そんな昭夫の職場に動転した声で八重子が電話をかけてきた。「直ぐに帰ってきて欲しい」というのである。家に帰ると小学低学年と思える少女の死体が庭に寝かされていた。中学生の息子がやったのではないか、しかし本人は否定している、と八重子は言うのである。本人に昭夫が糺すと、言う事を聞かないので首を絞めてしまったらしい。警察に自首するしかないではないかという昭夫に、親としてそんなことはできない、死体を隠して欲しい、と八重子が主張、結局昭夫が少女の死体を近くの公園の公衆便所に捨ててしまった。
そんなことをしても警察に見つかるのは時間の問題である。しかし昭夫と八重子はなんとかできないかと頭を絞った。そして、認知症の母がやったことにしたらどうかと考えた。
一方、警察の捜査に当たったのは松宮、警察官になってまだ数年の駆け出しである。警察官になったのは恩人が警察官だったから、そしてその恩人は癌に侵され数ヶ月の命と宣告されていた。その恩人にも息子がいて彼も警察官であると聞いていたのだが、父の見舞いにも来ない。いくら喧嘩していてわだかまりがあるとは言っても、松宮は薄情な息子だと思っていた。公園で見つかった少女殺しの捜索を担当することになった松宮の相方はその恩人の息子、練馬署の加賀であった。松宮の恩人からは、加賀は優秀な刑事だと聞いていた。
加賀は聞き込みを進めるうちに前原家に問題があることを嗅ぎつけていた。認知症の母親がいること、そしてひきこもりがちの息子が同居していることも調べがついていた。認知症のははの面倒を見ているという春美にも聞き込みをして、前原家に大きな問題があると気づいたのである。
前原昭夫は聞き込みに来た加賀と松宮に、自分の同居している認知症の母が少女を殺してしまったと伝えた。しかし加賀はそれを信じなかった。しかし加賀からは「それは違う」とは言わなかった。それは前原昭夫自身の口から出てこなくてはいけない、と考えたからである。春美への聞き込みから、昭夫の母の認知症の状況、そして昭夫と母の思い出を聞き出し、母に罪を着せようとした昭夫が、罪の意識を感じて自分から嘘をついたことを白状するように仕向けたのである。前原家の本当の問題は認知症の母の介護ではなく、ひきこもり気味の中学生の息子であること、これを昭夫の口から言わせることによって問題の存在を改めて認識して欲しい、という加賀の思いからでたやり方であった。
「赤い指」は加賀がそのことに気づくきっかけになったこと。そのこととは。そして松宮と恩人の息子との物語もストーリーのエピソードとして話を盛り上げる。介護とひきこもりという社会的な問題と、有能な刑事としてのちょっとした思いやりが絡み合う、東野圭吾ならではの面白さがある。2006年直木賞受賞後の第一作。
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