今は少しづつ更新。細切れだけど、許してね。
「そう、そうよ!私は、私は願ったわ!」
突如叫び声にも似た絶叫をプレシアは上げた。
今まで冷静に、淡々と今ある状況を分析しているかのようにも見えた彼女の豹変に、周囲の人間はぎょっとして彼女の顔を見た。
その目には涙が浮かんでいる。
そうか、と気がついた。
彼女はそういう人間なのだ。激昂すればするほど冷静に見えてしまう。
だけれども、彼女は誰よりも情に厚く、家族というものを大切にしているのだと。
彼女の記憶の中にあるもう一人の彼女は、そうであるが故に道を違えてしまったのだろう。
「『家族が』そう、『家族が幸せである』ということ。私が望んだのはたったそれだけよ?娘がが、何にもして上げられなかったフェイトが幸せであればと。そう願ったわ!私の身勝手で生み出してしまったフェイトが、あの子が幸せに、この先幸せになるということ。それを望み、願ったわ!それがどうして、こんな風になったかは知らないけれど!でも、これはないじゃない?なんで、なんでこのタイミングであの子がアリシアが消えてしまうの!?」
「理由はあります」
悲しげに目を伏せるジュエル・シードの少女は言う。
これは、貴女だけの物語ではないからだと。
「え?」
「この物語は、フェイトが幸せになること。それだけが目的ではありませんでしたから。もう一人、別の人間の『願い』もかなえるための物語だったのです」
「それは……え、でもあの時、私は一人……。いえ、まさか!?」
「そうです。これは貴女の願いともう一人の願い。……アリシア・テスタロッサの願いをかなえるための物語でもあったのです」
「けど、あの時アリシアは……」
「そうですね、間違いなく。あの時彼女は亡くなっていました。でも、その記憶の残滓、あるいは彼女が命を落とした瞬間、あるいはいかなる理由があるかはわかりませんが、私達は彼女の、アリシア・テスタロッサの確かな願いを感知し、それを叶えようとしました。彼女の願いは、貴女と彼女の妹の『幸せ』。それを叶えるため、私達はその力を使いました。結果としてこの世界ではアリシア・テスタロッサはあなた達の前にその姿を現し、貴女は過去の記憶を取り戻し、自らの罪を自覚し、贖罪の為に行動を開始しました。すべてはそれでうまくいくかと思ったのですが……」
涙を流しながら崩れ落ちたプレシアをフェイトが支えている。
「まさか、願いを叶えたことで、なつきちゃんの存在がゆらいでいる、とか?」
あはは、そんなことはないよね、あの子に限って、となのはがどこかのアニメで見た知識でそう推測するが、それはあの子に限ってありえないと首を振る。
「その通りです」
「そうなの!?」
あーあーあー、こんなタイミングでもなつきちゃんはなつきちゃんなんだねーと、別の意味で涙を流すなのは。
普段は斜め45度方向で別の方向にかっとんで行く彼女が、こんな時ばかり直球ど真ん中ストライクを狙ってくるとは。
空気が読める女なのです、とどや顔で胸を張る彼女の姿が浮かんできて、さすがに不謹慎だと、あわててその妄想を振り払うなのはであった。
「簡単に言えば、アリシア・テスタロッサは自ら願った願いがかなったために、消滅しようとしているのです」
「願い?」
なのはの疑問にこくりとジュエル・シードは小さなうなずきを返す。
「プレシアと同じ願いです。より具体的にいえば……まずその前に、プレシア・テスタロッサの願いは、残されてしまったフェイトが幸せになること。ではフェイト・テスタロッサの幸せの定義とは何か……」
ああ、その場にいた皆は理解した。
この小さな金色の魔女にとって、彼女の幸せとは家族と一緒にいられること。家族とはすなわち母親であるプレシアとともに生きていくことである。
「だからプレシアさんはフェイトちゃんと過去にあったことを思い出したんだ。そしてフェイトちゃんに優しくなった……」
そして、なのははそうつぶやいてからそれが失言だたっと思いはっとしてフェイトとプレシアの親子のほうを見る。
でも、その言葉には気にするなという風に優しげな目をしてフェイトは首を左右に振る。
プレシアの悲しみを、思いを直接聴いてしまったフェイトは、母親の抱いた感情を否定することはできなかった。
幼い心ではあったが、なのは達との邂逅でずいぶんと心の成長が促されている。加えてアリシア……なつきとの出会いはずいぶんと彼女を大人にしてくれていた。
それに、理解できてしまうのだ。母親の狂気が。
そんな顔をするフェイトをやさしく抱きしめながら、プレシアもまたなのはの謝罪は受け入れなかった。その必要がないからだ。
その美しい顔をジュエル・シードに向けた。
「そんな風に気づかされるのは愚かな事だとは思うけれど、でも、大切なことを思いださせてくれたことには感謝するわ。でもそれだけではアリシアのことは説明できない」
「本当に?説明できないのではなくて説明しなくても理解している。でもそれを受け入れることが難しいからでは?」
「ふふ、そうね、そうかもしれない。アリシアらしい……というべきか。アリシアが望んだのは『家族』の幸せね。家族とは……私のことね。そしてフェイトのこと」
「そうです。アリシア・テスタロッサの望んだのは貴女とフェイトの幸せ。アリシアは自分の幸せはともかく、貴女とフェイトの幸せを望んだ。その為には二人がともにあることが大前提でした。だから貴女はあのジュエル・シード事件の後、時の庭園に発生した虚数空間で、いずことも知れぬ空間へと落ちていくその時のまま、あなたにとっての過去。この時間帯にたどり着いたのです。こちらにはすでにこの時間帯のプレシア・テスタロッサがいましたから、あなたの『記憶』を受け継ぐという形でそれは実現されたのです。貴女の『病』に関してはその時の多少の補正である程度は治癒したようです。せっかくプレシアとフェイトが一緒にいられる世界になったのに、病気で死んでしまっては元も子もないでしょうから」
「え、母さん!病気だったの!?」
「あ、あはは。それはちょっとおいておいて……」
「そしてもう一人。アリシアもまたプレシアと同じ形で過去の記憶を一部再構成した形で蘇りました。その記憶の一部の再構成に、他の情報体の記憶領域を用いたために若干の記憶の齟齬が発生してしまいましたが。それに貴女の記憶が戻るのにタイムラグがあったせいで、少しばかりややこしいことになってしまいましたが。それはともかく、アリシア・テスタロッサがこのような形で蘇ったのは、偶然によるものが大きいのでしょう。しかし、なんだかんだといっても、プレシアにとって、やはりアリシア・テスタロッサは家族の一員なのです。プレシアが幸せになるためには、そしてアリシア・テスタロッサと自分の複雑な関係を知ったフェイト・テスタロッサが、家族というものに何を求め何を幸せと感じるかを考えれば、アリシア・テスタロッサが貴女方のそばにいるということ、それは必然なのではないでしょうか?」
「そう、そうよ!私は、私は願ったわ!」
突如叫び声にも似た絶叫をプレシアは上げた。
今まで冷静に、淡々と今ある状況を分析しているかのようにも見えた彼女の豹変に、周囲の人間はぎょっとして彼女の顔を見た。
その目には涙が浮かんでいる。
そうか、と気がついた。
彼女はそういう人間なのだ。激昂すればするほど冷静に見えてしまう。
だけれども、彼女は誰よりも情に厚く、家族というものを大切にしているのだと。
彼女の記憶の中にあるもう一人の彼女は、そうであるが故に道を違えてしまったのだろう。
「『家族が』そう、『家族が幸せである』ということ。私が望んだのはたったそれだけよ?娘がが、何にもして上げられなかったフェイトが幸せであればと。そう願ったわ!私の身勝手で生み出してしまったフェイトが、あの子が幸せに、この先幸せになるということ。それを望み、願ったわ!それがどうして、こんな風になったかは知らないけれど!でも、これはないじゃない?なんで、なんでこのタイミングであの子がアリシアが消えてしまうの!?」
「理由はあります」
悲しげに目を伏せるジュエル・シードの少女は言う。
これは、貴女だけの物語ではないからだと。
「え?」
「この物語は、フェイトが幸せになること。それだけが目的ではありませんでしたから。もう一人、別の人間の『願い』もかなえるための物語だったのです」
「それは……え、でもあの時、私は一人……。いえ、まさか!?」
「そうです。これは貴女の願いともう一人の願い。……アリシア・テスタロッサの願いをかなえるための物語でもあったのです」
「けど、あの時アリシアは……」
「そうですね、間違いなく。あの時彼女は亡くなっていました。でも、その記憶の残滓、あるいは彼女が命を落とした瞬間、あるいはいかなる理由があるかはわかりませんが、私達は彼女の、アリシア・テスタロッサの確かな願いを感知し、それを叶えようとしました。彼女の願いは、貴女と彼女の妹の『幸せ』。それを叶えるため、私達はその力を使いました。結果としてこの世界ではアリシア・テスタロッサはあなた達の前にその姿を現し、貴女は過去の記憶を取り戻し、自らの罪を自覚し、贖罪の為に行動を開始しました。すべてはそれでうまくいくかと思ったのですが……」
涙を流しながら崩れ落ちたプレシアをフェイトが支えている。
「まさか、願いを叶えたことで、なつきちゃんの存在がゆらいでいる、とか?」
あはは、そんなことはないよね、あの子に限って、となのはがどこかのアニメで見た知識でそう推測するが、それはあの子に限ってありえないと首を振る。
「その通りです」
「そうなの!?」
あーあーあー、こんなタイミングでもなつきちゃんはなつきちゃんなんだねーと、別の意味で涙を流すなのは。
普段は斜め45度方向で別の方向にかっとんで行く彼女が、こんな時ばかり直球ど真ん中ストライクを狙ってくるとは。
空気が読める女なのです、とどや顔で胸を張る彼女の姿が浮かんできて、さすがに不謹慎だと、あわててその妄想を振り払うなのはであった。
「簡単に言えば、アリシア・テスタロッサは自ら願った願いがかなったために、消滅しようとしているのです」
「願い?」
なのはの疑問にこくりとジュエル・シードは小さなうなずきを返す。
「プレシアと同じ願いです。より具体的にいえば……まずその前に、プレシア・テスタロッサの願いは、残されてしまったフェイトが幸せになること。ではフェイト・テスタロッサの幸せの定義とは何か……」
ああ、その場にいた皆は理解した。
この小さな金色の魔女にとって、彼女の幸せとは家族と一緒にいられること。家族とはすなわち母親であるプレシアとともに生きていくことである。
「だからプレシアさんはフェイトちゃんと過去にあったことを思い出したんだ。そしてフェイトちゃんに優しくなった……」
そして、なのははそうつぶやいてからそれが失言だたっと思いはっとしてフェイトとプレシアの親子のほうを見る。
でも、その言葉には気にするなという風に優しげな目をしてフェイトは首を左右に振る。
プレシアの悲しみを、思いを直接聴いてしまったフェイトは、母親の抱いた感情を否定することはできなかった。
幼い心ではあったが、なのは達との邂逅でずいぶんと心の成長が促されている。加えてアリシア……なつきとの出会いはずいぶんと彼女を大人にしてくれていた。
それに、理解できてしまうのだ。母親の狂気が。
そんな顔をするフェイトをやさしく抱きしめながら、プレシアもまたなのはの謝罪は受け入れなかった。その必要がないからだ。
その美しい顔をジュエル・シードに向けた。
「そんな風に気づかされるのは愚かな事だとは思うけれど、でも、大切なことを思いださせてくれたことには感謝するわ。でもそれだけではアリシアのことは説明できない」
「本当に?説明できないのではなくて説明しなくても理解している。でもそれを受け入れることが難しいからでは?」
「ふふ、そうね、そうかもしれない。アリシアらしい……というべきか。アリシアが望んだのは『家族』の幸せね。家族とは……私のことね。そしてフェイトのこと」
「そうです。アリシア・テスタロッサの望んだのは貴女とフェイトの幸せ。アリシアは自分の幸せはともかく、貴女とフェイトの幸せを望んだ。その為には二人がともにあることが大前提でした。だから貴女はあのジュエル・シード事件の後、時の庭園に発生した虚数空間で、いずことも知れぬ空間へと落ちていくその時のまま、あなたにとっての過去。この時間帯にたどり着いたのです。こちらにはすでにこの時間帯のプレシア・テスタロッサがいましたから、あなたの『記憶』を受け継ぐという形でそれは実現されたのです。貴女の『病』に関してはその時の多少の補正である程度は治癒したようです。せっかくプレシアとフェイトが一緒にいられる世界になったのに、病気で死んでしまっては元も子もないでしょうから」
「え、母さん!病気だったの!?」
「あ、あはは。それはちょっとおいておいて……」
「そしてもう一人。アリシアもまたプレシアと同じ形で過去の記憶を一部再構成した形で蘇りました。その記憶の一部の再構成に、他の情報体の記憶領域を用いたために若干の記憶の齟齬が発生してしまいましたが。それに貴女の記憶が戻るのにタイムラグがあったせいで、少しばかりややこしいことになってしまいましたが。それはともかく、アリシア・テスタロッサがこのような形で蘇ったのは、偶然によるものが大きいのでしょう。しかし、なんだかんだといっても、プレシアにとって、やはりアリシア・テスタロッサは家族の一員なのです。プレシアが幸せになるためには、そしてアリシア・テスタロッサと自分の複雑な関係を知ったフェイト・テスタロッサが、家族というものに何を求め何を幸せと感じるかを考えれば、アリシア・テスタロッサが貴女方のそばにいるということ、それは必然なのではないでしょうか?」