夜中の紫

腐女子向け 男同士の恋愛ですのでご興味のある方、男でも女でも 大人の方のみご覧下さい。ちょっと忙しいので時々お休みします

おはじき遊び 参拾四

2015-07-23 | 紫 銀

suimasennmatigaemasita

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総悟は逃げ回っていた・・・・・。

笹の間を四つ這いになり面白そうに自分を狩る 一刀流の男に執拗に追い回されている。

「・・・まてーー・・・。」

と言われて待つ馬鹿はいないが・・・・、ギンギンと刃が噛む音を聞くと、トシや近藤の近くを離れる訳にはいかなかった。

侍になったはずなのに・・・・。

老人を相手しながら女を連れまわし、もう一人の刃を受けるトシ。

自分をかばおうと 3人を相手にする 近藤に

申し訳ない。

「ちくしょう!!・・・・。なんで!!・・・・。」

田嶋に貰った脇差の覆い布 柄にきっちり編まれ組まれた組み紐はいくら引っ張っても解けてはくれなくて、鞘で受けるだけ 警棒程度にしかならない。

俺の剣・・・。

そう思って抜き放ちたいのに 言う事を聞いてはくれないのだ・・・・。

・・・・結び方を教わったが聞いていないし、港がやった様に しゅるしゅるとはほどけない。

近藤に切る物貸して下さいなどと・・・・・言う事も出来ず 総悟はずっと逃げ回るばかり。

俺は何者なんだ・・・・。

「死ねーーー!!・・・。」

と叫んで刺客が総悟の頭をかち割ろうとするが、体が勝手に避けてしまう。

ゼーゼーと息を荒くして向かってくる男の顔を見て ちょっとがっかりした。

「・・・・だったら・・・・ちゃんと狙えよ・・・。」

と呟く。

「おい!!・・・。」

と、近藤が手を引っ張ってくれたので 刑場の柵の中には入ったが

「大丈夫か!・・・・。」

「・・・・はい・・・・なんとか!・・・。」

それどころではない。

総悟はやはり近藤の手助けがしたくて 組紐をあちこち引張って見たが ほどけそうにない。頑固な 婆のようだった。

「くそ・・・・ほどけねぇぇ!。」

そう言いながら悔しそうに総悟が 近藤の背に張り付き脇差を構えるが 迫ってくる男たちにくすくすと笑われる・・・。

総悟が型どおりに切りかかると、 男たちは総悟の抜かずの剣をあえて受け 痛い痛いと笑い始めた。

悔しくて唇をかみしめていると 近藤が

「それでいい・・・・。」

と総悟に言った。

もうこんな剣術糞くらえだ!・・・そう思い相手に立ち向かうと 切られそうな所で近藤に襟首を引き戻される。そこに

「総悟・・・・。」

と、叫ぶ女をほぼ背負いながらトシが やって来た。

見ると 女は仇討ちに来たのか悲鳴を披露しに来たのか判らない状態だった。

男たちも女を切るのは嫌らしく 先に土方を片付けたいのだが、剣を一振りするたびに女がトシの懐に張り付くのだ。

「きゃー!!。」

と言っては、トシと相手の間に入り視界を遮り、トシの首に手を掛けぶら下がる 。

「げ・・・。」

と言って女を引っ張り、剣をふるう隙間を作ると・・・・また体の正面から登ってくるのだ・・・・。

猿か!・・・・。

相手も女以外でトシを切ろうと何度か突くのだが、思う様な傷にならず いらいらと見て

「この・・・女たらしが!・・・。」

と罵声をあげる。

トシはべりべりと女を自分から引きはがし、背後に送るのだが・・・背後から 抱きつかれ首を絞められる始末だった・・・・。

しかし、トシは健気に女の為に 老人の後だけを追い回したのだ・・・・。

女が目を瞑っている隙に、前を向かせると トシがなぎ払った剣で老人が尻餅をついた所だった。

「さあ!・・・・今・・・。」

女の肩を前に出して老人の真正面に立たせた。

そこで突けば・・・・。

トシが期待していると、 横から助っ人がトシに切りかかり、女がまた悲鳴をあげる。

彼女がドスをちらっと抜いたら老人が立ち上がり 憤怒の表情で剣を振り上げたのだ。

「っち!。」

トシは相手の剣をはじいて女の所に走ると 女がまたトシの体にしがみついてきた。

また最初から やり直し・・・・。

これで仇討ちを成功させるのは・・・・俺には至難の業だ・・・・・。

そう思い近藤の方を見ると、柵の外で総悟が田嶋からもらった守り刀で戦っていた。

彼は剣を抜いていないので 殴る蹴る 剣の鞘等でど突かれている。

それを近藤が逃げろと叫び、敵二人を相手しながら柵の外の総悟の所に行くところだった。


「おばさん!・・・しっかりしてくれ!・・・。」

トシが叫ぶと おばさんだと自覚がなかったのか聞いてなかったか・・・・。

仕方がないので もう一度 

「ばばあ!・・・前向け!・・・。」

と叫ぶと、少し体を離してむっとした顔をトシに向けた。

そんな顔を見てる余裕もなく 女改めばばあを掴んで地面を転がり剣をよける。

「離してよ!・・・。」

ばばあが言うと トシはお前がそれ言うかと見直してしまった、

敵はまた襲いかかって来た。

仕方がないのでばばあの襟首を掴んで近藤の方に行くと 近藤が総悟を掴みあげた所だった。

彼は切り付けられたのか 襟元が横二つにきられ血を流している。

トシはそれを見て

「総悟!!。」

と叫んでしまった。


男たちの殺気が一瞬で変わり、今までは遊び半分だった事が判る。

「総悟・・・沖田・・・・総悟か・・・・。」

そう言いながら 彼らは隊列を整えた。

近藤とトシは 総悟を狙う4人の男を相手にしながら 仇を取らせなくてはならなくなった。

「・・・・くそ・・・・。」

自分の失態に悪態をつき 近藤の横に並んだ。

近藤は ちらりと総悟を見ると

「女に 付け。」

と言った。そして・・・

「トシ・・・・はやくご母堂に仇を討っていただかないとならんな。俺たちが道場に泥を塗ることになる。」

言う。トシは近藤を見て不思議な顔をし、

「仇が逃げたら・・・どうなる?。」

「・・・この場限りの 果たし合だから、・・・・逃げたら あっちの勝ちだな。」

トシの質問に近藤が答えた。

それを男たちと並んでいた老人が聞いて 急にへらへらと笑いだした。

「そうだ・・・・・こっちの勝ちだ。」

すると助っ人の一人が

「ご老体にはここで待機していただこう。・・・・貴殿がここから退出されると、我らの仇討ちが出来なくなるのでな!。」

という。

老人は納得いかない顔で

「・・・・何をたわけたことを、・・・・道場同士の私怨討ちに巻き込まれたら もっと恐ろしい事になるではないか、それは困る。・・・・何のために金を払ったのだ!。」

関係ないと下がるが、一人が老人を追う。 リーダー格の男がいらいらしたように

「お金はお返しいたす。・・・・でなければ、死人が5人になるだけだ。」

と老人に低く言う。

おびえた老人はへなへなとそこに座りこみ。

近藤をリーダーは睨み 近藤もにらみ返したが、榊の到着時間までどれ位かと考えるので忙しかった。

・・・・・・・・夕方、待ちくたびれるまで待たせる・・・・・・・・人を殺さなければいけないと言うプレッシャーに加え、一刺しして断末魔の様な悲鳴と血しぶきを浴び とどめを刺せる者はそういない。・・・・ずっと心臓が飛び出るほど緊張をさせられた後なら・・・尚更だ。

田嶋の言葉だった

・・・・・俺たちが切った者の姿は すなわち、いずれ自分の姿だと言う事を覚えておかなければいけない。・・・・


はっとして、近藤が切り付けてきた男を避け、その脇腹に肘を強く入れる。

ごっ!・・・と音がして 敵がうめいた。後ろと見ると


総悟が、女をかばい守り刀で一撃を受ける。が、女の手がゾンビのように伸びてきて 総悟にしがみつこうとしていた。

それを見て トシがぐいっと 敵の襟首を掴むと後ろに投げる。

総悟は手を伸ばし 女の目を手のひらで塞いだ。

きーきーと爪を伸ばし猫のように暴れている女。 それを総悟は どんと蹴る。するとそこに 総悟ごと切ろうとした男が切り被さってきた・・・・。

それをくるっとまわって避けると 頬の下を剣先がかすめた・・・・。

「く・・・・。」

呻くが、総悟は次に切りこまれる方向を予想する。

ちょこまかと逃げる総悟にいらいらしたのか 敵の一人が鬼ごっこのように彼を追い始めた。

捕まらない・・・。

「女を使え!・・・。」

近藤と剣を合わせていたリーダーが言うと、総悟を追いまわしていた男はくるっと向きを変えて女に向って行く。

総悟が間に合わないと思った瞬間トシが 男の背中を上から下に切る。

「ぎゃああ・・・。」

男が派手に反って倒れた。

「トシ!・・・。」

近藤が土方に声を掛けると

「・・・・・切ってねぇ・・・・・・・。」

答えたが 衣服少しだけ切られた男の背が 切れて赤くなる。

「・・・・多少・・・・刃が・・・入ったかも・・・。」

と男を見ながら呟いた。

「トシ!・・・殺すなよ・・・。」

近藤が叫ぶと リーダーが切られた男の元に行き


「おのれ!どこまでも愚弄しおって!!・・・・・・・。」

と老人を見張っていた男を 手招きして呼んだ。

「ひーーー!・・・。」

と老人が 転びながら皆が上がってきた階段の方に走って行く。

トシが老人を追おうとするが、男たちに囲まれた。

トシはすぐ総悟の前に戻り、呼吸を整え

総悟には女が張り付いた・・・・。


「小僧!・・・・・お前の命一つで 済む話だぞ・・・・?この兄弟子を・・・・殺したくは・・・・あるまい・・・?。」

リーダーがじりじりと近づき、一斉に攻撃しようと目配せしていた。

「聞くなよ総悟・・・。」

トシが 呟いた。




人の行動とは 奥底から湧き上がる感情によって覆いに方向を変えてしまう事がある。田嶋が道場を飛び出した時がそうだった。師匠が自分の落ち度の為に腹を切ると決まった日に・・・・・ご政道に反する行動を取った。

榊ならば、剣を付帯した総悟を自分の代わりとみなし刑場の柵の中には入らない、と判っていたし、総悟が兄弟子について行くと確信があり、近藤と土方が総悟を御せないと言う事も判っていた。

自分が石川の所に送れば こうはならなかったはずだったが・・・・それが出来なかった。一瞬目を離した・・・・。言い知れぬ罪悪感が師匠の元、門下一同の元を離れさせた。

仲間にも理解される事ではない、それを・・・・港は何とかするだろう・・・・。

港に甘えているのかと自分に聞いてみたが、甘えではなく・・・反発だった。

自分が無口なのも、弟子に剣の指導をしないのも、ある意味では港に譲っている。


「許せ!・・・。」

田嶋は通いなれた藪の道を走りながら 吐き捨てるように叫んだ。


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おはじき遊び 参拾参

2015-07-22 | 紫 銀

総悟は階段の頂上が見えると脇のがけを登り始めた。上が近いので脇の壁もそれほど切り立って無かったのでそのまま藪の中に入る。がさがさと細かな竹藪を掻き分けて行くが、風が吹くので総悟の進む音をかき消してくれた。袴の中に何も巻いていないので足は笹で切り付けられ痛むが、刑場に居る緊張感でか、何も感じなかった、

また格子に切った竹を刺した柵がある。その中に真白い着物を着た女と、そして見た事のある立ち姿の二人が並び 離れてはいたが相対するように白髪長毛の老人そして隣には 近藤と同じような身なりの侍が4人ほど立っていた。

そして隅っこには役人なのか設えた椅子にどっかりと座ったままの陣羽織を着込んだ侍が控えていた。

「遅いな・・・・。」

その侍はしびれを切らせてそう呟くと 両者の陣営に声を掛けた。

「まだ立会人と、鈴野さまがお見えにならぬが・・・・・和解には至らぬのか・・・・?。」

と言い。老人のほうを扇子を持った手で差した。

「俺は・・・・・・未だに・・・身に覚えがない・・・!。」

老人は女の方を いらいらしたように見てからいう。

「まだそのような嘘を!!・・・・・・・・・命乞いする者をあのようにもてあそんで殺しておきながら!。」

と女は 白い鉢巻白襷、果たし合いと書かれた書状を胸に入れ 白い小手にドスを握りながら涙を流し 男に近寄ろうとする。

「俺ではないと言っておるだろうが!!気違い女め!!。」

女を指さして罵った。

聞けばやっと仕事に就いた息子の給料を奪い取るため 惨殺したらしい・・・・・。男に恩のある目撃証人は 正式に証言は拒んだが 自分が逃げる前に役人に証言をしたらしい。

そして起訴はできず、母は果たし合いを願い出たのである。

 

ルールは簡単。

女が息子の仇を討つのだが、どちらも逃げられないように立会人たちが責任を持って 双方の納得のいく結論に導く。

片方の死か、双方の死か、痛み分けなのか・・・・・味方の力を借りて総力戦なのか・・・・。である。

本役人とメンツが揃えば 火ぶたが落とされるのだ。

 

総悟が藪に入り徐々に近づくと どこからかどおんと・・・太鼓の音が鳴る。

それを聞いた近藤が

「榊さんが・・・着いたようだな・・・。」

という。土方は老人相手方の助っ人達に見覚えがあった。

以前街中で一悶着あった連中だった。

「近藤さん・・・・・何かおかしいですよ・・・あいつらに見覚えもあるし、・・・・太鼓も一回しかならない。榊さんは役人と一緒に来るんでしょう?・・・・2回なるはずなのに・・・・誰だと思います・・・?。」

トシが近寄ってくると、

「・・・・・トシ・・・・お前が 母親に仇を取らせろ。俺と榊さんであの4人を捌くしかない・・・。」

そう言い。トシも頷いた。 

近藤が見る先の助っ人達は こちらを睨みつけ 今にも切りかかってきそうだった。


「・・・・・・・・・師範は、我らが怖くなったのであろう・・・知らせ太鼓は一つ お目付様の音だろう・・・・?。」

目が合うと 老人の助っ人が野次を飛ばしてきた。すると近藤が

「榊先生は来る!しかし、双方 協議を尽くしたのち・・・・万策尽きたと結論が出るまで、仇討ちはお許しにならない・・・もう少し 話し合いは出来ないか・・・?。」

と丁寧に言う。しかし 近藤を若輩だと馬鹿にしているのか

「・・・・そっちの女がトチ狂っているのであろう!・・・・・少々の金銭で 大人を脅すからああいうことになったのだ。・・・・・・子も世間知らずなら 親はもっと世間知らずだ!。」

と 敵方皆でせせら笑った。

「な・・・・!。」

女の顔が血の気を亡くし真っ白になって行く。

それをトシが見 女の肩をしっかりしろとゆする。

近藤は

「孝行息子を 殺した事・・・・それは調べが着いている事。・・・そうでしょうお役人様・・・?。」

と 片隅に座る役人を見ると 役人は急に振られ驚き きょどりながら

「・・・そうで・・・あろうなぁ・・・。」

と小声で答えた。


トシがちっ!と舌打ちする 

女を見ると怒りで呼吸が止まったのか はあはあと肩で呼吸をしていた。

近藤は

「ご母堂は刺し違えてもと思っておられるのでしょうが、我々だけで、相手の助っ人を押さえ 仇を取らせるのは無理です。・・・・あなたが惨殺されてしまう・・・・。今・・・・・相手の石打ちや棒叩きに処分を変更を願い出れば それはかないましょう。」

と跪きながら女を覗きこんだ。すると女は

「嫌です・・・・・息子は耳を切られ指を切られ・・・何度も 刺されたのですよ・・・。」

と答えた。

「・・・・答えは出たようだなぁ・・・・。」

と男たちは近づいてきた。


「・・・・・この場で無駄な殺生は 禁止なはず・・・。」

トシが 相手に言うが 男たちは剣を抜き始める。リーダーと見られる男を中心に広がり始めた。

近藤は女を隠すように前に立つ。

「・・・ははは!・・・・天然理心流も地に落ちたな!・・・・こんなガキどもに刑場始末を引き受けさせるとは・・・・。」

と可笑しくてしょうがないらしいリーダーが、ゆっくり手を挙げて 右手の柵の方を指さすと こちらをうかがう 総悟の姿が・・・・。

「あの馬鹿・・・・。」

と、トシが悪態をつき

「うぅむ。」

近藤が 呟いた。


「・・お役人様!・・・・・・・・いざ 号令を!!。」

と、老人側の助っ人が叫ぶ。

近藤は 彼は侍ではないと言ったが、聞き入れられず 持っていた陣太鼓を打ち鳴らした。

「・・・くそっ・・・。」

近藤が剣を抜くと トシが女を更に後ろに送り、自分も剣を抜く。

「始め!!。」

と役人が叫んで 女の傍を走って離れる。 

女は小さな悲鳴をあげてドスを強く握りしめた。


近藤は自分に引き付けるように 男たちの周りを大股で歩くと 相手は反対に回り出した。トシは女の腕をつかんで 近藤に続く。

「まず 女じゃ!・・・あれを黙らせてくれ!。」

と 老人が怒鳴る。

「・・・・焦るな!爺!・・・・もはやお前の試合ではない。・・・わっぽ共を切ってからゆっくり始末すればいい・・・。」

と助っ人たちは笑う。トシは 総悟の前まで来ると

「お前は逃げろ!。」

と叫び。総悟は

「・・・やだ!。」

と言って 立ち上がった。

「お前は 抜くな!・・・・・絶対抜くなよ!。」

そう近藤が言ったのを皮切りに 奇声をあげながら 一斉に戦闘状態に入った。




武州の藩内を見下ろすようにぐるっと山が連なっているのだが、

主要街道から続く峠道少し外れて行くと天然理心流の道場を含む敷地があった。元は城下の一道場だったのだが、藩主お抱え武術道場として認定されると山に移された。

街道から攻めてくる外敵に備える為だった。

尾根を城より牛虎の方角に山を回った所に 処刑場があった。

勿論 田嶋は尾根を走って行ったのだが、・・・・道場には、榊を迎えに来たお目付役がちゃんと現れた。

港が裃を付けて応対するのだが、

お目付は 話を聞き榊を前にして目を白黒させていた。


「何と!・・・当日になって変更等許される事ではない・・・・。」

と、榊から田嶋に 仇討ち立会人の変更をされ 戸惑っていた。

「城に諮らねばならぬ・・・。」

そう言うお目付役に 港が

「ご無礼とは重々承知しておりますが、先代当主のたっての言いつけにより・・・・。」

「何を申すか!ご城主様の言いつけをひっくり返すいい訳にはならぬ!それこそ切腹ものだぞ!。」

とお目付は知人でもある榊の顔を覗き込んだ。

前に座る港は 道場の玄関先で頭を床に付けながら


「この度・・・先代当主・・・切腹のお許しを頂きました。道場門徒一同は、身を改め清めまする。・・・・田嶋に変わり榊が立会仕りますと、申し出ましたが、ここで門徒の血が流れれば、当主の大事に係わるとの判断をし・・・・ご無礼は承知の上で 当主田嶋が変更させていただきました。」

と言った。

後ろに控えた榊も 目付に対し謝罪を示すように 頭を下げる。

目付は暫く黙った後。


「というと・・・・・例の件の・・・・・。」

と呟いた。

「・・・・・はい。」

港が頭を下げたまま返事をする。

その背中を見ながら


「・・・・・・やはり 田嶋殿は自分の内儀より門下生を重んじる・・・・冷血漢と城でうわさになっておったが、今度、家老のご子息も非業の死を遂げられ・・・わしも 内容改めで知った。・・・・・・田嶋殿の行いに やっと溜飲が下がった思いであった・・・・。しかし・・・・その責を・・・・。」

と、呟き頭から被っていた物をとり、 道場の方を見た。

ゆっくりと港たちが頭をあげると 

「・・・・合い判った。・・・・・上には、わしから報告いたす故、ご心配なき様にと・・・・田嶋殿にお伝え下されい・・・。失礼致す。」

そう言って、街中に続く道に戻って行った。


港はまた頭を下げたまま・・・・榊は 何も言わずその場を立ち去った。


土下座して・・・・前についた手に力がはいり握りこぶしになる・・・・。

どんなに力強く握っても その力を押さえられない。そう判っていた港は 何時になく冷たい顔になった・・・。


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おはじき遊び 参拾弐

2015-07-12 | 紫 銀

少し前

 昼飯を食べて近藤、トシ、総悟の3人は出掛けたが、総悟は二人の姿に驚いた。

彼らがいつもだらだら長く着ている袴を 短く履き 帯をきつく締めて、太刀を2本差し その上腹の中に巻いているらしく 胴体がいつもより太い。

 脛に巻き付けたゲートルにも何か入っているようで怪しいし・・・・。

討ち入りするにはあとタスキと鉢巻を締めれば完成 という姿だった。

 自分のは・・・・馬の世話が数日かかるという事で 大風呂敷に着替えとか勉強道具に竹刀・・・・。

 田嶋から授けられた守り刀で辛うじて剣士だと言っているが・・・・修行が嫌で飛び出して来たように見えるのではないかと 気になって仕方がない。

 「ぶすっとするなよ・・・・。久しぶりに三つ葉殿に会えるんじゃないか。」

 近藤が機嫌を取り成すように 総悟に話しかけるが、益々みじめな気がした。

 「俺だけ・・・・馬の世話なんて・・・・俺も刑場に行ってみたい。っていうか・・・先生が請け負ってた仕事って何?。」

 総悟が二人に聞くが、さすがに二人は顔を見合わせて黙る。

市民の処刑は処刑人が執り行うが、侍等の場合は 切腹の介錯から仇討ち 傭兵まがいの事まで諸々を道場(田嶋等)が請け負っていた。

 道場がこの藩に忠誠を示すために それは必須だったのだ。

 そうして実績を積み 代々この藩随一の剣術道場として認められている。


 「・・・・・・色々だろ・・・・。」

 「処 刑場でしょ・・・・・先生が掃除しに行くなんて事・・・ありえないし・・・。」

 石川医院は 小松の近くの閑静な医院で 生垣に春の花がたくさん咲いていた。

 当たりの甘い香りは3人の鼻に合わず 殊更近藤は鼻をつまむしぐさをする。

 「知らん!・・・俺たちは 掃除を言い使っただけなんだ!・・・・。」

 トシは怒った様に言う。

ふと総悟が混乱したように 不安そうな表情を浮かべ

 「・・・でも・・・なんか有ったら・・・・どうすんだよ。」

 と言った。

 トシはむっと我儘だ という顔をして

 「石川先生の所で勉強するのが嫌なんだろ!?」

 と総悟の胸を人差し指で突いたが、

 近藤は

 「俺たちに 何かある訳ないだろ・・・?。」

 と諭した。

 「・・・・。」

 総悟はぺこっと頭を下げると 石川医院に入って行く。

 それを見送ると 

近藤とトシは刑場にゆく山道へと向かった。

 

 

「・・・・お前は総悟に 特に厳しいなぁ。」

 並んで歩くトシに言うと 彼は意外なほど素直に

 「・・・・・俺が・・・あいつを田嶋先生に引き合わせんだから。港先生にも関さん芝さん石川先生・・・色んな人に迷惑かけてるし・・・。」

 「え?・・・・そんなの、お前だけじゃない。俺は田嶋先生を 闇討ちして殺そうとしたんだからなぁ。ははは・・・・。」

 近藤は思い出したように大笑いした。

 「闇討ちって・・・。」

 トシは、自分でさえぐれた時殴りかかる程度だったのに 刀で切りつけた近藤を想像し、近藤の顔をまじまじと眺める。

 「先生が・・・・自分の妻の仇さえとらない腰ぬけで・・・・江戸から逃げ帰って来たのだと・・・思ったのさ。」

 「で・・・・・?。」

 「・・・・はは・・・・全く・・・・違った。」

 山道になって石がごろごろと並んだ道を 登り始めた。トシは不意に・・・

 「・・・・・俺! 街中の気に食わない奴殴ってた、そしたら先生が最後に出てきて 剣も抜かずにのされて・・・その俺に、そんなに怒る理由は何だって言われて。判んなかったら教えてやるから俺のところに来いって・・・・。」

 坂道は木が込み合って鬱蒼としている。

その先の場所から流れてくる気配なのか 嫌な感じがした。

 「ふーーん・・・。で・・・・なんて言われたんだ・・・?。」

 「・・・何も。・・・俺から一本取ったら教えてやるって、竹刀渡されて・・・・。」

 「あっははは!・・・・先生らしいや・・・。」

 近藤が当たりの気配を吹き飛ばすように高らかに笑うと 鳥が逃げていく。

 トシが

 「何一つ・・・言われた事ねえけど・・・・・答え・・・・何か必要ないっていうか・・・・。」

 説明しずらそうに近藤に言うと

 「・・・総悟の時?・・・・絶対俺も・・・先生はそうするって・・・・何か思ってた・・・。」

 彼も答えた。

トシが頷き

 「・・・・あの件で・・・先生のお咎めは 本当にないのか どうか・・・?。」

 「それは 俺も判らん・・・・無いといいんだがな・・・。」

 近藤が山の上の方とみると刑場の柵がありそこに城の役人なのか 門番が立っていた。

 その門番に話すと通される。

 それを木の陰からじっと見つめる人影が・・・・・。

 総悟だった。

 彼は 一旦石川医院に入って行ったが、荷物を置くと静かに近藤とトシの後を付けて来たのだった。処刑場に興味もあったが、田嶋の仕事というのに興味があった。





道場に多くの門下生が集められ 港と田嶋が並んだ男たちの前に座っていた。 

一同に今重大な事実を 田嶋から告げられたところだった。

重苦しい沈黙がずっと続き 伝えた港と田嶋は苦しみに満ちた顔をしていた。

田嶋は目をあげると 30人以上いた男たちは田嶋の顔を見て 涙ぐんでいた。

そこに 先程話をした榊が現われて

「すまぬ・・・田嶋。・・・・・あの二人が戻って来ぬようだ・・・・。」

という。一同がどよどよしていると 港が、

「総悟を石川の所に預けたので、それを見送りに行ったのでしょう。そのまま刑場で待つのかと・・・・。」

「そうか・・・・私は役人と行かねばならぬのでな。」

榊が言うと 誰かが

「近藤ならば 馬鹿が付くほど真面目な男です。刑場で先に何時間でも待つでしょう。」

と答えた。

すると田嶋が自分の剣を持って立ち上がり歩いて行く。

皆が当主に頭を下げる中 後を追って来た港に 道場を出た所で呼びとめられた。

「田嶋・・・どこにいく!・・・今お前がここを離れちゃまずいだろ・・・。」

「・・・・・。」

「ただの仇討の見届だ、息子を殺された母が老いぼれ爺に一刺しするのを見守るだけ・・・・トシと近藤なら心配ない。」

港が田嶋の腕をつかんでいたが、田嶋は自分の部屋に行き 太刀を取り換えた。

「・・・あの二人じゃない。」

田嶋は袴の帯を締め直すと 太刀を左の腰にグイっと奥まで差した。

「あの馬鹿も一緒に行ったんだろう・・・?。」

「総悟?・・・・まさか・・・・。ついては行くまい。」

港があり得ないと首を振ったが 田嶋は港を見て

「・・・・トシの付く嘘があいつに通る訳がない。・・・・・近藤が 溢すとも限らない。」

と言う。

「・・・・・・そこまで・・・・・・考えすぎじゃないのか・・・?。」

港も青ざめながら可能性の多さに気が付いた。

二人は玄関に早歩きで向かうが、

「・・・・港!お前は駄目だ。」 

と 田嶋に止められた。

「行く!・・・。」

が、港は着物の袖から白い紐を出し 両肩回りに巻き襷がけにした。

「お前は駄目だ!・・・俺は、榊を迎えに来る役人に会える訳がない!・・・・俺の代りにお前が合うしかないんだ・・・。」

そう言って港の肩を後ろに押し戻した。すると港は奥歯を噛みつぶし

「・・・・・又!・・・・てめぇ―だけ背負えばいいなんて思ってんじゃねえだろうな!!・・・・・・・・・・・見届は3人侍が揃わなけりゃ始まらねえんだ!・・・・総悟はガキだし きっと馬の所 姉上と一緒だよ!。」

と藁草履の紐を縛る田嶋の背中に怒鳴る。 田嶋は笑い

「・・・・・正月に俺達が 守り刀をあいつにやったろ・・・?。」

と玄関を出ながら呟いた。

「・・・・・。」

港は焦る。

港は顔色を変えない事で知られていたが、幼馴染の田嶋には心の内まで手に取られてしまう。

田嶋は一度だけ振り返り そんな心配するなと港を見ると、そのまま走って行ってしまった・・・。


玄関で立ちつくしている港を

門下生の一人が見つけ ぎょっとする。

彼は、玄関の外を歯を食いしばって睨み 怒っているのか 泣いているのか・・・・腕が高ぶって震えていた。

「どうしました・・・・。」

後ろから声をかける。

「いやなんでもない・・・。」


港が襷を取ると 自分に田嶋の持っていない重さを感じ、田嶋の失った物を考えるのだった・・・・・。

 

 

 

 

刑場の門番は 先の二人の連れだと言うと総悟を通した。

門の内側は傾斜がきつく一本道の作られた階段は 先が見通せない。その道を腰の物に手を掛けながら登っていく 沖田 総悟。

総悟の腰には 田嶋と港に授与された小太刀がしっかりと刺されている・・・。

田嶋の持っていた小太刀に港の妻が覆い布を手縫いし 港の母親が組んだ細紐を娘あやめとさよりが 布の上から組んで堅く縛ってあった。

どうやって解くのかと飾りを見ていると

正座した総悟の前に田嶋と港・・・港が見本を見せるように剣の柄を押さえ紐の端を引っ張るとしゅるしゅると小気味のよい音を立てほどけた。

総悟がマネしようとすると、港は

「馬鹿!・・・・今ほどくな!・・・・誰か切る訳じゃないだろう?・・・・いざって時だけ解くのだぞ。」

という。いつもなら怒る所だが・・・・自分の小太刀が嬉しすぎて聞こえていなかった。

 先生の太刀よりずいぶん短い でも、認められたのだと頬を紅潮させて太刀を眺めていた。


改めて 沖田 総悟は

「先生方の名に恥じないよう 精進致します。」

と両手をついて挨拶をする。

それを携えて・・・目指すは 先に刑場に入った近藤とトシの元・・・・。





道場では 港が 向かい合って座っている木島と榊に頭を下げていた。

「港・・・・俺の顔に 泥を塗る気か・・・・?。」

榊が両腕を袖の中で組み 木島を見ながら言った。

「・・・・・・。」

そう認める訳にはいかない。


「・・・・・城には 3人でと申したのであろう?・・・総悟がわが道場の門人であると認められれば、わしが、知り合いの役人に嘘をつき御政道を妨げたことになる。・・・・・それならばまだしも・・・・田嶋が出張ったとなれば 相手方にも面目立たぬぞ。」

と榊が言った。港は更に深く頭を下げて

「・・・おっしゃる通り。」

言う。黙っていた木島は

「・・・・・仇の・・・・付添は・・・何人なのだ・・・・?この藩の道場に属する者なのか・・・・?。」

港に聞いた。

「・・・桐生院道場・・・・です。」

「・・・はて?・・・聞いた事無いな・・・・。」

木島が首を傾げていると 榊が腕を解き

「聞いた事無い道場だからと言って・・・破れるものではない。」

と たしなめると。

「まあ・・・兄弟よ。・・・・・今は親父殿の一大事・・・・あの田嶋もトチ狂いしたくもなろう・・・。田嶋には 親父殿しかおらんのだ・・・。」

木島が呟いた。榊も

「・・・・・・。」

考えている。


「・・・・・・先輩たちに お尋ねしたいのですが・・・。」

港が少し頭をあげ

「この前・・・・田嶋が百姓の子供だと聞きました。・・・・あいつがここに来た経緯はご存知でしょうか・・・・?。」

尋ねると

「なぜだ・・・?。」

と木島。

「・・・・・・・・先生も田嶋もその事については話したがらない。・・・・・ここまで先生との絆が深いのはそのせいなのかと・・・・。」

港はまっすぐに二人を見つめ答えを求めたが、二人は黙ったままだった。

更に・・・・。

「田嶋は・・・・次期道場当主に指名される前も、大先生から直々にご指導を受けられるほど重用されました。・・・・・私は取るに足らぬ者でしたが、田嶋の持つ物がどう優れているのか・・・・最初から学びたいのです。」

というと。

榊は 港を見て、木島は

「・・・・直々に・・・・指導か・・・・。いや・・・・・・。田嶋はな、・・・・・。」

そう言って 答えてくれた・・・・。

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おはじき遊び 参拾壱

2015-07-09 | 紫 銀

煮え切らない・・・・。・・・・総悟が道場離れの風呂に薪を ぼんぼんくべていた。

ぬるい風呂の好きな田嶋に窓から 薪くべやめろ!と湯を掛けられた。

旅行での件は何も聞く事は出来ない。がしかし 言いたい事は一杯あった。

この前の先生のお仕置き?は

俺の射精にただ付き合っただけ・・・・

俺は 単なる思いやりなのだと 何度も自分に言い聞かせ忘れようとしているのだ・・・。だが、あれだけ体を撫でまわされれば感触はたっぷり残る・・・・。


あの時

自分の物を必死に隠す俺の手を 握られて指を舐められた。無意識に・・・足の付け根に無精ひげが当たると痛いと言うより・・・・嬉しかった。

先生の腹に乗せられ 背中を撫でられた時から・・・・この時を・・・・待ち続けていたのかもしれない。

有ってはならないが、田嶋と肌を合わせる幸福感に 飢えていた。

が、田嶋があの寡婦たちに行った行為を目にすると・・・・・

何かが納得できない。

つい・・・・

 

「・・・・あんな・・・・ババアに・・・・。」

と風呂場の窓の下で呟くと 今度は冷水を掛けられた。

頭を冷やせというのだろう・・・。 

風呂が終わり食事をする時も 勉強の時間も

田嶋の呼び掛けを無視をしている

とうとう寝る前に 呼びつけられ怒られた。

弟子として言われた事が守れず その守秘義務も守らなかった事に対して総悟は しこたまげんこつをくらったのだ。

「本当だったら もう俺の傍に置かないところだ!。侍としてと言う以前に 人としてどうかしてるだろう!?。」

田嶋はもう一発総悟の頭にごつんと拳を落とす。

「・・・・いっ・・・・。」

正座しながらわざと舌打ちをすると こんどは平手で頬をはたかれた・・・。

「・・・・何 ふざけてんだ・・・・。」

田嶋がマジになってきた。

総悟は口の中の血を舌でたどると 奥歯に挟まれた頬裏から大量の金臭い血を舐める事になった。でも

「・・・ばばあ・・・じゃん。」

総悟が更に言うと さっきよりもっと頬は大きな音がして 今度は体ごと横にふっ飛ばされた。

「てめぇ・・・・。」

そう言いながら田嶋は総悟に馬乗りになり 左右に頬をはたくと 畳に総悟の血が飛び散る。

これ以上やると歯止めが聞かなくなると思い 田嶋は立ち上がる

「でてい・・・・。」

け・・・・。

と言おうとしたが 総悟が

「・・・金のせいで あんな事したんなら!!俺のせいだろ?!・・・・・・あんたにそんなことさせるくらいなら 俺がやった方がましだっ!・・・・あんなの見るくらいなら・・・・。」

言葉を噛みながら喋り 血が口から流れ出て それも何度か飲み込む。

「・・・・はあ?!・・・のぞき見たのはお前だろ・・・・見なきゃ済む話だ・・・。」

田嶋がいう。

「俺はあんたの付き人だ!・・・・何も知らされない方が 嫌に決まってる・・だろ!!。」

喋ると吹き出す血を 手で押さえ拭う総悟を見て 田嶋は手ぬぐいを懐から出して渡そうとする。総悟はぷいっと横を向いた。

「お前が・・・相手になるような おぼこじゃねえよ・・・。」

田嶋は総悟に近寄りしゃがむと 勝手に彼の口を拭き始めた。

「・・・やめろ・・・・えろ・・・じ・・じィ・・・・。」

顔をおさえられ嫌そうに拭かれる総悟をみて 田嶋は吹き出す

笑って その手ぬぐいを彼に渡し 自分の文机の前に腰を下ろした

総悟は見なかったが 田嶋はそれまでの怒りが嘘のように 温和な顔をして

「彼女たちの夫が 帰ってきてたら・・・・俺のゆきも生きてただろうな・・・。」

と呟いた。


田嶋は総悟に 彼女たちの夫が同じ維新志士討伐隊として江戸に赴いていた事を話し、経緯を打ち明けた。

「・・・・戻れはしたものの、新幕府の言う事を この藩の若者も大分支持していた。それで幕府の誘いを蹴って戻って来る俺を 良く思わない大学が・・・・嫁を見せしめに殺したのだ・・・・・・・・。」

「だからって・・・・・先生が 旦那の代りをするってのは おかしい・・・。」

総悟は 頬を舐めながら田嶋の前に座りなおした。

田嶋は腕を伸ばし指で机を叩きながら

「・・・・お前も男だから・・・・想像ぐらいは付くだろう・・・? 男は出しゃ終わりだが、女はそうもいかず・・・ずっと待ち続けるんだ。」

「・・・・・同じでしょ・・・・。」

総悟は少し睨み

「・・・・・違うよ・・・・・・・女は少し違うんだ・・・。」

田嶋が言う事を信じなかった。

「どう?・・・。」

「・・・・それは・・・・本当に好きな女が出来て する時に分かる事で、・・・・女がお前を好きで・・・・受け入れた時に・・・こう・・・・。」

田嶋は、叩いていた手で頭を押さえながら考えた。

「・・・こう・・・ぎゅっと締まって・・・・・前と違うかなと・・・・。」

「・・・・え?・・・・何・・・・・・?。」

総悟は理解できず田嶋を覗きこみ、田嶋は手をもやもやと動かした。

「・・・・?。」

「だから・・・・・あれが・・・・・。」

説明に困った田嶋は総悟を見てから

「・・・・大事な事は・・・・女が違うって事だ。だから・・・キスとか童貞は大事な人にやれって事なんだよ。」

という。

「・・・・・。」

総悟が舌打ちすると 田嶋は

「また怒られたいのか・・・?。」

ときいた。

「・・・・俺のは・・・もう違うじゃん・・。」

総悟が呟く。

「・・・・・そんなことはない。」

「そうだよ・・・。」

「最初にやっちまった俺が言うんだから そうなんだよ。・・・・・お前は綺麗なままだし、俺が忘れさせるって言ってんだろ?。」

と総悟を見つめた。

総悟は田嶋を見ると急に下を向き 赤く成る

「・・・・あの・・・お仕置きでかよ・・・・。」

と呟いた。

「・・・・・そのうち・・・・忘れるさ。・・・・お仕置きの時以外思い出さなければな・・・。」

田嶋は総悟の髪をくしゃくしゃ撫でながらそう言った。

ばかげてる・・・・。

しかし田嶋は総悟にとって特別な物になった。

有る意味では姉よりも・・・・・

兄弟の様に近くに居た 土方よりも・・・・・ 

田嶋は自分を

息子の様に思ってくれているのだと理解した。





冬が過ぎ春になると 土臭さが自分にまとわりつく様な気がした。

何故だかメキメキと自分の中の幹の部分が伸び 求めていた力が付いて来たようだった。

トシが苦戦する芝や関達ともそろそろ組み手をさせてもらえるのではないかと 思えて来る。そんなある日の事


田嶋は、 大先生の小作 重三と少しの間話合った後に 神妙な顔をして港を探しだした。

城から田嶋に仕事として書状が着たにもかかわらず その白い書状を流すように拡げ床に落とし 道場に入り 師範代で先輩でもある

木島と榊を呼び付けた。

早速 田嶋の離れに揃って入ると何やら揉めている。


その後、港が道場に現れて

「おい・・・・・近藤・・・・・土方・・・・。」

と面を付けていた二人に声を掛けた。


「はい・・・。」

二人が面を取って港の近くに行くと

「お前たちもそろそろ 場数を踏まなくてはな・・・・。仕事が・・・城から来た。二人には榊に同行してもらう。・・・・・・・俺たちには・・・・重要な用事が出来てな・・・・。」

と港が沈痛な面持ちを隠す様に笑うが、・・・・笑顔ではなかった。

「はい・・・・で・・・・・どの様な仕事ですか・・・。」

トシが港に聞いた。

近藤は 知っているのか黙ったままトシを見ていた。

「・・・・仇討ちの・・・・立ち合いだ・・・。」

港が答える。


次の日の昼前 港が総悟に

石川の所に出した馬の世話を言いつけた。

幾日か経って使うかもしれないので 扱いに慣れて置けと言いつけられた。

剣の修行に熱が入って居た総悟は 嫌がったが 

昼には不服そうにトシと並んでミタケさんの飯を食べる事になった。

3人が紺色の着物と袴で一足早く台所で飯膳を囲む。仲良く胡坐をかいて食べ始めると 総悟が田嶋を真似して茶碗を咥えがつがつと飯を掻きこみ 茶をグイっと飲む。

「姉上が見たら怒られるだろ・・・そんな食い方して・・・。」

とトシが茶化してきた。

「は・・・?鼻くそでも食ってろ!。」

と総悟が言うので 生意気だとトシが箸を持った手で殴りかかると 総悟は茶碗で受ける。ちんちんとチャンバラ劇の様に二人でじゃれ トシの箸が折れた。

「あ・・・・。」

トシが折れた箸で 飯を食べようとすると飯がつかめず 仕方なしに膝に手を付き立ち上がると台所の奥で忙しそうに働いているミタケに箸を見せた。

ぱかんと音がしてトシがミタケに頭を叩かれた。総悟がくすくす笑うとトシがくるっと振り向いた。

「・・・・よせ 総悟!・・・・トシもからかうな。これから大事な用があるんだから・・・。」

近藤が言う

「大事な用事?石川先生の所に・・・?。」

総悟が彼に聞いた。

「・・・・いや・・・・刑場だ。」

ごまかすように 近藤が言うが ミスだと気がつく。

「え・・・・・・?。」

総悟が近藤の顔を見ていると トシが戻ってきて総悟に文句を言う。

「・・・・刑場に何しに行くの?・・・。」

「・・・・・。」

近藤は答えず トシは

「お掃除だよ!・・・お前は馬が恋しいんだろ?馬小屋の掃除・・・俺達は刑場の整備だ。」

と総悟に答えた。

「・・・・・。」

総悟が黙って居ると 近藤が

「町までは同じ道・・・・変な輩に絡まれても面倒だから一緒に行くぞ・・・・。」

と言った。



3人が出掛けた後に・・・・・

道場に多くの門下生が集められ 港と田嶋が並んだ男たちの前に座っていた。

一同に今重大な事実を告げたところだった。

重苦しい沈黙がずっと続き 伝えた港と田嶋は苦しみに満ちた顔をしていた。

田嶋は目をあげると30人以上いた男たちは一様に田嶋の顔を見て 涙ぐんでいた。

そこに 先程話をした榊が現われて

「すまぬ・・・田嶋。・・・・・あの二人が戻って来ぬようだ・・・・。」

という。

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おはじき遊び 参拾

2015-07-07 | 紫 銀

正月 宗家師匠に門下生全員が挨拶した後、総悟は門下生の最後尾に並ぶ事になる。

そして10日も過ぎると・・・・

3日ほど外泊すると言う田嶋に  総悟は 当然付いて行きたいと申し出た。田嶋は最初しぶるが 

人に挨拶に行くだけだと言っても 総悟は付き人としてどうしてもついて行くと譲らなかった。仕方がないので 言うとおりに待つ事と 詮索しないと言う事を誓わせて同行をゆるした。


 

朝早くから半日以上川の流れを下り歩いて行くと 見知らぬ街の少し外れに畑の多い 山に挟まれた村あった。小高い丘をいくつかのぼって行く。

明らかに屋根の高い蚕農家が 山の中腹に一軒だけあって 家の裏手には水車が廻って居る。今は季節ではないのか 水車で何か回す音も打つ音も聞こえない。

当たりも静かで 藁や雪が作物を隠す築山の様な物があちこちに点在していた。

その丘をジグザグに登ると 畑の途中で日除けの為に植えられた一本の木が植えてある そこに差しかかると田嶋は

「ここでじっと待っていろ・・・俺一人で合って来るから・・・。」

と言い残し 家に向かって行った。


 約束通りに総悟はそこで待つ。

夕方になり少し寒くなったらしく 総悟は木に登り落ちゆく日の光を浴びていた そこに待ち人は 感慨に耽る面持ちで歩いてくる。

下から見上げると 田嶋が総悟に

「すまんな・・・。」

と一言言った。

そのまま 

約束通り何も詮索しないまま町に歩いて行き その夜は小さな宿に泊まる。

今日何をしてきたのか総悟も聞かなかったし、田嶋も言う事は無かったが、

いつもの田嶋と少し違う感じはした。



次の日次の家は 更に川を下り 

川が広くなったせいなのか町自体も色々な商売をしている大きな町。

色々な店がたくさんあって 自分達の町も大きいと思っていたが、更に大きな町に総悟は少し驚いた。

その街は余り侍の匂いもなく 町の人々が独特な敗退の香りがして、すぐ興味は半減する。

現に 師匠田嶋の腰に差している物を珍しそうにみられたり それを薄笑いを浮かべてみられたりとカルチャーショックを受けた。

そして蕎麦をその町で先生と食べたが、なぜか四角い塗り物の升に入ったその蕎麦が とても綺麗なのに・・・まずかった。総悟も田嶋も居ずらさを肌で感じる。


次の家にはそんな総悟も ついて行った。 

貧乏長屋はどこの町でも同じような物だが その長屋からは機械だか金属を打つ音が響いている。作業場を兼ねている様で騒がしく 尋ねた家から出て来た女も 作業中に出て来たのか 冬なのに額が汗ばんでいたし、背中に赤ん坊も背負っていた。

「・・・・田嶋さん・・・・。どうも。」

と、田嶋の来訪に少し驚いた女が、上にあげていた髪のピンを取るとぱさっと髪が肩に落ちる。すると生活に疲れていた姿が少しだけ女の姿を取り戻し 女の表情が和らぎ 少しほほ笑んだ。

「お元気そうで・・・何よりです。」

田嶋が挨拶もそこそこに 背負っていた風呂敷包みを下ろすと中から少し厚めの封筒を手渡した。

「・・・少ないですが・・・。」

申し訳なさそうに言うと 女がおずおずと受取る。

「・・・・・3番目の御子さんですか?。」

田嶋が彼女の背中を覗くと 女は恥ずかしそうに頷いた。

「・・・・そうですか・・・。」

田嶋が少し頷くと女が 

「礼は・・・学校に行っていて・・・午後には帰って来るんですけど・・・・。」

と顔をあげて呟いた。

「・・・・・。」

田嶋が答えあぐねていると 女が慌てて話を変え

「・・・ああ・・・・別に又 会う機会も有るでしょうし、・・・・次は やえさんに?」

と聞いてきた。

「・・・八重さんには・・・昨日会ってきました。次は きみさん・・・・。」

田嶋が答えると

「きみさん・・・・あの人は・・・・まだあそこに・・・?」

次に行くらしい女の事を 総悟の前で聞いて来た。

そこで初めて今回訪問する3人の女たちに興味がわいた。

「はい・・・。」

と田嶋が答えると、女はそうそうに別れの挨拶をして 二人もその家を離れた・・・。


その夜総悟は考えた。

男っ気の無い3人の家

田嶋が気を使って渡す物 どうやら金らしい。

一軒目の木の上で見なかった物・・・・・。

「先生・・・・あの人たちは道場の人なんですか?。」

総悟が 安宿の布団をびろびろと空気を入れるように畳に拡げると 田嶋は慣れた手つきで敷布をその上に掛けた。

「いや・・・彼女達の旦那さんが、俺の兄弟子だった・・・。」

「だった・・・?。」

総悟が敷布の上を手で伸ばす様に這いまわって居る時 田嶋は

「・・・・今はいないのだ・・・。」

と答え

「誰かに 討たれたのですか・・・?。」

と、総悟が聞くと

「まあな。」

田嶋が答える。


総悟は更に聞こうとして田嶋の前に座ろうとしたが 田嶋は答えたくないという態度だったので そのまま寝る事にした。



次の日のきみと言う女は 暗い女だった。

日の差す所が嫌いなのか髪で前を覆っている様な・・・・お化け的な雰囲気だった。

離れたところから見ていると 総悟はなぜかドキドキとして 居ても立っても居られない感じがする。

今回は朝早く町から歩いて来て昼過ぎになってしまったが 風が冷たく寒い日だった。しかも 山の中で彼女は紙を敷く仕事らしく 小屋の近くに小枝ばかりが山の様に集められ それが粉砕された大きな桶がいくつも並べてあった。

この家は少し離れたところで又待つようにと言われたのだが、

総悟の好奇心はうずき 後からついて行ってもう少し近くで件の女を見ることにした。

ちらりと君を見ると 総悟は言われた場所に戻り 森の中の暗い場所で風をよけながら座って居る。歩き疲れたらしく先生から渡された携帯用の灯油の懐炉を抱きながら少し眠ってしまった。

はっと熟睡から覚め太陽を確認すると、だいぶ日が西に傾いている。もしかしたら・・・・

田嶋が探して 自分を見つけられなかったかもしれない・・・・・

近くの木によじ登り 田嶋の入って行った小屋を見た。


女の小屋は田嶋が入って行った時から変化もなく 屋根に湯気は出て居ないので竈に火を入れた様子もない。

総悟は 気になって木を降りると少しずつ近寄って行く

自分が気配を消そうとしている事を不思議に思った。

まるで・・・・・・覗きに行くような気分だ。

小屋は周りの木戸が閉まって居る為 田嶋の声どころか何も聞こえないが、妙な胸騒ぎは激しくなった。

居間は・・・・裏に近いはず・・・・。

総悟はゆっくり小屋の裏に回り 上げ床の為地面から50センチほど高くなっている床板の高さまで身をかがめて、ちょうど目の高さにある吐き出し窓の障子の下に張り付いた。

すると 心臓が固まる様な物音と声がする。

ごくっと自分の飲み込む音で耳が痛くなる・・・。

聞き取れたのは

「つ・・・てって・・・・・・連れてって!・・・・・・優治さんの・・・所に!・・・あああ!・・・。」

女の声と小屋の床が軋む音。

「きみ・・・さん・・・・。」

田嶋の声がして がつんと頭を殴られたショックを受けた。

「ああ・・・・もっとォ・・・・。」

女が喘いで声を絞り出す独特の声。

ごろっと転がった様な音にどきりとするが 動けない。

総悟はその場を離れたくなったが・・・・背中はぴったり小屋から離れない。

気が付くと唇を噛んで、どたばたと聞くに堪えない騒音を 聞いている・・・・。


うす暗くなり・・・・

部屋の中で小さな明かりが付いた。

総悟もとっぷり日が暮れて来た事に気が付いた。


中でひそひそと田嶋が女と話している。


話を訊こうと吐き出し窓の障子を見ると 今度は光が逆に溢れているので開けられそうだと気が付いた。

障子の縁に爪を掛け 時間を掛けてすこしずつすこしずつ開ける。

中を覗くと ちょうど田嶋の背中が見えていた。脱いだ着物が自分の居る吐き出し窓の近くで、その向こうに田嶋の背中が辛うじて見える。

「ああ・・・・・。」

ふいに布団の中から女の胸が浮き上がって来た。田嶋が半身を起しその胸に被さって行く。田嶋の腕が下の方で動いているらしく女の胸はグネグネと波打った。

「きみさん・・・。」

田嶋が胸を咥えながら言うと女は

「きみ・・・って呼んで」

・・・と言う。

「・・・き・・・み・・・。」

そう言いながら床から上がった胸を両手ですくい上げると 顔をうずめ体を重ねた。

女と又布団に沈むと女の脚が田嶋に絡みつき 田嶋はごろっと体制を変える。

その時にちらっと田嶋の背中から腰までが見え 総悟は


「・・・あいつ!・・・何を・・・やって・・・・。」

知らないうちに愚痴って居た。


女が田嶋の上に乗り 女の腹に辛うじて巻きついて引きずられている着物がエロチックだ。

その着物の端から田嶋の腿から膝が見え 女が自分で上下の動き始めると

田嶋は苦しそうに顔を歪めた。

「はぁ・・・・は・・・はぁ・・・・。」

田嶋の荒い呼吸は女の呼吸と合い始め 女が田嶋の腹ぎゅっと爪を食いこませると 彼の突き上げる腰が高くなる。

「優治!・・・・優治・・・。」

女が叫んでのけ反ると田嶋が救いの手を述べるように 女の乳房を掴んだ。

「ああ・・・来てぇ・・・・。」

泣き声の女は田嶋に下から突かれ胸をもみくちゃにされながら 誰かを呼んだ・・・・。

総悟は 舌打ちしながら

先生は・・・優治なんて名前じゃない・・・。と呟いた

総悟は訳が分からずに二人をずっと見ていた。


田嶋が半身を起し 女の唇を乱暴に吸い始めた。


つい先日

田嶋が自分に言った言葉が 頭の中で鳴りだす

「その唇は・・・・大事な花嫁に取って置け。・・・・・お前が人にやれる 最も大事な物の一つだから・・・・。」


女の背中を田嶋の腕が回り女の腕は 田嶋の肩に巻きついた。

抱き合っている二人の姿に 総悟はますます・・・・

悔しくなる。


後の光景は 余りにも情報が多すぎて頭に取っておけない状態になった。

二人の行為が終わり 総悟がぼーっとしていると 田嶋が手を上に投げ出している女の髪を撫でながら・・・・


「・・・・・もう行かないと・・・・・。弟子が待ってる・・・。」

と言った。

女の手がするすると下がり田嶋の体の影から女が立ちあがった。

そのままゆっくり着物の前を直し振り返る

総悟は女の形相見てびっくりした。


「・・・あなたの弟子・・・?・・・・江戸から逃げて帰って来た・・・・あなたに・・・弟子・・・が?。」

「・・・・・。」

女の声に田嶋は黙っていた。

それを訊いて 総悟はやっとその場を離れられた・・・・。


暫くして・・・・・


田嶋が女の小屋から戻って来る。

さすがに疲れた様子で 総悟は田嶋に声も掛けにくい。 

しかし何も知らないふりをして


「きみ・・・さん・・・・は、どうでしたか・・・?。」

と聞いた。

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