山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

ソースかつ丼の功罪

2015-07-26 10:04:22 | 旅のエッセー

 佐渡への旅の途中に、行きと帰りの二回会津地方を訪ねました。福島県は面積の大きい県で、天気予報などは3つの区域に分けて報道されています。東の太平洋側は浜通り、中央エリアは中通り、そして西のエリアは会津となります。会津といえば会津若松市を中心に西会津、南会津、奥会津などの山岳地帯が続いています。今回訪ねたのは、南会津町の前沢集落(国の重要伝統的建造物群保存地区指定)、下郷町の塔のへつり(国の天然記念物指定)、大内宿(国の重要伝統的建造物群指定)などでしたが、只見町他の奥会津エリアも幾つかの道の駅に寄りながら通ってきましたので、これらのエリアの凡その様子は理解することができたと思います。

 さて、今回の会津訪問の一番の目的は、何度も傍を通っていながら、まだ一度も訪ねたことがなかった会津若松市内の鶴ヶ城をじっくり見て回るということでした。ようやく旅車を留められる駐車場を見つけて、その目的は達成されたのですが、実はもう一つ楽しみの目的がありました。それは会津名物の一つであるソースカツ丼なるものを食べてみたいということなのです。

糖尿君との長いお付き合いのこともあって、ハイカロリーの食べ物は敬遠せざるを得ない状態がずっと続いており、このような目的を掲げるのは、健康管理上真に遺憾であり、且つ危険なことでもあるのです。しかし、残りがさほど長くもない人生ならば、偶には魔が差す振る舞いがあってもいいんじゃないかと、と、まあそう思った次第です。

 会津のソースかつ丼をどうしても食べてみようと思ったのかは、実は自分にはカツ丼に対する思い出とあこがれの様なものがあるからなのです。それは、高校時代のクラブ活動(バスケットボール部)定例の新年会で、毎年それを食べるのが楽しみとなっていたからなのです。何しろ勉強などよりも運動を優先させていたその頃の自分には、育ち盛りということもあって、常に空腹を忘れられない身体状況だったのです。

因みにその頃の毎日といえば、午前中の4時限の授業の内2時限が終わると10分間の休み時間に持参の弁当を食べ終え、お昼には売店でパンを買って大急ぎで食べた後は、体育館に直行して走り回って遊び、午後の授業が終わると部室に入って着替えて、18時半過ぎまで練習するという毎日でした。練習が終わると、帰宅に向かうのですが、通学は水戸駅からJRの単線の列車(水郡線)で、いわゆるSLという奴に乗って約50分間、参考書を開きながら眠りと戦い敗れ続け、家の最寄りの駅で降り、それから山道をひと山越えて30分ほど歩き、家に着くのは21時近くとなります。もはや教科書など開く気にもなれず、夕食を済ませれば後は寝るだけです。

往時の食糧事情は戦後間もない頃(小学生時代)から比べれば、かなり改善されて来てはいたものの、それでも我が家は麦めしが主体で、そのような家は珍しくもない時代でした。今の様に健康のために麦めしを炊くのではなく、米が足りなかったのです。そのような時代でしたから、カツ丼や天丼などという外食は、滅多にお目にかかれるものではなく、何か特別な時でもない限り口にすることは難しかったのです。

高校の部活の新年会では、先輩も何人か来訪されて、後輩との交流戦の後、城跡の下(わが母校は水戸城址の本丸に在りました)にある食堂に注文したカツ丼を取り寄せ、皆で歓談しながら食べるのが定例となっていました。この時に食べるカツ丼は、確か店の名が「ばか盛り食堂」というところが作ってくれるもので、文字通りボリューム大の「ばか盛り」の一品だったのです。一年に一度の大御馳走なのでした。今思い出しても、いやあ、あれは美味かったなあ。世の中にこんなに美味いものがあるんだというのを実感した、人生最初の時間でした。あれから60年になろうとしている今でも、それを超えるカツ丼はまだ現れてはいないのです。

全国には様々なカツ丼があります。西日本(高松・福岡)に計12年暮らしましたが、こちらのカツ丼はどこで食べても馴染めないものでした。メリハリがない味で、カツのうま味を台無しにしている感じがしました。名古屋の味噌カツ丼はそれなりの味があって好きなのですが、自分の遠いイメージのカツ丼とは違ったタイプなので、比較は無意味です。30年ほど前に関東に戻って以降はカツ丼を食べる機会がないまま糖尿病を宣告され、一挙に縁が遠くなってしまったのです。

それがここに来て会津のソースカツ丼というのを食べてみたいと思ったのは、前述のように、残り少ない人生なのだから、もう一度思い切ってあの昔につながるような奴を食べてみたいと、急に思いついたのです。というのも、会津エリアの旅の情報を集める中の「食」の部では、ソースカツ丼が一番の様に喧伝されているのを見て、昔のカツ丼を思い出したのかも知れません。糖尿病と30年近くもつき合っていると、偶には敢えて裏切ってやろうという気持が湧くのを止められなくなったのかもしれません。

ということで、幾つかの店を選び食べてみることにしたのですが、旧市内にある店の殆どは、旅車を置く場所が見つからないのです。いろいろ調べた結果、郊外なら大丈夫だろうと、河東町にある十文字屋という店を選びました。老舗というわけではなさそうでしたが、ネットで見ると、ボリュームの大きいのが自慢のメニューがあって、面白そうだなと思ったのです。

11時半ごろに行ってみると、20台くらいは留められる駐車場は満車近くになっていて、危うくセーフでした。十文字屋はカツ丼の専門店ではなく、ラーメンや餃子などもメニューにある、普通の食堂という感じの店でした。カツ丼には4種類のメニューがあって、磐梯カツ丼、ミニカツ丼、ヒレカツ丼、ミニヒレカツ丼とありました。早速、ヒレカツ丼というのをオーダーすることにしました。出来上がるのを待ちながら、周囲の人の様子を見て驚きました。普通の丼ご飯の上に巨大なカツが聳(そび)え立って4枚も載っているのです。とても一度で完食できるものではありません。どうするのかと見ていたら、食べられなかった分はお皿にとっておいて、後でパックに入れて持ち帰りができるようです。自分も完食の自信は全くありません。

間もなくテーブルの上に注文のヒレカツ丼がやってきました。いやあ、圧倒されるボリュームです。子供の履く草鞋の半分くらいはありそうな、ソースをかけられたカツが3枚載っていました。4枚載っているのは、磐梯カツ丼という奴の様です。2枚くらいなら何とか平らげられそうだと、早速チャレンジです。ソースに秘密があるのか、それがカツと微妙にバランスしていて、美味いものだなと思いました。これほどのボリュームのトンカツなるものを口に入れたのは何年ぶりなのでしょうか。糖尿君との付き合いが始まって25年近くが経ちますから、それを超えているのは間違いありません。

     

会津若松市河東、十文字屋のヒレカツ丼。磐梯カツ丼は、ヒレ肉とは違うけど、これにもう一枚のカツが載って出てくる。

1枚を食べ終えた時、残りを持ちかえりにしようかと迷いましたが、もう少しいけそうなので、さらにチャレンジすることにしました。しかし、全部はとても無理で、1枚は夕食に回すことにしました。家内もふうふういいながらどうにか2枚を収めたようでした。もう、完全に満腹です。そのあと、その日の目的地のある新潟方面へ向かったのですが、途中でどうしても眠くなり、運転に危険を覚えて、西会津の道の駅で1時間ほど熟睡しました。

高校時代のあのカツ丼の味とはやはり違ったものでしたが、それなりにカツ丼の美味さの新しい発見だったように思いました。そのあと佐渡で半月ほど過ごして、帰りに再び会津を通ったのですが、どうやらあのボリュームと味に毒されてしまったようで、再び十文字屋を訪れ、今度は4枚もカツが載っている磐梯カツ丼にチャレンジしたのです。これも2枚止まりで、それ以上一度に食べるのは無理で、夜の部に回したわけですが、何だか今までずっとコントロールされていた枠が消え去った気分で、久しぶりの開放感に浸りました。

さて、それから3週間が過ぎて、糖尿病の定期検診に行ったのですが、前回6.4だったHa1cの数値がなんと7.3%にもなっていたのです。2か月の間にこれほど高くなることは珍しく、医師も首を傾げられていました。自分自身も多少は高くなってるとは思ってはいたのですが、まさかこれほどになるとは、まさに想定外でした。

さすがに糖尿君というのは正直で厳しいなと思いました。魔が差すなどという甘えは断じて許さないようです。残りの人生がさほど長くはないとしても、それをわざわざ縮めることはないわけですから、再び糖尿君の言い分を守ることにしました。ま、たった二回のソースカツ丼喰らいの暴走が、このような結果を招来したわけではなく、その他にも佐渡でのはみ出し暴飲や暴食が起因しているのは間違いありません。これからは早急に元のレベルに戻し、さらに改善できるように努める覚悟です。

ということで、今回はとんだバカな話となりましたが、高校時代のあの頃を思い出させてくれた会津のソースカツ丼に感謝する気持で一杯です。そして、今度また会津を訪ねる機会があったら、敢えて糖尿君に逆らって、もう一度ソースカツ丼にチャレンジしたいと思っています。

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