松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

科学ライターのお金の話2

2009-05-24 00:50:38 | Weblog
 北村雄一さんの話だけ書いて自分のことを書かないのは、なんだか卑怯な気がする。それに、「国家官僚がサイエンスライターになればいい」で思い出したことがあったので、ちょっと書いてみる。

 私の収入が新聞記者時代の年収を初めて超えたのは、フリーライターになって9年目の昨年だ。ということは、同期で新聞記者になっている人たち(多くがデスクになっている)と現時点で比較すると、やっぱり収入は大幅に少ない。
 念のため言っておきますが、私は安給料で有名な毎日新聞の出身。朝日新聞の記者と比べたら、うーん、惨めすぎる。
 
 でも、北村さんよりは楽だ。得意分野が「食」なので、原稿や講演依頼が多い。世の中は「食の安全」バブルだったので、ライターも少し恩恵にあずかれた。ちなみに、今年の年収はおそらく昨年よりも下がる。食の安全バブルもはじけたようだ。

 で、私も「国家官僚がサイエンスライターになって科学コミュニケーションもやればいい」と思ったことがあった。
 昨年、○○省系の社団法人から連絡があった。「○○省の地方機関がリスクコミュニケーションを開く計画をしている。講師として紹介したい」とのこと。2時間でギャラは22000円という。

 私の家から会場まで3時間くらいかかる。往復6時間+リスコミ2時間+講演内容を考えパワーポイントファイルを作る時間が少なくとも2~3時間か。テーマは結構手強いものだし、とても割に合うギャラではない。開催者が私のことをよく知っていて、松永でないとだめ、と言っているわけでもない。
 が、社団法人とはこれまでもいろいろと付き合いがあるし、リスコミは消費者の情報収集においては大切なものだ。引き受けた。

 大学の先生が30分話して私が30分話して、1時間が意見交換。普通にやって終わって、講師としては可もなく不可もなく、だっただろう。しばらくしてから、銀行口座にギャラが振り込まれた。驚いた。源泉徴収で1割を引かれた後の額は8370円だった。担当者によれば、「○○省の謝金単価表に基づいています」だそうだ。

 費やした10時間で割ってみて欲しい。私の仕事は、コンビニのパートの仕事より安かった。
 振り返れば、私もずさんだった。その地方機関に事前にギャラを確認しなかった。だから仕方がない。

 安かったことに対する怒りもあったが、この金額、予算で人を使えると考えた組織の体質に仰天した。自分たちは出ずだれかに任せて、それで「リスコミをやりました」と報告書を出して終わり。それは、無責任だ。
 いや、予算額が少なければ、いいかげんな講師しか呼べないはずだ。そして、私がしゃべった。それではだめだ。いいかげんな講師を呼んでいいかげんな情報を流されるリスクを、○○省は考えた方がいい。予算額が少ないなら、自分たちが責任を持って正しい情報を市民に提供し、意見交換すべきだ。

 これが、私が国家官僚に対して感じたこと。北村さんの高尚な話とはまったく違う。恥ずかしい。でも、科学ライターの社会での位置づけの程度を物語るエピソードではあるだろう。
 ちなみに、同じ省の別の地方機関でリスコミに出た時は、もう少し多い額をくれた。でも、大学の先生なら、独立行政法人の研究者なら、給料を得ているから、講演料が1万円や2万円でも平気かも知れないが、フリーではやっていけない。
 科学ライターとしての情報の収集量や市民に提供するスキルが、公にこれほど軽んじられる状況では、科学ライターは食えない。したがって、日本の社会に科学ライターは育たない。

 そんな中でもがきつづける私、である。
 もう一つちなみに。今、私は講演依頼があった時には、科学ライターとして持続可能な生産ができる額がほしい、と説明している。給料という定まった収入がある大学の先生などと同じように扱わないでほしい、とお願いしている。
 ギャラ交渉は、私にとってはかなり大きなストレス。でも、秘書を雇えるはずもなく、自分でやるしかないっ。
 同じ公でも、自治体はちゃんと理解してくれて、呼んでくれたり「予算がないので、今回は見送ります」となったり。本当は、「こんなライター、そんな額出す価値無し」という結論かもしれない。それでもいい。いずれにせよ、すっきり決まる。

 ちょっと感情的になったかな。北村さんに刺激を受けて、妙な方向に暴走してしまいました。うーん、やっぱり恥ずかしいな。
 

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2 コメント

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がんばってますね (michimiki)
2009-05-28 11:27:36
松永さん、頑張ってますね。頼もしい。

なんの仕事でもフリーランスは、大変です。
一瞬の時間だけで報酬が決められる、その前の準備や今までのバックグラウンドに対しての評価なし。

日本では、金を稼ぐには、組織に属するか、芸能人になるしかない。
努力している人が、正当に稼げないのは、ほんと、おかしな世の中です。

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たしかに、フリーランス全般の問題かも (松永 和紀)
2009-05-29 23:36:11
michimikiさん

 いつもありがとうございます。
 ご指摘のとおり、科学ライターのお金の話ではなく、フリーランス全般に共通する問題かも。「時給換算したら、とんでもないことに」という話題は、ライターに限らずフリーランスの者同士、よくしますね。
 フリーランスの大先輩のmichimikiさんも、状況は同じなんだ。なんだか、がっくりきますね。
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