萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk55 時計act.6 ―dead of night

2018-01-06 09:08:00 | dead of night 陽はまた昇る
唯ひとつだけ、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk55 時計act.6 ―dead of night

問いかけた真中、白シャツあわく立ち竦む。

「来てくれてうれしいよ俺、でも、どうして湯原?」

どうして君は今、ここに来た?
真夜中の寮室せまい空間ふたり、デスクのかたわら君がいる。

「湯原はどうして、俺のとこに来てくれた?」

質問くりかえす唇、オレンジが香る。
唇かすめる淡い甘さ惹かれてしまう、だって君の匂いだ。

「どうしてか言ってよ、湯原?」

笑いかけるデスクライトの先、コットンパンツの腰が細い。
そでぐち覗く少し小さな手かすかに指さき揺れた。

「どうしてって…宮田、」

くぐもるくせ澄んだ声が呼んでくれる。
その視線つかまえたくて見つめた薄闇の空間、長い睫ゆっくり瞬いた。

「きょう、はなしかけてこないから…体調、悪いのか?」

落ち着いた声あわく透ってくる。
今なんて言ってくれたのか?その想いにデスクライト微笑んだ。

「俺が話しかけなかったから湯原、気にして会いに来てくれた?」

気にしてくれる、君が、この自分を。

そうだったらいいと何度もう願ったろう?
その願い現実になる瞬き、長い睫ゆれた。

「きになる、だろ…まいにちはなしかけられてたら、」

継続って力なり、って本当だ?

そんな感想と見つめる真中、伏せられた睫が長い。
その瞳ただ捉まえたい、でも動けないままデスクライト蒼白い。

「だから…宮田に訊こうとおもって、」

蛍光灯ほの白い部屋、くちごもる声あわく白シャツ佇む。
ぎこちない俯き顔かかる黒髪やわらかで、指からめたくなる。
でもまだ叶わない願いごと、そっと英二は笑った。

「来てくれて嬉しいよ、湯原、」

君が来てくれた、それがただ嬉しい。
こんな「嬉しい」自分は知らなかった、初めての感情に微笑んだ。

「ベッドに座れよ湯原?立ったまま話すより目線を同じにしよ、話しづらいだろ、」

君と同じ目線になりたい、そうして近づかせて?
想い笑いかけた先、小柄なシャツの肩かすかに揺れた。

「…いていいのか?」
「だめなら座れなんて言わないだろ、」

笑いかけて立ち上がりたくなる、このまま君の隣に座れたらいいのに?

―ベッドで隣とか、座りたいけど?

けれど座れない、君の隣だから。

こんな躊躇するほど自分は純情だったろうか?
めぐらす想いの真中、コットンパンツ細い腰ぎこちなく腰下した。

「ぁ、」

つい声こぼれる、だって君が座った。
自分のベッドに君が座った、それだけに鼓動ふかく掴まれる。


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