麻耶雄嵩『翼ある闇』

読んでしまいました、この問題作。
これは・・・読むのに時間がかかりました。
もちろん初チャレンジの作家ですので、手探りで読むせいもありましたが・・・
読み終わって、やっぱり一筋縄ではいかなかった、というのが感想です。

探偵・木更津のもとに今鏡家から依頼の手紙が届く。
友人・香月を伴って今鏡家へ赴いた木更津を待っていたのは、
陰惨で奇怪な連続殺人事件だった・・・

と、そんな感じの話です。
謎としては「密室は何故、いかにして作られたのか」
「事件を彩る装飾は、何のためになされたのか」といったところです。

この作品は、ミステリのおもちゃ箱・・・かな。
読み終わったあとも頭の中の整理がつかないくらい、とっ散らかっているのです。
ものすごいカタストロフィは体験できるけど、カタルシスは無かったかも。
読み疲れた、というのが正直な感想でしょうか。

どうしてそんなに疲労感があるのか、考えてみたのです。
最大の原因は、作者が読者にある程度のレベルを想定しているからかな、と。
台詞にも「私」（＝香月）が書く地の文にも「大時代」な表現が溢れている。
（現代人の会話じゃないですね～。でも、これはもちろん作者の意図ですｗ）
宗教や神話、文学、音楽、歴史のある程度の知識があることを前提に書かれているのです。
なので一個一個引っかかるわけで、スムーズに読めない。
まあ、胡乱な知識しかない私が悪いんですが（＾＾；
作中人物が、そういう知識を前提にお互いに暗喩的会話をしてる部分とかは、
結局何が言いたいのかしばし考える必要があるわけなんですよね。
何だか禅問答をしているようで・・・

京極夏彦氏の作品も薀蓄は多いのですが、そんなに悩みません。
それは京極堂の話を聞く人が関口を筆頭にした「愚か」な人だから。
ちゃんと分かりやすく、関口が質問してくれるのですよね。
でも、この麻耶作品には、関口がいないのです。

それでもメルカトル探偵登場後は事件は解決に向かうのみなので、
テンポもアップし、会話も意味深なものは減るので、良かったけれど。

この作品は、古典本格ミステリのパロディーを意図してるんですよね、多分。
そんな裏を考えてると、余計にしんどかったです。
探偵あるところに事件ありで、全てが終わるまで犯人を指摘できない探偵。
秘密主義で、自信のない意見は述べない、自意識過剰の探偵。
そして、探偵に遠慮するのか、捜査らしい捜査をしない警察。
思わず笑ってしまいますが、そんな世界をあえて書くことでマニアはニヤリでしょう。
そして、その後に起こる世界の連続爆破は・・・もはや言葉はいりませんね（＾＾；

否定的な感想ばかり書いたけど、疲れたことを除けば、ネタはピカイチでした♪
この次の『夏と冬の奏鳴曲』も買ってるけど、読むのは暇な時期にしよう・・・