ウィトラのつぶやき

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人間の知恵とAIの知恵ーアルファ碁から考える

2017-11-12 20:01:48 | 囲碁

囲碁の分野でグーグルが開発したアルファ碁が人間を超えたことは既に有名である。そのアルファ碁は今年の初めに世界のプロ棋士の強豪を相手に60連勝以上して、その後世界最強と言われる中国の棋士に3連勝した後は「もう人間とは対戦しない」と宣言していた。そのアルファ碁が最近Alpha Go Zeroというのを開発して更に進化した、と発表した。

これでグーグルの開発したアルファ碁はAlpha Go Lee、Alpha Go Master、Alpha Go Zeroと3バージョンになった。Alpha Go Leeは昨年春に韓国のトップ棋士を4勝1敗で破って人類を驚かせたバージョン、Alpha Go Masterは今年の初めに世界のプロ棋士を総なめにしたバージョンである。これらは人間の棋譜を与えてある程度強くした後で、コンピュータ同士の強化学習で強くしたものである。そしてAlpha Go Zeroは人間の棋士の棋譜を与えず、コンピュータ同士の対戦のみから学習させたバージョンである。Alpha Go ZeroはAlpha Go Leeに100戦100勝、Alpha Go Masterには100戦90勝程度だという。そしてバージョンの異なるアルファ碁同士の対戦の棋譜を公開した。それが「棋譜う」というサイトにいくつかアップされている。

棋譜を見るとAlpha Go ZeroとAlpha Go Leeの間にははっきりとした実力差があることが分かる。Alpha Go ZeroとAlpha Go Masterの実力差は私には分からなかったが、結果としてはAlpha Go Zeroがほとんど勝っている。過去の人間の知識が、最適解を見つける際の妨げになっていることが分かる。

Alpha Go ZeroとAlpha Go Masterの対局では「アルファ碁定石」とでも呼べるような同じパタンが何度も出てくる。アルファ碁は次の候補手を得点化して最も得点の高い手を選んでおり、点差が小さいときには乱数を使って着手を選んでいるはずだから、同じパタンが繰り返し出てくるということは、他の手との得点差があるということだろうと思う。

興味深いのは白がA、黒がBという形になる定石が出来た場合に、Alpha Go Zeroは白でも黒でもAの形を選び、Alpha Go Masterは白でも黒でもBの形を選んでいる点である。つまりAlpha Go ZeroはAが有利、Alpha Go MasterはBが有利と考えているようである。学習は通常、初期段階では乱数の要素を大きくしていろいろな手を試し、成熟してくると乱数の要素を小さくするものだから、学習は相当に成熟段階にきていると見てよいだろう。

このことから、過去の人間の着手はかなり良い着手ではあるが、最善ではない。そして、かなり良い手であるがゆえに、Alpha Go Masterは人間の呪縛から抜け出せない、ということだと推測している。

一般的な人間の常識にもこのようなことが多々あり、これからコンピュータに教えられることが増えてくるだろうと思う。



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8 コメント

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人工知能の発達 (世田谷の一隅)
2017-11-13 18:33:33
なかなか面白い推論ですね。この調子でAIがだんだん進化すると、自ら色々な手段を考えて能力アップの手段を考える事も可能になります。

巷間言われているような、2040年頃にシンギュラリティが起きることもひょっとして有り得るのではないかと思います。

まったく何もないところから、クリエイティブな考え方を生み出すのではなく、今の事象を一つ一つ積み重ねた時に、今までの常識と理論では説明がつかないようなことが起きうる、それを説明する様な理論すらひょっとしたら考えつくようなヒントを与えてくれ、さらのその検証までAIが活躍するような構造が見えます。

少し飛躍するかもしれないけど、ニュートン力学で説明できない事象が出てきた時に、アインシュタインがニュートン力学を、低速での「近似式」として扱う事で、その後の展開を理論づけることができたと同じように。

何かのヒントをAIに与える事により、その先の諸課題を克服できるというのは、今後も有り得ることです。そのヒントすら、過去に当たり前としてきた現象や理論を「近似式」として、過去の理論体系から大きく外さないような調整が可能にするのは、人間だけの得意技ではないように思います。

ここまでくると、確かに、多くの仕事はAIに任せて、一方では任せられない領域だけ優れた人間がかかわるとしたら、それ以外の人間が出る幕は急速に狭くなっていく。恐らく、格差の大きい社会が実現しているような気がします。

AIを使いこなし、商品やサービスを効率よく提供できる一部の国と人々だけが活躍し、それ以外の人間は、AIに使われるしもべになってしまい、この格差は簡単には解消しないように見受けます。そんな状況をいかに克服するかも現代人の大切な役割ですが、どこかの一部の人だけが知識と成果を独占しかねないのも現実のシナリオとしてはあり得る様に思います。制限したり、抑制するのは難しいでしょうね。
人はAIに共感できるか? (通りすがり)
2017-12-07 17:35:00
>コンピュータ同士の対戦のみから学習
コンピューター同士の学習による進化は、ひとつの転換点のような気がします。

>Alpha Go ZeroとAlpha Go Masterの実力差は私には分からなかった
恐らく人は棋士の強さだけではなく、人間性にも共感するのではないかと思います。コンピューター同士の学習で進化する強いだけAIに、人は共感出来るのでしょうか?

>これからコンピュータに教えられることが増えてくる
コンピューター同士の学習で進化したコンピューターの問題解決能力は高いかもしれません。しかし、人間の理解を越える AI に、人は共感できるのでしょうか?
AIの提示する解に共感するか? (世田谷の一隅)
2017-12-08 16:23:24
通りすがりさんは、AIの提示する解に共感できるのか?との問いかけですが、共感できない領域もあれば、共感できる領域も有り得るだろうと思います。

例えば、色々な要因が複雑に組み合わさって生じている生態系の現象に対して、数多くの症例や実験結果などから、それらのどの因子がその症例に関わっているのかを現在の人間の記憶、経験に頼るとどうしても、不確かさの中に埋もれてしまって抽出できないのが現状だと思います。

それに対して、AIであれば、多くの混乱因子の中から、共通的な現象、影響因子を抽出し、それに基づく方向付け、推論を出すのは、段々可能になってくると思います。

もし、こんな実例が報告されるようになると、私は、そのプロセスを考えた人間なり、AIを「素晴らしい」と思ういます。「人間が理解できないから共感できない」のレベルを嘆くより、その解決のプロセスをAI自身に説明させることで人間も、その追認ができたり、共感することも可能だと思います。

嘆いているのではなく、浮かれていないだけ (通りすがり)
2017-12-08 21:50:48
世田谷の一隅さん、コメントありがとうございます。

コンピューター同士の学習で進化したコンピューターが囲碁をやるようになったとして、それを人間が見て何が面白いのだろう思いました。人間にとって価値あることをコンピューターに学習させているうちは良いのですが、お互いを学習することで進化し始めたコンピューターがもたらす価値というものを、ちょっと考えてみたのです(嘆いているのではありません)。「her/世界でひとつの彼女」という映画にも、AI同士が学習するようになって人間との距離が離れていく描写がありますが、興味深いテーマではないかと思います。

問題解決能力と共感は必ずしも相反するものではありませんが、コンピューター同士の学習で進化した、何をやっているかわからないコンピューターを、人間が理解し、信頼し、価値を見出すのは難しくなっていくのではないかと思った次第です。もちろん、そんなコンピューターで儲けたい人は美辞麗句を並べ立てるでしょうが、そうしたコンピューターの真正さを評価する社会的なコストも必要になるでしょう。なんだか、コンピューターで一儲けしたい人の為に世の中が回っているような気もしますが、そうしたsコンピューターの真正さの評価コストや、失業対策などの社会的コストが、コンピューター同士の学習で進化した何をやっているかわからないコンピューターがもたらす利便性に見合うものどうかという、視線は必要な気がします。
嘆いているのではなく、浮かれていないだけ (通りすがり)
2017-12-08 21:51:08
世田谷の一隅さん、コメントありがとうございます。

コンピューター同士の学習で進化したコンピューターが囲碁をやるようになったとして、それを人間が見て何が面白いのだろう思いました。人間にとって価値あることをコンピューターに学習させているうちは良いのですが、お互いを学習することで進化し始めたコンピューターがもたらす価値というものを、ちょっと考えてみたのです(嘆いているのではありません)。「her/世界でひとつの彼女」という映画にも、AI同士が学習するようになって人間との距離が離れていく描写がありますが、興味深いテーマではないかと思います。

問題解決能力と共感は必ずしも相反するものではありませんが、コンピューター同士の学習で進化した、何をやっているかわからないコンピューターを、人間が理解し、信頼し、価値を見出すのは難しくなっていくのではないかと思った次第です。もちろん、そんなコンピューターで儲けたい人は美辞麗句を並べ立てるでしょうが、そうしたコンピューターの真正さを評価する社会的なコストも必要になるでしょう。なんだか、コンピューターで一儲けしたい人の為に世の中が回っているような気もしますが、そうしたsコンピューターの真正さの評価コストや、失業対策などの社会的コストが、コンピューター同士の学習で進化した何をやっているかわからないコンピューターがもたらす利便性に見合うものどうかという、視線は必要な気がします。
AI囲碁は面白い (ウィトラ)
2017-12-10 16:45:36
通りすがりさんへ
私は囲碁をかなりやりますが、AI同士の対戦は見ていて面白いです。下手な人間のプロ同士の対戦よりもずっと面白い。それはAIのほうが明らかに強いからです。実際、最近はAI同士の棋譜を見ることに時間をかけています。
我々アマチュアがプロ棋士の棋譜を見るのも、プロのほうが強くて打ち方が参考になるからです。今は日本のプロ棋士よりも中国・韓国のプロ棋士のほうが強いので強いアマチュアほど中国・韓国の棋士の棋譜を見ます。そしてさらに強いAIの棋譜を見るのは当然です。
誰が打ったかは関係なく「良い手」を見たい。そのためには最も強い対局者の棋譜に人気が集まります。おそらく音楽なども将来的には同じ傾向になると思います。
個人的なプレーヤーのファンでその人がやっていれば成功でも失敗でも全て面白い、という人もいるでしょうが、少なくとも私は違います。
あくまでも主役は人間ではないか? (通りすがり)
2017-12-11 12:40:37
ウィトラ様
ご丁寧なコメントありがとうございます。

今、人間がやる囲碁をコンピューターにやらせてみて、そこに面白さを見出すことを否定しているわけではありません。しかし、
・囲碁の核心が「強さ」であるならば、コンピューターより弱い人間が将来的に囲碁を続ける意味がなくなるのではないか?
・囲碁が人間がやるものではなく、コンピューター同士がやるものになった時、「良い手」に対する興味のみならず、囲碁そのものに対する人間の興味が希薄になっていくのではないか?
・換言すれば、コンピューター同士の対局を絶対視するのではなく、あくまでも主役は人間として考えていくべきではないか?
と、思った次第です。

余談になりますが、ハリウッドではメジャー映画の脚本にAIが採用され始めています。しかし、新たなトレンドを作り出しているのは制作者の個性がより強く現れるインディーズ映画だったります。AIもさらに進化してトレンドセッターになるかもしれませんが、そうすることの意味合いに疑問を感じ始めています。巨額投資して、脚本家の仕事を奪う必要が本当にあるのか?ひとえに誰かが儲ける為の口実に過ぎないのではないか?もっと人間中心に考えていいのではないかと・・・。
シナリオを描くのはAIか人間か (世田谷の一隅)
2017-12-11 17:40:39
通りすがりさん「人間へのこだわり」に力点を置いた見方は面白いですね。

ウィトラさんの強い力にあこがれるのも理解できます。通りすがりさんは、シナリオ制作へAIが進出する事を分析していますが、映画でも「true story」と副題があると、同じような内容でも、感動の度合いが違います。やはり「実話、本当にあった話」はそれだけアピール力があると思います。

映画や小説の様に、「面白い」事は大切な要素ですが、それにとどまらず、true storyはやはりアピール力が違います。だから、どこまでも人間が直面し、遭遇し、体験した話と言うのはアピール力があると思います。当面の間(20~30年程度?)、AIは人間の想像力を支援する領域にとどまるだろうと思います。

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