Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

隠された思惑

2014-09-19 01:00:00 | 雪3年3部(語らぬ彼~隠された思惑)
まだ夜には少し早い時刻だが、空は既に暗闇を纏っていた。

まばらに点いた高層マンションの灯りが、冷えた空気にぼんやりと反射する。



青田淳は一人自室で、携帯に保存された音声を聞いていた。聞くのはもう数度目だ。

携帯は彼女の声を再生する。

”アンタまさか、暴言やストーキングで私を困らせることで、

逆に私の気を引こうってんじゃないでしょうね?

それに‥私が青田先輩と付き合ってるのは、そんな理由でじゃない。”




淳はただ彼女の声に耳を澄ましていた。

直接雪の口から直接語られたことのないその言葉が、しんとした広い部屋に響く。

”先輩に惹かれた理由が容姿とスペックだけなら、

私も去年から彼の取り巻きに入ってキャーキャーやってる。私が先輩と付き合ってるのは‥”




”私がしんどかった時、いつも手を差し伸べてくれたから‥”



淳は微動だにせず、雪の言葉を聞いていた。

今瞳に映るのは無数の夜景か、それとも瞼の裏に映る彼女の姿か‥。



不意に携帯が震えた。

淳はそれに手を伸ばし画面に目を落とす。父親からのメールだった。

仕事が溜まって大変だろう?

これからは学校へ行くという理由で無闇に会社を抜けるのは止めなさい。

社会人としての責任感を持て。




淳は沈黙を守ったままそれをじっと見ていた。

すると続けて携帯が震える。



静香からのメッセージだった。

携帯は受け取った?

もう全部終わったも同然ねん。あたしに感謝してるでしょ~~~?

てかまだ二つも残ってんだけど。アンタがあたしに返さなきゃいけないもの。




淳は淡々とそれに返信した。虎と狐の取引の一片が見え隠れする。

お前に対する頼み事は、これ以上無いはずだけど。



そのそっけない返事に静香は食い下がった。

さぁね?あたしは全部返して欲しいんだけどな~~



「っと!」



静香は高速でそのメッセージを打ち終えた。

舌を出しながら、甲高い笑い声を上げながら。

「クックック‥」



そんな姉を見ながら、弟の亮は顔を顰めて文句を口にした。

「おめーはまた何やらかしてんだよ。一日一悪ってか?

そろそろ狩りの時間です~ってか」




静香は弟の言葉を無視して携帯をいじり続けている。

赤く塗られた長い爪の間から、黒い携帯が覗く。



それを見て亮は首を捻った。確か静香の携帯は白だったはずだ。

「何だお前そのケータイ。また変えたのか?」



その弟の言葉に、静香は中指を立てて「は?関係ないっしょ。元々持ってたっつの」と返した。

亮は溜息を吐きつつ、玄関に向かって廊下を歩き出す。

「淳に貰ったケータイは何でいきなり使わなくなったんだ?

しばらく使ってたのによ。まーた新しい男か?」
 



ウザったそうに「アンタに関係ない」と繰り返す姉に、亮は「行ってくるわ」と言って背を向ける。

すると静香はニヤニヤと笑いながら、亮にこう声を掛けた。

「My brother~楽しんでピアノ弾くのよぉ~?」



面白がってそう口にする姉を、亮は呆れたように睨む。

ピアノを弾きに行くのではなく仕事に行くのだが‥と。



亮は荒々しく玄関から出ると、ドスドスと音を立てて外の階段を下った。

匂うな‥なんかすげー匂うぜ‥



亮はその野生の嗅覚で、隠された思惑のその匂いを嗅ぎ取った。

立ち止まり、甲高い声で笑っていた姉虎に思いを馳せる。



亮は不審をストレートに顔に出しながら、まだ相見えぬ災難の方をじっと睨み続けていた。

胸にモヤモヤと広がる不安。痺れた心の先端が、警鐘を鳴らしている‥。







一方、その頃の青田淳は、外出の為にジャケットを羽織っているところだった。

その表情は、長い前髪のせいで窺えない。



身体に合った黒いそれを羽織り、きちんと前で合わせる。

秩序の保たれた、自分の持つその世界。



しかし脳裏に、その世界に入り込むノイズが不快な音を立てていた。

瞼の裏に浮かぶのは、先日目にした河村亮と雪とのやり取り‥。



ノイズはガサガサと不快な音でその秩序を乱す。

自分を保っているその世界が、それによって綻び始めている。

淳は心の中で一言呟いた。

残るは‥



すると不意に、ポケットに入れていた携帯が震えた。

それを取り出し画面に目を落とすと、自分が雪に送った”夜、店に行くから”というメッセージの後にこう書かれている。

来ちゃいました。



淳は目を丸くしてそのメッセージを見ていた。

これは一体どういう意味なのか‥。



すると思案を始める前に、玄関のベルが鳴った。ディンドン、ディンドンと。

淳は顔を上げ、玄関の方へ急ぐ。



ドアノブに手を掛け、ゆっくりとドアを開けた。

扉が開く音キィという音が、静かなその空間に響いた。

 

そこに立って居たのは、赤山雪だった。

ぎゅっと鞄の持ち手を握って。幾分緊張した面持ちで。



雪は覚悟を決めたように口元をくっと結び、顔を上げた。

その表情には、彼と向き合う決意が表れている。



そんな雪の姿を、淳は目を丸くして見つめていた。

まるで予想のつかなかった出来事が、今この場で起こりつつある‥。



かくして雪は淳と対面した。

埋めて隠して来たそれらと、向き合う為に。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<隠された思惑>でした。

今回の静香のメールにて、

横山に「見せかけかそうでないかも区別出来ないマヌケ野郎」と送ったのは淳ということが発覚!

淳に頼まれて、静香は”ニセ青田”番号の携帯を彼に渡していたのでしょう。

やはり淳も横山に報復したいと常々思っていたのでしょうね。

いとしの雪ちゃんの髪の毛をベタベタ触っていた横山でしたものね‥。


そしてそして‥!ようやく二人の対面‥!しかも淳宅‥!高まります。

次回は<対面(1)ー亮の話ー>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

心のままに

2014-09-18 01:00:00 | 雪3年3部(語らぬ彼~隠された思惑)
太一の口からその真実を聞かされた雪は、幾分動揺していた。

何も言葉を紡げない雪に対し、太一は謝罪を口に出す。

「スンマセンした、雪さん」



けれど太一も闇雲に青田淳と手を組んだ訳じゃなかった。その理由を話し出す。

「けど傍目から見ても、最近の雪さんと青田先輩はギクシャクしてたから‥。

雪さん先輩に話すらしてないみたいだし‥だから俺話したんす。これは身の危険に関することっすから。

今はプライド云々を気にして、喧嘩してる場合じゃないと思って‥」




申し訳無さそうにそう口にする太一に、思わず雪は聞いた。

「だから青田先輩に?一体いつ?」



すると雪からの質問に、太一は記憶を辿った。

「ええと‥かなり前です。横山先輩がまたストーキングし始めた頃‥」



その太一の言葉を聞いて、雪は心が揺れた。

知ってたんだ‥。連絡さえまともに取れなかったのに‥



雪は無意識の内に拳をグッと握りしめながら、心の揺れを落ち着かせていた。

そんな雪に対し、太一は淳の弁解をする。

「それで、集めた証拠を全部先輩と共有して‥。あ、データまとめてくれたのも青田先輩です。

先輩は本当に雪さんのこと心配してますよ。だからもう仲直りしたらどうですかネ‥?」




太一がそう問いかけても、雪は俯き、黙り込んでいた。そんな雪に太一は、オロオロと再び声を掛ける。

「あ‥雪さん怒っちゃいました?その‥先輩は雪さんから言い出すまで待ってたみたいで‥。

だから俺も話さなかっ‥」
 「だからアンタまでグルになって隠してたってワケ?!」

 

歯切れの悪い太一の説明に、聡美がイライラして声を荒げる。

太一は謝りつつも、淳をフォローする発言を続けた。

「けど喧嘩中だったから、先輩も言いづらかったのかもだし‥

なんにせよ証拠を集めなきゃいけなかったから‥」


「太一、」



そんな太一の言葉の途中で、雪は彼の名前を口に出してその流れを止めた。

「はい?」と聞き返す彼に向かって、雪は一つ質問をする。

「もしアンタの好きな人がストーカーに遭ったとしたら、

アンタどうする‥?」




そう雪が問うや否や、太一は目を吊り上げて垂直チョップのジェスチャーをし始めた。

「そりゃー勿論ソッコー駆けつけて、スイカをかち割るように頭を‥!体にも心にも致命傷を‥!」



思わず怒りが込み上げそう言った太一だったが、次の瞬間ハッと我に返って黙り込んだ。

太一の答えを聞いた雪は黙り込み、三人の間に気まずい空気が流れる‥。



雪は、乾いた笑いを立てながら口を開いた。

「そうだよね‥きっと私も‥」



その先は口にしなかったが、それが雪の答えだった。

いつだって彼の考え方は、自分には理解出来ない‥。



雪は、握った携帯に目を落とした。

今家に帰って来たところ。夜、店に行くから



そこには、先程彼が送って来たメッセージが表示されていた。

先のことなんて分からないが、今現在彼が家に居ることはきっと確かだ‥。



雪は顔を上げ、太一と聡美にくるりと背を向けた。

「私、先に行くね」



太一と聡美は慌てて雪の名を呼んだ。雪は振り返り、二人に向かって自分の気持ちを口にする。

「あ、太一。私怒ってないからね。そんなに気にしないで。

今回のことは、聡美にも太一にも本当に感謝してるよ!」




今度奢るから食べたい物考えといて、と雪は言って再び二人に背を向けた。

そして廊下を駆けて行く。

「‥ああいうトコ、二人全く一緒っすね」



太一は雪と淳の共通点を見出して、そうポツリと呟いた。

聡美は溜息を吐きながら、太一の言葉に小さく頷く。

「まぁ‥とにかくフツーじゃないわよ。むしろちょっと変‥」「何がすか?」

「先輩の対処方がよ」



聡美は腕組みをしながら青田淳を思い、そう口にした。太一は曖昧に頷く。

「う~ん‥まぁ‥若干そんな気も‥」



それでも太一は「今回の一件で先輩は自分を助けてくれたし、彼は正しかった!」と口にした。

聡美はそんな太一に呆れ顔だ‥。









廊下を駆けて行った雪は、今駐車場の辺りを歩いていた。

早足で、真っ直ぐに前を向いて。



歩調はだんだんと早くなった。

逸る気持ちが、彼女の歩みを加速させる。



気がついたら、駆け出していた。

目的地に向かって前へ前へ、少しでも早くその場所へと。




記憶の海が揺らぎ、そこから様々な思い出が浮かび上がる。


最初に思い浮かんだのは、彼の笑顔だった。

子供のように純粋な瞳をして、自分を見つめる嬉しそうな彼。





緑道の中で、穏やかに微笑む彼も居た。

強い風が吹いて、その前髪をサラサラと揺らした。繋いだ手の温もり。芽生え始めた恋心。





ギスギスした人間関係に疲れた時、振り向くと彼が微笑んで自分を見ていた。

全て上手くいくよという彼の言葉が、その笑顔と共に蘇る。





今や雪は疾走していた。はぁはぁと息が上がる。

一秒でも早く、一瞬でも早く、彼の傍へ。





頭の中は彼でいっぱいだった。

万華鏡のように、会う度に違った面を見せる彼の一つ一つの表情が、記憶の海から溢れ出る。





優しいところも、自信家な部分も、子供みたいな面も、嬉しそうな笑顔も、狡猾な顔も、その隠された闇も、

それは全て彼だった。

青田淳という一人の人間だった。


雪は彼という人間全てと今、正面から向き合いたいと心から思った。






雪は真っ直ぐ駆けて行った。


彼の元へ。


その、心のままに。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<心のままに>でした。

自分の心のままに駆けて行く雪‥!盛り上がって参りました‥!

ただ前を見て走って行く雪の姿は、以前想いを自覚した亮さんのカットに重なりますね。



こんな風に走る日が、先輩にもやって来るのでしょうか‥。

心のままに‥。



次回は<隠れた思惑>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

太一の秘密

2014-09-17 01:00:00 | 雪3年3部(語らぬ彼~隠された思惑)
雪は溜息を吐きながら、太一に向かって携帯を翳して見せた。

画面には勿論、今話題のあのスレが表示されている。

「なんで皆がこんなにザワザワしてるのかと思ったら‥」



呆れたような表情の雪の前で、太一は決まり悪そうに目を逸らした。

ポリポリと、頭の後ろを小さく掻きながら。



今回の一件の首謀者が太一だということは、雪も聡美も全く知らなかった。

太一はその大きな身体を縮めて、姉的存在二人の説教を聞く。

「アンタどうしてこんなのアップしたりしたのよ!マジで訴えられたらどうするつもり?」

「当事者である私はともかく、アンタにまで被害が及んだらどーすんのよ!」

「そうだよ!名前も伏せずに、どうしてそのままアップなんか‥!」



太一は暫し黙ったままその説教を聞いていたが、やがて口を尖らせながら自分の気持ちを語った。

「昨日雪さん、大変なことになるとこだったじゃないスか‥。

それでつい腹が立って‥もういい加減終わらせたかったし‥」




太一の本音を聞いて、雪は黙り込んだ。

そう言われてしまっては、それ以上彼を責めることは出来ない‥。



そんな雪の代わりに、聡美がもう一度太一に説教をする。

「告訴!前科!罰金!!」「あの先輩は告訴なんて出来ませんヨ」

「そんなの分かんないじゃん!てか太一、無謀なとこ全然治ってないし!ここまでする必要あんの?!」



言い返す太一に聡美はまだガミガミとやっていたが、唐突に聡美は雪の方を振り向いた。

「ってかさぁ!雪っ!」



いきなり名前を呼ばれた雪は目を丸くしたが、頷いてそれに応じた。聡美は強い口調で話を続ける。

「青田先輩は何してるの?!

ここまでコトが大きくなってんだから、先輩も助けてくれるべきじゃない?!

いくら二人が喧嘩中だとしても!横山の奴家まで追いかけて来て、ここまで大事になってんじゃないの!」




そのストレートな聡美の疑問に、雪は勿論太一までギクッとした。

「それには複雑な事情が‥」と言葉を濁す雪に対し、聡美は憤って言う。

「ちょっと!他の問題ならまだしも、ストーカーだよ?!ストーカー!!

まさか先輩、まだ知らないんじゃないでしょうね?!」




雪は聡美から目を逸らしながら、ボソボソと小さな声で答えた。

「うん‥だろうね‥」「はぁぁ?!」



聡美は幾分大仰な仕草で、まるで理解出来ないという風に首を捻った。隣の太一は気まずそうに沈黙を守っている。

「なんで?!どうして~~?!他人行儀過ぎるよ、雪!大事件なのに‥。

アンタどうせまた話してもないんでしょ?!友達にも恋人にも話さないなんて!」




雪は言葉に詰まった。

横山と自分と先輩の複雑な事情が、脳裏を掠める。

青田先輩が、お前が俺のこと好きだって言ったんだ!




本当に先輩がやったんですか?本当に全く分からなかったんですか?




うん




まだ鮮明に覚えている、彼の瞳に宿るあの奇妙な威圧感。


なんでそんなこと聞くの‥




そしてその制圧下にある自分自身を、雪は無意識の内に肯定し、受け入れている。


それはあたかもタブーであるかのように、

もうこれ以上先輩と横山の話をしたくないという無言の圧迫が、私を押さえ込んでいる。




そして少しずつ少しずつ、色々な事を話して先輩に寄り添いたくなった時には‥



そして雪は携帯を見た。彼からのメールも着信も無い。

連絡さえ無い‥



すると不意に、携帯が震えた。メールが一通届いている。

画面には送信者”先輩”の文字が踊る。



雪はすぐにメールを開いた。

今家に帰って来たところ。夜、店に行くから



ようやく来た彼からの連絡。

雪は思わず目を見開いた。



するとそれまで沈黙を保っていた太一が、おずおずと話を切り出した。

「あの‥雪さん‥」

 

しかし太一はその先を話すのを躊躇っている。

「約束してたんですが‥その‥」とモゴモゴ言い訳を口にしながら。



やがて太一は覚悟を決めると、二人に対してずっと黙っていたことを口に出した。

「その‥実は‥今回の件なんですが‥」



そして太一が口にした真実に、雪と聡美は目を剥くことになる。

「青田先輩も助けてくれたんス‥」



「は?」と言う二人の声が、見事に重なった。雪は続けて、もう一度大きな声を出す。

「はあぁ?!」



そして雪は、続けざまに太一に質問を繰り出した。

「それどういうこと?!どうしてそうなったの?!」



聡美も雪の隣で、その真実を知りたそうな表情だ。

「実は‥」



そして太一は語り始めた。

彼の抱えていた秘密を、横山陥落計画の共謀者とのやり取りを。





昨夜、太一は憤慨していた。

雪から送られて来た録音を聞いて、横山翔の振る舞いのあまりの酷さに、太一は憤っていたのだ。



そして怒りにまかせ、すぐにその録音を青田淳に送った。

以前淳と太一は、”横山に関する証拠を共有する”という協定を結んでいたからだ。



太一は録音を添付したメールに、確固たる決意を載せて淳にそれを送った。

今送ったのが、雪さんが録音した物です。

これ聞いた今、俺はもうマジ耐えられないっす。横山先輩に関すること、全部アップするつもりです。




するとすぐに淳から返信が来た。

俺も横山には本当に腹が立ってる。

けど無闇に行動すれば、福井自身が被害を受けるんじゃないかな。

本当に文章を載せるつもりなのか?




太一は収まらない怒りを持て余しながら、三人の姉がまた部屋に閉じこもった自分を心配している声にも耳を貸さず、

返信を続けた。

あの調子で放っとけば、俺ら味趣連三人全員が被害を受けるからです!



太一は固い決意を文章に載せて、更にメールを続けた。

もし罰金が課せられたとしても、そんなん関係無いっす。

止めないでください。俺の好きなようにします。どうせ俺にも積り積もったもんがあるんすから


‥本気なのか?

ハイ。マジで本気っす



すると少し時間を置いて、淳の冷静な返信が来る。

けどあのサイトはうちの経営学科に関連のない人ばかりだろう。

文章を載せてみても、別に効果もないと思う。福井だけが訴えられてしまうよ




淳のその内容に、太一も少し冷静になる。

そう言われればそうっすね‥。

うう‥どうしよう‥大統領府のホームページに‥




すると、いっそ大統領に解決してもらおうという突拍子も無いことを思う太一の元に、

淳からの提案が一つ入った。

いっそ経営学科専用の掲示板が良いよ。

厳密に言えば学科生皆、横山の書き込んだ文章の被害者だから




その淳の提案に、太一は目の前が開ける思いがした。

太一が二つ返事で賛成すると、淳はメールを続ける。

雪の問題は、雪まで噂になって被害を受けるかもしれないから、

言及しない方が良いよ。いっそ俺が文章を載せようか?




その淳の提案には、太一はかぶりを振った。

その点はご心配なく。俺がスレを上げます。

マジで完膚無きまでに復讐してやりたいんす




太一の熱い心意気を、淳は了承して返信を送った。

そうか‥。横山には罪があるから、簡単に告訴することは出来ないだろう。

それでもまだ害を及ぼすようなら、俺が一度話をつけるよ。




その淳の言葉に、太一は幾分意外な思いがした。

先輩がですか?



そして返って来た淳からのメールには、彼の本心が少し透けて見えた。

うん。腹が立つのは俺も同じだ。

別に聖人君子のように振る舞いたくはないね




太一は彼から得られた賛同に、思わず拳を振り上げた。

「そうだっ!当然先輩だって怒ってる!」



すると最後に、淳から一つメールが入った。

今回のこと、福井と伊吹に本当に感謝してるよ。

いつも雪を守ってくれてありがとう。




そして二人はメールを終えた。

横山陥落の背景には、この二人の共謀があってのことだったのだ‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<太一の秘密>でした。

実は先輩が裏で絡んでいたんですね~!

雪には話さず裏で手を回す、先輩の真骨頂ですね。レポート事件を思い出しますが‥。

それでも怒りにまかせた太一があのスレで叩かれることも無くなったし、彼のクレバーさが功を奏したという印象です。

雪は微妙な気分かもしれませんが‥。


そして太一の部屋にあるピンクの水玉クッションが可愛い(笑)

ちなみにドアの向こうでは姉や母が、「太一、ご飯食べないの~?」「どっか痛いのか~?」と心配しています(笑)




*追記

コメ欄にて、ぽこ田さんより「太一の背中のクッションは、以前特別編にも出て来た肉の枕では?」と

教えて頂きました‥!

↓コレですね?!(2部30話と31話の間の特別編より)



肉の形‥!(笑)

カラーになるとこんな感じなんですね!爆笑でした。

ぽこ田さんありがとう!!



次回<心のままに>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!


イタチの最期

2014-09-16 01:00:00 | 雪3年3部(語らぬ彼~隠された思惑)
携帯は新たに数度震えた。

自分が赤山を追って走る写真の後に、動画が一つ添付してある。



横山は恐る恐る再生ボタンを押した。

すると動画は、昨夜自分が赤山に向けて言った内容を再生する。

”クッソが‥お前の大学生活、メチャクチャにしてやろうか?

帰り道の度に身の竦むような思いをさせてやろうか?

お前んちの食堂に来てる客の前で髪の毛引っ掴む真似でもしねーと、お前は目ぇ覚まさねぇか?”




それを目にする横山の顔が、みるみる怒りで歪んで行く。

これはどう解釈しても脅迫に他ならない。これを持って警察に行かれたら、自分は有罪間違い無し‥。

「あ‥うわあああっ!!」



横山は頭を抱え、その場で吼えた。

咆哮により怒りが多少出て行くと、今度は恐怖が襲って来る。



横山はキョロキョロと、大きな仕草で周りを見回し始めた。

それは何らかのパフォーマンスでは無い。彼は周りが見えぬ程、追い詰められているのだ。

今も‥?今もなのか‥?今も俺を‥



ずっと俺を‥!



誰かが自分を見ている。

誰かがどこかで自分のことを、瞬きもせずに見つめている。

横山は堪らず駆け出した。

どこだ?!どこで見てやがる?!一体誰が‥?!

こんなこと許されねぇ‥!俺の知らないとこでこんなこと‥許されねぇぞ!!




握りしめた携帯には、相手からの最終通告が書かれていた。

”金輪際赤山雪に手を出すな”と。



今や横山は、そのメッセージの主が青田淳本人であるということを確信していた。

しかしこの時間に大学で彼を探し回ってみたところで、インターン中の彼とは会える筈がなかった。

横山はどこへ向かえば良いのか分からなかった。恐怖に突き動かされるように、闇雲に駆けて行く。

「うわああああああ!」



一心不乱に走っていた横山は、とうとう足がもつれ、転んでしまった。

ドスン、と鈍い音が辺りに響く。



横山は固い地面に手を突きながら、あまりの悔しさにギリギリと歯噛みした。

畜生、と呟く声が、頼り無く震える。



そのまま地面に突っ伏し、横山が悔しさに打ち震えていると、不意に頭上から声が掛かった。

「あの‥」



「何だよ?!」と横山は、その声のする方へ顔を上げた。

声を掛けた女性は、横山の怒気に思わずビクッと身体を強張らす。



そこに居たのは、再び大分野暮ったくなった清水香織だった。

「あ‥いやその‥げ、元気‥?」



香織は眼鏡のフレームを何度も指でいじりながら、辺りを気にするように見回して話を続けた。

横山は、香織を見上げたままポカンとして固まっている。

「あ‥久しぶり‥私はちょっと‥大学に用事が‥

その‥休学関係のことで教授に用が‥あとまぁ色々‥こっそり終わらせてすぐに帰るから‥、

私に会ったことはその‥内緒‥ね?」




香織は歯切れの悪い言葉をオドオドと続けながら、しきりに辺りを気にしていた。

しかしそんな香織の話など、横山の耳にはまるで入って来なかった。

今この瞬間も、どこかで見られているのかもしれない‥。



視線を揺らしながら、怯えるように辺りを見回す横山を見て、香織はニヤリと笑った。

「あ‥それでその‥横山君‥その格好マジウケる‥」

 

クルクルパーのジェスチャーと共に、香織はクスクスと笑いながら駆けて行った。

彼女もまた、横山にあのスレで悪口を書かれていた内の一人だ‥。



香織が走り去って行くのを、横山は呆然としながら眺めていた。

固く冷たい地面に座り込む彼の前を、走る車のエンジン音が通り過ぎて行く。



横山は地面に力無く手を置いた。自分が座っているこの場所だけ、流れる景色に取り残されてしまったようだった。

横山は俯きながら、呆然の中で一人呟く。

「完全に‥完全に踊らされてたんだ‥俺‥」



登り詰めたと思った場所は、脆い砂の城の上だった。

人を蹴落とし、騙し、馬鹿にしていたツケが今、自分の身に降りかかって来ている。



横山は天を仰いだまま、ゆっくりとその場に倒れて行った。

まるで高い場所から転落したかのように、彼の身体は仰向けのまま動かない。



これにて、虚像を纏ったイタチはその見せかけを全て剥ぎ取られ、ただの無力な一匹の小動物と化した。

誰も手を差し伸べない。自滅したイタチは、ボロ布のように固い地面に捨て置かれた。

「あ‥ああぁ‥ぁぁぁ‥」



荒野に見捨てられたか弱きイタチはそのままいつまでも、

小さな鳴き声を空へと響かせていた‥。













「うーわマジやべぇ」 「横山イッちゃってんな」 「オーマイガッ!」「これ俺のことじゃね?!」



その頃A大経営学科の教室では、横山の話題で持ち切りだった。

皆が、先ほど経営学科のウェブ掲示板に上がったスレを見て騒然としている。

「いつかアイツ何かやらかすぞって俺が言ってたじゃん!!」「うははは!腹がよじれて死ぬ~!こんな面白ぇ場面見逃しちまった~!」



教室にその掲示板の話題を持ち込み、皆に広めているのは、勿論先ほど横山食事会に参加していた男子学生達だ。

健太はその無礼な後輩に皆の前で憤り、その場に居合わせなかった柳は涙を流すほど笑ってこの状況を楽しんでいた。



そんな中直美は、一人プルプルと震えながら言葉も出ない程憤っていた。

それを見て、彼女の友人達はヒソヒソと話を交わす。

「直美さんどうしたの?」 

「あ‥ホラ、さっき清水香織がちょっと大学に来てて、偶然出くわしちゃって‥」



そして彼女が話し出したのは、横山が書き込んでいたスレの内容を直美が知ることになった顛末だった。

横山が掲示板に書き込んでいた直美に関する内容とは、以下の通り。

マジで男に飢えてたんか、告白するやいなやすぐにOKした年上の女がヤバイ。

ことあるごとに口出しおせっかい。あーうぜ。マジ後悔




別れる間際になったら、その女怖くなったのか縋り付いて来て、俺がいなきゃ生きられないって感じなんだけど、

こういう女って後々ストーカーになんじゃねーの?女のストーカーとか、どういう対処すりゃいーの?

体験したことある人~?




それまで直美は、その掲示板の存在を知らなかった。

ほんの数時間前、大学の構内でバッタリ香織と顔を合わすまでは‥。



思わず邂逅した香織と直美らは暫し黙って顔を見合わせていたが、じきに香織がオドオドと口を開いた。

「あ‥久しぶり‥その‥ちょっと教授に用があって‥あ‥それでその‥な‥直美さん‥」



そして香織は携帯片手に、ファイティンポーズを直美に送った‥。

「スレ見ました。が、がんばって下さいね‥っ☆」



そして直美はその掲示板の中身を知った。

バイトがあるから、と駆けて行く無責任な香織の後ろで、直美が泡を噴いて倒れて行く‥。



‥という先程の出来事を思い出して、直美は怒りに打ち震えていた。

あんなの事実じゃないと叫ぶ直美の後ろで、友人達は彼女に同情のまなざしを送る‥。



横山に対する恨み言を叫ぶ直美の声が、教室にこだまする。


皆に嫌われ、嫌われ、嫌われ尽くしたこの現状。


これが、イタチの最期だった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<イタチの最期>でした。

横山‥ケチョンケチョンにやられましたね。

結局彼が馬鹿にしていた全ての人からしっぺ返しをくらって、壮絶な最期を遂げました‥。

個人的に注目したいのは、久しぶりに出て来た清水香織がやってくれた所!

「その格好マジウケる‥」



ここのクルクルパーのジェスチャーは、香織が皆の前でボロボロになった時、

彼女を見捨てた横山がしたジェスチャーでした。



因果応報ですね‥。

さようなら横山翔!どうぞ心を入れ替えて‥!



さて次回は<太一の秘密>です。




人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

自滅

2014-09-15 01:00:00 | 雪3年3部(語らぬ彼~隠された思惑)
横山翔は走った。ただ闇雲に。



ハァハァと息が切れるが、とにかく逃げなくてはと必死だった。

目の前の暗闇は、どこまでも広がっている。



確かに道路を走っているはずなのに、足元は砂浜を走っているかのように沈み込む感覚があった。

走っても走ってもこの闇から抜け出せない。

こんな‥一体どうしてこうなった?どういうことなんだ‥!



ほんの数時間前まで、確かに一筋の光が見えていた。

更に言えば、数週間前まで自分は科の中心人物になり得る程の地位を保っていたのに‥。

赤山か?また赤山がやったのか?違うのか?それじゃあ一体誰が‥?!



脳裏に赤山の姿が浮かんだが、パニックで深くは考えられない。

この足が深く沈み込むような感覚。横山は心の中で叫んだ。

一体どうしてこんな‥?!



横山は足を止め、フラフラしながらその場に佇んだ。

顔は青ざめ、流れ行く汗が止まらない。



鼓膜の裏で、皆の声が反響した。

クズ!



直美を始めとした、経営学科の女子達。

クズ!



侮蔑の視線を寄越しながらそう言った、経営学科の男子達。

クズ。



最後に浮かんだのは、赤山雪だった。

まるで汚らしいものでも見るかのような目つきをしながら、そう言った赤山の姿‥。

その眼差しを思い出した横山の心の中に、カッと火が点いた。

クソッ!やっぱり赤山が‥!



自分が今の地位に転落したのは赤山のせいだと、横山は結論付けて携帯を手に取った。

すると同時に携帯が震えた。”切り札”もとい”ニセ青田”から、メッセージが一件入っている。

面白いことしてたね、昨日



唐突に送られて来たそのメッセージに、思わず横山は狼狽した。

通行人が自分の方を振り返るのにも気づかず、言葉を漏らす。

「は?なんだいきなり‥。ってか、なんで知って‥?!」



暫し当惑していた横山だが、じきに腹の底から怒りが沸いて来た。

目を見開き、青筋を立て、”ニセ青田”に憤慨する。



横山は感情のままに”ニセ青田”へ電話を掛けたが、いくら待っても彼女は電話に出なかった。

怒りに震えながら、横山は彼女へメッセージを送る。

「お前、青田の指示であの時、狂った女を演じたんだろ?!

お前らがグルだってこと、俺が気づかなかったとでも思うか?!

お前らも、赤山も、あのヤンキー野郎も、全員訴えてやる!絶対に示談になんて持ち込ませねぇからな!!」




そう打ち終え、送信すると、すぐに返事が返って来た。

訴える?アンタが?



そしてすぐに一言。

ストーキング。



横山は目を見開いてそのメッセージを見つめていた。

どんどんメッセージは入り続ける。



暴行未遂。 脅迫罪。 名誉毀損。 侮辱罪。

  
  

それは、今まで横山が無自覚の内にやらかしてきた罪名だった。

その罪を見せつけるかのように、メッセージは続く。

当然これらの事に対して、

裁かれる覚悟があって告訴するつもりなんだよね?




畳み掛けるようなその攻撃に、横山は頭がついていかずただポカンと口を開けた。

メッセージは入り続ける。



次に入って来たのは、自分が写っている写真だった。

寝ている赤山に気付かれぬよう、そっと彼女の手帳を盗み見ている写真‥。

 

携帯は写真を受信し続けていた。

どこで撮られたのかまるで身に覚えのない写真が、どんどん送られてくる。



横山は震え続ける携帯を手にしながら、顔から血の気が引いて行くのを感じていた。

何だこれは‥?ハッキリ顔が‥



これまでスレに上がった写真など比較にならぬ程、そこには自分の顔が鮮明に写っていた。

しかも一枚や二枚ではなく、数十枚という単位でそんな写真が送られて来る。



横山は携帯に向かって怒りの声を上げた。

「うおおお!この鬼畜野郎‥!もう止めろ!お前の方がストーカーじゃねぇか!!

お前わざと俺に近付いて来たんだろ?!このキ◯ガイ女、ただじゃおかねぇっ‥!!」




横山がそう吼えた瞬間、まるでそれを聞いていたかのようにこんなメッセージが入って来た。

こんなことして、ただじゃおかない?



頭に血が上った横山は、それに対して大声で返答する。

「当たり前だろ!そうだてめぇなんつったっけ?”寂しいから慰めて”だったか?!

同情引いといてこんなことしでかしやがって!てめぇ、今度俺の目の前に現れやがったらー‥!」




横山がその台詞を言い終わる前に、メッセージが一通入って来た。

見せかけかそうでないかも区別出来ない、マヌケ野郎。



それを見た瞬間、横山は目を剥いた。

ポカンと口を開け、携帯画面をじっと見つめる。



もう一度、携帯電話が震える。

何度言っても分からないか



横山の頭の中に、いつか耳にしたその言葉が蘇る。

君は見せかけかそうじゃないかもまともに区別出来ないくせに、文句が多いね



あれは去年の夏だった。

赤山にふられ、そのことを青田淳に電話で詰め寄った時に言われた、その言葉‥。

「青‥田‥?」



横山は分からなくなった。

この携帯の向こうにいる人間は、”ニセ青田”なのか、それとも青田淳本人なのか。

聞き覚えのあるその台詞の向こうに、青田淳の影が揺れる。

するともう一度、携帯電話が震えた。



その写真を見た途端、横山は驚愕した。

そこに写っていたのは、赤山に向かって鞄を投げている、昨夜の自分の姿だったー‥。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<自滅>でした。

横山が今の状態になってしまったのは、皆が言うとおり彼の”自滅”ですよね‥。

けれど横山本人はそのことに気がつかない。”誰か”のせいだと思っている。
(この漫画の登場人物、結構こういう性質の人が多いですね‥)

その真実に気がつくことが出来たら、前に進むことが出来るんでしょうが‥。

清水香織は最後まで気づくことが出来ずに、消えて行きました。

さて横山翔は一体どんな最期を迎えるのでしょうか‥。

次回、<イタチの最期>です。



人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!