暑さも峠を越したようで、朝夕はいくらかしのぎやすくなりました。どことなく秋の気配が感じられます。そこで今回は「秋茄子は嫁に食わすな」のことわざにも登場する『ナス』のお話です。
なすと言えば、「一富士、二鷹、三なすび」と縁起の良い初夢にも登場します。駿河名物をあげたとか、高いものをあげたとか諸説ありますが、ともあれ、ナスが昔から日本人に親しまれていることは間違いないようです。
〔原産地〕
インド東部に自生する“ソラヌム インサヌム”がその原種と考えられています。「ナス科野菜(トマト、ジャガイモ、ピーマンなど)は南米原産が多いのに、何故ナスはインド?」という疑問を持った方は、産地交流部会のブログをご覧ください。
栽培の歴史は古く4~5世紀頃と言われ、6世紀頃にはすでに中国へ渡来。その後日本には8世紀頃に中国より伝わりました。奈良時代の『正倉院方書』にナスを献上したという記録があり、900年頃には、すでに漬物加工の記録もあるとか。
漬物と言えば仙台は“長なす漬け”。ところが山形のなす漬は“丸なす”が有名です。なぜお隣同士なのに形が違うのでしょうか。中国の丸なすは北陸地方に伝わり、そこから山形に伝わったようです。一方、長なすは主に九州に伝わりました。それがどうして遠く離れた仙台で?
仙台で長なすが栽培されるようになったのは伊達正宗の時代。朝鮮の役に出陣した際に立ち寄った博多で、藩士の一人が種子を持ち帰ったことが始まりとか。歴史のドラマですね。また、仙台長なすは本家の九州ものと比べずいぶんと小ぶり。これは東北地方は気温が低く、栽培期間が短いので、小さく皮が軟らかい品種に分化したからだとか。こうやって、ローカル色豊かなナスが生まれていきました。
(参考資料 豊屋食品工業株式会社HP)
〔旬〕
周年出回っていますが、旬はやはり7月~9月。この時期のものは露地物で、ほかの期間はハウス栽培です。
冬~春は高知、熊本、福岡のものが、夏~秋は茨城、栃木、群馬のものが店頭に並びます。もちろん夏場は地元産ものも出回ります。
〔栄養素〕
94%が水分なので水分補給が必要な夏には適しているとも言えますが、目立ったビタミン、ミネラルはありません。
ですが、あの“茄子紺”と呼ばれる光沢ある紫紺色は、しっかりと太陽のパワーを受け止めています。ナスの色素成分はアントシアニン系のナスニン。動脈硬化やガン予防に効果があると言われています。できるだけ皮を残したまま調理してくださいね。薄いので食感にもあまり影響しません。
〔保存方法〕
南国生まれなので寒さと乾燥が苦手。ラップに包んで冷蔵庫の野菜室で保存してください。
直接風にあたると、しわがよってしまいますのでご注意を!
〔食べ方〕
・美味しいナスの選び方
ヘタが黒く切り口が瑞々しいもので、トゲが硬くて痛いくらいのものを選びましょう。皮に色ツヤと弾力があり、持ってみて手応えと重みがあるものが良品です。
・あく抜きのコツ
イタリア料理では、ナスに塩を振って出てきた水を拭くことであくを抜きます。こうすると水を含むこともないので、水っぽくなりません。
・干しナス
夏の太陽を利用して干しナスにする方法も。
調理方法に合わせて適当に切り、ザルに並べて天日に干すと、2~3時間の半干しでもうまみがアップします。午前10時から午後2時頃をねらってください。揚げ物や炒め物にしても油はねしにくく、調理時間も短縮できます。
〔仲間たち〕
日本に伝来した歴史も古いので、地方ごとに様々な大きさ、形のものがあります。現在は長卵型の中長ナスが主流ですが、ここでは在来品種をご紹介します。
・加茂なす
京都上加茂地域で栽培されている丸ナス。直径は12~15㎝。肉質は細かく、ずっしりとした重みがあります。田楽や揚げ物に。
・水なす
大阪泉州岸和田の特産。絞ると水がしたたるほど水分が多く、浅漬け用のナスとしての品質は最高。
・小丸なす
山形県鶴岡の民田なすや、出羽小なすなど。重さ10~20gで皮は薄くて柔らかです。辛子漬けで有名です。
写真は山形の小丸なす、うす皮なす。
・長なす
西日本で人気があり、長さ20~25㎝。皮は比較的硬いが実は柔らかい。焼きなすにするとふっくら美味しい。
左から、長なす、普通の中長なす、小丸なす(うす皮なす)、米なす。家族のようです。
愛媛の絹皮なす。巨大ですが、キメが細かくとても滑らかななす。
淡泊な味わいが日本人に好まれるナス。焼き物、煮物、揚げ物、色々な調理方法に向きます。また、スポンジ状の柔らかい身はどんな味付けにも馴染みます。あっさり和風だし、トマトソースやチーズ味、中華風のピリ辛もいけますね。味を吸収するということは、もちろん油も!カロリーは少々気になりますが、油を吸ってコクが出たナスも罪作りな美味しさ。
さてさて、皆さんはどんなお料理でナスを美味しくいただきますか?
【参考文献】
草土出版『花図鑑野菜+果物』
高橋書店『からだにおいしい野菜の便利帳』
(文 食素材研究部会 成田浩子)