備忘録として

タイトルのまま

知られざる日本の面影

2009-11-15 20:08:30 | 近代史
小泉八雲の「知られざる日本の面影」に、月照寺の亀が夜な夜な松江の町を徘徊していたという話が書かれているらしいということは以前、亀跌(きふ)の回で書いた。息子が大学の授業の教科書として使っていた「新編日本の面影 ラフカディオ・ハーン 」池田雅之著を息子の部屋で見つけたが、それは全訳でなく、月照寺の亀の話は載っていなかった。そこでGoogle Bookで探したところ、「Glimpses of Unfamiliar Japan」 by Lafcadio Hearnにその話はあった。
”But the most unpleasant customer of all this uncanny faraternity to have encountered after dark was certainly the monster tortoise of Gesshoji temple in Matsue, where the tombs of the Matsudairaa are. This stone colossus is almost seventeen feet in length and lifts its head six feet from the ground. On its now broken back stands a prodigious cubic monolith about nine feet high, bearing a half -obliterated inscription. Fancy--as Izumo folks did--this mortuary incubus staggering abroad at midnight, and its hideous attempts to swim in the neighboring lotus-pond! "(訳:日没後に出会う薄気味悪い連中の中でも最も不快な客は、松平家の菩提寺である月照寺の大亀だったに違いない。この石像は長さが17フィート(5.1m)で、首を地面から6フィート(1.8m)も持ち上げている。その背中に、半分消えかかった碑文が刻まれた高さ9フィート(2.7m)の巨大な長方形の石柱を背負っている。出雲民話にあるように、この死霊のような悪夢が夜中に町を彷徨し、近くの蓮の池を泳ぐ忌まわしい姿を想像してみてくれ!)

日本海からの強い風を利用して山陰では風力発電の建設が盛んで、写真は11月始め山陰の江津の浅利海岸で見た風力発電の風車の異様である。ネットで見つけた事業主体の江津ウィンドパワー(株)が出した事業計画書によると、タワーの高さが80m、羽の直径が86mという巨大なものである。3年前に通ったときにはなかった。山陰では、この2~3年の間に驚くほど風車が増えた。出雲市北部の島根半島に大規模な風力発電が計画されたときには、神話の里の歴史的景観を損なうという意見やオオタカや渡り鳥などの野鳥の生態系が破壊されるなどの反対意見が出たが結局計画を若干変更しただけで建設は強行された。

小泉八雲は「知られざる日本の面影」の中で、朝日に映える宍道湖とその向こうに聳える島根半島の連峰を幻想的に描写している。
”湖は実際より遙かに大きく見えるため、実在のものではなく、夜明けの空と溶け合って空色に色づいた美しい幻の海のようであるし、峰の頂は霧の海に浮かぶ島々のように聳え、長い土手道のように連なる幻想的な尾根の影は見えなくなるまで続いている――細やかな霧のように風雅な混沌、普遍の景色が、ゆっくりと、とてもゆっくりと、立ちのぼる。黄色い日輪が見え出し、暖かく晴れやかな輪郭がぼんやりと現れる頃には――幻想的な薄色と練色は沖の彼方に消え、梢は萌え立ち、鳶色だったあるがままの巨峰の眺めは、爽やかな霞を透かして見える夢のような黄金色へと変わる。”
原本の英語は極めて詩的で自分ではうまく訳せないので、こちらは訳本の訳を使わせていただいた。

巨大な風車が、”夜明けの空に、霧の海に浮かぶ島々のように聳え、長い土手のように連なる幻想的な屋根のような峰が、日が昇るにつれ、梢が萌え立ち鳶色が夢のような黄金色に変わる”島根半島の連峰に立つとき、小泉八雲が見た神の国の風景をどこまで変えてしまうのだろうか。

化石燃料を使わない風力発電はクリーンエネルギーと言われるが、景観だけでなく以下の問題点も指摘されている。
1.貴重種のイヌワシやオオタカなどの鳥やコウモリが衝突し死傷する。
2.人間の聴覚で認識できない低周波音(20Hz以下)が、頭痛、不眠、ストレスなどの健康被害を起こす。
前出の事業計画書では、「調査の結果、環境に与える影響はほとんどない」、「風車によって、そのような低周波が発生した例はない」というものだった。

最新の画像もっと見る