鹿島アントラーズはあと一歩届かず敗退。
敗因は「CKの守備」だけだったのだろうか?
Text by 後藤 健生
AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループステージが終了。日本勢では柏レイソルとガンバ大阪が1位突破。一方、鹿島アントラーズと浦和レッズが最下位という結果となった。出場4クラブすべてが決勝トーナメント進出を果たした韓国勢には水を開けられた形だが、第3節まで各クラブが連戦連敗で柏以外は総崩れかと思われたが、最後は持ち直し、鹿島も最終戦の最後の時間帯まで「突破」の可能性を持って戦えていた。Jリーグの代表として、最低限のプライドだけは守られた。そんな結果だった。
このコラムでも何度か書いた記憶があるが、日本勢には「2/3月の第1節、2節は大苦戦。Jリーグ開幕後の時期に当たる第3節以降持ち直し、最後は大型連休絡みの過密日程の犠牲になってグループリーグ敗退」。大雑把に言うと、そんな傾向がある。
今シーズンは、第1、2節は予想通りだったが、不振が第3節まで続き、その後盛り返して、大型連休疲れもなんとか乗り切ってくれたかっこうである。
先日、浦和がホームで水原三星に敗れてグループステージ敗退が決まった時、水原の徐正源(ソ・ジョンウォン)監督に「Jリーグ勢は個人のスキルは高いが、スピードとコンタクトプレーの強さが足りない。韓国の選手は、スキルでは日本選手に劣るが、スピードで上回る」とズバリ指摘されてしまった。
敗戦直後では、何も言い返せなかった……
一方、火曜日の最終節で鹿島を破ったFCソウルの崔龍洙(チェ・ヨンス)監督は、外交辞令というか、あまり本音は言わず、日本批判もなかったが、鹿島のトニーニョ・セレーゾ監督が日本選手に対して辛辣な言葉を発した。
「日本人はヘディングが嫌いなのだろうか? 文化的に喧嘩することを好まないからなのだろうか、体を使って守備ができる選手がいない。生きるために苦労する環境にないからかもしれない」といった指摘だ。
せっかく互角の戦いを繰り広げておきながら、CKから簡単に2点を奪われてグループステージ敗退が決まった直後だったからだろうか。トニーニョ・セレーゾ監督は怒っていた。
(ここで、徐正源監督とトニーニョ・セレーゾ監督のために付記しておけば、両監督とも記者会見でそういう発言をしたのは、そういう答えを聞きたい記者が質問したからだった。好き好んで日本人批判をしたわけではない。選手や監督のコメントというのは、須らくそういうものなのである)。
いずれにしても、最近は日本チームが負ければ、「激しさが足りない」、「守備の意識が足りない」と批判するのが流行のようで、ACLで敗戦が続いていた時期にはそういう論調の批判がメディアに氾濫した。
それは、もちろん、的外れな批判ではない。日本のDFには1対1で「どんなことをしてでも相手を止めてやろう」という気概を持つ選手が少なく、また、守備の技術や個人戦術が劣っている。
しかし、そんなことは、もうずっと前から分かっていたことだ。数年前までは育成年代の指導者たちもポゼッション・サッカー一辺倒で、守備を教えることがなかったのだから、当然の結果である。何も、日本の社会や日本の文化、民族性を持ち出すまでもない話である。
だが、ようやく、最近になってたとえば鹿島の昌子源や植田直通など強さを持つ若いセンターバックも出て来るようになってきている段階だ。しかし、ブラジル・ワールドカップでの敗戦や、その後日本代表監督に就任したハビエル・アギーレやヴァイッド・ハリルホジッチも盛んにそのような「強さ」「激しさ」を求めるような発言をしたこともあって、日本では今になって「守備批判」が一種の流行になってしまったのだ。
「何も今さら……」と思うわけである。
そして、日本チームが負けると、すべてが「そのせい」にされてしまうのも危険な兆候だ。
ゲームの勝ち負けというのは、実に多様な原因が絡み合っているものだ。そのあたりを深く掘り下げることなく、すべてが「日本選手の守備が弱いから」で済ませてしまうのはおかしい。
たとえば、鹿島がFCソウルに敗れた最終戦。CKからの2失点で敗れたことをトニーニョ・セレーゾ監督も再三指摘していたし、「セットプレーでの守備の弱さ」は紛れもない事実である。「直接的な原因」だ。
だが、敗因はそれだけなのだろうか? たとえば、その失点につながったCKは、どういうプレーから生まれたものなのだろうか?
鹿島のピンチとなった場面の多くは、中盤でのパスをカットされたものだ。もっとも、「ボールを奪ってショートカウンター」というのは世界共通の傾向であり、特別なことではない。だが、鹿島とFCソウルの試合ではそういう場面が多過ぎたのだ。
それは、攻撃のミスのせいだ。無理に前の選手にパスを通そうとして、前の選手が受ける瞬間を狙われていたわけだ。
FCソウル戦。鹿島は勝たなければグループステージ突破ができない状況だった。だから、攻め急ぐ心理は分かる。だが、鹿島は開始早々の8分、赤崎秀平が正面から見事なシュートを決めてリードした。だから、「これで落ち着くかな」と思ったのだが、その後も鹿島は攻め急いだ。トップに早くボールを預けようとして前がパスを受ける準備を終えないうちに蹴ってしまう。FCソウルのスリーバックのサイドを使うという狙いは当然だったとしても、予備動作なしにいきなりコーナー付近に蹴り込んで遠藤康やカイオにボールを送っても、そう簡単にキープできるものでもない。
そして、そうした縦に急いだパスをカットされて、ピンチを招き、できれば避けたいCKを与えてしまったのだ。若い選手が多い鹿島の、精神的弱点だったのだろうか。
つまり、鹿島の直接の敗因は「CKの時にきちんと競り合うことができない」という守備の欠点だったのだが、同時に攻め急いではカットされてピンチを招いた攻撃の拙劣さが、その背景にある遠因だったのである。
もし、日本選手に守備ができないのであれば、攻撃力をさらに磨いて攻め勝ってしまうという解決方法だってあるわけである。「守備批判一辺倒はおかしい」というのは、そういう意味でもある。
ACL・FCソウル戦につて記すJSPORTSの後藤氏である。
トニーニョ・セレーゾ監督の記者から引き出されたコメントを元にコラムを書いておる。
CK二つで逆転されたことに対して、「攻め急いではカットされてピンチを招いた攻撃の拙劣さが、その背景にある遠因だったのである」と言う。
これももっともであろう。
確かにこの試合、多くのパスミスが見られた。
これでは、流動的な攻撃を連続して行うこと運んであったやもしれぬ。
とはいえ、それはFCソウル側の守備もあってこそであろう。
鹿島の視点ではなく見れば良い試合であったと言い換えることも出来る。
攻防が激しく見応えがあったように思える。
中盤でのミスもあったが、それも踏まえてレベルである。
このような試合を経験して選手は成長していくもの。
来季もまた、このステージにて戦うべく、リーグ戦での優勝を目指したい。
ここからの巻き返しに期待である。