東壁堂本舗

魔法少女 二次 はじめました!
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2012年12月30日 | 彼女達の奮闘記
 ウシャスと呼ばれる管理局の戦闘艦艇が地上砲撃の準備を推し進める一方で、私達のいるアースラの艦橋でも、慌ただしく突入の準備が進められていた。アースラの管制コンソールの前に座るアースラの管制官、エイミィさんが目にもとまらぬ早さでキーを叩き、戦闘管制用の術式を組み上げてゆく。

 「なつきちゃん!アースラのメインフレームの部分解放完了、データベース領域を確保。戦闘データの管理は、このエイミィさんに任せておけぇ!」

 先の私が作り上げた戦闘管制プログラムは、エイミィさんの手によってアースラのメインフレームにインストールされている。私の知らぬ間に、あの時の術式の大半がコピーされていたのはあえて気にすまい。術式を彼女に公開していない以上、あの時私が組み上げた術式を記憶し、その記憶だけで作り上げたのだろうから。

 しかしあれだけの手本を、目の前で見せられたのだ。彼女にだって、アースラの管制を任されていると言うメンツというものがあるのだろう。ただただ、誰かに魅せられていると言うだけでは、いられるはずもない。実際に、彼女の組み上げた制御式は私の作り上げられたそれよりも遙かに洗練されている。そこはさすがにその若さでアースラという次元航行艦艇の管制官になるだけの知識と経験があるのだろう。

 ならば、戦闘データの管理は確かに本来の彼女の業務のうちだ。ならば、その作業はプロに任せておけば心配は無い。

 「了解です。リニス、前線戦闘管制は任せますよ」

 だとすれば、アースラにいる彼女は全体の戦闘管制を担当することになる。別に彼女の手腕を疑う訳では無いが、繁雑になるそれを一人でやるよりも、複数の人間で手分けすれば、より精緻な作業が出来るというものである。ならば、戦闘にも長け、情報技術方面の術式にも明るいリニスが前線でそれを行うのが一番の適役だ。

 無論、彼女もそれを十分に認識している。

 「かしこまりまして」

 この優れた使い魔の能力があれば、そしてエイミィとアースラの能力があれば、先に私が行った事の再現なぞ、造作も無い事である。いや、それ以上のことだって、できるに違いない。

 「ユーノ君は転送と同時に防御魔方陣を展開、転送拠点の構築をお願いします」

 当然のことながら、ユーノは防御魔方陣を担当する。地味ではあるが、重要な役割である。上空からのラートリの砲撃によって、敵の戦力は激減し、一時的にはその攻撃もやむだろう。その間隙を縫って、私達は、現地に乗り込むという危険な行為を行う。

 その為に、上空の艦艇からの支援砲撃をもらう訳なんだけれど、もし、相手の動きが、私達の予想以上に速く、時の庭園上空のウシャスおよびラートリからの砲撃による地上砲撃からの、立ち直りが私達の思っていた以上に早ければ、あっという間に包囲殲滅を受けてしまう可能性だってある。もし混乱が続いていたとしても、私達が飛び込んだ先には、敵の戦力が集中してくるのだ。

 特に傀儡兵と呼ばれる魔法で動く戦闘機械の動きは特に注意しなければならない。機械で出来ているだけに、そういった精神的な混乱や疲弊は彼らに影響を与えない。人間の部隊との有機的な運用は難しそうだけれど、こういった場合には、その無機質な攻撃の仕方は非常に手を焼くことになるだろう。

 だから、まず私達が、時の庭園に乗り込んだ時にまず接触するのが、この傀儡兵の部隊であると思われる。そして、地表面からの情報マップに浮かび上がる魔力の光点からすれば、未だ無数にその魔導人形が蠢いている。

 それ故に、後続の転送は急がなければならないのだが、その場所はやはり、十分に安全が確保された場所で無ければならない。

 その為の拠点の安全確保、その一番最初の最初にユーノは乗り込まなければならない。私は残酷なことに、大切な友人である彼にその役割を押しつけなければならない。

 彼だって、精神年齢がその見かけと違ってずいぶんと高いものではあるものの、その役割はずいぶんと身体が震えるような思いにとらわれているに違いない。それに、彼らの後に、転送ゲートで飛んでくるすべての人間は、彼に命を預けていると言っても過言では無いといった立場だ。そんな重責を負っているにもかかわらず、至っていつも通りに、彼は自信を持って私の言葉に頷いた。

 いつだって、どんなときだって。このメンバーならば、不可能なことなんて無いと、ユーノは思っているのだから。ならば、彼にとっては不安なんてあるはずも無いのだろう。

 私だって同じだけど、誰かが自分を信頼してくれているのならば、その信頼に応えることができるのはやっぱり、嬉しいことだから。だから頑張ることが出来る、やせ我慢を少しだけしたとしても頑張ってみせることが出来るのだ。だから、彼ははっきりと頷いた。

 「任せておいてよ!」

 「本当によろしいのですか?ずいぶんと危険な仕事ですよ?」

 その言葉にユーノは、笑みを浮かべて見せた。

 「君がそんな顔をして頼んでくるんだから、断る事なんて出来ないよ。それに誰かがやらなければならないだろうし、僕が断れば、また君が無茶をするからね」

 「無茶は駄目だよ!」

 フェイトがユーノの言葉に反応して、叫ぶように言う。

 「そうだよ!いつだってなつきちゃんは無茶ばかりするんだから!」

 フェイトの言葉になのはが続いた。私怒ってますよーと言わんばかりに頬を膨らませるなのはだったが、実際には彼女の方が何度私の胸をはらはらさせたかわからないぐらいである。

 「何を言っているんですか!いつも無茶ばかりするのは貴方達の方じゃ無いですか!だいたい貴方達は……」

 その時こほんとクロノが咳払いをしたのが聞こえた。おっと、どうやら話が脱線しかけていたらしい。

 「失敬……なのは、フェイト。色々と言いたいことはありますが、けれども今はそれなりのことをしなければなりません。転送完了後、周辺の空間が安定したらすぐに周辺の敵魔導兵器を駆逐します。アルフはフェイトのサポートをお願いします。まずは大きいのを一発、その後武装隊の人たちと合流しつつ、居住区を目指しますよ!」

 「うん」

 「わかった」

 「了解だよ!」

 そして、全体を見渡し、指示をするのはクロノだ。
 そんな彼を、私はじっと見てみる。

 「な、なんだい」

 わずかに顔を赤くするクロノ。

 そんな彼に、なつきはくすくすと笑みを浮かべた。
 そして、いつの間にか見よう見まねで覚えた管理局風の敬礼をする。

 「頑張ってきます」

 「ああ、頼む」

 「頼まれました」




 きらり。

 時の庭園の上空で、白い小さな光が瞬いた。

 それは、アースラの艦橋から見れば、小さな星屑のようであった。夜空を駆け抜ける流れ星。しかし、その小さな輝きは、想像できないような破壊力を持った魔力が込められている。それでも、私はその流れ星をなんて小さいんだろう……と感じた。

 だが、次の瞬間、夜明けのような眩い閃光が、庭園の地表に生じたのだった。

 「|空対地炸裂弾《パイル・バンカー》時の庭園地表部に落着しました!」

 ラートリから放たれた対地攻撃が時の庭園に一撃を与えた直後。

 アースラのモニタ越しに、時の庭園に真っ白い閃光の華が咲き乱れる。その花弁が徐々に広がってゆく。ただし、見た目には美しいが、その花弁にほんのわずかにでも触れれば、人も傀儡兵もなにもかもが吹き飛んでしまう破壊の花弁であった。

 「パイル・バンカーの地表部到達。庭園地表部に魔力の拡散を確認、衝撃波により傀儡兵の破壊を確認しました」

 「パイル・バンカー目標地点からの敵勢力の撤退を確認、周辺部の魔力反応ありません!ただし、地表部から吹き飛ばされた土砂が巻き上がっています。周辺視界はあまりよくありません」

 「アースラからの敵位置の情報監視を開始。悪視界下の戦闘開始だ!地上突入部隊との情報のやりとりを密にしろ。探査端末を可能な限り準備、すぐに降下させろ!」

 「デバイス間の疑似ネットワーク構築完了、各部隊員のエントリー開始。アースラメインフレームとのリンクも問題なし、メディカルシステムとのリンクによるライフコントロールリンケージの設定準備開始、順次登録中です」

 「転送プロトコル入力完了、突入部隊のデバイスマーカーロック!転送コード読み込み開始、第一陣転送のカウントダウン開始、30、29、28……」

 気がつけば、なのはが私の手をぎゅっと握っていた。

 うらやましそうな表情を浮かべるフェイトがいたから、彼女に向けて、なのはとつないでいる手とは逆の手のひらを指しだした。彼女はほんの少しだけ戸惑った様な表情を浮かべたけれど、そしてその手をフェイトはぎゅっと握りしめる。彼女はホッとしたような、ほほえみを浮かべた。

 今更言葉なんていらない。力強く、彼女達の手を握りかえした。それだけで、たったそれだけで、どことなくざわついていた私の心は妙に落ち着きを取り戻した。何とも不思議な気持ちであった。

 ああ、自分でも、こんな時には不安な気持ちになるものなのだな、と、妙に納得しつつも、そんな私の心を支えてくれる友人達がありがたい。なのはの心がとても嬉しい。フェイトの気持ちがとても嬉しい。彼女達だって、自分の不安を隠しきれずに、無意識的にとってしまった行動であるのかもしれない。フェイトのそれは、なのはへの対抗心だったり、幼い独占欲みたいなものも含まれているのかもしれないけれど、こうして、自分にとって大切な人間がすぐそばにいてくれることがどんなに心強いことか、私もはっきりとそれを認識した。

 それに。私は艦橋に立っている一人の男の子をじっと見つめる。

 ああ、これは、やばいな、と、私は私の心の中にあるそれを一応は自覚する。こんなところで、大人並みの知識や精神を保っている自分がある意味にくい。それが、その気持ちが何かなんて、幼い心であれば理解できなかったかもしれないけれど、その感情に一つの単語で名称をつけることが出来るぐらいには私の心は成熟してしまっている。

 今のところ、警戒レベルには入っていないと思っているのだが、注意報ぐらいには、彼への意識は高まってきている。それでも、なのは達に比べれば、その優先順位は高くは無いのだが、それでもなのはは身内の大切さに近いし、フェイトはまさに家族である……あるいは自分自身なのか。でも、そう意識すると言うことは、彼のことを、すでに友達以上と認識してしまった証左なのだろう。

 「でも、それも悪くはありません、か……」

 結局、『なつき』の力の源は、『なつき』が好きである人間を守る事にある。とりあえずは、彼もそんな人間達の一人に加えてもいいのでは無いだろうか。ああ、そんな風に考えたなら、胸の中がとても暖かくなってゆく。

 なんて思いながらも、私の唇には苦笑しか浮かんでこなかった。

 「違うか、とっくの昔に、彼の存在は、私の動力源の一部になっていたか」

 そう、とうの昔に私はこの胸にともった暖かな光を自覚している。

 それが、まだまだ、か細く未成熟な小さな光であると言うことも、私の精神(こころ)は認識している。それでも、この心を満たす暖かさは本物であり、無視できるものでは無い。この感情がどんな方向に育つかは、私だってわからない。世間一般の女の子達がきゃわきゃわと騒ぎ立てるような物語になるかどうかは、今後の展開次第だし、未来なんてわからない。あ、いや、確かに『未来の知識』という意味では無いわけでは無いのだけれど、私という不確定要素の塊が、私個人の未来を予測できるはずも無い。

 私という人間は、今ここにいる『アリシア』という人間は、素直に女の子が出来る人間では無いって自覚はしているが、まぁ、そんな風に色々と悩んでみるのも楽しいのかもね。クロノ君には色々な意味で振り回されてもらうことになるのかもしれないけれど。

 そう思うと、くつくつと笑みがこぼれ落ちた。

 なのはとフェイトが急に声を出して笑い出した、私に不思議そうな表情を向けてきた。クロノは自分の顔を見て笑い出した私に、胡乱げな視線を向けてきた。

 「人の顔を見て笑い出すな、失礼な!」

 「これは失敬。それはともかく、こちらはいつでもいけますよ」

 毅然とした執務官としての態度から、ころりと年相応の少年らしい表情を浮かべて文句を言うクロノに、慌てて私は、話題をそらせようとした。

 そこに、アースラの管制官の人から、転送の準備が完了したと声がかかった。

 「転送準備完了、目標地点の安全確保確認完了、各チェックシステムオールグリーン」

 「敵部隊が、目標地点外周部を包囲する行動を始めています。前衛に傀儡兵、その後続に敵武装隊!」

 「パイル・バンカーによって減少した敵の兵力はおおよそ2割。残りは庭園地表部と内部に未だ残存しているものと考えられます」

 ウシャスにいるレティ提督が、私達にむかって言う。

 「必要に応じて敵勢力の密集地帯に再度地表砲撃を行います、魔力弾選択、地上突入部隊はアースラからの管制情報に注意して!」

 「ありがとうございます、提督」

 「それじゃ、気をつけて行ってきてね」

 「了解です、提督」

 「転送準備完了」

 クロノがその言葉に頷いた。

 「第一陣転送開始!」

 その瞬間、私達は白い光に包まれ、次の瞬間には、時の庭園の地表に立っていたのだった。




 そして、私達が送り込まれた時の庭園は、未だに土煙が立ちこめており、周囲の視界は最悪の状況だった。わずかに、お互いがそこにいるということだけが認識できる。

 「リニス、周囲状況の確認。ユーノ君、魔力防壁展開!」

 私は、あらかじめ決められた行動を、リニス達に実行するように促した。ここから先は、いかに早く、そして安全に後続の部隊がこの場所に送られてくる事が出来るかが、その勝敗を分けるといっていいだろう。だから、ほんの少しの時間も惜しい。

 「了解、防御魔法陣展開!」

 ユーノが大規模な防御魔法陣の術式を構築し始める。その横で、アルフが周囲を伺っていた。

 「周辺に魔力反応無数、大きさは様々ですが、この場所にむかって集結しつつあるようです。アースラからの上空観測情報と周辺の探査端末とのデータ照合を始めます。同時に戦闘用ウィジェット展開。私は戦闘管制モードに入ります」

 「了解です。なのは、フェイト。とりあえず、魔力反応の大きなものは傀儡兵でしょう。数が非常に多いため、本来ならば無視するのが得策ですが、後続部隊を待つためにこの場を動くことが出来ません。それに傀儡兵達は魔力によって操られている魔導兵器ですから、負けそうだからといえって後退することはあり得ないでしょうし、相手は戦闘の常道として、まずは、傀儡兵を楯にして、こちらに攻撃を仕掛けてくるでしょう。ですからまずは、これらをしらみつぶしに叩きつぶします」

 「「了解」」

 やがて、周辺に舞い上がっていた土煙が晴れ始める。そして、私達の目に、次元海の暗闇の中に浮かび上がる無数の光点がはっきりととらえられた。

 「しっかし、こりゃ……ちょっと、多くないかい?」

 そうはいえいながらも、アルフの顔には不敵な笑みが浮かんでいる。ぱきりぱきりと指を鳴らしている。どうやら、やる気は満々の様子だ。

 「ですね。でも」

 「私達だったら、絶対に負けないよ」

 「うん……」

 二人の顔にも決意の表情が浮かんだ。

 ぞくりとする感覚が全身を駆け巡る。視線をあげれば、ゆっくりとバリアジャケットを身にまとった人間と傀儡兵の混成部隊が動き始めていた。そして敵部隊の前に術式の展開の為の魔法陣を確認する。

 「来ます!」

 そして、はっきりと、傀儡兵達に、大きな魔力が流れ始めた、そう感じた。次元空間の薄ぼんやりとした空間の中に、確かな魔法の光がともり、それは確かな魔法の力となって私達にむかって幾つも飛来した。それは、あたれば一撃必殺の力を持っているに違いない。

 それに反応して、なのはとフェイトもデバイスをしっかり構え、術式構築の準備を始める。私達と同時に転送されてきた武装隊員達も、自らのデバイスに攻撃魔法の発動を命じた。そんな彼らを守る為にユーノが防御術式を展開した。その防御魔法が私達の周囲に出現し、敵の攻撃をことごとくはじき返えす。防御魔法の消費魔力は、はじき返した魔法攻撃のその威力に比例する。ならば、彼の魔力疲労は相当なものになるに違いない。その証左に彼はわずかに顔をしかめている。

 「ユーノ君!」

 「うん、これぐらいなら大丈夫!」

 その声はまだ勢いを失ってはいない。ならば今しばらくは彼を信じて任せてもいいのだろう。

 「やばかったらすぐに言ってくださいね」

 「うん、ありがとう。でも、少しぐらいのやせ我慢は許して欲しけれどね」

 「さすがです」

 そして、彼らの攻撃を防ぎきったその後で、なのは達の魔法攻撃が傭兵達を

 だが、さすがにあいても百戦錬磨の傭兵達である。動揺を隠せないながらも傀儡兵を壁に押し立ててこちらに向かってくる。

 「右魔力反応5,左魔力反応7。右翼なのは、左翼フェイト術式展開開始願います」

 「了解!リリカル・マジカル……」

 「うん……アルタス・カルタス・エイギアス、来たれよ雷帝の槍」

 魔力が収束し二人のデバイスを中心に魔力が集まり始める。優秀なインテリジェントデバイスは的確に彼女達の魔力を導いてゆく。そして、後はその満ち満ちた魔力の塊を解き放つ為のキーワードを口にするだけだった。彼女達がその言葉を唇に載せれば、天稟の力は解放され、目の前をふさぐ障害を、あっという間に打ち砕いてしまうだろう。

 だが、その瞬間。

 敵の部隊の後方、おそらく時の庭園の地下に無数に走る地下通路の排気ダクトがあるあたりに、大きな爆音と共に閃光が走った。




 私は、いつも思うのだ。

 しかし、どうして、魔導士という人種は、こうも簡単に空をほいほいと飛んでみせるのだろうか。これは、なにか。魔力の低くてまともに空を飛べない私に対する当て付けの様なものなのだろうか?

 確かに地上戦力に対する有効的な戦力として、飛行可能な魔導士を準備するというのは定石であると言えるだろう。今の私達と敵対する傭兵部隊の、その意識はともかくとして、少なくとも彼らは戦闘のプロ集団である。だからいかなる場所であったとしても、それに対応するだけの術を身につけているはずである。当然のことながら、地上部からの攻撃から、自由度の高い空中からの攻撃切り替えるのも戦術上有効な話で……。

 「なつきちゃん、なつきちゃん」

 なのはが私のバリアジャケットの袖を引っ張る。さすがの私でも、この様な状況下においてはバリアジャケットを身につけている。

 「なんですか、なのは!」

 「あのね、あれは飛んでる……んじゃ、なくて、吹き飛ばされていると言うか、何といえうか、そんな感じの……だと思うの……」

 ……。

 ですよね?うん、現実逃避終了。

 いかにも理性的な台詞で現実逃避をしようと言う私の作戦はなのはの台詞で終わりを告げた。うん、仕方が無い、現実をしっかりと見つめることにしよう。

 うん、その通り。なのはの言う通りである。

 彼女の横で、バルディッシュをその手に構えたまま、呆然とした表情を浮かべたままのフェイトがいる。その背後では、あんぐりと大きく口を開けたまま、硬直しているアルフの姿があった。その彼女達の視線の先には、こちらを包囲しようとして集結してきた部隊の背後で、雷鳴のような音と、大きな煙が噴き上がると共に、敵の武装隊の人間が、ぽーん、ぽーんと、吹き飛ばされてゆく。

 もちろん、自ら飛び上がって、地面に落下するなんて、そんな器用なまねを誰も好きこのんで自分からやるはずも無い。なにが起こっているのかと、相手側だけで無く、私達も含めて騒然とする。

 「あ、重量級傀儡兵(ギガンテス)が吹き飛んだ……」

 フェイトの言う傀儡兵(ギガンテス)。重量級というだけで、庭園の地表部に展開している傀儡兵の中ではひときわ大きなサイズのものだ。背中に大きな砲塔を背負っているタイプ。その重さは容易に想像できるのだが……。

「まるで鳥の羽みたいに飛んでいきましたけど……」

 私は学校で発言を求める時みたいに、右手を挙げた。

 「ユーノ先生!まさか、あの手の兵器って未知なる金属で出来ていて羽毛のように軽いとか?」

 そんな私の言葉に、ユーノが首をぶんぶんと激しくふる。

 「そんなわけ無いよ!逆にあの手のタイプは装甲を厚くする為に相当重い金属を使っているはずだよ!」

 「ですよねー。やだなーだったらあれは幻かなー」

 でも、明らかに普通の邸宅ぐらいの大きさはある傀儡兵が中空を舞っている。でも、そんな巨大な物体が、宙を舞うなんて……あ、あれ?

 急にあたりが暗くなる。

 「……あれ?」

 ………。

 「ねぇ、なつきちゃん。なんかこんなのばっかりだけど、こっちに向かってくるあの人形、あれってとってもあれなのでは?」

 「……わ、わ、わわわわわわ!退避、退避、退避ぃ!武装隊の皆さんも、そっちの皆さんも大至急後退です、激しく後退です、とにかく後退です!」

 小首をかしげているフェイトの手を引きながら、私達は後退を始めた。わらわらわらっと、私達と交戦を始めていた相手の部隊も脱兎のごとくに逃げ出し始めた。その場に、上空に舞い上がっていた巨大が落下してくる。あんなものに押しつぶされれば、人間なんて簡単にぺちゃんこだ。さしものバリア・ジャケットを身につけていたとしても、運がよくても大怪我は免れまい。だから、とりあえず、戦闘をおっぽり出した私達は、とにかくその場から逃げ出すのだった

 そして、見事に、その巨体は、私達の中央付近に落着した。地面がずしんと、鈍い音と共に振動する。時の庭園すべてが揺れたんじゃ無いかといえうぐらいの大きな振動。そして噴き上がる土煙。今まで、激しい戦闘を繰り返してきた私達と敵の武装隊の間に、奇妙な沈黙が訪れた。

 そこに、のんびりとした声が聞こえた。

 「あら、ちょっと、手加減を間違っちゃったかしら?」

 ざわりと、動揺した相手の部隊が、二つに分かれる。私達も、思わず数歩ばかり後ろに下がった。

 「手加減というか、そんなつもり全くなかったでしょう、貴方は!」

 そのど真ん中を、敵の武装隊をまるでものともせずに、その部隊の中央を、堂々とした様子で姿を現した二人が、そのうちの一人、不良管理局員がぺろりと舌を出した。

 「てへ、失敗失敗」

 可愛く言っても駄目である、この不良提督!

 「………私達を殺すつもりですかぁ!」

 舌を出さなかった方、つまり私達の母親は、涙を浮かべて抗議を始める私にまぁまぁと手でなだめるような仕草をしながら、それでも艶然とした様子で笑みを浮かべていた。それはゆったりとこちらに近づいてきた彼女達ではあったが、その歩みを誰一人止めようとはしない。誰もが唖然としながら、彼女達が私達に近寄ってくるのを見ている。

 私達の前に、その二人が立つ。見慣れた二つの顔が笑みを浮かべた。

 「とりあえずは、無事で何よりだわ」

 「……それはこっちの台詞ですよ……」

 そう、そこにいたのは、ぴんしゃんとした姿で立っているのは、私とフェイトの母親である、プレシア・テスタロッサと、管理局の提督リンディ・ハラオウンだった。

 そういえば、私達は、さっさと、空を舞う……いや、吹き飛ばされた重量級傀儡兵から逃げ出した為、それなりに無事と言えば無事だったが、空から落ちてきた傀儡兵、結構な巨体だったのは確かである。その巨体は十分な重量を持ち、地面に積もった土砂を再び巻き上げるには十分であった。つまり、結構目の前に落ちたそれは、直接的な被害を私達にもたらすことは無かったが、それでも、私やなのはとフェイトは土まみれになり、ユーノとリニスは半分土砂に埋もれたことを報告しておく。


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