こんな夢を見た。
「僕」は十をひとつほど越したくらいの少年であった。
同じ年頃の、自分とよく似た少年と二人、座敷で茶菓子の段取りをしていた。
彼は僕の兄弟というのではないようで、しかしとても仲のよい、
どうやらいとこのようだった。
季節は夏の盛りのようだ。
離れた部屋ではさきほどまで法事が行われていた。
大人たちはそちらにいる。
いや、子供も、みなそちらにいる。
この部屋にいるのは、僕ともう一人の少年と、
人の形をした数人のあやかし。
普通の、白いシャツに黒いズボンの整った顔立ちの青年、だが、人ではない。
ほかに3、4人居るだけだが、気配はもっと多く、
むしろ犇いていると表現してもよいくらいに、がやがやとにぎわっていた。
それらは大きいものも小さいものも居て、なんとなく見えた。
僕ともう一人の少年は、そのものたちの接待役のような役割で、
沢山の団子やら餅菓子やら干菓子やらが並ぶ中で、茶を淹れていた。
そのにぎやかで朗らかな中に居るのが心地よく、
僕はもう一人の少年と何か話しては笑っていた。
ぽつぽつと、少し離れた玄関から客が帰ってゆくのが座敷からも見えた。
その客達は、「人間」の親戚達だ。
簡易礼服、というか。まあ喪服というほどでもない
紺のスカートに白のブラウスといった居出立ちの年配の女性も居る。
何周忌、といったところか、葬式とは随分時が経っているのだろう。
帰り客の中の、自分よりひとつ二つ年上の少年が座敷に入ってきた。
怖いのを悟られまいと虚勢を張っているのが明らかだった。
品のない笑いを浮かべて、見下したような、其れでいてへつらう様な顔で
「よお」
とかなんとか話しかけてきた。
お前らも大変だな、というようなことを云いながら、
人の割には菓子ばかり多い部屋を気味悪げに見回す。
なんだか不愉快になって、悪戯を仕掛けた。
紺色の別珍の蝦蟇口を手渡し、覗くように云ったら、
然もなんでもないフリをして、ぐっと顔を突っ込むようにして覗き込んだ。
ひゅずり。と、蝦蟇口が右の目玉を吸い込んだのが、その外からでも窺えた。
えもいわれぬ感触がしたであろう。
がばりと顔を離した彼は、引きつった笑いを浮かべて
「なんか変な感じがしたな」
と、僕に蝦蟇口を返し、そそくさと帰っていった。
お前の右目、盗ってやったぞ。
楽しくなって、振り向くと、もう一人の少年も悪戯そうな顔で笑っていた。
あの右目を飲まれた少年は、家に帰って右目のないのに気づいて
取り返しに来るだろうか。
そう考えると、愉快だった。
(つきや)