その日のお昼御飯の最中。
佳乃は、やはり心配そうな顔をしていた。
「どうしたんだ?やっぱり先輩からは連絡がなかったんだ?」
「うん…」
あたし達は、いつもの屋上でお弁当タイムだった。
いつもはサンドイッチを3つも4つも平らげている(それでいて太らないのは、彼女が陸上部からなのか、それともそういった体質なのかは不明だが…)が、今日は二つしかもっていない。
あたしが特別に琴美ちゃんや佳乃のために作ってきた(あまりにも、うらやましがるものだから…)、特製のお惣菜もほとんど手をつけていない。
今日は、お前の大好きな鶏の唐揚げなのに。
「どうしちゃったんだろうな、家にも連絡は入っていないんだろう?」
「うん…」
「家出って言うわけでもなさそうだしなぁ…」
あたしはふむっと腕を組む。
「いなくなったのはいつ頃だ?」
「先週の土曜日だって」
「と、いうことは…もう5日にもなるわけか…家出か、事件か判断がつかないところだなぁ…佳乃の話からすると、家出という言うわけじゃなさそうだし…。となると…誘拐…」
はっと、佳乃が息を呑む。
あたしが佳乃のほうを見ると、その目に涙が浮かび始めていた。
しまった失言だ。
琴美ちゃんの視線が若干冷たい。
あははは…ごめんなさい。
あたしは、自分の意見を自ら否定するように手を左右にパタパタと振った。
「あーそれは、ないない。だってそうだろ?誘拐って言うのは金銭が目的の場合がほとんどだ。まぁ、怨恨で…っていう動機も考えられなくはないけど、高校生の女の子にそれはないだろう?ご両親って言う考えもあるけど、それは飛躍しすぎだしな。まぁ、仮に営利誘拐だったとしても、それだったら、とっくにそれなりの要求が、その先輩の家に届いているはずだ。そうなれば、当然、警察がもっと動いているはずだし…」
もちろん、それが本当に誘拐であれば、極秘捜査になるわけで…あたしたちがその捜査の内容を窺い知る事なんてできるはずはないのだが。
身代金受け渡しの要求があったところで、たかだか、後輩でしかない、佳乃にその情報を教えてくれるはずもない。
無論のこと、マスコミの皆さんには緘口令が引かれているだろうからね。
誘拐事件は公開捜査になるまでは、捜査は秘密裏に進められる。
……というのは、ドラマの受け売りだがね。
もし、誘拐ではないのなら何らかの事件に巻き込まれた可能性が高いわけだが…。
5人の人間が、この短期間に行方不明になっていることから、なおのこと、事件に巻き込まれたと推測するべきだろう。
そんなこと、佳乃に言う訳にもいかないな、余計な心配をさせるだけだ。
もっとも、その可能性があることも十分に念頭において入るだろうけれども。
ただ、いなくなった5人の先輩達って…。
「なぁ…先輩以外にもいなくなった人たちがいるんだろ?」
「そういう話ですわ」
「へぇ…そんな噂が広まっているんだ…」
「噂じゃないって!」
「そうなのか?」
「うん…」
「いなくなった人たちって、みんな陸上部の先輩か?」
「え?」
「違うのか?」
「うん…詳しくは知らないんだけど…」
「そうか…全員高等部の先輩?」
「いえ…高等部の先輩方と中等部の生徒もいなくなっているって話ですわ…けど…噂が噂を呼んでしまって…」
「グス…ぐす…先輩も、他の人たちみたいにもう帰ってこないのかなぁ…」
「大丈夫だって。きっと、家出だって。何か悩んでいることがあったんだろ?すぐにひょっこり帰ってくるさ」
「でも、でも!先輩はそんなことをするような人じゃないよぅ」
「そうなのか?」
「そうだよ!先輩はすっごく、強い人なんだから!」
「そうではあっても、佳乃は先輩のすべてを、知っているわけじゃないんだろ?」
「そうだけどさ…」
「だったら、先輩だって、お前に言えないような悩みを抱えていたかもしれないんだぜ?心配だろうけど、早く帰ってくることを願うしかないんじゃないか?」
「うん…けどぉ…」
また、じわっと佳乃の目に涙が浮かび始める。
琴美ちゃんも困ったような表情をしている。
「だぁ!わかった!その先輩のことを調べてみるよ。知り合いに探偵がいるんだ。その人に調べてもらおう、な?」
知り合いと言っても、あいつだ。岡島さん。
胡散臭い事この上ないのだが、すこしでも、佳乃に安心してもらえるのであれば、アレの存在価値もあるというものだ。
「え、ほんと!?」
ぱぁっと、佳乃の顔が光り輝く。
「まぁ…一応、その…知り合いかな?姉さんの知り合いと言うか…とにかく…探偵がいるんだ。優秀かどうかは知らないけど。一度相談だけはしてみよう」
「でも…お金がかかるんでしょう?」
「あ、そっか…」
マスターに…は、相談できなさそうだなぁ。
あの人、あたしが岡島さんにに接触することを良しとしないだろうなぁ、きっと。
まぁ、しかたない。
見積もりを取るだけならば無料だ…という名言がある。
相談をするのも、それはそれで無料の範疇に入るに違いない。
「まぁ…相談だけしてみよう。お金のことはそれからだよ」
探偵の調査料が、普通の中学生に払える金額とも思えないが…。
いざとなったら、マスターに土下座してでもお金を借りればいいことだ。
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Presented by 東壁堂
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佳乃は、やはり心配そうな顔をしていた。
「どうしたんだ?やっぱり先輩からは連絡がなかったんだ?」
「うん…」
あたし達は、いつもの屋上でお弁当タイムだった。
いつもはサンドイッチを3つも4つも平らげている(それでいて太らないのは、彼女が陸上部からなのか、それともそういった体質なのかは不明だが…)が、今日は二つしかもっていない。
あたしが特別に琴美ちゃんや佳乃のために作ってきた(あまりにも、うらやましがるものだから…)、特製のお惣菜もほとんど手をつけていない。
今日は、お前の大好きな鶏の唐揚げなのに。
「どうしちゃったんだろうな、家にも連絡は入っていないんだろう?」
「うん…」
「家出って言うわけでもなさそうだしなぁ…」
あたしはふむっと腕を組む。
「いなくなったのはいつ頃だ?」
「先週の土曜日だって」
「と、いうことは…もう5日にもなるわけか…家出か、事件か判断がつかないところだなぁ…佳乃の話からすると、家出という言うわけじゃなさそうだし…。となると…誘拐…」
はっと、佳乃が息を呑む。
あたしが佳乃のほうを見ると、その目に涙が浮かび始めていた。
しまった失言だ。
琴美ちゃんの視線が若干冷たい。
あははは…ごめんなさい。
あたしは、自分の意見を自ら否定するように手を左右にパタパタと振った。
「あーそれは、ないない。だってそうだろ?誘拐って言うのは金銭が目的の場合がほとんどだ。まぁ、怨恨で…っていう動機も考えられなくはないけど、高校生の女の子にそれはないだろう?ご両親って言う考えもあるけど、それは飛躍しすぎだしな。まぁ、仮に営利誘拐だったとしても、それだったら、とっくにそれなりの要求が、その先輩の家に届いているはずだ。そうなれば、当然、警察がもっと動いているはずだし…」
もちろん、それが本当に誘拐であれば、極秘捜査になるわけで…あたしたちがその捜査の内容を窺い知る事なんてできるはずはないのだが。
身代金受け渡しの要求があったところで、たかだか、後輩でしかない、佳乃にその情報を教えてくれるはずもない。
無論のこと、マスコミの皆さんには緘口令が引かれているだろうからね。
誘拐事件は公開捜査になるまでは、捜査は秘密裏に進められる。
……というのは、ドラマの受け売りだがね。
もし、誘拐ではないのなら何らかの事件に巻き込まれた可能性が高いわけだが…。
5人の人間が、この短期間に行方不明になっていることから、なおのこと、事件に巻き込まれたと推測するべきだろう。
そんなこと、佳乃に言う訳にもいかないな、余計な心配をさせるだけだ。
もっとも、その可能性があることも十分に念頭において入るだろうけれども。
ただ、いなくなった5人の先輩達って…。
「なぁ…先輩以外にもいなくなった人たちがいるんだろ?」
「そういう話ですわ」
「へぇ…そんな噂が広まっているんだ…」
「噂じゃないって!」
「そうなのか?」
「うん…」
「いなくなった人たちって、みんな陸上部の先輩か?」
「え?」
「違うのか?」
「うん…詳しくは知らないんだけど…」
「そうか…全員高等部の先輩?」
「いえ…高等部の先輩方と中等部の生徒もいなくなっているって話ですわ…けど…噂が噂を呼んでしまって…」
「グス…ぐす…先輩も、他の人たちみたいにもう帰ってこないのかなぁ…」
「大丈夫だって。きっと、家出だって。何か悩んでいることがあったんだろ?すぐにひょっこり帰ってくるさ」
「でも、でも!先輩はそんなことをするような人じゃないよぅ」
「そうなのか?」
「そうだよ!先輩はすっごく、強い人なんだから!」
「そうではあっても、佳乃は先輩のすべてを、知っているわけじゃないんだろ?」
「そうだけどさ…」
「だったら、先輩だって、お前に言えないような悩みを抱えていたかもしれないんだぜ?心配だろうけど、早く帰ってくることを願うしかないんじゃないか?」
「うん…けどぉ…」
また、じわっと佳乃の目に涙が浮かび始める。
琴美ちゃんも困ったような表情をしている。
「だぁ!わかった!その先輩のことを調べてみるよ。知り合いに探偵がいるんだ。その人に調べてもらおう、な?」
知り合いと言っても、あいつだ。岡島さん。
胡散臭い事この上ないのだが、すこしでも、佳乃に安心してもらえるのであれば、アレの存在価値もあるというものだ。
「え、ほんと!?」
ぱぁっと、佳乃の顔が光り輝く。
「まぁ…一応、その…知り合いかな?姉さんの知り合いと言うか…とにかく…探偵がいるんだ。優秀かどうかは知らないけど。一度相談だけはしてみよう」
「でも…お金がかかるんでしょう?」
「あ、そっか…」
マスターに…は、相談できなさそうだなぁ。
あの人、あたしが岡島さんにに接触することを良しとしないだろうなぁ、きっと。
まぁ、しかたない。
見積もりを取るだけならば無料だ…という名言がある。
相談をするのも、それはそれで無料の範疇に入るに違いない。
「まぁ…相談だけしてみよう。お金のことはそれからだよ」
探偵の調査料が、普通の中学生に払える金額とも思えないが…。
いざとなったら、マスターに土下座してでもお金を借りればいいことだ。
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