松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

科学ライターのお金の話1

2009-05-24 00:55:18 | Weblog
 面白い話を聞いた。日本科学技術ジャーナリスト会議が5月14日に開いた「科学ジャーナリスト賞2009」授賞式でのこと。「『ダーウィン『種の起源』を読む』(化学同人)で大賞を受賞した北村雄一さんがスピーチの中で「年収は200万円だ」と話し、会場がどよめいたというのだ。
 会場にいる人たちは、そんなに少ないとは思っていなかったのだろう。でも、私は深くうなずける。まじめに科学ライターをしていたら、そういうことになる。

 私は会場で直接スピーチを聞けたわけではないので、不躾ながら北村さんにメールを送って「本当ですか? ブログに書いていいですか?」と尋ねてみた。
 やっぱり、私のまた聞きエピソードは、少し違っていた。より正確には、北村さんはこう言ったそうだ。「年収200万を越えるには本を4冊書く必要があり、年収300万を越えることは原理的に不可能である、というか年収はぶっちゃけ200万円台でしてねーあははははー」
 本代や資料代などの必要経費を差し引かない「収入」の話である。ということは、書籍代や学術論文のダウンロード代や電話代や交通費など諸経費を引いた「所得」は……。
 
 北村さんのウェブサイト「サイエンスライターという仕事と展望」でも、がっちりと科学ライターという特殊な仕事について考察してある。
 北村さんは書く。「事実をそのまま伝えるよりも、むしろ人間が受け入れやすいように情報をねじ曲げる/あるいは改ざんした方がよく伝わる」と。その結果は、こうだ。
「サイエンスライターというのは
 余計な仮定をそぎ落し、仮説を選び、その検証を果てしなくくり返す科学という営みと
 効率的に繁殖する噂を作る作業との
 ありうべからざる結婚をとりおこなう職業なのです。」
 
 でも、フリーのライターは文章を売って食って行かなきゃならない。科学を適正に伝えることと売れる文章を書くことが両立できないとなると、次のような可能性が出てくる。
「フリーランスなサイエンスライターは生活をする上で噂の方を優先させ、正確さを犠牲にする
 これは強力な圧力であると言えるでしょう。生か死か?そうなったらそりゃあ噂をとるよなあ」

 科学を適正に伝えるフリーのサイエンスライターが存在しえない、ということになれば、どうしたらいいか? 北村さんはこう提案する。
「国家官僚がサイエンスライターをやればいいじゃないか」

 以上は抜粋なので、ぜひぜひ北村さんのお書きになったものを読んでください。
 北村さんが、ありうべからざる結婚に真摯に取り組んでいる証しが、科学ジャーナリスト大賞受賞であり、年収200万円台なのだろう。本当におめでとうございます。心からお祝いします。

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1 コメント

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隣の芝生 (pongchang)
2009-05-25 17:25:35
http://ehonsakka.exblog.jp/
田中さんの絵本の実情も良く似ているらしいです。極く最初期の項目を特にご覧ください。
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