夜中の紫

腐女子向け 男同士の恋愛ですのでご興味のある方、男でも女でも 大人の方のみご覧下さい。ちょっと忙しいので時々お休みします

沁みる 18

2017-06-07 | 紫 銀

「・・・・墓ですか・・・?。」

 

「先生の妻・・田嶋ユキの墓だ。・・・ミタケが生前に一緒にして欲しいと聞いたそうで・・・遺骨を少しだけなら、・・・許されるだろう・・・。」

「分骨・・・ですか。」

総悟が港に聞いた。

 

港は立ち上がり、

床の間に安置されている白い木箱の前に座る。

手を叩き米をつまんで捧げてから拝む、神道の作法だった。港は田嶋にその報告を祈りに込める。

懐から小さな茶筒を出し脇に置くと 総悟に場所を譲る。

総悟も港と同じことをし、

港は神棚から遺骨入りの壺を

白い包みを 下ろし開けた。

総悟がじっと見守る中、骨壺の蓋は明けられる。

先日粉々に砕かれた田嶋の骨

それをを見て、唇を噛む総悟に

「・・・我々は人を切っても裁かれて来なかった。・・だから仏にはなれんのだ。」

そう言い、白に近い灰の中から喉仏の骨を掘り出した。

それを 総悟と一緒に箸で拾うと、茶筒に入れ封を締める




その後、台所のミタケに会いに行った。

自分が戻ってきたことを ミタケさんは泣いて喜んでくれた・・・。

今は毎日道場の飯を作ってはいないが、港が道場に詰めるときはミタケが食事を作っていると言う。

ミタケはお供え用の料理を作り、重箱に詰めて待っていてくれた。

 

「これでユキが・・・待ってる所を思い出さないで済むねぇ・・。」

ミタケがしみじみそう言うと、重箱を持った総悟に手を合わせ拝んだ。



何も無い


山がまだ裸で その稜線を晒したいだけ晒している。

眺めているが、どこかにと・・・先生を探して山ばかり見てしまう。

故郷を守る外輪山・・・ぐるっと土気色だったが 先生の骨を巻くと言う神社所有の場所は、常緑樹なので、ここから見ると良く判る。

そこだけなぜか死んだように 緑も黒い気がするのだ。


反対側のここは、枯れ草が辛うじて山肌を覆ってはいるが、春の土臭く

夏には背の高い草で・・・良く風になびく場所なのだろう。

田嶋先生が草を口に突っ込みながら 風が来る方に体を向ける姿が見えそうだった。

「ここは・・・あの場所が 良く見えるからここにしたんだ・・。あいつらしいだろう?」

港先生が 総悟の隣に並んで声を掛けてきた。

指さした先は、さっきの黒い森。

「・・・。」

総悟が黙って居ると

港は山を後ろに降り 水を汲みに行く。


 

田嶋先生の姿がない 

という・・実感がない。

江戸では考えなくて済んだのだが・・・

ここに来ると 空っぽなのが良く判る。


港が桶に水を持って上がってくると

総悟は、背中にお重 首からはあの白い小さな包みを下げたまま

まだ城下を見下ろしている。

港は 声を掛けずらかったが、仕切りなおすように


「きつくないか・・・?。」

と声を掛けた。

自分でも変に 田嶋の様に声を掛けたもんだと思ったが

「・・・いえ・・別に・・。」

と、総悟の声には張りが全くない・・・


港はユキの墓石を懐から出した手拭いで拭いて 汚れを取った。

背負って来たものの中から線香を出すと 火をつける。

煙が総悟の方に届き、彼がやっと振り返ったので、差し出すと、

総悟は背中のお重を草の上に下ろし、線香をユキの墓の前に突き立てた。

手を合わせる総悟を見て

「・・・・田嶋・・・あいつが泣かなかったから 俺はもっと泣けん。・・・・・・。」

港が言う。


総悟が 墓石の前を譲る、

港が拝むのを見てから

「ありがとうございました。」

と言った後、

「呼んでいただいて・・・。」

と付け加えた。


「・・・お前の家だろうが。」

港は立ち上がりながら そう答えた。



総悟を墓の前に立たせておいて、

港は墓の前に敷物を敷くと、お重を丁寧に解き、総悟に持たせていた塗りの椀に

いくつもお供え料理を盛り、酒をコップに注いでから、几帳面な港らしく墓前にぴしっと供える。

「田嶋は仏じゃないから、大丈夫だろう・・。」

港先生が言っているのは、独り言。

総悟は広げられたピクニックのような光景に 荷物がおもい訳が分かり、少し・・・。


準備が終わると、二人の前にちょっとした宴会並みに 料理が並んだのだ。

献杯をして一気に酒をあおる。

「・・・・。」

二人は空を見ながら酒を飲み干し、

だが・・言葉が出ない。そのまま

もう一杯注ぎ、

また 黙って飲んだ。


酒で蒸せたわけでもないが・・・・胸がいっぱいになると目もおかしくなった。

総悟が、眉間にしわを寄せながら、一升瓶を持ち上げ港先生に頭を下げると、

「・・・。」

港はそれを眺めながら、コップを総悟の前に出した。

彼は注ぐコップを睨むように見て、涙を見せまいとしている、


「・・・総悟、こっちも食え・・。お前の育った飯、・・・・田嶋にはユキの味だ。・・・・江戸から帰って来て、川に行って鯉ばかり釣って来るから、ミタケさんがうんざりしてたがなぁ・・・。」

総悟はかしこまったように 箸で取って口に入れる。

何を口に居れたか見ていなかったらしく、激、酸っぱくなって酒を慌てて飲んだ。

「・・・ユキさん思い出すからてぇ 鯉ばっかり食べてましたねぇ・・・。俺が来て、栄養が偏るからやめるって、この料理になりました・・。」

酸っぱそうに口を押さえる総悟を見て 港は声を上げて笑う

港も同じものを口にし。

「うお・・・。」

と、吠えた。


二人の間には、田嶋の遺骨

ふと二人は それを見あっているのに気が付いて目をそらすのだが、

「・・・この間の葬式の時、土方が鎮めの舞を白洲で舞ったんだが、あいつは涙をこぼして近藤に怒られた・・・。だが、俺も師匠の時・・・俺が舞、田嶋が骨を砕く役目で 音が漏れて来てて、つらくて仕方が無かった・・・。」

港が言う。

「土方さんが・・・?。」

総悟が聞き返す。

港が頷いて

「・・・・俺は、・・・田嶋がどんな気持ちだったんだろうって思ってたが、今回わかった。」

と言う。

総悟は黙って何も言わず。

港は暫く考えて酒を飲み 

足を崩せと言いながら、総悟を見つめ


「・・・・・・お前は・・・なにを 拘っていたんだ?。」

と、酒を勧めながら聞いた。

総悟は両手でコップを前に出し 何か言おうとしたが、

総悟が足を崩すまで 港は酒を注がなかった。

「・・・俺はここに来る資格も無いのに、・・免許皆伝許されるなんて・・・。」

総悟は言って後悔したが、たぶん今言わなければもう口にする事も無いかもしれない・・・


「・・・やっぱりなぁ・・お前は一度止まったら、動けないのだな・・・全部過ぎた事だろが!それに、田嶋がやると言ったのだ文句は無かろう?」

と港はお重から何かをつまんで食べた。

総悟は白い骨壺を見て

「・・・謝って済むような事では・・・ないです・・・。」

と呟いた。

何だか港先生は変わった・・・。元来厳格な人で、あんな・・・過ちを赦すような人ではない。

「・・・。」

総悟がまた黙ると港は


「・・・俺も自分が許せん。」

沈黙に応えるように言う。

「師匠と田嶋・・・二人のしてきた事をちゃんと理解できてなかった。それよりも・・見ないふりして・・・。」

何かを言いかけてやめる。

総悟が港を見ると、港は骨を見て、

「・・・守っるのは・・・侍の魂で、道場自体じゃない。・・・」

と、言った。

総悟は じっと港を眺め

港は振り返り

「・・・田嶋は道場そのものだった・・・・・・・そうだろう・・・?。」

と聞く。

総悟は

「はい・・・。」

と答えた。


「・・・俺の芯はいつも道場に有って・・・先生が居て・・・・・。」

港はそれを聞くと、酒を飲んだ。

 

総悟もその後話す事は無く ただ酒を飲む。

肩を落とし空間に溶け込んだ。



だが、

ここに先生が居たら 身体が見えたら・・・・・・故郷は生きていた 

今は 世界そのものが違ってしまった。一人世界から掛けただけなのに

色を失ったようだ・・・。



何か話さなければいけないと

思うのだが、

重く喉が詰まっているせいで言葉にならず、港先生を眺めると、

先生もおでこを掻いて

無意識に、どうにかしたいそんな仕草だった。


大きすぎる穴を・・・・・


どうにも出来なくて。


食べ物が 大体無くなると、港は広げた時と同様にきれいにかたずけ始めたが、

去りがたく

総悟も 先生を埋める時間が来たことを悟る。

白くて小さな先生を

この場に埋めて去る事など出来そうにない。


「・・・もう・・・春 なんっすね・・。」

と、はぐらかすように言うと

港は

「田嶋は この場が好きだった。」

と また呟いた。


総悟がユキの墓の前を手で掘った。

がりがりと爪を立てまだ固い地面を掘っていく・・。

港がその後ろでぎゅっと音がするほど 骨壺を握りしめている。


最後だ

そう思うと 爪の先に水滴が落ちる。

るずると鼻水も落ちそうになったので啜り、更に前が見えなくなったので袖で目を擦る。

無言で立ち上がり穴を見ると、港先生が田嶋先生の骨壺を 総悟に差し出した。

「お前が・・・ユキに返してやれ・・・。」

総悟がそれを受け取る、

港先生は先に山を下りて行った・・・。




山を下り 城下を抜け道場に帰る。


道場の神坐の近くに座って頭を下げる。

先生が いつも持っていた二振りの太刀と、脇差が置かれている。

ため息をつくと後ろから 

道場に挨拶しながら入ってくる者が 二人。

真ん中の場所を空けようと 立ち上がると・・・

「お帰んなさい!沖田の兄貴。」

と呼び止められた。


「あ・・にき?!。」

沖田が びっくりして声のした方を向くとやはり・・。

「ちわーっす。沖田の・・・兄上。」

総悟はぞーっとして

「兄上?!。」

聞き返すと、男たちはぺこぺこと、頭を自分に向かって下げてくる。

「いやだってー、ここに連れて来てぇくれたのってぇ、兄貴だし、連れて来られて入門するとー、義兄弟になるっつって・・・」

 

「付いて来たんじゃなく・・・着けて来たんだろが!。・・・っていうか兄貴って呼ぶんじゃねぇよ。ぼけぇ。」

無理やり、冷静に務めるように努力した。

するともう一人が、

「馬鹿!おめ・・新選組の一番隊長で、ここの直、館主だぜぇ?やばくない?・・・兄貴とかってやばくない?・・どっちかツウと先生なんじゃね?。」

ともっとぞわっとすることを口走る。

土方が居たら・・・・


「師弟の契り・・っていうや・・・。」

総悟がゆらっと動きそうになった時、道場の入り口から


「一歩下がれ!お前ら!・・・首が胴から離れるぞい!。」

と、

総悟はその声に押されて戻る、

「石川先生・・・。」

と総悟が 声の方を見る。

ちょっと太った石川先生が 近づいて来るので頭を下げる。

「田嶋先生を・・・ユキの墓にお連れしたのか?。」

と聞くので

「はい。」

と 頭を下げていう。


「お前たち 師弟だの義兄弟だの 軽々しく口にするもんじゃない。兄が死ねと言えば 本気でこの場で死ななきゃならない、・・・お前たちは 間合いの間の字も考えないただの塾生だろうが。」

石川が二人に すました顔で言う。

「えーー。」

二人が抗議の声を出すので 

総悟は、殴ったろうかと睨む、

石川が笑って総悟の肘を引いて

「昨日この二人に・・・お前が連れてきた客人を診療所に連れて来させたんだが、・・・・風邪をひいてるみたいだな。話を聞いた・・・お前は、馬鹿な事をやる癖・・・治ってないんだなぁ。坂田さんに迷惑をかけたって、有村が常宿に連れて行って・・・。」

「はぁ?!有村さんの常宿って・・・旦那を?・・・まじっすかぁ?。」

総悟は女たちの中で・・・にやけて眠る銀時を思い浮かべる。

「ああ・・・・だが、有村が見覚えが有るって言ってるんだが・・・彼は、誰かの知り合いか?。」

とても 

田嶋先生です・・・とは言えず

「知りません・・・。」

と答えた。


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