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【282】少しずつ、こうやって、話せるようになった

 探偵モト【238】手帳【237】が柱に寄りかかったまま女言波で語り終えたとき、歴史家である【310】シュシ・イタマはいつだったか読んだ〈少しずつ、こうやって、話せるようになった〉という小説の内容を思い出していた。聞き慣れない出版社の本だったが、蝶々夫人【199】とよく似た美しい装丁で、帯には〈二つの世界を巡る壮大なフィクション〉と銘打たれていた。その帯をどうやっても取り外せずにいつも窮屈そうにしていた彼女の内容は、手帳が語ったものと一致していた。すぐに書庫【283】へ向かったが、すでに売却したあとだった。シュシ・イタマは部屋に戻ると、席についていつものように石を磨きはじめた。探偵モトの手帳は柱に寄りかかったままだった。その様子を眺めていたノキタハ博士(窓としてのエピソードは【170】を、論文については【147】を参照のこと)が、ふと誰かの視線を感じて外に意識を向けると、目の前には一羽の鴉が斜に構え、翼を広げて博士を見つめていた【284】。なぜだか分からなかったが、博士は懐かしさを感じて見つめ返さずにはいられなかった。

 

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【278】それがどうしてサランジュ師に?

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