松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

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伊藤ハムのシアン問題4~これほど悪質だったとは

2008-12-26 12:23:07 | Weblog
 伊藤ハムの調査対策委員会が25日、最終報告書を公表した。詳細は、ウェブサイトにある報告書をお読みいただきたいが、私は正直に言って驚いた。極めて悪質なことが行われていた。

 調査委員会は中間報告で、シアンが基準を超過した原因として、原水汚染が原因ではなく塩素処理過程で次亜塩素酸ナトリウムの注入量が足りなかった可能性を指摘した。これについては、12月5日付の伊藤ハムのシアン問題2~やっぱり塩素処理不十分が原因?をお読みいただきたい。

 今回の最終報告書ではさらに、公定法に問題があった可能性を明らかにした。公定法では、試薬として酒石酸緩衝液を添加することになっている。だが添加して長時間放置することで、酒石酸緩衝液由来の有機物と結合塩素が反応し、シアン化物イオン及び塩化シアンが生成する反応が起きている可能性があるという。検査機関は、酒石酸緩衝液をサンプルが到着した時に添加していた。値が測定された時にはかなりの時間がたっていたと推測される。

 調査対策委員会は、酒石酸の添加の有無や放置時間の変更など、条件をいくつも変えて測定した再現試験の結果を解析した。そして、原水由来の有機物の影響と酒石酸由来の有機物の影響の両方に、基準超過の原因があると判断した。酒石酸添加後の正確な放置時間などが不明なため、どちらの影響の割合の方が大きかったかについては分からないという。

 このブログのコメント欄で、「委員会が公定法の問題を隠蔽している」などと書き込んでいる人がいるが、最終報告書では、再現試験のデータに基づいて公定法の問題点が明確に指摘されていることを、あえて付け加えておきたい。

 さて、今回明らかになった衝撃の事実は、次亜塩素酸ナトリウムの注入量に関するものだった。中間報告段階では、「塩素酸の基準超過を心配するあまり、次亜塩素酸ナトリウムの注入量を絞っていた」と報告され、調査対策委員会は「恒常的に注入量を抑えていた」と受け止めていた。ところが、さらに詳しく調べたところ、伊藤ハムの担当課が9月以降、定期的な水質検査日には、塩素酸の上昇を抑えるために従来の半分程度の次亜塩素酸ナトリウムしか注入していなかったことが分かったという。特に、2号井戸では、採水当日の9時から11時までの2時間のみ、減らしていた。

 塩素酸は、今年度から基準値(0.6mg/L)が設けられ、同社は2月から処理水の塩素酸を測定し始めた。ところが、6~9月に三つの井戸で計6回、基準を超過したという。だから、検査の時だけ次亜塩素酸ナトリウムの注入量を減らす“操作”をしたのだ。
 結局のところ担当課は、塩素酸が基準を超えた水を食品製造に使うこと自体はまったく問題視していなかった。ひたすら、「検査結果が基準を超えるのはまずいから、その時だけ注入量を減らしてとりつくろう」という態度だったのだ。これでは、何のための検査か分からない。

 しかも驚くべきことに、担当課は注入する次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素濃度と塩素酸濃度を日常的に把握しておらず、いわばどんぶり勘定、勘で注入量を決めていた。
 その結果、塩素添加量が減り、知らず知らずのうちにシアンを生成しやすい条件を作り出してしまい、そのうえに検査段階での酒石酸添加と放置が重なって基準超過をした、というのが調査対策委員会の「見立て」である。

 担当課は、6~9月に塩素酸の基準超過が起きた時も、保健所に相談することなく課内でうやむやに処理し、基準超過の水の使用をストップしなかった。その挙げ句が、都合の良い検査データ作りだ。これほど悪質なことを、組織として自ら見つけ改善する仕組みが、伊藤ハムにはなかった。
 同社は22日、担当者や幹部の処分を発表しているが、その時には、この悪質さを公表していない。25日の記者会見でも、幹部からは担当者をかばうような言葉が出た。また、今でも「調査対策委員会により、製品に使う水の安全性が確認されました」というCMをウェブサイトで流し続けている。(このCMの問題点は、12月13日付伊藤ハムのシアン問題4~CMに対する違和感で指摘しているので、お読みいただきたい)
 同社の一連の姿勢に怒りを感じる私は、感情的だろうか? これまでの体質が変わっていないのでは、と疑うのは私だけだろうか?

 東京工場は現在、水質常時監視体制システムを整えている。調査対策委員会の最終報告書は、この監視システムについて、こう書いている。「ただし、そのシステムを運用するのは人間であり、塩素酸の基準値を遵守している結果を出すために、水試料採取の際だけに、塩素注入量を減少させるようなことを実施するのは、検査のための検査となり、本末転倒な作業である。したがって、水質の常時監視の元となる水試料が、通常の運転条件下で得られたものであるかについて、十分に留意する必要がある」。

 調査対策委員会が、今後について釘を刺すこの厳しさが、同社に伝わっているのかどうか、私には疑問に思えた。
 繰り返し書く。都合の良い検査結果を操作によって出すことは、データの捏造と同じだ。伊藤ハムは、そんなことをしながら食品を作り続けていた。私はこれは、社長の進退さえ検討しなければならない非常に深刻な事態だと考える。そして、同社ほどの大企業、名門企業がこうした操作を行っていたという事実は、食品業界全体の信頼を揺るがしかねない。
 興味深いことに、会見に来た記者たちも、この悪質さにそれほど気付いていなかったように私には思えた。私の判断は厳しすぎるのか? 皆さんはどう思われるだろうか。
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市民が科学者を見分ける法ー追加

2008-12-23 01:47:47 | Weblog
 市民は、どのようにして科学者を見分けたらよいか? で、次のように書いた。「科学者が同業者である科学者をきちんと批判するとか、市民団体がおかしな科学者の問題点を指摘する、というような動きがもっと活発になってよいのでは。現実には、日本の科学者は同業者を批判してもなんの得にもならないので、しない場合がほとんど……」。ちょっとどぎつい書き方だったかもしれない。金銭的な損得の話と誤解されている部分もあるようなので、ちょっと追加します。

 もちろん、科学者の使命として、同業者批判をきちんとしている人はいる。「食の安全」の分野なら、長村洋一・鈴鹿医療科学大教授、高橋久仁子・群馬大教授。ニセ科学批判は、天羽優子・山形大准教授、田崎晴明・学習院大教授ら。ほかにも、中西準子先生や安井至先生などいらっしゃるし、ネットでは、Natromさん食品安全情報blogの活動が光る。思い浮かぶ人は、ほかにも何人もいる。

 が、彼らが真摯な批判をすればするほど、誹謗中傷も増えるように私には思える。彼らが、その活動に対して向けられる感情的な反発や軋轢への対応に時間をとられている実態もある。中西先生が、京都大学教授から名誉毀損で訴えられ、一審で棄却され判決確定したのが典型例だ。そして、彼らの社会的な役割は極めて大きいにもかかわらず、同業者からの評価は不十分だ。

 問題のある科学者を批判するということはある意味、その科学者に自らかかわるということでもある。「そんなことに時間を費やすよりも、無視し黙殺して、自分の研究を進めて論文をたくさん書く方がはるかにマシ。はるかに有意義」と考える科学者がいる。私は、こちらのタイプの方が数は圧倒的に多い、と思う。

 こういう現象を、「なんの得にもならないので、批判しない場合がほとんど」というふうに書いた。決して、「金にならないから批判しない」という意味ではありません。
 私は、「すべての科学者が社会的な活動をすべきだ。問題のある同業者を批判すべきだ」などとは言わない。だけど、同業者批判も厭わず「科学的に適正なこと」を一般市民に伝えようと努力している科学者たちは、学術界でもっと尊重されるべきだし業績として評価されるべきだし、社会からも尊敬されていい、と思います。

(注:天羽優子准教授を、助教授と書いてしまいました。これはとても恥ずかしい間違いですね。すみません。訂正しました。2008,12,24)
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市民は、どのようにして科学者を見分けたらよいか?

2008-12-22 05:51:50 | Weblog
 朝バナナダイエットの話を書いた時に、コメント欄でkさんに質問されて回答し忘れていたことがあった。
 おおまかに言うと、「一般市民はどうやって、まともな科学者とナンチャッテさんを見分けたらいいの?」という質問である。うーん、とても大事なこと。回答を考えてみた。
(学会や論文に関する説明がまったく足りないのは百も承知。皆さん、コメント欄でもっと上手な回答を!)

…………………………………………………………
まずは学者が一般に発表する説についてです。
質問①
たとえば、こういった研究成果(○○は△△の効果があるとか)は、学会の論文で発表されるのが常識なんでしょうか?まず論文ありきなんですか?

A.「○○は△△の効果がある」タイプの研究は、学会や研究会等で大量に発表されますが、論文としてはまとめられないものも多いです。
 発表は事実上、事前審査がないので研究者にとっては楽だし、宣伝効果もあります。新聞やテレビが取り上げてくれる場合も。
 一方、論文は多くの場合、審査のうえで掲載されますし、いくつかの実験をしたうえで結果・考察をまとめなければならないので、書き上げるのは大変です。さらに、発表した論文はその後、第三者による評価・検証の対象になります。

質問②
もしそうだとすると、論文のない研究成果は、まず根拠がないと考えていいんですか?

A.論文として掲載される前に学会で発表する場合も多いですから、そうとは限りません。が、「どこかで発表したっきり、論文は何年も出ていません」というタイプの研究は、もう忘れてよいのではないか、と……。論文発表しないと、科学者の世界では業績として認められないですし。

質問③
しかし、論文がない、つまり学会では認められていない研究が、実は正しい発見だったなんてことにはならないものですか?

A.まず、論文と学会は切り離して考えた方がいいですね。学会はたいてい学会誌を持っていますが、学会とは関係がない学術誌もたくさんあります。また、一人の研究者がいくつもの学会に所属しているのが普通です。
 つまり、一人の研究者から見た場合、論文として発表できる場は結構たくさんあるということ。そのいずれでも相手にされない、ということはどういうことか? 考えてみてください。
 論文を書いていない方が、「反体制派として真実を追究する科学者」として市民団体やマスメディアにもてはやされるケースがありますが、私の見る限り、研究者としての能力が???の人がほとんどです。

それからテレビについての質問です。

質問④
テレビというのは、もう本当にデタラメのオンパレードで、もはや誇張なんてレベルではなく、嘘、捏造だらけと考えていいのでしょうか?
70を100にするどころか、0を100にする、いや、-100を+100にしているようなものなんでしょうか?

A.そんなことはないですよ。まじめに作っている人もいます。テレビ局も制作会社もたくさんあるわけですから、十把一絡げの「テレビというのは」という判断は、しないほうがいいと思います。良質のテレビ番組もある、ひどいものもある、ということ。


学者についての質問です。

質問⑤
テレビに出てくる学者、専門家は、あまり信用のできない人たちが多いと考えていいのですか?
 
A.これも、そんなことはないでしょう。信用できる人もいる、できない人もいる。

質問⑥
そうだとすると、我々はテレビに出てる学者みんなが信じられなくなってしまいますが、中にはちゃんとした人もいると思います。しかし我々には見分けがつかない。我々がその人たちを見分けるにはどうしたらいいでしょうか?
 
A.これは難しい。視聴者よりその学者の方が、語っている事柄についてははるかに詳しいわけですから、見分けるのは容易ではありません。
 私はまずは簡便な手段として、「単純な話は疑おう」がいいのではないか、と思っています。食の製造システムや安全・品質管理はこんなに複雑になっているのに、「こうすれば、ダイエットできる」とか「○○は危険」というような単純明快な話があるわけない! ごくごく常識的な感覚として、そう思うのが大事では?

質問⑦
そして、そんないい加減な学者やメディアに対する何らかの法的な制裁や懲罰はないのでしょうか?テレビで当たり前のようにデタラメな情報が流されているのはおおいに問題があり、どう考えてももっと厳しく取り締まらなくてはいけないと思うのですがどうでしょう?
 
A.なにが正しくて、何がでたらめかを判断するのは、実はとても難しいです。法的な制裁や懲罰は、言論や報道の自由の侵害にも簡単につながる恐れがあるので、私は慎重であっていい、と思います。それよりも、科学者が同業者である科学者をきちんと批判するとか、市民団体がおかしな科学者の問題点を指摘する、というような動きがもっと活発になってよいのでは。
 現実には、日本の科学者は同業者を批判してもなんの得にもならないので、しない場合がほとんど。消費者団体も、ともするとナンチャッテさんと一緒に行動してしまうので……。ただ、最近は「食の信頼向上をめざす会」などが出てきたので、これから少しずつ変わってくるのかもしれませんね。
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産地表示の法的義務付けは必要か?~NHK「追跡!“国産食品”偽装」の感想

2008-12-17 11:22:04 | Weblog
 遅まきながら、NHKスペシャルを見た。14日に放送された「追跡!“国産食品”偽装」の再放送。産地偽装の現場を食品表示Gメンと追う場面など臨場感たっぷりで面白かった。
 だが、番組を見ながら、何度も思った。産地表示なんてものを法的に義務付けるから、国産に付加価値が過剰にうまれ偽装が起きるのでは? 本当に、2000人の食品表示Gメンは要るのか? 産地偽装のトラックを追うようなことが、農水省職員のすべき仕事か? 

 番組には消費者団体の女性たちも登場し、店頭で冷凍食品をさんざんひっくり返して表示を確かめて、「産地を知りたい。きちんと表示してほしい」というようなことを言っていた。
 でも、彼女たちがほしい産地を表示した商品は、既に生協や高級店にはあるのだ。なにも普通のスーパーに行って、主婦が半額セールになるのを待ちかまえて買うような商品を手にとって言う必要もないだろう。消費者団体のステレオタイプのポーズに見えて、不快な気分になった。
 
 私は、産地表示は基本的に、民間レベルで自主的にすればいいことだと思っているので、食品表示Gメンの活動に最後まで違和感を拭えなかった。一生懸命にやっているのは分かるし産地偽装を図る不正な業者が多いのも事実。だけど、民間の取引の中で厳しい契約を結び確認することで、ある程度は防げるはずだ。それに、ウソつきの商売に対応する法律は、別にある。

 産地は変動する場合も多く、表示対応は煩雑な作業になる。コストもかかる。国産に対する優良誤認も産む。表示義務付けが、本当に必要なのか? 
 そういう視点が、番組全体からも消費者団体の発言からも感じられず、残念だった。食糧庁がなくなった後に仕事探しに躍起になっている農水省の思惑に、消費者団体やNHKがなんだかうまく乗せられているような気がして仕方がなかった。

 産地表示に、これだけの資源を投入しているのは日本くらいのものだという。農水省消費・安全局審議官の山田友紀子さんが「生物資源から考える21世紀の農学第5巻 食品の創造」(京都大学出版会)で書いている。
 また、ニュージーランドのFood Safety Authority長官が、11月末にウェブサイトに出したコラムで、産地表示を取り上げている。同国でも産地表示は論議の的だそうだ。だが、長官は「任意表示の方が法的な規制よりもよい。法的規制は困難を極めるし、食品価格を押し上げることにもつながる」と慎重な姿勢を示している。

 畝山智香子さんの「食品安全情報blog」12月1日付で、コラムが翻訳されて紹介されているので読んで欲しい。私は、この長官の主張をもっともだと思う。日本でも、こういうことを言える役人や政治家が出てこないものか。
 当然、反対意見は多いだろう。だが、こういう根源的な疑問をきちんと議論することがこれからの時代には必要ではないか。

 結局、違和感を抱えたまま番組視聴は終了。一番気に掛かったことは、情けないことに番組の主題とは全然違っていた。主婦としては、消費者団体に尋ねてみたい。「当然、見た商品はちゃんと購入したでしょうね。さんざん手で触って温めて冷凍ショーケースに戻したら、承知しないわよ!」。
 最近、スーパーに行くとよくいるのです。ショーケースの奥から引っ張り出してべたべた触り、ひっくり返して表示をじっくり眺めて、ぽいっと一番上に置いて行ってしまうお方が…。「ああ、温度が上がる~。品質が劣化する~」。そちらのマナー違反の方がよほど気になる私、である。 
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伊藤ハムのシアン問題4~CMに対する違和感

2008-12-13 21:21:26 | Weblog
 伊藤ハムのシアン問題で、自主回収と廃棄の問題を書くと予告しておきながら書かなかった。少々引っかかったのだ。CMに。

 伊藤ハムは今、テレビCMで「この度、第三者による調査対策委員会により、製品に使用する水の安全性が確認されました。東京工場では、操業再開に向けて、品質チェックのためのテスト生産を開始いたしました」と流している。ウェブサイトでも見られる。
 調査対策委員会はシアン化物イオンと塩化シアン濃度が基準超過した原因について検討し、再現実験なども行って「原水のシアン汚染はないと考えられる」とし、シアン検出の原因を「不十分な塩素処理に起因するシアンの生成であると思われる」としている。12月5日に公表した「経過報告」では、次のように書いている。

調査対策委員会としましては「水の安全性」と「水質の管理体制と報告連絡体制」はマニュアル上は確保されていますが、今後はこれらの仕組みを定着させることが極めて重要であると判断しています

 調査対策委員会の出している文書は、科学的に明確なことと、証拠を積み重ねて行う推論がきちんと区別して読めるように、非常に慎重な書きぶりだ。シアン基準超過の原因は科学的に断定されたことではなく、あくまでも推論であり、それに基づいて対策が講じられている。それ自体は妥当なことだ。

 ところが、CMになると「委員会により水の安全性が確認されました」になってしまう。企業としてはインパクトのある“安全宣言”をしたいのだろうが、これは科学的に誠実か? 企業として誠実な態度か?
 私は引っかかる。そんな単純な問題だったのか。もともと、製品からはシアンは検出されていないのだから、製品の安全性に問題はなかった。情報公開しながら淡々とテスト生産に進んでほしかった。
 この手の安全宣言は、よくある。企業の儀式のように見えて、消費者をなめているように思えて、いつもがっかりする。伊藤ハムも、そんな企業だったのか?
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伊藤ハムのシアン問題3~検査の意味

2008-12-08 09:23:18 | Weblog
 前回、はっきり書かなかったことがあった。塩素処理に使った次亜塩素酸ナトリウム溶液の有効塩素濃度が低下していたのではないか、という委員会の指摘である。タンクを外に設置し、減ると継ぎ足して保管、温度管理もしていなかった。そのため、濃度が低下していたのではないか、という見方だ。
 これに加え、水質基準への塩素酸項目追加があり、次亜塩素酸ナトリウム溶液の添加量自体も絞っていた。有効濃度の低下と溶液添加量不足が重なり、塩素処理が不十分になった、というのが委員会の見解だった。

 シアン濃度が40年間問題として浮上しなかったという事実などから、私は保管のまずさによる有効塩素濃度低下が主因ではないだろう、と思っている。それが主因なら、これまでにシアン基準超過が何度も起きているはずだ。やはり、使用量を絞ったことがファクターとして大きいのではないか? そう考えた。
 溶液の有効塩素濃度低下の確証となるデータが出されなかったことも引っかかった。そのため、なんとなく、ではあるのだが、明確に書かなかった。

 だが、多くのマスメディアは「次亜塩素酸ナトリウムの管理が悪かったのが原因」と報じ、私としてはびっくりした。そんな単純な話じゃない。
 しかし、明確に触れず、「委員会は今回、塩素処理に用いる次亜塩素酸ナトリウムの管理や使い方など、いくつかの提言をしている」という一文にしてしまった私もちょっと問題。これは私というメディアのバイアス報道?
 そんなことを考え、追加情報として提供する次第だ。委員会の提言の中では、次亜塩素酸ナトリウムの保管改善は重要項目となっているので、食品メーカーの方々はご注意ください。

 さて、伊藤ハム問題が提起する「検査」と「自主回収・廃棄」という二つの視点。今回はこのうちの「検査」について少し触れてみたい。

 私が一連の取材の中で感じたのは、「伊藤ハムはまじめだったが故に年に4回も検査を行い、だからこそシアン基準超過を見つけてしまった」という皮肉だ。ここまで熱心に検査せずに地下水を使っている食品企業は多い。
 ただ、同社の検査は「基準をクリアしていることを確認するための検査」だったのではないか? 各項目の意味や数字の推移などに注目していなかったのではないか? 
 だから、塩素酸濃度が上がった時に、簡単に使用量を絞るというような選択をした。シアンが基準を超過するという事態が起きた時に、何度も再検査に出して時間をロスしてしまった。検査を頻繁にやるという熱心さに、そのデータを科学的に受け止め判断する姿勢が追いつかなかった、という見方は、後付けの批判だろうか?

 こんなことをわざわざ書くのは、残留農薬検査でも同じことが言えるように思うからだ。キャセイ食品が中国産を国産と偽装する問題が起きた時(農水省プレスリリース)、一部の生協職員の間で、「これまでの残留農薬検査結果から、偽装を見つけることはできなかったか」ということが話題になった。
 例えば、「日本では使われない農薬が、基準以内であっても頻繁に検出されていれば、怪しい」というわけだ。結局、そうした分かりやすい怪しさは前のデータからは伺えなかったらしい。ただ、同種の冷凍野菜を扱うほかの企業に比べて、農薬検出の割合は高かったという。
 「今後は、そういう視点から残留農薬検査を十分に活用しないといけないね」と生協職員たちは言い合っていた。

 検査データは雄弁に語るのだ。検査頻度が格段に上がっているからこそ、基準の意味を考え数字の推移を把握してその原因を追及し、顕在化する可能性のある問題点を早めに見つける、というような作業が大事になるのだろう。
 もう一つ、検査機関のレベルも考えたいところだ。そのデータの意味するところまで検討し伝えてくれる検査機関もあるという。一方、データをはいと渡すだけのところもある。当然、検査料には違いが出る。どちらの検査機関に依頼するのか?

 多くの検査が今、問題ないことをただ確認するためのものになっている。「検査したから安全」と言うための検査になってしまっている。
 私は、こんなに数多く、何度もする必要はないと思っている。しかし、検査するからには、その意味を十分に考え最大限に有効活用してほしいと願う。
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伊藤ハムのシアン問題2~やっぱり塩素処理不十分が原因?

2008-12-05 23:12:32 | Weblog
 伊藤ハムが12月5日、記者会見を開いたので行ってきた。調査対策委員会が発足してから1カ月がたち、5回の委員会で議論してきたことの中間報告である。主に、基準超過の原因を科学的に解明するための調査研究の内容について、説明が行われた。

 既に、資料がウェブサイトで公表されているのでご覧いただきたい。
 委員会の見方は、「基準超過は、井戸水そのものに問題があったわけではない。塩素添加の不足、つまり不十分な塩素処理に起因するシアンの生成が起こり、基準を超えた」というものだ。
 
 中間報告で提示された主な事実は次の通り。
・水中のアンモニア性窒素は、塩素の添加によって塩素と結合し、さらに水中や濾過材中の有機物と反応して塩化シアンを生成する場合がある。
・伊藤ハム東京工場の井戸水は、アンモニア性窒素が多い
・再現実験で、塩素添加が不十分だとシアン生成量が増えることが確かめられた
・水質基準項目にこの4月から塩素酸濃度(0.6mg/L以下)が追加され、7月の自主検査で0.62mg/Lという数字が出て再検査したところ下がるなどしていたため、添加する塩素量を抑えめにしていた
・11月始めに濾過材を交換したところ、シアンはほぼ検出限界以下となった

 これらのことから、委員会は「塩素添加が不足したことから、塩化シアン濃度が上がり基準を超過してしまった」と推測した。
 だが、これだけでは原水が基準を大幅超過した(0.037mg/L)ことと話のつじつまが合わない。原水は、塩素処理前の水だからだ。
 委員会は塩素注入地点と原水サンプリング地点が極めて近いうえ、塩素が逆流する可能性もある構造であることを説明。採取された原水に塩素が混入していた可能性を指摘した。


 なんだかつじつま合わせの理屈のようにも見える。大幅に基準超過した試料はもう残されておらず、検証のしようがない。
 しかし、この推論に二つの傍証が加わる。委員によれば、0.037mg/Lという値の大部分は、シアン化物イオンではなく塩化シアンとして検出されている。自然水に塩化シアンが含まれることはほぼなく、塩素の混入が強く疑われる。
 さらに、地下水では急激な水質変化はまず生じないと考えられ、基準超過がこの1回きりで、ほかの検査では見られないことも、この検査でなんらかのアクシデントが起きたことを疑わせる。
 こうしたことから、委員会は「原水自体には問題がなかった」と考えた。

 私も、大筋で妥当な推論だと思う。一つだけ引っかかるのは、再現実験などで塩素処理が不十分な場合に検出したシアン濃度と、実際の基準超過濃度の間に、いくぶん乖離がある点だ。再現実験では、シアン濃度は0.002~0.003mg/L程度。実際には、この10倍程度の濃度が検出された。報告書は、ほかの悪条件も重なってシアンの量が増えたことを示唆しているが、はっきりとは書いていない。

 気になって、調査対策委員会委員で再現実験を行った北里大医療衛生学部講師の伊与亨さんに尋ねてみたところ、微妙な返事だった。この、微妙という言葉を、私は良い意味で使っている。科学者として、この程度の濃度上昇は起こりうるという感触は持っているけれども、まだ公の場で明言はできない、という感じ。これから、再現実験を詳細に詰めて、学会発表や論文という形で出してほしい。
 
 今回の事故の場合、原因を確定させることは難しい。だが、伊藤ハムは、仮説をたて再現実験などを行い検証した。この姿勢は、立派だ。記者会見でも、伊予さんらが、実に丁寧に科学的なメカニズムを説明。あくまでも仮説の検証に過ぎないことを伝え、推論をしっかりと述べ、科学的に不明であること、推測できないことは「分からない」とはっきりと示した。

 委員会、伊藤ハム共に、見事な姿勢を見せてくれたと私は受け止めている。地下水を使用しているほかの企業などに極めて有益な事例研究となりつつある。委員会は今回、塩素処理に用いる次亜塩素酸ナトリウムの管理や使い方など、いくつかの提言をしている。ぜひ、ほかの企業も参考にしてもらいたい。最終報告書は、後日公表されるそうだ。

 さらに二つ、私は伊藤ハムの今回の事故を契機に考えたいことがある。一つは、検査をなんのためにやるのか、ということ。もう一つは、自主回収は必要だったのか、である。
 これについては、明日か明後日、また書きます。
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厚労省のいい仕事ぶり~加工食品の表示に関する共通Q&A改訂

2008-12-04 12:38:47 | Weblog
 加工食品の表示に関する共通Q&A(第2集:消費期限又は賞味期限について)が11月、改訂された。
 「赤福」や「白い恋人」など、期限表示を巡る問題で大騒ぎになったのは2007年。安全性、品質共に問題がないと思われる食品が、大量に回収され捨てられたのはご承知の通りだ。その混乱の再発を防ぐために、Q&Aは踏み込んだ内容になっている。厚労省基準審査課が、相当に頑張ったのだろう。
 加工食品を扱う関係者は、ぜひ目を通してください。厚労省:食品の表示に関する情報提供のページ

 私が重要だと思う変更点は次の通りだ。
(1)一般消費者向けと事業者向けに整理された。

(2)消費期限と賞味期限を分ける目安になっていた「おおむね5日」が消滅した。
 5日という一律の目安ではなく、食品の特性、条件等に応じた科学的、合理的な判断を、個々の事業者の責任でやりなさい、ということのようだ。

(3)消費者向けに、「保存中に期限が切れた場合には、どのようにすれば~」というQ9が設けられた。Aでは、消費期限と賞味期限の区別を説明した後に、賞味期限については「すぐに捨てるのではなく、その見た目や臭い等の五感で個別に食べられるかどうかを判断するとともに、調理法を工夫するなどにより、食品の無駄な廃棄を減らしていくことも重要です」と説明している。

(4)事業者向けのQ12のAで、賞味期限を設定する場合の安全係数として、「必要以上に短い期限とならないように、0.8以上を目安に設定することが望ましい」と説明している。
 通常、実験などで確認された期限に1以下の安全係数をかけて賞味期限を設定する。従来、極端な場合には0.3程度の数字をかけて短い賞味期限を設定していた業者もあった。そういうことは止めなさい、ということだろう。

(5)Q14で、賞味期限におけるいわゆる「1/3ルール」に法令上の根拠がないことを明確にした

(6)Q31で、「加工の段階で、期限切れの原材料を使用することは可能か」という質問を新設。消費期限切れの原材料使用については「厳に慎むべき」。賞味期限切れについては、「必ずしも禁止されてはいません。当該原材料の特徴を踏まえ、または、保存温度の変更や加熱加工などを行った場合に、最終製品の品質に問題がないことを科学的、合理的な方法で確認できているのであれば、問題はありません」と回答。

(7)Q32で、一度出荷した後に返品された商品の再包装と出荷についての質問を新設。「再包装して再出荷する場合には、食品衛生上問題がないことを確認した上で、客観的な指標に基づいて、再度賞味期限を設定し直すことが必要」と回答。つまりは、条件付きながら再出荷していい場合もあるよ、ということ。

 Q&A全体を通じて、「科学的、合理的な判断が重要」ということと、「無駄な廃棄は減らすべき」という力強いメッセージが打ち出されている。厚労省、いい仕事してます。
 あとは、事業者の自覚と責任、実行力が問われる。もちろん、消費者の判断力も。
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伊藤ハムのシアン問題~原水も基準超過

2008-12-01 22:15:30 | Weblog
 10月25日に明らかになった伊藤ハムのシアン問題の情報が、1カ月たった今もどうも妙に錯綜しているように思う。整理してみたい。

 伊藤ハム東京工場は竣工以来、約40年間にわたって地下水をくみ上げ浄化処理をして使用してきた。ところが、一部の水源の水質の自主検査でシアン(シアン化物イオンと塩化シアン)が基準値の0.01mg/Lを超えた。
 社内の連絡体制に不備があり公表が遅れ、約20日間にわたって製造し続けてしまった。そのため、製品自体の安全性にはなんら問題がないけれど、自主回収に踏み切ったというのが、今回の問題の概要だ。

 情報が混乱したままなのは、伊藤ハムが細かな情報を公表していないこと、そして、週刊誌AERAが「地下水の塩素消毒によって、塩化シアンが発生」という説を出したこと、さらにそれを、中西準子先生が自身のHPの雑感「地下水原水の汚染だったのか、塩素処理後の水の汚染だったのか-伊藤ハムは至急明らかにしてほしいー」で紹介したためだと思う。この問題に注目している食品関係者も、わけがわからなくなっているのだ。

 私が入手した内部資料によれば、シアンは浄化処理する前の原水からも出ている。伊藤ハム東京工場には、井戸が三つある。そのうちの2号井戸から揚水し浄化した処理水を9月18日に定期検査したところ、24日にシアンが基準を超えているという結果が出た。数値は0.022mg/L。
 専門業者から「基準外の数値は、浄化の過程で加えられる化学物質の影響の可能性がある」との指摘を受けたため、同工場の担当課は翌25日、再び浄化処理水を採取し検査した。この結果は、10月2日に出た。0.034mg/Lで、基準を超えた。

 同工場は、3日に今度は3号井戸の浄化処理水の検査を実施。さらに7日には、2号井戸の浄化する前の原水検査も行った。3日の検査結果は9日に出て、これも0.014mg/Lで基準超え。さらに、原水の結果は15日に明らかとなり、こちらも0.037mg/Lで基準を超えた。結局、2号井戸の浄化処理水で2回、原水で1回、3号井戸の浄化処理水で1回、基準を超えている。
 その後は、原水、浄化処理水共に何度となく検査しているが、基準は超過していない。

 原水超過を記載した資料は社員から入手したし、社内説明会でも幹部が言及したようなので、この内容は間違いないと思う。
 原水の汚染だとすると、中西先生が書いている通り、問題はややこしくなる。地下水を周辺の企業も柏市も揚水して使っている。伊藤ハムで超過したのなら、ほかの井戸水でも超過した可能性があるのではないか? そんな疑いを否定することができなくなる。
 柏市は、伊藤ハム工場付近7カ所を含む市内36カ所の井戸水の水質を調べ、すべての井戸で0.001 mg/L 以下だったと発表した。しかし、だからといって、柏市の地下水が常に基準を下回っていると保証できたわけではないのだ(だが、伊藤ハムの原水も、安全性に懸念が生じるようなレベルの基準超過ではない。このことにも、十分配慮しなければならない)。


 伊藤ハムが設置した調査対策委員会の議事内容を見る限り、ずっと塩素処理による塩化シアンの発生にこだわっているようで、再現実験なども行っている。原水からの検出について、委員会でどのような議論が行われているのかは、よく見えない。
 私は、内部資料をかなり前に入手して、調査対策委員会の議論の内容や伊藤ハムの再現実験の内容が、どのように逐次公表されるのかに注目していた。原水の基準超過は、前述した通り、かなり公共性の高い出来事なので、情報は公開されるべきだ、と思った。残念ながら情報はほとんど公表されなかった。

 だが、今週末にはメディア関係者も集めて報告会を開くそうだ。報告会で、同社がどのような実験結果を発表するのか。原水の検出をどう解釈するのか。ここが、伊藤ハムの今回の問題の一つのポイントであろう。

 どれほど再現実験をして「塩素処理で塩化シアンができる」ことを証明したところで、原水からの検出についてうまく解釈したところで、それは今回の問題の原因を突き止めることとイコールにはならない。伊藤ハムの「汚名をそそぐ」ことにはならない。
 しかし、地下水を浄化処理して使っているほかの多くの食品企業や自治体にとっては、その実験結果や検討内容はおおいに参考になるはずだ。

 伊藤ハムの問題が発覚した当初は、「地下水を使うなんてとんでもない」という的外れの批判もあったと聞く。だが、全国の食品企業が地下水使用をやめて水道水にシフトしたら、水道水はまったく足りない。したがって、多くの企業が地下水を管理しながら使わざるを得ない。
 皮肉なことだが、伊藤ハムの“事故”は他社に極めて有意義な情報を与えてくれた。さらに、再現実験までしているのだ。同社の社会貢献の価値は、実はこれから、非常に大きくなるかもしれない。

伊藤ハムの事故の主な経緯
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9月18日 2号井戸浄化処理水を採取しシアン検査(検査1)
  24日 検査1の結果が判明。0.022mg/L→基準超過
  25日 2号井戸浄化処理水を採取し検査(検査2)
10月2日 検査2の結果が判明。0.034mg/L→基準超過
  3日 3号井戸浄化処理水を採取し検査(検査3)
  7日 2号井戸の原水を採取し検査(検査4)
  9日 検査3の結果が判明。0.014mg/L→基準超過
  14日 1~3号井戸の浄化処理水を採取し検査(検査5)
  15日 検査4の結果が判明。0.037mg/L→基準超過
     担当課が工場長に報告。工場長が2号井戸の使用中止を指示
  16日 検査5の結果が判明。すべて、基準内におさまる
  17日 2号井戸の原水検査(検査6)
  21日 検査6の結果が判明。0.001mg/L未満で基準内におさまる
  22日 工場長から本社へ報告
  23日 工場担当者が柏市保健所に相談
  24日 柏市保健所が1~3号井戸から採水。製品も収去(検査7)
  25日 記者会見し公表
  27日 検査7について、柏市保健所が結果を公表。すべて検出せず。ただし、
    3号井戸浄化処理水から塩素酸1.1mg/L(基準値0.6mg/L)を検出し、公表
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このほかにも検査がたびたび行われているが、検査1~4以外は、基準超過していない。また、製品検査でもシアンは検出されていない
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