「熱闘」のあとでひといき

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拓殖大学 vs 大東文化大学(2012.09.16)の感想

2012-09-17 12:59:55 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
[キックオフ前の雑感]

永年リーグ戦Gの観戦を続けていて不思議に思うことがある。それはチーム同士の相性の問題。戦力や当該チームが置かれている状況に関係なく、どうして勝てないのだろうという解明が難しい現象が少なからずあるのだ。例えば、日大と中央大の試合が典型的で、日大が圧倒的に攻めながらも得点できずに時計が進むうちに、耐え凌いだ中央大に得点を許して僅差で負けてしまうこと。あるいは、戦力的に優位な状況にあるにも関わらず、なぜか流経大に勝てなかった東海大といった具合。

もちろん、最近はそんなジンクスのことは知らない選手が多いし、実力差がはっきり出るラグビーだから上記のようなことも現実味がなくなっている...はずだったのだが、ひとつ新たなジンクスになりそうな対戦カードがある。それはこの日の拓大と大東大のマッチアップ。なんとこのカード、拓大が4連勝中なのである。とくに過去2シーズンは拓大が最下位に沈み、大東大は大学選手権出場を果たしているのに。内容は1点差の惜敗から大敗までいろいろあるが、実査には大東大が上回っていた場合の方が多いと記憶している。

さて、そんなジンクス?は吹き飛ばしたい大東大だが、大黒柱のデピタが不在の他にも緒戦でNo.8の種市とFBの小間が負傷でメンバーから外れるなど、さらにメンバー構成に苦労する状況となっている。No.8にはFLのフィリペが回る形となった。また、期待の長谷川は本日もLOで出場だが、緒戦の鬱憤を晴らすようなランニングを披露してくれるだろうか。ルーキーながらキック力で存在感を示したSO碓井はラインコントロールの方でも思いっきりのよさを示して欲しい。あと、緒戦では精彩を欠いてように見えたSH茂野主将の奮起に期待したいところ。

この日初陣の拓大はLOヘル・タウアテ・ヴァル・ウヴェ(ヘル:3年)とSOパトリック・ステイリン(2年)の2人の留学生を軸としたチームだが、FW、BKともリーグ戦Gでは小兵の選手がお多い。頼りは前記2人の他に大学屈指のトライゲッター大松の決定力なのだが、メンバー表の隅々まで眺めても彼の名前が見当たらない。大駒のテピタを欠く大東大以上に拓大はピンチと言える。ただ、春シーズンの立教大戦(この日も大松は不在)を観て感じたことだが、今シーズンの拓大はFWが近場でボールを動かしてからオープンに展開して勝負するスタイルに戦術を変えてきている。個人能力に過度に頼ることはせずにチーム力でトライを取ろうとする形が実を結ぶのかどうか見極めたい。

[前半の闘い]

本日の熊谷ラグビー場は曇りがちで時折心地よい風も吹く天候。風も北寄りで酷暑により消耗を心配する必要はなさそう、といったある種安堵感がある中、大東大のキックオフで試合が始まった。開始早々の3分、大東大は自陣ゴール前でのラインアウトといきなりピンチを迎える。しかしながら、ここは拓大がオブストラクションを犯し救われる。


直後の5分、大東大はHWL手前の位置でのラインアウトからモールを形成して前進し、FWのサイドアタックでNo.8フィリペが22mライン付近まで突破を果たす。大東大はさらにラックからオープンに展開し、SO碓井からライン参加したFB今村が拓大ディフェンスを切り裂いて右中間にトライ。碓井のGKも成功し点を先制と、大東大は幸先のよいスタートを切った。

この先制点に勢いを得た大東大の攻勢が続く。12分にはPR高橋が拓大陣22m手前でキックチャージに成功して拓大ゴールに迫る惜しい場面も。14分にも期待のLO長谷川が拓大陣でのラインアウトを起点として大きく前進して22m付近まで到達してラック。オープン展開は惜しくもノックオンとチャンスを活かせない。直後のスクラム(拓大ボール)ではコラプシングを犯し、この辺りから試合の流れは拓大のほうに傾き始める。

17分、拓大は大東大陣22m手前の位置でPKのチャンスを得るが、狙わずにゴール前でのラインアウトを選択。まずは確実に3点を取るべきではと思ったが、躊躇なくPGを選択しなかった理由はすぐに分かることになる。大東大陣ゴール前でのラインアウトからモールを形成し前進を図るが、大東大が抵抗らしい抵抗も見せられないまま、拓大FWの塊が「あっさり」とゴールラインを越えて最後尾に位置したヘルが難なくグラウンディングに成功。拓大はこの形(モールで押してヘルで取る、あるいはサイドアタックで大きく前進する)をしっかりと練習してきたようだ。だが、あまりにも淡泊で正直(大東大は)大丈夫かなと思った。ゴールキックは外れるが5-7と拓大のビハインドは2点に縮まる。

拓大に勢いが出てきそうな状況だったが、大東大は22分にPGで追加点を奪う。右中間28mの位置からSO碓井が冷静に決めた。彼のキック力は大東大の武器になりそうなことを確信させた安定したキックだった。これで大東大に少し余裕が出てくるはずだったが、ウォーターブレイクの後、拓大にエンジンが掛かる。キックオフで大東大選手がファンブルしたボールをゲットしたヘルが大きく前進。拓大は22m内に入ったところでラックからオープンに展開するが惜しくもノックオン。

拓大が攻勢に出たところで、その目指すスタイルがはっきりしてきた。切り札の大松を欠いていることもあるが、シンプルにオープンに展開するラグビーは封印して、まずFWで近場を攻めるアタックを繰り返してからBKラインにボールを渡すスタイル。春から徹底してこの形に磨きをかけて来ているためか、しっかり継続が出来ている。FWのヘルとBKのステイリンの2枚看板が活きる形だ。大東大もしっかりタックルに入っているが、この拓大の(痛さを厭わない)FW中心のアタックがボディブローのように効いてくることになる。

拓大が攻勢に出ているものの、ミスが多くチャンスを活かし切れているとは言えない状況。だから、大東大にも平等にチャンスはやって来る。32分には拓大陣10m/22mの位置でのスクラム(拓大ボール)がアーリーエンゲージとなり、大東大はタップキックからの速攻で拓大ゴールに迫る。しかしながら、拓大DFの状況から見てもラストパスになるはずのパスが山なりでスローフォワード。しっかりとパスを通していればゴールまで到達する可能性大で優位に立てたかも知れない。雑なプレーがチャンスをむざむざ潰してしまったかっこう。

ラグビーでもチャンスの後にピンチはやって来ることになっている。38分、拓大は大東大ゴール前で得たラインアウトのチャンスを再び活かす。モールを形成して前進したところで大東大がコラプシングを犯すもののアドバンテージでプレーは続行し、ヘルが再びグラウンディングに成功。このモールによる失点もほとんど抵抗なく押されてしまう、淡泊なディフェンスを象徴するようなものだった。ここで、ある確信が頭の中をよぎった。「これでは大東大は勝てない。」

今度はコンバージョが成功し、拓大は12-10と前半終了間際に逆転に成功。結果から見れば、大東大はしっかりと耐えるべきだった。いや、耐えられなかったと言うべきか。モールを押す練習はしていても、モールディフェンスの練習をしっかりやっていたかに疑問が残る。いろいろな意味で大東大の現状を象徴するような前半のモールによる2つの失点だった。大東大は修了間際の43分に碓井が右中間38mのPGを狙うが外れる。ここで前半が終了した。

[後半の闘い]

前半は大東大の学生達が陣取る位置の近くで観戦していたのだが、どうも居心地がよくない。それは、言動に問題があるというのではなく、自分達のチームを応援する態度に?が感じられたから。少なくともピッチで戦っている同僚達との一体感が感じられないのだ。控えであってもチームの一員が「内部事情をよく知っている観戦者」では困るはず。次の試合を戦っていた東海大と日大の選手達のような、しっかりと前を見て(敵味方は関係なく)ピッチ上で行われていることを自分たちの普段の練習に活かそうとするような姿勢が見えてこない。

と言うことで、後半は拓大側に移動して観戦することにした。そこで、ピッチ上で実践されているラグビーの内容(取り組み姿勢)と控え部員の観戦態度には相関がありそうなことを実感した。拓大の選手達はエース達が卒業していく中で、何とか2年連続最下位という屈辱的な状況から脱出したいという姿勢が見て取れた。

後半は、前半で抱いた大東大に対する危惧が現実のものとなってしまった。開始早々から大東大は自陣を背にスクラムのピンチを迎える。2分、プレッシャーをかけられてマイボールを失い攻め込まれるが相手のノックオンに救われる。続くスクラムでも押されてピンチとなるが、辛くもアンプレアブルで失点は逃れた。そして3度目の正直、拓大ボールとなったところで執拗にサイドアタックで攻め込まれ、ヘルにゴールライン突破を許す。GKは失敗したが拓大は17-10とリードを7点に拡げた。

リスタートのキックオフでもカウンターアタックから逆襲を許し、連続攻撃でボールを一気に自陣ゴール前まで運ばれる。ここも拓大のノックオンに救われるが、スクラムはホイールされてピンチから逃れられない。拓大はゴール前スクラムからサイドを攻めてゴール正面に近づいた位置から右オープンに展開。FB山本がDFを振り切ってゴール右隅に飛び込む。難しい位置からのGKも決まり拓大のリードは14点に拡がった。

何とか早く1トライ返して逆転に繋げたい大東大。24分には拓大陣ゴール前のラインアウトから得点を狙うがノックオン犯し、ボールを背後に大きく蹴られて一転して失トライのピンチとなる。自陣ゴール手前で何とかボールを奪い返してタッチに逃れる。続くラインアウトではオブストラクションを犯し、大東大はピンチから逃れられない。そして27分、ラインアウトからヘルにこの日4個目となるトライを献上。GKは失敗するが10-29となり逆転勝利への道程はどんどん険しくなっていく。31分には拓大陣10m付近でのラインアウトでスティールに遭ってビッグゲインを許し、FB山本が拓大ゴールに到達。この34点目が拓大勝利の決定打となった。

残り時間が少なくなっていく中、終了間際の39分、大東大は拓大陣22m付近でのラインアウトからオープンに展開し、ゴール前でのラックから出たボールをNo.8フィリペがグラウンディングに成功(GKも成功)するが時既に遅し。長谷川が突破を図る場面も見られたが、「孤軍奮闘」の感が強く、背中には悲壮感も漂う。最後は34-17の予想外とも言えるスコアで拓大は2年連続最下位脱出に向けて確かな手応えが掴む勝利を収めた。これで、拓大は大東大に対して5連勝達成。大東大はジンクスを敗れなかったどころか、今後のリーグ戦での闘いにも暗い影を落とす危機的な状況に陥ることになってしまった。

[試合後の雑感]

前年度の実績だけでなく、エース大松の不在といった状況からも劣勢が予想された拓大だったが、結果はダブルスコアの完勝。とくに、これまでのBK展開指向からのモデルチェンジを図って、FW中心で組み立てるスタイルが緒戦での勝利という形で実を結んだのは嬉しい材料と言えそう。今後の相手はどこも拓大より強くて大きなFWを持っているチームが揃っているため、さらに厳しい闘いを強いられることになりそうだが、ヘルやステイリンを核として一丸となったチームはしぶとく闘い抜ける力を持っていると言えそう。華麗なオープンラグビーを封印してでも上を目指す拓大ラグビーがどこまで頑張れるかに注目したいと思う。

緒戦の法政戦で勝てる試合を落としてしまった感が強い大東大。その緒戦で支配的だったのは「残念感」だったはずだが、今日のダブルスコアの敗戦でそれも幻に見えてしまう。現実を見据えてみると、今後対戦するチームはどこも大東大にとって厳しい相手と言わざるを得ない。確かにテビタの不在は痛い。しかし、大松が不在でも全員ラグビーで勝利を収めた拓大のことを考えれば、実績もネームバリューも素材も上を行く大東大に対して「不甲斐ない」という言葉を使わざるを得ない。ピッチの上で頑張っている選手達に対し送る言葉としては適切とは言えないが、危機感をバネに必死になって頑張っている相手のことはピッチ上にいた選手達自身が一番よく分かっているはずだ。

もし私がその立場にあればだが、スタンドで観戦した学生達に「本日の敗因は何か? また、チームを強くするためには何が必要か?」というテーマでレポートを書かせたいくらい。指導者の責任云々を言う前に学生の自覚が必要なのではないだろうか。チームは、「主力の不在」だけでは説明できない危機的な状況に置かれているような気がしてならない。

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