、じゃあ若い子と付き合えば」と冷たく言い放つ。
だが彼も動揺することなく、「ああ、そうするよ」と言って静香を一瞥した。
口を噤む彼女‥。
男はウンザリといった体で首を横に振りながら、諭すような口調で話を続けた。静香はその場に立ち尽くしている。
「オレも結婚を考える年だし、いつまでもお前みたいな将来性のないニート女
食わせていくわけにはいかないんだよ。男が女の仕事や年俸考慮しないと思うか?」
お前なんて取り柄は顔だけだ、と言って男は静香に背を向けた。
それきり振り返りもせず、自分のヘアースタイルだけを気にしている。
静香は持っていた缶を、勢い良くその頭に向かって投げた。
それは見事彼の頭にヒットし、男は憤慨して静香の方に振り返る。
「おいこの‥!」
しかし男が振り返った時は既に、静香はタクシーに乗り込み扉を閉めた後だった。
タクシーはそのまま走り去り、男が静香に向かって何か暴言を吐くのを遠く耳にする。
クソッ、と静香は吐き捨てるように口にし、携帯電話を取り出した。
「どんどんタームが短くなる‥」
手のひらにすくった砂が零れ落ちていくように、たかれる男達が減っていく。
青田会長からの支援も切れた今、静香は焦っていた。
着信ボタンを押し、携帯を耳に当てコール音を聞く‥。
不意に鳴り出した電話は、河村静香からの着信だった。
お風呂あがりの淳はタオルを首に掛けながら、鳴り響く携帯を手にしていた。
しかし淳はそのまま携帯を机の上に置き、電話には出ずにベッドに寝転んだ。
クッションやマットレスに体が沈んでいく。
淳は横向きに寝転ぶと、少し背中を丸めた姿勢を取った。
心を惑わす不安や不満がある時の、独特の彼の癖‥。
右手を濡れた髪の下敷きにしながら、淳は寝転んでいた。
胸の内の不安が、とある想像となって淳の頭の中にイメージを作る。
これからはなかなかお目にかかれないんでしょうね~?
まず浮かんで来たのは、今日掛けられた横山の言葉だった。
今まで淳が存在していたその場所に、取って代わるかのような立ち位置の横山翔‥。
そして去り際に見た横山の隣には、彼と同じように笑う柳瀬健太の姿があった。
何かを共有しているかのようなその二人は、さも可笑しそうに笑い合っていた。
おそらく全て示し合わせていたのだろう。
そしてあの二人が組んで、誰に被害を及ぼすかといったら一人しかいない。
赤山雪だ。
その光景は容易に想像することが出来た。
馴れ馴れしく彼女に近づく二人に挟まれ、困惑し疲労する雪の姿が。
「‥‥‥‥」
胸の中に、徐々に黒い靄がかかっていく。
続いてその靄の間から浮かんでくる映像は、今日目にした河村亮の姿だった。
雪の母親から、実の息子のように叱られるその姿。親しそうに、背中を叩かれて飛び上がるその姿。
怒鳴られながらも笑い合う亮と雪の母親の後ろで、淳は見えない壁に阻害されているような気分だった。
あの時も味わったあの感覚‥。
亮と居ると、いつも知らしめられるあの感覚。
暗い部屋で独りぼっちで居る時の、あの感覚。
心の中の黒い靄は、頭に思い浮かぶイメージをだんだんとエスカレートさせていく。
最後に思い浮かぶのは、亮を中心に傘の中で身を寄せ合う、三人の後ろ姿。
淳は思う。
あの時亮はこう思っただろう、と。
お前はこっちに来ることは出来ない。
いつもオレはお前の望むものを、簡単に手に入れることが出来る‥。
振り向いた彼女が見せる眼差しは、きっと去年散々向けられて来たあの視線。
観察するようで、嘲笑するようで、馬鹿にするような。
そして彼女は嘲笑うだろう。
亮の腕に抱かれながら、そちらに行けない独りぼっちの自分を見て。
優越感に浸った笑みを浮かべながら、亮と雪はその場から立ち去っていく。
淳はそこから動けない。
見えない壁で四方を囲まれた小さな部屋で、独り取り残されて立ち尽くしている‥。
ふと気が付くと、淳は眉間に皺を寄せながらその想像に怒りを感じていた。
心にかかった黒い靄が見せる幻想に、どうやら飲み込まれてしまったようだ。
淳はうつ伏せになると、くさくさした気分で顔をクッションに埋めた。
頭の中と心の中が波立って、彼を漠然とした不安にさせる。
そんな折、携帯電話が鳴った。
淳はまた静香からだと思って放置していたが、鳴り止まないその音に辟易して携帯を手に取った。
父親からの着信だった。
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<不安と孤独>でした。
これは珍しい‥。淳の頭の中が覗けた回でしたね~^^
亮に対するコンプレックスがすごいですよね。しかも妄想まで‥。普段見られない先輩ですね。
セリフが無いのでほぼ想像の文章となりました‥。こういうとこ、チートラのすごいとこですよね。
読者に判断を委ねる割合がとても多いというか‥。そこが魅力なんですが!^^
次回は<正しさと誤り>です。
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眉目秀麗、才色兼備の先輩が素直に甘える、わがまま言える、本音を語れる(=亮が持っているもの?)を実践できりゃ最強ですよね。
MR.裏目にその原因の多くはありそうですが、帝王学学んでる人が皆感情抑え込んで生きてるわけじゃないだろうし、やはり先輩の持って生まれた性分も原因のひとつなんでしょうね…。
ま、元からパーフェクトだとチートラが成り立たない&亮さんの行き場がなくなっちゃうので(!)先輩には徐々に人間になっていただきたいです。
しかし詰め将棋さながらに店に突撃してあんなに上手いことやっても、お亮さんに対してのコンプレックスがすごいんですね。
小さい頃の愛情欠損はその後の人格形成に影を落としまくりですよ。
MR.裏目もさることながら、全く存在を感じさせない淳母は一体どうしてたのか気になります。
いつまでちゃんと淳のこと育てたのかと。父性愛もそうですが、乳幼児の時期に肉体的な接触を断たれると暴力的だったりなにかしら問題を抱えると言いますし。
これを雪ちゃんに素直に吐き出せるようになれば救いが見えるのでしょうけれど。。
それより静香・・
ここまで言われても自堕落生活変えようとしないんかい!
今の日本の20代もそうですけど、「男が女の仕事や年俸考慮しないと思うか?」という台詞を見て、韓国も共働きが基本になってるのかなと感じました。
今は男性も給与が上がらない時代、二人で600万円を稼ごうってマスコミにも取り上げられてますし。
にしても「お前なんて取り柄は顔だけだ」なんてある意味言われてみたいですよね。裏山~
見た目の良さって韓国では更に重視されるとコメ欄で師匠が仰ってましたっけ?
それだけの見た目の良さだったらたとえお頭が微妙でも活かしようあったかと思うのですが。
そして困ったときにかけるのは淳・・・
やっぱり恋愛感情はなくても数回はイタしていたのか?とか思ってしまいました。
何となくそういう女が持つ甘えが見えるような・・違うかな。
だから本家でミンスこと清水香織にあそこまで暴力的に出たのかなと。ハングル全くなんでこれは妄想ですけど。
次回の<正しさと誤り>、そして本家を覗いてみても、
自ら絡まるようにしているように見えます。
自信がなくイヤな想像ばかり浮かぶのは、かにさんおっしゃる“持って生まれた性分”でしょう・・・。
もともと母親の陰に隠れるような性格で、静かでおとなしく人見知りで、そして賢かった子供。
賢かった分、“自分の役割”を理解していて、仮面の笑顔で自分を守ってきてしまった。
人前ではかなり無理している、のかと思います。
素直に成長できなくて、ほんと残念、可哀想です・・・。
ですが、いまさらどうにかできるのでしょうか?
何となくですが、先輩が心を入れ替える(?)ことはこの先描かれないような気がしてきました。
更に心配なのは(本家最新版を見て感じたのですが)、なりゆきとはいえ、つかみ合いのケンカをするような雪ちゃんを見た先輩は、それでも雪ちゃんが「自分の同類だ」と思えるのかということです。
(このケンカの場面、私、結構引きました・・・)
でも、涙を流さない雪ちゃん・・・ (←先輩の同類)
もう一つ気になることが・・・
静香さんですが、今までとは趣の違う衣装ですね。(まさか先輩とおそろい?)
彼氏に振られても、以前と違って“もういいわ、めんどくさい”みたいなアキラメムードを感じましたし。
もしや淳が自分をまるっきり切るつもりはないと知っていて、“甘えて”(←むくげさんと同様な意味で)いるのでしょうか・・・
・・・読み返すと内容バラバラで雑なコメ・・・
Yukkanen師匠、ごめんなさい。まとめられませんでしたけど、投稿しちゃいます・・・。
何だか色々思うところはあるのですが、上手く言葉に出来ない~ららら~らら~ら~
どんぐりさん、管理人ですらこんなんですいません‥汗
>更に心配なのは(本家最新版を見て感じたのですが)、なりゆきとはいえ、つかみ合いのケンカをするような雪ちゃんを見た先輩は、それでも雪ちゃんが「自分の同類だ」と思えるのかということです。
>(このケンカの場面、私、結構引きました・・・)
>でも、涙を流さない雪ちゃん・・・ (←先輩の同類)
私も今回の本家結構ビビッて引いてしまった口なんですよね。
しかも今回場面展開せずに一場面一展開だったから尚更・・尾を引くな、と。
で、あの馬乗り事件普通は引くかなと思ったんですが、後から淳が秘める暴力性と通じるものがあると感じて、同類だと余計思うのかな、とも思いました。
結構台詞とかやり口とか似てるところもあるし、どんどん雪が淳化してる?と。
おまけ漫画のるるる祭りまっさかりの中、出待ち担当なんで、こちらでつぶやいてみました。