Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

横山翔の復讐(3)

2014-03-31 01:00:00 | 雪3年3部(萌菜ズボン~横山の復讐)
暫し沈黙を貫いていた淳であったが、ニヤつく横山に対して遂に口を開き始めた。

「そうだな‥なぜいきなり雪を巻き込むのか知らないが‥。

何の話なのか、俺には本当に分からないんだ。何か誤解してるんじゃない?」




誤解? と横山は彼の言葉を反芻し、鼻で嗤った。

しかし淳はそのまま頷くと、困ったような表情を浮かべてこう言った。

「他の人と勘違いしてるんじゃない?俺こんなメール送ってないよ」



横山は舌打ちをしながら、吐き捨てるように言った。

「は?知らん振りもここまで来ると反吐が出るぜ‥」



横山は携帯を再び淳に見せるように手に持つと、その手の内を淡々と話し始めた。

「ひとまず言い訳すれば何か変わるんすか?先輩、番号すら変わってないっつーのに。

は~マジ往生際悪すぎなんスけど‥」




淳は何も言わない。

横山を俯瞰したまま、彼の発言をただじっと聞いていた。

「本当なら皆が忘れた頃復学して、じっくり機会を見てから先輩を責めるつもりだったんすよ。

当然携帯の番号も変わってると考えてね」




横山は彼を見上げながら、呆れたような口調で話を続ける。

「しっかし意外に先輩が考え無しでお粗末なんで、俺若干戸惑ってんすけどw

これまでの間、先輩はさぞ平和な日々を送られたんでしょうね?」




嫌味をふんだんに込めた横山の言葉にも、淳は何も言い返さない。

だんだんと焦れてきた横山は、ギリッと唇を噛んで言った。

「人をオモチャにすんのは楽しかったか?けどこんなこと許されないからな!」



しかし淳は尚も冷静だった。

何を言ってるのか分からない、なぜそんなに攻撃的なんだと言って彼を宥めた。

「ちょっと落ち着いてくれ。困るよ」



依然としてシラを切り続ける淳に、横山は逆上した。

もう終わりだ、と言った後、携帯を手に取る。

「もっと困らせてやろうか?!」



そして彼は時限爆弾のスイッチを入れた。

アドレス帳に載っている”青田先輩”のコールボタンを。



010-5555-4508

横山はスピーカーモードにした携帯を淳に見えるようにかざし、ニヤリと口元を歪めた。



プルルル、プルルル、というコール音が、静まった教室に響く。

目を見開いている淳。そんな彼を見て、固まってる固まってると横山は嗤う。

 

淳の鞄の中で着信音が鳴るはずだ。

それかマナーモードで消音になっているかもしれないが。



横山は息を止めて待った。その爆弾が爆発するその瞬間を。

淳が携帯を取り出し、横山からの着信が鳴り響いているのを目にした瞬間、彼の勝利が確定する。


プルルル プルルル





プルルル プルルル





プルルル プルルル





‥しかし、待てど暮らせど、電話は繋がらなかった。

目の前の青田淳も微動だにしない。

「‥え?」



これはおかしい、と横山が思った瞬間、事態は思わぬ展開を迎える。

数回ものコールの後、電話が繋がったのだ。

「何よ、誰なの?」



「えっ?」



突然繋がった電話から、気怠そうな女の声がした。

思いも寄らない展開。横山はただ狼狽した。

「え‥?は‥?何で‥?!は‥?!」



もしもし、と電話口からは女の呼びかける声が聞こえている。

淳は、自分の携帯には何の反応も無いことを横山に見せた。



「ちょっと!何とか言ったらどうなのよ!!」



未だ理解がついていかない横山を、急き立てるように通話口から女の声がした。

何も言わない通話主に焦れたのか、女はだんだんとヒートアップする。

「ったく最近ただでさえムカつくことばっかだってのに‥。

お前みたいなク◯野郎のせいで更に滅入るっつーの!

つーかアンタ誰なのよ?ケイスケ?ヒロアキ?ノリタカ?おい、誰なんだってば?!また掛けてきたら承知しないから!」




横山は狼狽したまま、その女の剣幕に押されて電話を切った。

時限爆弾は思いも寄らない場所で爆発し、横山は顔面蒼白である。



顔から血の気が引いた横山は、何も考えられないまま淳を見上げた。

勿論紡ぐ言葉など、何も無いままに。



目の前の青田淳は、ゆっくりと天を仰ぐような仕草をしながら口を開いた。

「で‥」



そして彼は横山を俯瞰した。

それはただ高いところから彼を見下ろした、というよりも、横山そのものを見下げたような視線だった。

「お前今、何してるの?」



完璧と思っていた計画が、音を立てて崩れていくのを横山は感じた。

再び脳裏には、去年の夏休みの記憶が蘇る‥。







 

赤山雪にストーカー呼ばわりされ、福井太一に殴られ、横山は夜道を転がるようにひた走った。

蒸し暑い夏の夜、鼻血を拭いながら逃げる自分が、情けなくてしょうがなかった。

しかしそれ以上に、心の中は不安で揺れている。

起訴されたら俺はどうなる?い、いや赤山は許すって言ったじゃんか‥。

それでも噂が立ったら‥




不安と苛立ち、そしてとりとめのない怒り。

横山は携帯電話を取り出すと、通話ボタンを押した。



何度目かのコール音の後、青田淳は電話に出た。

横山は噛み付くように声を荒げたかと思うと、勢い良く彼を責め立てた。

「どうしてくれんすか!先輩の言うとおりにしたのに全然ダメだったじゃないっすか!

全部先輩のせいッスよ!」




事態が飲み込めない、という淳の言葉にも、横山はひたすら先輩のせいだと繰り返した。

「赤山はレコーダーまで持ちだして告訴するって大騒ぎですよ!全部先輩のせいっすよ!

どうしてくれるんすか?!え?!」




淳は「お前は一体何をやらかしたんだ」と静かに問うた。それは程度の線を超えた彼に対する、冷たさを孕んでいる。

先輩の言うとおりに‥と横山が尚も彼に対する呵責を口にすると、通話口からは溜息が聞こえた。

「‥やめてくれ。もう疲れた。いつまでお前の話を受け入れれば満足するの?」



その言葉に、横山は沸々と湧いた怒りの全てをぶつけた。

握りしめた拳の中に、無念の情が篭っている。

「先輩こそ今更どういうつもりすか!さも俺の気持ちを分かってくれたようなフリして優しくしておきながら、

先輩のせいで結局ダメだったじゃないっすか!なんとか言ってみて下さいよ!」




横山の激昂が夏の夜道に響き渡る。

しかし通話口から聴こえてくるのは、凍えるほど冷たい声だった。

「君は見せかけかそうじゃないかもまともに区別出来ないくせに、文句が多いね」



横山の脳裏に、球技大会での自分の言葉が蘇った。

てめぇら見せかけかそうじゃないかもまともに区別出来ないくせに、

デレデレデレデレしてんじゃねーよ!!





言葉に詰まった横山に、淳は静かに通告した。


「あの言葉、そっくりそのままお返しするよ」




因果応報、悪因悪果。

彼を貶めた言葉で貶められた悔しさが、横山の胸の内を憎しみで燃やす。

そして今、彼はこれまでにない憤りが全身を駆け抜けていくのを感じていた。



思い描いていた予想図とは真反対の今の状況。

横山はそれを受け入れることは難く、燃え盛る怒りで震えている‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<横山翔の復讐(3)>でした。

さて皆様、淳の仕掛けたトリックが分かりましたでしょうか?^^

なぜ横山の携帯は淳に繋がらなかったのか‥?

以前当ブログのコメ欄にも載せましたが、本家版コメ欄にあったそのトリックの全貌をもう一度書き出しますね。

↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

整理すると、淳は二つ携帯を持っていた。携帯A(末尾4580)と携帯B(末尾4508)である。

携帯Aは青田淳の携帯番号として、すべての後輩が知っている。



だが、横山がウザくなった淳は横山からのメールを無視し出して、横山ががなぜ無視するのかと問うと、

携帯番号を変えたんだと言い、携帯Bの番号を知らせた。



携帯Bを利用して、横山を慰めた赤山雪に対して、横山のストーカー気質を利用してメールで横山の行動を操作する。

(このメールは淳ではなく静香が打ったものであるのだが‥)





そして横山との最後の通話後、携帯Bを河村静香に譲った。



復学後、淳に復讐しようとしていた横山は友人の携帯アドレスに載っている淳の携帯Aの番号を見て、

携帯Bの番号と同じだと錯覚して(末尾が違うだけで番号自体が似ているから間違えたのだ。)復讐を決心する。



そして友人の携帯を使い携帯Aにメールを送り、淳を空き教室に呼び出して脅迫した。

すなわち真実は、淳は携帯Bを利用して雪と横山を陥れた事実、そして緻密に証拠隠滅したということである。

↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑

ということでした。

詳しくは<淳>その回想にも書いてありますのでどうぞ~^^


次回も<横山の復讐(4)>です‥横山長引きましてスイマセン~^^;


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

横山翔の復讐(2)

2014-03-30 01:00:00 | 雪3年3部(萌菜ズボン~横山の復讐)
「プフフ‥プフフフ‥」



横山はこれからの展開を予想すると、笑いが止まらなかった。

今は笑みを浮かべている青田淳も、切り札となるあのメールを見せれば青ざめるだろう‥。

横山はポケットから携帯を取り出そうとした。すると青田淳は笑みを取り下げ、独りごちるように呟いた。

「何をしようとしてるのかさっぱり分からない」



へっ?と横山は拍子抜けの声を出した。

彼は警戒や緊張など、横山の予想するその全ての反応以外のそれを見せたのだ。



淳は横山に背を向けると、

「人も来ないし帰るよ。それじゃ」と言って出ていこうとする。



横山は幾分慌てて、歯噛みしながらもう少し踏み込んだ言葉を掛けた。

「てか、遊びにしちゃあ赤山は長く引きずり過ぎじゃないすか?」



その言葉を聞いて、淳は足を止めた。

淳はゆっくりと振り返り、背の低い彼を俯瞰する。



横山は意地の悪い表情で言葉を続けた。

「先輩、あんた別に赤山のこと好きなわけじゃないんでしょ?

俺と赤山をくっつけようとしてたことを考えれば、自ずと答えが見えてくるってもんすよ」




横山は淳にゆっくりとにじり寄って行った。

言葉を続ければ続けるほど、胸の奥底に溜まっていた憤りが沸々と湧いてくる。

「どうせ赤山にも恥かかせて休学させるんでしょ?

それならインターン前にさっさと終わらせりゃいいじゃないすか。何仲の良いフリをズルズルと‥」




横山は雪と淳のことを足がかりにして、自分のことへと話を引き寄せた。

「あたかも俺にしたようにね」



胸の内が、憎しみで燃え始める。ギリリと歯を噛んで言葉を紡ぐ横山であったが、

淳はそんな彼を俯瞰しながら、淡々と言葉を返した。

「何の話? さっきから一体何を言ってるんだ?

お前が何の話をしてるのか、全く分からないんだけど」




一貫した淳の”知らんぷり”に、横山は徐々に感情が抑えきれなくなっていった。

彼を見上げる表情には怒りが漲り、瞳の中に憎しみが燃えている。



脳裏に浮かぶのは、去年淳から掛けられた優しい言葉や態度だった。


そうだな、お似合いかもな



赤山と自分の仲をどう思うかと聞いた時、彼は微笑みながら確かにそう言った。

そして去年の夏休み前に催された飲み会で、悩みを打ち明けた時も‥

青田先輩、ひょっとしてまだオレにムカついてます?

わざと避けてるんじゃないっすか?オレがメール送っても無視して‥




落ち込みながらそう言った自分に、淳は新しい携帯番号を教えてくれた。

にこやかに声を掛けながら。

本当にこれ以上謝罪はしなくても大丈夫だよ。もう休みに入るけど、楽しんでな。

挨拶とか相談事とかあれば、いつでもメール送ってくれていいから




あの球技大会以降、周りの人達は自分に冷たくなった。

そんな中淳から優しくされ、横山は素直に嬉しかったのだ。

若干の下心(権力のある青田先輩の目に掛けられているという)も、勿論持ちあわせてはいたが‥。




「何を言ってるのか分からないだと?」



一貫してしらばっくれる淳を前にして、横山は遂に声を荒らげ始めた。

ポケットから携帯電話を取り出し、淳の目の前でその証拠を突きつける。

「よくもそんな厚かましいこと言えるな?!

去年あんたが送ってきたメールがまだここに残ってんだよ!」




横山は淳から送られてきた三通のメールを、次々と表示した。

<正直に告白するのが、やっぱり一番良いんじゃないかな>

<告白が難しいなら、アクセサリーやぬいぐるみを送ってみたら?>

<そうか、休みだと会うこと自体大変だろうね。同じ塾に通って、一緒に勉強してみたら良いんじゃない>




横山は携帯を手元に戻すと幾分気分を落ち着かせて、切々と自分の感情を語り始めた。

「‥休学申請した後、考えれば考える程怒りが込み上げてきて‥。これらを永久保存したんす。

内容だけ見たら大したこと無いメールですが‥」




そして横山は暗く翳った視線を纏った。

彼の切り札だった。

「これを赤山に見せたらどうなるでしょうね?」



横山は俯いていたので気付かなかったが、その一言で淳の表情は少し変わった。

今まで想定内のシナリオを辿っていたそのストーリーに、投じられた一石で少し流れが変わるような。



しかし横山は俯いたまま、尚も話を続けている。

「おかげで俺はストーカー呼ばわりされて‥噂が怖くて休学までしたんすよ。

けど‥俺にはそんな非道い仕打ちをしておいて‥」




横山は唇を噛み締めながら、鋭い視線を淳に向けた。

貶められたことよりも、休学させられたことよりも、一番気に障ったことはー‥

「二人が付き合ってるだって?」



横山は真正面から淳を見据え声を荒げた。

「あんたら二人俺を弄んでおいて、のうのうと楽しく暮らすつもりじゃないだろうな?!

赤山に真実を話した後、俺を貶めたことを骨に凍みるほど後悔しやがれ!!」




「自分の彼氏が自分にストーカーをふっかけた犯人だなんてな!」



横山は淳を人差し指で指差し弾劾した。(でも俺がストーカーというのは誤解だ、と彼は小さく呟いていたが)

淳は黙り込んだまま、暫しニヤついた横山と向かい合う。

「‥‥‥‥」



横山は自分のシナリオ通りに物事が運んでいっているのを感じ、心の中で嗤っていた。

視線の先には、俯きながら何かを考えあぐねている青田淳が居る。



見ろよあの表情。今必死で頭を働かしてるんだろうが、気が気じゃないはずだ。

けれどどんな言い訳をしようが、奴は今の俺を説得出来ない‥




そんな横山の考えには、裏付けがあった。メールという確たる証拠を持っていることに加え、

更に彼は秘密兵器を隠し持っていた。ポケットに突っ込んだ手をゴソゴソと動かす。

しかも今この会話を録音してる‥。約五分後に皆が到着するのに合わせて、

これを暴露するんだ‥。




自分を焚き付けたメールと、録音している今の会話‥。証拠はぞくぞくと揃って行く。

更にこれから弁明なり何なりをする淳の言葉が、更なる証拠となるだろう‥。

自分の計算は完璧だと横山は思い、不敵な笑みを漏らした。



録音していることを知ろうが知らなかろうが、肯定しようが否定しようが、どちらにしても淳は身を滅ぼすことになる。

時限爆弾はセットされた。

それは約五分後に爆発し、経営学科全体に激震が走るだろう。

横山はその様子を想像し、身震いした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<横山の復讐(2)>でした。

淳視点からの横山との話はこちらの記事

さぁ、横山のしかけた時限爆弾は爆発するんでしょうか~?

次回<横山の復讐(3)>へ続きます。

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

横山翔の復讐(1)

2014-03-29 01:00:00 | 雪3年3部(萌菜ズボン~横山の復讐)
教授が、3時までに401号講義室に集まりなさいだって~!



雪と別れた後、青田淳が受け取ったメールは未登録アドレスから送られてきたものだった。

まだ大学構内に居た淳は暫し考えたが、時間もあることだし教室に向かうことにした。







401号講義室のドアを開けると、そこには誰も居なかった。

もうすぐ3時だというのに‥。淳は頭に疑問符を浮かべる。



すると背後から、聞き慣れた癖のある声が彼を呼んだ。

「あっれ~?せ~んぱ~い」



淳が振り返ると、ニヤニヤと嗤いながら佇む横山翔の姿があった。

早かったですね、と言って挨拶を口にする。



横山はゆっくりと淳に近付いた。

遂に青田淳を追い詰める日が来たのだ。横山の胸は高鳴っていた。

「ちょ~ど良かった!先輩に話さなくちゃいけないことがあるんすよ。

聞いたとこ今日がインターン前の最後の通学だそうで‥」




横山の言葉に、淳が「何?」と返す。

横山はニヤリと口元を歪めた。これまで水面下で進めてきた計画の暴露が始まる。

「先輩、近頃人生楽しいでしょ?」



そう切り出してきた横山を前にして、淳はキョトンとした表情を浮かべた。

淳の中では横山翔という人間を露ほども気にしていなかったので、彼の言葉は唐突に思えた。



しかし横山は尚も言葉を続けた。

ただでさえ順調な人生なのに、インターンは決まり、彼女も出来て、トントン拍子の人生ですね、と。

「それがしたかった話?」



横山は淳からの質問には答えず、更に話を続けた。

こと恋愛に関してはとても楽しそうに見えます、と。

「俺に赤山を勧めたのが不思議なくらいですよ」



どうやって今の関係に持ち込んだんすか?と横山は尋ねるが、

淳は依然としてキョトンとしていた。

「なんの話?」



そう淳が聞き返すと、横山はわざとらしく大きな声を上げた。

「うーわ!さすが青田先輩!やっぱり”すっとぼけ”にかけてはトップクラスっすね!」



皮肉を言った横山は大仰な仕草で淳に近づくと、

「もうほどほどにした方がいいんじゃないですか」と淳を見上げて言った。

「それとも、どこまでとぼけられるか試してみましょうか?」



横山の眼が意地悪く光る。

淳は横山の顔を見下ろす内に、だんだんと物事の本質が見えて来た。



淳は携帯を取り出すと、先ほど送られてきたメールを掲げて言った。

「これは横山が送ったのか?」



未登録アドレスから送られてきた、講義室集合のメール。

淳はこの場が横山によって仕組まれたものだということを確認しようとした。

「は?なんすかこれ。初めて見たんスけど~~ww」



しかし横山は嗤いながら首を横に振った。

そしてその横山の態度を見て、淳は感じた。彼の無言の挑戦状を。



しかし彼の敵意を前にして、淳は慌てるでも眉をひそめるでもなく、微かに笑った。

読者と同じくその笑みを疑問に思ったのは、横山も同じだ。

笑ってんのか?‥笑えばいいさ。俺が何の用意もなくここに居ると思うか?



横山には自信があった。

自分には天が味方してくれているんだと。



横山は微笑む淳と真っ向に向き合いながら、己も笑い続けた。

とある出来事が、横山の脳裏に浮かんでくる‥。




休学後、横山は久々に集まった友人達と談笑していた。

番号が変わったと言う友人の携帯をいじりながら、ふと思いついて質問する。

「なぁ、もしかして青田先輩ケー番変えた?携帯新しくなってる?」



横山の問いに、友人は首を横に振った。夏休み前と一緒だと言って。

「は‥?マジで‥?」



横山は信じられない思いだった。

てっきり青田淳は番号を変えたと思っていた。自分を焚き付けたあのメール履歴が残っている携帯など、

隙のない彼はとっくに証拠隠滅をして番号を変えているはずだと。

横山は友人の携帯をもう一度手に取ると、アドレス帳をスクロールして青田淳の番号を出した。

マジだ。末尾も変わって無い‥



010-5555-4580

それは横山の携帯アドレスにある淳の番号と同じ番号であった。

横山は天から降ってきたような幸運に、思わず笑みを漏らす。



これで青田淳が自分を赤山雪に焚き付けた裏付けが取れる。

あのメールの送信者が彼だということの、証明が出来る‥。


横山は不敵な笑みを浮かべた。彼の復讐劇が、そこから幕を開けたのだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<横山翔の復讐(1)>でした。

いけ好かない横山ですが‥。

「うーわ!さすが青田先輩!やっぱり”すっとぼけ”にかけてはトップクラスっすね!」




これは同意しますw

しかし横山が友人に青田先輩の番号を確認したのはいつの時期なんですかね?

よく分からないまま記事にしてしまいました‥^^; 

分かる方、教えてくださるとありがたいです。


そしてこの横山の復讐回は過去記事にしたものもあるので、過去記事にリンクを貼りつつ進もうと思います~。


次回<横山翔の復讐(2)>へ続きます。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!


彼の甘え

2014-03-28 01:00:00 | 雪3年3部(萌菜ズボン~横山の復讐)
「河村氏の話をしましょう!」



淳を中庭まで引っ張って来た雪は、開口一番そう言った。

しかし淳は目を逸らしながら、全く関係のない話題を口にする。

「‥昨日雪ちゃんが変なズボンを履いたって‥」



一体どこからその話を聞いたのか、淳は雪が履いていたスタイリッシュなズボンについて言及した。

思わず雪は動揺し、そして青筋を立てて声を荒げる。

「あれはもう履きませんよ!昨日は理由があって‥って違うし!はぐらかさないで下さいよ!」



「だって気になって‥」と尚もボソボソ言う淳だったが、

雪は溜息を吐いて心を落ち着かせると、再び話を本題に戻す。

「とにかく、ここまで来たら聞かせてもらいます。

その点については不満は無いでしょう? これ以上がおせっかいならもう止めます」




幾度となく二人の間で振り回されて来た雪には、彼らの過去を詳しく知る権利があった。

その点は淳も理解をしているのか、雪の要求を否定しはしなかった。

「ん‥」



だが彼の感情が、首を縦に振るのを阻止していた。

したくないことを促された時の子供のように、彼は雪から目を逸らして沈黙する。

そんな彼を前にして、雪は一つ息を吐くと彼の目線より下に来るようにしてしゃがみ込んだ。

「以前先輩が話してくれたように、河村氏は手のことがあるから、ああいった態度を取るというのは分かります。

だけど、それだけにしては先輩も河村氏もやたら衝突するから‥」




以前淳から亮の話を聞いた時、雪の心には疑問が浮かんだ。

”理解”や”誤解”といった単語では収まらない、互いに対する嫌悪感が二人の関係を破綻させているのでは、という疑問だ。



あの時はそれ以上追及するのはおこがましい気がして口を噤んだが、

結局今も尚その疑問は解決されないまま、淳と亮の関係は平行線を辿っている‥。



雪は角の立たない言い方を考えながら、事実に沿ってゆっくりと話を進めた。

「先輩は自分のせいじゃないって言いましたが、河村さんは、その‥先輩がしたって‥

そう確信してるみたいでした。二人の間に明らかに誤解があるから、未だにぶつかるんじゃないですか?

だから一回そのことに関して落ち着いて話合ってみたら‥」




子供に諭すように優しく言葉を紡ぐ雪であったが、彼女の話の途中で淳は言葉を返した。

「俺は関係ない。本当に他の子達がやったことで、俺はもう何遍も俺のせいじゃないと説明してる。

今更話をしてみて何になる? どう説明しようがあいつは自分の良いようにしか解釈しないんだ。

そしてその時に関する記憶は、俺にとっても良い思い出じゃない」




あまり考えたくない、と言って淳は眉を寄せた。

雪はそんな彼を前にして、その中に居る小さな少年を透かして見ている気になった。

「‥‥‥‥」



そして淳は目を瞑った。

瞼の裏に、自分を睨んでいる亮の姿があった。

「俺は何もかもが気に入らない」



「亮が突然帰って来て再び俺を恨むのも、雪ちゃんの傍にずっとつきまとっているのも」



「あいつの姉がしゃしゃり出て来て、電話で父に駄々をこねるのも」



雪の脳裏に、以前一度だけ会ったことのある亮の姉の姿が浮かんだ。

最悪な第一印象だったが、息を呑むほどの美人だった彼女‥。



暫し俯いていた淳であったが、次の言葉を口に出す時は雪の顔をジロッと見た。

「俺の彼女である君が、あいつらのことを考えること自体もね」



突然淳の話の矛先が自分に向いたことで、雪は青くなって息を呑んだ。

その場でただ固まっている。



「考えてみて欲しい。俺も恩着せがましくするのは嫌だけど、」と前置きをして淳は話を続けた。

淡々と語られる事実。淳の目から見た彼らの真実。

「俺の父親は、両親が亡くなって残された二人を良い学校に入れて、専門分野をサポートをして、

それに家まで出資した。けれどあの姉弟は感謝するどころかひっきりなしに問題を起こし続けて、

ついには証拠もなしに全ての結果を俺のせいにしたんだ」




「二十代後半になると姉の方は家に金を要求して、その弟は自分の姉を押し付けて自分勝手に生きる始末さ。

資格を取得したり勉強しようとする努力すらしなかった。

お金が無くなったらどうするのか、急にサポートを切るとどうなるのか?サポートは当然で、ダメならスポンサーのせいという考えさ」


淳は切々と語った。黙って聞いている雪の眼を見て、自分の本心を口に出す。

「正直留学でも何でも、二人ともどこかへ行って欲しいさ。そう思うのは間違ってる?

そんな人達が君の家に何年も住んでると考えてみて?俺の考えは幼稚だろうか?」




確かに彼の身になって考えてみると、凄く微妙な気持ちになった。

実の弟の蓮が遊び歩いているのを見るだけで心労が絶えないのに、

それが他人、しかもあの姉弟であれば、その気疲れは倍以上だろう‥。



雪は黙り込んだまま、今聞いた話を改めて自分の中で噛み砕いてみた。

ん‥先輩は正しいよね‥。成人したら誰だって自活する努力をすべきだし‥。

けど河村氏はともかく、そのお姉さんに相当問題があるような‥




しかしそこまで考えたところで、雪は気がついた。

ハッ‥!何か結局また丸め込まれているような‥。

言葉が巧みすぎて‥一体誰の言ってることが真実なのか‥




先輩と亮の関係を一歩前に進めようと思って進言したのに、結局彼の出した結論に引きずられている自分が居た。

困惑する雪に淳は「まだ聞きたい?」と質問したが、

雪は首を横に振った。



もう自分を問い詰めない雪を前にして、淳はホッとしたような笑みを浮かべた。

自分の唯一の理解者が、理解者たる態度に戻ったことが、淳は嬉しかった。



固い空気がほぐれると、淳は雪の手に向かって自身の手を伸ばした。

「こっちおいで」



彼の手が、そのまま彼女の手を握る。

雪の両手が、彼の大きな手のひらに包み込まれる。



”気に入らない”と言って目を背けていた彼から、その敵意のオーラが消えた。

顔を上げた淳は、まるで少年のような澄んだ瞳をしていた。



そして彼女を引き寄せると、雪のお腹の辺りに頭を埋めた。

まるで母に甘える子供のように。



触れた部分が、温かく柔らかい。

彼女のパーソナルスペースに入り込んだ彼は、そこで自分の甘えを吐露した。

「もうやめよう。俺が学校に出てくるのも、グルワ以外では本当に今日が最後なんだ」



ね? と淳は小さく雪に同意を求めた。

四年間、休学期間を含めた六年間のキャンパスライフが、徐々に幕を閉じようとしていた。

雪と出会えたこの大学で、通常通り通う最後の日。

そんな日に、心を乱されたくなかった。自分を理解してくれる優しい彼女と、ただ静かに過ごしていたかった‥。



お腹の辺りに、彼の体温を感じている。

雪は淳の気持ちを汲み取って、もう何も言わず彼の心に寄り添った。



そっと彼の肩に手を置くと、淳は心が解れていくのを感じた。彼女の背中に腕を回す。

温かな彼女の体温と、嗅ぎ慣れた安心するその匂い‥。



淳は眼を閉じ、その安穏を堪能した。もう彼女は何も聞いてこない。

最終的に彼女が自分の言うことを聞いてくれたと、自分を理解してくれたと、淳の中の少年が満足そうに笑う。



そして二人は、今夜夕食を共にする約束をして別れた。

静かな秋の日、二人の間に吹き抜ける風はだんだんと冷たくなっていく‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼の甘え>でした。

誰が先輩に雪のズボンのことを話したんでしょう‥柳か?

そして甘える先輩の画、いいですね‥*^^*

彼の気持ちに寄り添う雪ちゃんの気遣いもステキです。


次回は<横山翔の復讐(1)>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

虎視眈々

2014-03-27 01:00:00 | 雪3年3部(萌菜ズボン~横山の復讐)


清水香織はリュックの持ち手を両手で握りしめながら、その不安な気持ちを持て余していた。
(鞄の持ち手を握るのは、不安を感じている時の彼女の癖だ)

胸はドクドクと大きく鳴り、嫌な汗が全身から噴き出してくる。

あたしってば、つい‥!うっかり渡すの忘れてたって言えばよかったのに‥何で‥?!



突然の出来事に動揺して、あのライオン人形は自分の物だと、香織は嘘を吐いてしまった。

しかし彼女はそれに対して後悔するのではなく、嘘を吐かなくてはいけなくなった原因の、雪に対して憤り始める。

‥これ以上みじめになりたくないのに‥無駄に絡んで来て‥!

ムカつくムカつくムカつくムカつく‥




香織の脳裏に、妄想の中の雪が嘲笑う顔が浮かぶ。



彼女は自分を嗤っている雪に対して、今や憎しみを抱いていた。

曖昧な現実と妄想の境界で、憤りばかりが強まっていく。


鼻息荒く早足で歩いていた香織だったが、不意に目の前に一人の男が現れた。

「どーも」 「キャッ!」



あんぐりと口を開けた香織の前で横山翔は、

「君となかなか話す機会が無くって」と言って、ニッコリと人懐こい笑みを浮かべた。



同じ科なのに今まで話をしたことが無かったよねと、横山は気安い態度で香織に接する。

それはあなたが綺麗な子にしか話しかけないから、と香織が返すと、

君が最近綺麗になったから話しかけたくなったのかな、と横山は肩を竦めて香織に笑いかける。



そして暫し二人は歓談した。

横山は人の懐に入る時の術を活かし、香織の心を解きほぐしていく。



別れ際、香織は笑顔を浮かべて横山に手を振った。

横山も微笑みながら手を振り返す。





 

偶然知ることになった香織が抱く雪への感情は、横山の興味を引いた。

しかしいくら面白くとも、横山が夏休みから水面下で進めてきた作戦の前にしたら、それは前菜のようなものだ。

メインはこの後だ‥



数々の布石はやがて意味を持ち、そしてその成果がもうすぐ出るだろう。

機は熟した。そう横山は思いながら、大学の構内を歩いて行った。






翌日、横山は直美と歩きながらスマホで掲示板に書き込みをしていた。

鼻歌を口ずさみ、着々と進む段取りに一人笑みを浮かべる。

今日、その金自慢ばっかの先輩野郎をやっつける。切り札出してやんよwww



横山は書き込みの後、一人ニヤリと嗤った。

見てろ、青田淳



内に秘めた復讐心が燃えていた。もうすぐこの悔しさも鬱憤も晴れる。

舞台は整ったと確信し、横山は虎視眈々とその時を待っていた。

「もー!何ずっとケータイばっか見てんのよぉ?」



そう言って小突いてくる直美に、横山は友達とメールしてたんだと言って謝った。

二人のカップルらしい雰囲気は、大分板についてきたようだ。



そんな直美と横山を目にした健太は、二人に話し掛けて来た。

横山も大分まともな人間らしくなったなと言う健太に、彼は元々まともだと直美が言い返し、健太は舌を出して肩を竦める。



同期達も話しかけて来た。

直美から、横山と一緒に行くと聞かされていたミュージカルの話を彼女らが促すと、

横山がチケットを取ってくれたんだと言って直美は頬を染めた。



そんな中、同期の一人がとある光景に目を留めた。

それはあまり目にすることのない、とても新鮮な光景だった。



赤山雪と青田先輩が、話をしているところだった。

二人が付き合っていると聞かされてから彼らが一緒に居るところを見ると、また違った印象で二人は彼女らの目に映った。

そして違っている印象は、そればかりでは無かった。



二人は何か話し合った末に、あまり気乗りしない様子の先輩を雪が引っ張って行ったのだ。

ズルズル、とまるで擬音が聞こえてきそうな先輩の重い足取り‥。思わず一同は呆然とした。



同期二人は顔を見合わせた後、単純に可笑しくて声を上げて笑った。

天下の青田先輩が、されるがままに引っ張られて行く光景が見れるとは、と。

「雪ちゃんって本当すご~い!でも考えてみれば、雪ちゃんにそういう面があるから

青田先輩のような人と付き合えるのかもね~。てか青田先輩、思ってたより可愛くない?」




先ほどまで横山×直美カップルを前に笑っていた同期の女の子達は、

今や雪と先輩の方を向いてキャアキャアと盛り上がっていた。

直美は彼女らの後ろ姿を眺めて沈黙し、横山は先ほど目にした光景が瞼の裏に焼き付いていた。



青田淳の手を握る、雪の手。

自分が触れるのは叶わなかった雪の手が、今青田淳の手を握っている‥。



横山の心にどす黒い雲がかかっていく。

それは燃える復讐心を更に掻き立て、横山の決心を更に固くさせていく‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<虎視眈々>でした。

清水香織の雪に対する感情がどんどん暴走していきますね。

見ていて何だか怖くなります^^;


そしてついに、横山の復讐劇の始まりです!(え?あんまり興味無いって?^^;)

‥けれども、次回は雪と先輩の話<彼の甘え>です~。復讐劇は次々回始まります。




人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!