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保守記事.332-2 スポーツマン、シップを乗っ取り

2008-08-21 10:05:36 | 記事保守

球児への提言――基本を怠らず全力プレーを
タジケンの高校野球観戦記 Vol.18

2008年8月19日(火)

■見ていて気持ちの良くない抗議や怠慢プレー

大会新記録の15打点を稼いだ大阪桐蔭・萩原(左)など好選手も多く見られた反面、基本を怠ったプレーも目立った大会だった
大会新記録の15打点を稼いだ大阪桐蔭・萩原(左)など好選手も多く見られた反面、基本を怠ったプレーも目立った大会だった【写真は共同】

 いつから高校野球はこんなふうになってしまったんだろう。最も驚いたのは、取材時間中に携帯電話をさわる選手が複数いたことだ。試合終了後、報道陣には 合計23分間の取材が許されている。勝ったチーム、負けたチームともに監督と指名選手がお立ち台へ。そのほかの選手には取材ルームで話を聞くことになる が、当然ながら試合で活躍した選手に記者は集まる。取材されず、手持ちぶさたになったのか、一刻も早くメールチェックをしたかったのか。イマドキの高校生 といえばそれまでかもしれないが……。ちなみに、取材ルームは報道陣でさえ、携帯で話していると係員から怒鳴られる。
 同じぐらい衝撃的だったのが、ある高校の主力選手が手にしていた白い皮手袋をベンチに投げつけたこと。三塁からのタッチアップが早いと判定され、得点が 取り消されたことに対する抗議だった。気持ちは分からなくもないが、甲子園のベンチは観客席にも丸見え。見ていて気持ちのいいものではない。審判に対する 反応でいえば、ハーフスイングを空振りと判定され三振すると、両手を広げて主審に「なぜ?」というポーズをつくる選手もいた。

 プレーでは、相変わらず手を抜いて走る選手が多い。投手や捕手へのフライで一塁に走り出さなかった選手がいた。ともに、走者がいる場面。もちろん打球は フェアだ。落とせばチャンスは確実に拡大する。打ち損なった上に全力疾走するのは格好悪いと思うのかもしれないが、これは基本中の基本。徹底しなければい けない。1989年夏の甲子園で、その大会のスター選手だった上宮高の元木大介(元巨人)が八幡商高との試合で投手フライを打ち上げて走らず、おまけに投 手が落球したためにベンチで山上烈監督に怒鳴られたことがあったが、怠慢プレーにはたとえ甲子園であっても監督は厳しい態度をとるべきではないか。
 ある県大会では主力選手が内野ゴロで一塁ベースを踏まずにベンチへ帰ったのを目撃したが、甲子園でもベスト8に進出した高校の投手が一塁走者時に、次打 者の投手ゴロで後ろを振り返りながらほとんど二塁に走らない場面があった。「あんな走塁をして怒られないの?」と聞くと、「ピッチャーはVIPです」との 答え。炎天下でスタミナの消耗を避けるためと理解はできるが、もう少し見苦しくない程度にお願いしたい。

■高校生にとって大切なものとは

 スター選手が不在といわれながら、今大会にも好選手は多くいた。投手では球速140キロは当たり前。145キロ以上をマークしたのも、伊波翔悟(浦添商 高)、斎藤圭祐(千葉経済大付高)、鍵谷陽平(北海高)、中田廉(広陵高)、斎藤英輔(青森山田高)、福島由登(大阪桐蔭高)と6人もいた。打者も史上初 の1イニング2本塁打を記録した坂口真規(智弁和歌山高)、大会新記録の個人1大会15打点、大会タイの3試合連続本塁打を放った萩原圭悟(大阪桐蔭 高)、同じく3本塁打の筒香嘉智(横浜高)らをはじめ、上本崇司(広陵高)、浅村栄斗(大阪桐蔭高)らセンスを感じさせる選手が多くいた。大会新記録の 60本塁打が生まれた一昨年から一転、昨年は低反発球が導入されて27本塁打と激減したが、今大会は史上2位となる49本が記録された。バットが改良され たといううわさもあるが、わずか1年で低反発球に対応してしまう技術の進歩は驚くべきこと。それだけ、高校生の技術も、高校野球のレベルも上がっている。

 だが、そんな時代だからこそ、もう一度、基礎や基本を見直してほしい。セカンド・町田友潤の超高校級の守備が目立った常葉菊川高は、ノックから内野手も 外野手も絶対に高い送球をせず、低い送球を徹底していた。ある高校のセンターは強肩を披露しようと走者が走っていない本塁にダイレクト返球し、それがバッ クネットに到達。やらないでいい点を与えた場面があったが、常葉菊川高ではほぼそういうことはありえない。深い位置でのゴロや三塁線のゴロはすべて一塁へ ワンバウンド送球していたサードの前田隆一は、「そこに来たら、ワンバウンドで投げると決めてますから」と言っていた。ちなみに、倉敷商高戦では前田のワ ンバウンド送球をファーストの上嶋健司が落球。エラーが記録されたが、「あれはファーストが捕れない球じゃないです」と意にも介さなかった。それぐらい徹 底している。今大会は中継につながず、無理にダイレクト返球をしたがために打者走者やほかの走者に余計な塁を与えるシーンが目立った。派手なプレーが目立 つ常葉菊川高でも、基本的なことは決して怠っていないことを忘れないでほしい。

 甲子園に出られない学校の中にも、素晴らしいチームはたくさんある。むしろ、「あの学校が出るなら、あそこの学校に出てほしかったなぁ……」と思うこと の方が多いほどだ。甲子園は全国からの代表校が集う場。代表である以上、恥ずかしくない行動をするのは義務。もちろん、手を抜いたプレーは必要ない。
 ことしも数々の素晴らしい試合を見せてもらった。何度も感動させてもらった。そんな高校生たちに感謝したい。
 でも、だからこそ――。高校生には、もう一度何が大切かを考えてほしい。指導者の方々には、技術面以外のしっかりとした指導をお願いしたい。そして、最後にひとこと。この言葉を全国の高校球児や指導者、すべての高校野球に携わる方々に贈りたい。
『全力疾走 走る姿を見ればその人の心が分かる』

<了>

田尻賢誉

 1975年神戸市生まれ。小学校6年から中学2年までを札幌で過ごす。学習院大学卒業後、ラジオ日本勤務を経て独立。スポーツライターとして高校野球、 プロ野球、メジャーリーグなど幅広い取材、執筆活動を行っている。著書に木内幸男氏(常総学院監督)との共著『木内語録』(二見書房)、『大旗は海峡を越 えた』(日刊スポーツ出版社)、『あきらめない限り、夢は続く』(講談社)、『公立魂~鷲宮高校野球部の挑戦~』(日刊スポーツ出版社)がある。『スポル ティーバ』(集英社)、『ホームラン』(廣済堂出版)、『輝け甲子園の星』(日刊スポーツ出版社)、『ベースボールクリニック』(ベースボール・マガジン 社)、『スラッガー』(日本スポーツ企画出版社)などに寄稿している。


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