夜中の紫

腐女子向け 男同士の恋愛ですのでご興味のある方、男でも女でも 大人の方のみご覧下さい。ちょっと忙しいので時々お休みします

12. きみに・・・。

2013-06-28 | 悪坂を転がる

正直

ウーラヴに、連れて行かれた時とはま逆な顔をして 
俺の前に現れた時は 少々・・・

頭に来た。

ウーラヴは悲しみの中に 頭が沈んで溺れて居る様だったが・・・・

アイリスは・・・・

褒められた子供が喜びを隠すあまり 頬が紅潮して 瞳も頬もきらきら光っている。
もう何もいらないと・・・言わん気に 俺とシオンの元にやって来る。

俺は居てもたっても居られない 
睨むと一言

「随分・・・嬉しそうじゃあないか・・・。俺の話なんて 覚えてるか・・・?。」

アイリスは首を振り

「ラルフ!有難う・・・だけど・・・。」

俺の申し出を 素直に断ると、
罰を受けるべくシオンの前に立った。


シオンはと言うと、
ウーラヴから一身に愛の告白を受けてきて 意気揚々としている恋敵が、
それを・・・・命毎捨て去ってしまおうとする姿に 少々・・・・・

「・・・・。」

憮然としていた。

このまま彼が消え去ってしまえば 
ウーラヴは立ち直れるのか・・・

それよりも、自分が 彼の思い人を殺してしまうと言う 
傷を負う事が この上なく苦痛になっていた。

しかし、このまま何も無く見逃すのも、大人の規律を乱してしまう気がする。



「なんで・・・・だよ!・・・俺のパートナーになれば ちゃんとした裁判を受けられるんだぞ?・・・・何が有ったか知らないが 抵抗できないペットをぼこぼこにするなんて どう見たってこっちが被害者だろう?・・・・・不倫っだって・・・脅されてたとも考えられるし・・・・。」

シオンが良からぬ事を考えて居ると ラルフがもっともな事を言いだした。


彼は・・・・私にとって犯罪者なのだ。

「いや・・・・・メインに未認可の薬を持ち込むこと自体が 重罪なんだ。それで私のクローンは忠実に・・・・主人のペット お前を 守らなければいけなかったんだ。」

と気持ちを持ち直した。

「・・・・・。」

ウーラヴは何も言わずに 聞いている。

ラルフは それでも必死に弁護しようとしていた

「それは!アイリスの持ち込んだ薬じゃない!・・・持ち主は公園の中の・・・人物だろう?多分。」

ラルフが 公園の中に匿われていた事実を暴露すると アイリスが慌て

「・・・・違うよ・・・・俺が盗んだんだ!。・・・・彼は・・俺を助けてくれただけで・・・悪い人じゃないんだよ・・・彼は関係ない!。・・・・シオン様!!もう早く 行きましょう!!。」

とシオンを覗きこむ。



本当に浮気なら ウーラヴも納得するかもしれない・・・・・。

「・・・・私も・・・・本当の事が聞きたいんだよ。アイリス。」

シオンが 蔑んだようにアイリスに言うと

「・・・・。」


「そうだ・・・アイリス。俺も・・・ウーラヴだって・・・お前を助けようとしてるのに・・・・何でそんなに 死に急ぐ?」

ラルフとシオンはアイリスの口から 事実を聞こうとした。
アイリスは黙っていたが・・・・


「言わないなら・・・・・公園管理人・・・・・ロドニーだったか?・・・・そいつも連れて行くぞ?。」

とシオンに脅され


「・・・・・。」

彼は唇を噛んで 蒼い顔になる。

それを見たラルフが 二コっとしながら

「・・・・・大丈夫だアイリス。俺がお前の守りたい者もちゃんと守ってやるから・・・・正直に言え。」

アイリスの目を覗きこんで肩を掴む もう彼しか頼れないのだと・・・・・・仕方なく話し始めた。



ラルフと有った後 公園に立ち寄り少年たちに襲われた事。
血を口にした後 彼らの狂ったような行動の事。


その時の事を話すと3人は 固まってしまった。



そして ナオトにそっくりな声に救われて目覚めると ロドニーの部屋で、
そこに自分の知っている薬が有った事。




「・・・・・・・・段々・・・・吐き気が強くなって起きるのが辛いし・・・・、ロドニーに迷惑も掛けたくないし・・・・・明日帰るって言って 寝かせてもらった。・・・・そしたら・・・・その夜中に・・・・・。」

今まですらすらと 恐ろしい事を他人事のように喋っていたアイリスだったが・・・・
問題の不倫していたと思われる夜の話は しずらそうに顔が曇る。


「何が有った?ちゃんと言いなさい。・・・。」

シオンが許さないと 口調を強めると アイリスは初めて泣きそうな声で


「・・・彼が・・・・風呂場で・・・・俺の洗濯物を抱いて・・・・。」

「抱いて・・・?。」

ラルフも黙っていられずに前に乗り出す

 
アイリスは あろうことか 赤くなり膝を抱えて その場にしゃがみ込んでしまった。

ほら襲われたんだと シオンを見るラルフ。


「そのまま 襲われたんだろう・・・?。」

彼は勇気付ける様にアイリスの背中を撫でながら 話しかけた。


「違うよ!!・・・・ ぉ・・・・オナニーしてたんだ・・・・・・。目があっちゃって・・・恥ずかしそうに固まってた・・・・・・。」

「・・・・?。」

シオンは訳が判らないようだったが、ラルフは・・・理解したと言う様に ゆっくりと




「・・・・・・で・・・・・・その 相手をしてやったんだな・・・。」

と言った・・・。




「・・・・・・彼に・・・俺を買うお金はないって・・・・・お互いの仕事を紹介し合った時に 冗談で誘ったらそう言ってたのに・・・・・・・・俺の体のせいで・・・・・おかしくなった。・・・彼は 故郷に帰るまで 恋愛なんて出来ないのに・・・俺のせい・・だから 俺が責任取らなくちゃ・・・」

ゆっくりラルフは顔を上げ シオンを見ると
シオンは 蹲るアイリスを見つめていた。


「・・・駄目だと わかってた・・・・。」

アイリスは泣いていたのだろうか・・・・。



俺は 泣いていた。

アイリスの血の付いたローブを擦りながらその背中に ぽたぽたと涙をこぼしてしまった。
グイっとアイリスの両脇を背中から持ち上げ 自分の胸の上まで持ち上げ。
子供のようにくるっと向きを変え 抱き抱えると自分の顔に被せる 

抱きしめた。

誰が何といおうと・・・・・俺が持ち帰る!

そう決めた・・・・。


「よいしょっと・・・。」

「・・・ら・・・らるふ・・・。」

アイリスが不安そうにラルフに抱きつくと 
そこら中にキスをして・・・・


「・・・さあ・・・・ハニー・・・・帰ろうな?。・・・・結婚の準備をしなくちゃ・・・。」

と他に 構わずに 喋り歩きだした。


あっけにとられている シオンが

「・・・はあ??・・・待てよ!・・・・アイリスは薬を盗んだという罪を認めてるんだ!。」

と、ラルフを止めるとアイリスが

「そう!!駄目ですよ!!俺は・・・・。」

と抵抗したので ラルフは彼の胴を 肩に担ぎあげる。



尚も

「俺は・・・駄目なんですって・・・ラルフ!・・・・ごめんなさい・・・。」

抵抗するが 


彼の意志は固く そのままで


「・・・・・・何が駄目だって言うんだ!・・・・俺は お前がナオトを大事に思ってた事も知ってる、その薬を飲みたくなるのも当然だと思う。・・・・でも そんなのお前の罪じゃない。・・・・・オナニーの相手をした事だって・・・・ 不倫がどうのって話でもない。・・・・・勿論強姦された事も お前のせいじゃないだろう?・・・なのに・・・なんで俺達を拒絶する?。・・・・なぜだ?。」

と聞いた。


さっきの俺ほどではないが・・・・ぽたぽたと アイリスの頬から涙が伝って
水滴が床に落ちる音がした

「・・・・・なぜって・・・・。・・・・・・・・俺は もう・・・・・汚い。・・・・・・・最後に 貴方と寝た時・・・・・。」

アイリスが呻くように呟き、
それを聞いたウーラヴは やっとアイリスに近ずいて来た。


「・・・・・・すごい・・・・・汚い事してきた俺 相手に・・・・・・申し訳・・・ないと・・・お・・も・・・・・マスターた・・ちに・・・。」

ウーラヴはラルフの肩から 自分の手でアイリスを下ろすと そのまま彼を 両手で自分に押しつけるように抱きしめて 蹲まった そして


「・・・・すまない・・・・。」

と彼に謝った。





それを見て居た シオンは ぐらっと足元が一瞬ぐらつき・・・・
ふらっと 近くに有ったソファーに座る 

頭を抱えた。


アイリスが大泣きし始めて 
ラルフは二人の傍を離れると 彼もシオンの真向かいのソファーに深く腰を下ろす。
そして溜息を着いてから 前に座るシオンを見た

シオンはその目線に気が付いて 怒ったように横を向くと脚を組んだ。



「私のクローンも・・・・・彼を死なせるべき相手ではないと 思って居た様なんだ。・・・・・・・・・。ただお互いに 意思の疎通を図れないだけで自分を責め合っている。・・・そんな風に見ていたようだ。・・・・だから、嫉妬で見落とした自分のミスを 自分で処理するだけだと・・・・最後の通信で書いていた。」

シオンはラルフに聞かせる様に言った訳ではないが、
ラルフは それに反発するように


「 俺は・・・・パートナーにするだけだ。・・・・アイリスが誰とどうなろうと俺は気にしない。たとえウーラヴを・・・愛していると言ったって・・・だ。」

彼もまた 誰かを気使う訳でもなく自分に呟いた。


それをシオンが 冷やかす様に・・・・



「・・・・・・誰であっても・・・負けるはずがない・・・・って事ですか・・・?。」

冷ややかに言うと 
ラルフはシオンをいつものように見て

「・・・・・・無論だ。・・・・・俺の意見を折り曲げる奴なんて 誰も居なかったからな。」

と言い切った



「大したエゴイストっぷりだ。・・・これなら星間連邦へ代表選出される日も近いですね・・・。」

と、嫌味で返した。
ラルフは

「絶対 そんな事やらねえ!・・・・・俺はこれの責任とって引退し、あいつの病院で二人でのんびり過ごすんだからな。」

と言いかえす。






「ははは・・・・・・それは・・・・私がこの問題を告発したらでしょう・・?。」

「シオン・・・?。」

ラルフはシオンを見ると 
彼はやる気がそがれたように・・・・




「・・・悲運で可憐な少年のお話なんて 興味無いんですよ 私には。貴方達の様にロマンチックでも無いしね。・・・・現実に・・・・辛いのは 生きながらえる事でしょう?。・・・・・・・・・・・逆に ありきたりな幸せが不幸に感じるかもしれませんしね。・・・・・・とにかくこれ以上 ウーラブや貴方方込みでは 責めるべき点も見当たらないので・・・不問に附します・・・・。」

やる気なく言った。




「ふん・・・・・お前も・・・ウーラヴには 嫌われたくなかったと言う訳だ・・・。」

ラルフが 言うとシオンはソファーから立ち上がり それには答えず


「・・・・ほら・・・・このまま ほおって置くと・・・ここで寝落ちしますよこの二人・・・何とかしてください。・・・・・・また来ます。」

と言いながら手を振って 来た通りに帰って行く。


ラルフはそれを見送り ソファーに倒れる様にへたりこむ。
 

二人を見ると 

抱かれたアイリスの方は 張り詰めていた気が抜けたのか、もう うとうとしていた。

その睫毛が ゆっくり上下するのを見ながら 
ソファーに顎を乗せて見て居ると 
ウーラヴが嬉しそうに アイリスの手を にぎにぎしながら顔を ラルフの方に上げる。

コミ障め・・・・・。

ラルフは一気に気に入らなくなって ソファーの前を向きながら

「・・・今・・・・だけだからな・・・・。」

と言った。

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5 君に・・・。

2013-06-28 | 悪坂を転がる

すいません飛ばして公開してました。

*************************************

 

ラルフと別れた後 緑の一角から風が吹いて来た。

チューブの中に流れる様な 生温かい風ではないが、
体に触れるとなぜだか
呼ばれたような気がして その公園に入って行った。

公共性の高い公園で 衛星からの追跡は困難だから 入り込まないように・・・・

と左手首に付けられたアナライザーを見せながら ウーラブに言われた。


しかし

公園の中に足を踏み入れると 緑の草は柔らかく 周りの木々は風で手招きしているようだった。
木は不思議にも 一つとして同じ物は無く 曲がりくねってはいたが高く空に向かっている。

ぱき

自分の脚を見て見ると 薄手の靴は余り歩きまわる物ではないのか 骨の様な乾いた小枝を踏み折った その感触が不安になるほど足の裏に伝わる。

小枝はどこにでも 転がっていた。
木が有れば 小枝はどうしてかは判らないが 辺り一面暗がりに散らばっている。


少し身震いするように辺りを見回しながら 気を付けて歩き折った枝に
何故だか詫びを入れ 明るい方に出て行く。

大きな森の様な公園の一角に人気は無く 小さなベンチがポツンとあった。

ラルフに触られた感触でまだしびれている体を 休ませたかった。

そのベンチに座ると風に弄られるように目を閉じる。


ここの風は冷たい。

ラルフは おしゃべりだ。
他の客は その事 だけしか考えないのだろう。彼の様に好きだとか 嫌いだとか 今まで話しかけられた事は無い。 そんな彼は 割合有名人らしいのだ。

ラルフの顔を 町で見ない日は無い。彼の本体かどうかは解らないが 外交する彼を映したスクリーンが街のあちこちで目にするし 乗り物にさえ描かれていた。







静かな森の中 ゆっくり目を閉じて座っていると 
自然と自分の違和感に気が付く。
生きている自分と 植物その違いは大きく 充分孤独を味わった。

ぱき

と どこかでさっきの恐怖の音がした。
誰かがまた小枝を踏んだらしい。
一気にざわついたのは自分では無く 周りの森だった。

囲むように見つめられている。騒然と風に弄られる木を茫然として見ていると 
それは人影となって姿を現した。

ベンチに座る自分を囲むように 自分と同じくらいの子供がやって来る。

ぱっと反対を見ると 反対からも 目の端からも視界に入って来た。5人は入るだろうか。


「・・・こいつが?・・・・・。」

自分に付いての発言らしかった。

ナオト達と同じぐらいの子 それより大きい子。
一見大人しそうな子供・・・・。

少し安心しようと務めた・・・。
こんにちは・・・・・何してるの・・・・。どんな言葉を掛けたらいいのだろう。


「ああ・・・・ペットらしいぜ。・・・・親父のスモールパッドで調べると・・・・。」

と 少年の手に持っている平べったい物から 何かの信号が出ているらしく 見ると自分の左腕のテープの様に巻かれた認識表がうすく光っている。

彼の持つ端末と交信しているようだった。

この子供たちが 自分を買う為にエントリーしている・・・?

ぞーっとしてアイリスは立ち上がると 逃がすまいと薄く笑った子供が近ずいて来て
背後から背中を突き飛ばした。

芝生に手を付くと後ろから


「害虫!。・・・・元の星に帰れ!」

「ここは お前なんかが居れるような 売春地区じゃないんだよ!!。」

と言われた・・・・・。

色んな人間居るからな・・・公園には行くなよ・・・?


と ラルフかウーラブに言われたのを思い出し、
連れて来られた当初 街を物珍しがって見学し
たまたま入ったキッズパーク

俺は・・・・柵の中で 小さな子どもたちが 声をあげているに興味を引かれた。
自分には全くない記憶。不思議な感情・・・・
大人と子供が笑いあって抱きあげたり 抱きあげられたりしている。

ゆっくり近寄って観察していると 誰かが自分に向かって何かを投げて来た。
その時に 害虫だの外来種だの 変態だの叫ばれたのを
思い出した。



今 自分の周りに立っている5人全員が 
彼らの様な感情を自分の持っているのだ・・・・。


「こいつ・・・高級ペットらしいぜ?職能は・・・・特殊 だって。・・・。」

誰かが自分を笑った。
アイリスは彼らの隙間を抜ける様に這いだして森の中に 身を隠そうとしたが 彼らを振りきれない。
何本も枝を踏んだ・・・・・。

ごめん・・・・。

そう言った途端地面の枝は全部 彼らになった

その・・・・にこにこした白いローブをまとった少年たちに謝るが 彼らには聞こえない。

追って来る少年たちにも 同じように謝って見ようか・・・・。
そう思っていると 誰かが木を握り それを自分に振り降ろす。

重みと痛さに躓いて後ずさりすると 体中を蹴られた。

「あれ・・・・?こいつどっかの店のもんじゃないみたいだな・・・・。オーナーは・・・・個人で・・・隠されてて・・・・・あれ・・?出て来ない。」

「じゃ・・・顔殴るのやばくないか?。」

と言う子の隣で 脚を思いっきり腹に蹴り入れ

「ふん・・・・認識表取って埋めちまえば・・・・・判らねえよ。」

という少し大きな子。

「でも持ち主に探されたら・・・・。」

と一人が不安そうに言うと。

「俺 ペット業者に聞いた事があるんだよ。ちょっと遊んだ時に。」

という、隣で見ていた男は この中では年長者のようだったが 充分に未青年だった。

「個人でペットを輸入するのは 特別製なんだと。そんじょそこらに居るアンドロイドとは違って人間を改造しちまうんだってさ。だから使う奴も自分を高性能にしてるし、そう言う奴を喜ばすために個人向けのペットらしい。」

と得意ぶって言う。
アイリスは 鳩尾を蹴られてゲーゲーと吐きながら 逃げ道を探していた。

「じゃあ 尚更ダメじゃん・・・・。」

「いや・・・・・こいつは オーナーに気に入られてないんじゃないか?・・・・・不良品とか。・・・・・・・じゃなきゃ アイリスの商品名のまままま 繁華街で自分を売ったりしてないはずだろ・・・?。」

「ああ・・・そうか。」

彼らは アイリス越しに納得し、彼の手首に有る アナライーザーだという物をはぎ取った。


殺される・・・。


そう思って動きだすと アイスの体に次々に手が伸びて来て 地面に押さえこまれた。














「・・・・・・・まあそう言う理想の話なら、俺の出る幕じゃないかな・・・?。」

ラルフは一通りウーラブから アイリスが自分の理想だという訳を聞くと 納得した。

「・・・・・。」

ウーラブは着替えを済ませ物憂げに 街並みを見つめている。



久々に休眠状態から起きて来たウーラブ本人は アイリスを迎えに地上まで降りて来たのだが ラルフは彼に付いて来てしまった。
何となく 自分とアイリスとは上手くいかない気がする・・・・・・

しかし

もろ手で離す事も出来ない気がして・・・・。
諦めるはずの彼が気になって 仕方が無いのだ。
昔堅気なウーラブが一途に彼を想い 待っているのを知ってしまうと 尚、諦めるしかない

と・・・・・思う。


でも 同じ子供たちの中で笑った事もあっただろう・・・アイリスのその顔を
見てみたい・・・見て安心したい気もする・・・・。


だから とにかく別れる前に彼に合って 話をしなければいけない。





ラルフは手持無沙汰なのか 
自分の秘書たちにいらついたように連絡を入れ 不機嫌だという理由で幾つか大事な 公務を病欠する事にした。


それを見たシオンが 食事の用意を済ませると やって来て

「・・・・・あなたに振りまわされる人は 大変ですね・・・。ふふふ。」

と笑った。

「・・・・・仕方ないだろう・・・・?この星の知事を・・・・・仕事やる奴居なかったんだから。」

「そうですよね。貴方は人間らしいから・・・・・・適任ですね。この星の住人に慕われてる。」

おかしそうにシオンは手招きし、食事をさせる為に彼を呼んだ。
そして ダイニングに導くとテーブルの椅子を引いて座らせる。

「固苦しい・・・・。」

そう言うとラルフは 不機嫌そうに席に付いた。

「そうですか・・・・?今の貴方の立場ほどではないと思いますよ?・・・・あなたに合わせたら これも晩餐会でなければ。」

テーブルの反対側にウーラブが自分で椅子を引いて座ると シオンが皿を3っつ持ってやって来た。黙っているウーラブに いちゃもんを付ける様にラルフが


「・・・・・代わってくれよ・・・。知事も アイリスのオーナーも・・。」

半ば本気で言うと シオンが席に付きながら

「ふふふ・・・・・ウーラブは初代・・・この星だけじゃなく 星団の連邦の知事もやりましたよ?・・・それに私も・・・・星間戦争中の星団国連役員だったし・・・・。もう結構ですね・・・そういう仕事は。」

彼はせいせいしたという様に口に食べ物を運んだ。
チッと 舌打ちするとウーラブの顔を見ながら ラルフも食事を始める。




それにしても・・・・・・・・・


もう別れてから 5日は経とうかと言うのに・・・アイリスは戻って来なかった。

シオンの
・・・あなたが苛めたから・・・・という皮肉も聞き飽きて来たし そろそろ本気で探さなくてはならないような気がして来たのだ。


夕食 食事半ばで


「しかし・・・・・3日で帰って来るんじゃなかったのか?いくら 一時信号が途絶えたからと言って、保護者として放って置き過ぎなんじゃないのか?。」

ラルフはがつがつとわざと食べ終わると、静かに食べている二人の邪魔をするように
話しかけた。

ゆっくりシオンが口元を拭くと

「そうですが ・・・・昨日は会話が有りましたよ。・・・まあ アイリスのだけですが・・・誰かと会話はしているようです。相変わらずリストバンドは外したままのようですがね。」


少し神経質そうに眉毛を片方動かした。
ウーラブはいつまで見過ごしたままで居る気なのか まだ彼の思う通りにさせる・・・つもりなのだろうか。


大きな天蓋付きのベッドで少し仮眠を取り 色々考えると 
周りを囲む様なガラスの向こうに朝靄に煙る町が見えた。
小さな明かりは色とりどりに 暗闇からグレーに変わりつつある空に向かって 高い塔はいくつも光を点滅させていた。

ごちゃごちゃと汚い色がせめぎ合う大地を汚すのを 朝焼けの地上は我々に訴えているようだった。

ここはウーラブが起きたので 彼の居室の一つ 安全を確保された特別居住区に移ったのだ。
地上何メートルなのか判らないほど高い所に構えられたタワーの先端に町が作られている。
鳥たちが海を渡る際に目印になるという・・・・。その町のひとつで ラルフはアイリスを待っていた。

アイボリーに染まった室内は朝だけの色。
半分だけに絞られた光を椅子に座り直し見ていたが、
体を起そうとすると浮遊した椅子は ラルフを下に降ろす様に傾いた。

伝説の天使や仙人たちが住まう町 オリンポスと神話の中の名前を借りている。

しかし ラルフはここの住人の一人でも有るのだが 地面のある地上が好きだった。
ここの住人のゆっくりした話し方は 本人とデコイと繋がった距離の遠さをまざまざと感じる、そうなると生き物かどうか実際は良く解らなくなる気がする
そして会いに行っても 眠ったままの住人も多い。

この町に本体を置く金持ちは少ないのだろうが・・・・。
今は厳重なセキュリティーの元 ウーラブの本体は存在している。

窓に近ずくと ゆっくりと覆いは上がって行き 朝の風景を見せるカーテン。
体に巻いただけの掛けた布が ラルフの肌を滑り片肩を顕わにすると
肘を折り首の根元を ほぐす様に引っ張った。

「いつまで・・・待たせる・・・?。」

自分の立場を行使して 警察を動員すれば1時間も経たずに アイリスは戻って来るものを・・・・・こうして待つのは 彼には辛かった。

溜息とともに後ろを振り向くと 
すっと部屋のドアが開きシオンが 彼のガウンを持って入って来た。


「おはようございます。見つかりましたよ。」

しかし シオンの表情は暗い。
ラルフは 硬い彼の表情を眺め黙ってローブに腕を通しながら歩きだした。

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11 君に・・・

2013-06-14 | 悪坂を転がる

「俺が 一人でやりました。彼は・・・公園で転んだ俺を助けてくれただけで・・・・何も関係ないし知りません。俺のせいで シオン様が死んだのなら それも俺のせいです。」

言いながら
アイリスは腕に差し込まれたコードのせいで 引きちぎりたい程腕が痛んでいたが それさえも霞む程 むなしさで目の前がまっ黒になった。

こつっと額が冷たくなった。床に落ちたのだ・・・・。孤独に落ちる・・・というのはこう言う事なのだ
何に対しても規範が無い
生きて来たと言う事も 仲間の記憶をやっと取り戻した事も
良い事も悪い事さえも 自分には存在しない・・・・・。

無い。

自分と言う事も そもそも存在してはいけない。
悪夢だが その闇さえ

無くなる・・・・。





「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

ショックなウーラヴは頭を抱え、
何か言い訳をしてくれるものだと 思っていたラルフは 
茫然と罪を認めるアイリスを見ていたが 

シオンだけは冷たく笑って

「ほら・・・これを自供と言うのですよ。」

と言い アイリスの背後に回り込み医療機器のスイッチを切って取り外して行った。

シオンはアイリスを立たせて 腕から色々なコードを取りずして行く。
彼の白いローブに 鮮血が少し滲んだが お構いなしにコードを巻きとりかたずけていた。

機械の勝手を隅の隅まで知っているシオンは てきぱきと誰の手も借りずに
ウーラヴの家の隅にしまう。 

そして ペットに 二人に最後の挨拶をするように促した。


ゆっくり振り返るアイリス・・・・

「さよなら・・。」

と一言呟くと 
固まっていた二人の魔法は解けた。


「・・・・しょ・・・ぶん・・・・?。」

ラルフがアイリスの先を考えて口にすると シオンが黒いローブで彼を隠す様にを広げ、アイリスに近寄る。 

待て!!・・・とラルフが叫ぼうとした時に 静かな怒りのこもった声でウーラヴが


「・・・シオン!・・・。」

と叫んだ。

シオンはびくっとすると ゆっくり振り返り 二人は見つめあう。


ラルフははじかれたようにアイリスに近ずくと 彼の手を取った。

血液の流れた跡がある手はまだ コードが抜かれた痛みでぶるぶると震えて痺れて居る。


「アイリス・・・・もう離さない・・。」

そうだった・・・・。
俺はさっき 彼の寝ている耳に 大丈夫だから、
起きろと、囁いた

そのせいで 起きて来たのだ・・・・。


「俺が・・・守ってやると言ったから 起きたんだろう?。・・・だから約束する。」


ラルフは優しい声を出しアイリスを安心させようと 
膝を付きながら掴んだ手に口ずけをして 誓いを立てた。

「お前を 俺のパートナーにする。ずっと愛し続けると約束する・・・。」




が、それを聞いていたウーラヴは 
シオンを睨んでいる状況で無くなって 彼を押しのけてラルフに近寄って来た。

アイリスの視線が 歩いてくるウーラヴに移り その姿を追っている・・・。
ラルフはそっと手を伸ばして アイリスの頬に手を寄せ 引き戻した。



「返事は?・・・・俺だけを見て・・・返事をしてくれ・・・。」


アイリスは 諦めたのだが・・・・
一筋の光の様な ラルフの言葉をきいた・・・・。

白い部屋に居る時に聞いた 声でまた
自分に近ずこうとするラルフ。

生きたいと言う事ではないのだが
何にたいしてか、戸惑いが わきあがる。




「貴様・・・!。」

初めてウーラヴから聞いた言葉にしては 充分に彼の気持ちが入っていたので 
ラルフもそれにこたえる様に立ち上がり アイリスの前に 立ちふさがった。

「この前の お話の・・・・・許可を頂きたい。」

と真っ直ぐにウーラヴを見返すと シオンが


「パートナー契約と言う物は・・・A級市民と行う物だ・・・・。人とは言えペットに 愛を誓うなんて間違いか おかしくなったか・・・・。現に彼は 3人ものマスター居るのだよ?!。」

と無謀な行為を考え直す様に言ったが、逆に・・・・

「マスターが3人・・・・ならば、俺が4人目のマスターって事ですね。・・・・・・今回の事全て 俺がアイリスを傷つけたせいで起こった事。マスターとしてパートナーとして 俺が全部の責任を負う事にする。」

と アイリスに微笑みながら責任をひっ被ると宣言した。
呆れる様にシオンが一言言おうとする 





「・・・・・・責任を 被るつもりで・・・そう言ったんだな・・・?。」

と 怒りに満ちた顔でウーラヴがラルフに聞く。

「それも有るが・・・・彼を 愛してしまったんだ・・・。」

と彼は真顔で答えた。 
ウーラヴも

「責任は 私が取るつもりだ・・・・。前から言う様に・・・彼を守るのが私の役目・・・。」

彼も 責任を取ると宣言した。


「何をおかしな事を言ってるんですか?二人とも!責任って・・・・貴方がたには無いでしょう?アイリスが契約違反・・・・自分を殺したと 言う問題なんです。それが・・・・なぜ」

話を元に戻そうとするのだが



「だから!・・・・・・・アイリス!!・・・俺と結婚してくれ。それで済む・・・。」

とラルフは勝手に アイリスの手を握り締めた。
ウーラヴも、それを阻止しようと手を伸ばすのだが、シオンは彼を押さえて離さなかった。

「貴方が!!どんな責任を取るって言うんですか・・!。」

とシオンは ウーラヴを楽々押さえながら ラルフに聞くと 彼は陽気に

「俺は責任を・・・・知事を下りて政党も離脱する。・・・・・そして こいつと監獄でのんびりするさ。」


膝を付いた自分より少し背の高いアイリスは 不思議そうにラルフを見つめていた。


「・・・うん と言え・・・・。」

ラルフは 近ずいて行く・・・・。

シオンはなぜか・・・・
幸せそうなラルフを見、
悲しそうなウーラヴを見 
彼から手を離す。

すると
ウーラヴはシオンの思った通り、二人の間に割って入った・・・・。



「・・・・ウーラヴ・・・・。」

アイリスは、ラルフを突き飛ばして 自分の前に跪いた主人にびっくりしていると・・・・
意を決したようにウーラヴは立ち上がる。そして ようやっと手を伸ばし アイリスの手を取った。

アイリスを連れて行こうとするウーラヴの前に 反射的に立ちあがったラルフは 
彼の顔を見てから 横にどく。


「・・・ラルフ・・・・?。」

もう成り行の方が

何故止めないのかと シオンはラルフの顔を覗きこむと ラルフは苦虫をかみつぶしたようにこう言った。


「あんな顔されちゃ・・・・止められない・・・・。」

「・・・・・。」

シオンは納得がいかないが ラルフに引っ張られて 居間を出て行った・・・。









ウーラブは呼吸を整えるとアイリスの方に振り返った。

「ウーラヴ・・・ごめんなさい・・・シオン様を。・・・それに 。」

と詫びるアイリス。

「アイリス・・・聞いてしい事が有るんだ。」

「ウーラヴ・・・俺を剝製でも・・・・標本でも 好きに使ってよ。」

と 悲しそうに微笑みながらウーラヴを見た。
その顔を見て胸の痛んだウーラヴはしどろもどろになって

「何で!いつもそんな風に 考えるんだ!?・・・・そんな風に いつもいつも・・・・・俺の前で言わないでくれ・・・。」

「・・・・・だって・・・俺の事・・・・・あんまり好きじゃないよね・・・ウーラヴ。」

とウーラヴにアイリスが答えた。

「なっ!!・・。」

想いもつかない言葉をアイリスから聞いて 固まってしまうウーラヴは 本当に話下手のようだった。それを今頃アイリスは理解したのだが・・・・。

「でも・・・・それはいいんだ。・・・俺・・・・皆に良くしてもらって終われたし・・・・それに・・・・お世辞だろうけど・・・・・・マスターに 好きだって言われて・・・嬉しかった。」

「・・・・・ラルフか・・・・。」

ウーラヴは憮然と言う。

「そう・・・・お世辞だね・・・。」

アイリスは 叱られそうだったのでまた諦める様に下を向いて小声で言う。



・・・・シオンの方に行きたそうに 目が泳ぎ アイリスの心はまるで
自分から心が離れてしまっているようだった・・・・。


「すまない・・・また 怒ってしまった・・・・。すまない。」

ウーラヴは顔に掛かった髪の面積を大きくして アイリスに謝ると、
彼も過ぎた事のように謝った。


「・・・・・・俺の方こそ ごめんなさい。・・・・・もう・・・行くね。シオン様が待ってる。」

アイリスが1歩か2歩 後ろに下がる


そのアイリスに

「・・・・初めて 彼目の 視界に入った時・・・・・とても穏やかな気持ちになったんだ。・・・・・すぐ俺は その人が好きになった・・・・・でも・・・・その人は親父の愛妾だった。・・・・・当時俺の父は もう亡くなる手前で そのアイリスは付きっ切りで献身的に看病していた・・・。・・・・俺は・・・・・その愛情にはあこがれた・・・・有る時・・・・そのアイリスが 親父のベッドの裾で 泣き伏していた・・・。」

同じアイリスの話をされて キョトンとし、 じっとウーラヴを眺めた。
こんなに 話しかけられたのも 初めてだったからだ・・・・。

「その時 アイリスが親父に泣いて許しを請うのを見て 俺は彼に どうしたのかと尋ねたんだ。
『マスターは・・・・私が最後のお供では 嫌なようです・・・・。』
と 俺に言っていた。・・・・・そして 暫くして 又 父の家に行くと・・・。」

ウーラヴはアイリスと誰かを重ねる様に見つめている。それに引き込まれたアイリスは・・・・

「・・・行くと・・・?。」

興味を持ったように聞き返す。



「彼が・・・知らない男に・・・・。父の目の前で・・・泣き叫んで・・・・犯されていた。・・・・俺は その時初めてアイリスに性欲を感じてしまった。・・・自分ではどうにも出来ないほど 彼の体・・・・・・全部が 欲しくなった・・・。・・・父に後で訳を聞くと、彼を他の男に売ると言うんだ。」

「俺はアイリスが父を愛していると 何度も言ったのだが・・・父は 聞いてはくれなかった。」

「・・・・・。」

ウーラヴが思い出す様に部屋の片隅で 静かに話を続けている。
その姿は 苦しみにやつれて 体の中から吐き出すようだった。

見て居るアイリスにも その深く伝わった。

「で・・・・・俺は・・・・・・アイリスが 他人に連れて行かれてしまう前に、父に
『最後に一つだけ欲しい物が有ります。』
と言った。
それがアイリスだと伝えると父は
 
『・・・私の研究成果を渡すから 自分のアイリスは 自分で創れ。』
と言われた。」

ふと 髪に隠れて呟いていたウーラヴが、アイリスを見つめる様に顔をあげる。


「『父の傍に居たくないのか?』 
とアイリスに聞くと 彼は・・・・・
『マスターがそう決めたのなら・・・・したがいます。』
と 答えて居た、
どうしても アイリスが欲しかった俺は・・・・・彼が 最後まで父の傍に居たいと言って居ると 強引に嘘をついた。 
アイリスが 父に逆らえないように 作られているからだとしか 思え無くて・・・・父には それが彼の本心だと言ったんだ。」

アイリスは 自分の様で自分では無い話に戸惑いを感じ さっきの戸惑いと重なると
自分の中のぶれは 消えて居た。

「・・・・・。」

しかし、ウーラヴは続けて


「父と彼は・・・・その後  ずっと二人で過ごしたよ。俺も 愛する男の望みを叶えてやれたと 嬉しかった。アイリスにもきっと俺の気持ちが通じて いつか父の様に 俺と愛し合える様になると思っていたんだ。あの時は・・・・。」

「あのときは・・・って・・その後 何が?。」

アイリスはこの話に最後まで付き合おうと決め  
ウーラヴはアイリスをじっと見つめた・・・・。


「どおしたの・・・?。」

アイリスがウーラヴの様子が変だったので 一歩近ずくと  放心したように彼が

「死んだ父を 送り出して・・・・・7日後・・・・。アイリスは・・・・俺の気持ちに答えてくれた・・・。」

「・・・・・。」

「心も体も・・・これ以上ない喜びだった。・・・しかし・・・・・アイリスは次の日に 自ら命を絶った。」

「!!・・・・。」

アイリスは自分のように 命を絶った・・・・。
ウーラヴの過去を知って 言葉を失った。





「未だに・・・・・・何が・・・彼の重荷になったか判らない。・・・・俺があの時不用意に・・・・・彼を抱かなければ良かったのか・・・・。父は 彼が後を追うと判っていたから 彼に命令したのに・・・・。俺が 彼を自由にしてしまったのだ・・・・・。それか・・・俺が嫌いだったのか・・・。」

段々アイリスを見つめていたウーラヴの瞳は 苦しそうに濁り宙を泳ぎ出した。

ま近にマスターに 感情を動かされると
さすがのアイリスにも影響が出て、胸が息苦しくなった。

ずっとマスターは 自分の愛で 俺に影響が出ないように 距離を置いていたのに違いないと 悟った。



「マスター・・・・。」

アイリスが呟くと ウーラヴは顔を上げ気を落ち着かせるように努力した。


「だからアイリス・・・・・。・・・・触れたいが、触れればお前がまた・・・・。それが 怖かった・・・。」

ウーラヴは懺悔するように アイリスに告白し 
膝をその場に落とした。

長年貯めて居たのかウーラヴの涙は 音を立てって床に落ちたので 彼は両手で顔を隠すしか無くなり覆う


「・・・・・俺のせいだから・・・・・君がこのままシオンと行くなら・・・・俺もここで終わりにする。君の心を折ったりしない。・・・・。でも もし、・・・・・ラルフを少しでも好きなら、それで生きて居てくれるなら・・・・・俺は・・・・オーナーを・・・・。」

と 悶える様に言った。
今ここで言わなければ もう無いかもしれないからだった。


それは アイリスも同じ・・・・。


「・・・・・・・俺は・・・・・・・貴方の物です。・・・・多分・・・・・生まれた時から・・・そう決まっていたんだ。」

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10. 君に・・・

2013-06-08 | 悪坂を転がる

ラボに行って見ると すっかりシオンは美しく整えられていた。

冷たい体は もう再生し動きだす事はないと 思わせられ 

ラルフは 足元に感じる冷気に 少しぞっとした。


「・・・・・彼は・・・・?。」

と・・・・・・・その場に凍りついたウーラヴが
立ちすくんだまま声を掛けて来た。

「・・・まだだ・・・。」

答えると

ラルフは 友人に最後の別れを告げるべく 温度管理された棺の周りを歩き 膝を付いた。

ウーラヴは 彼の方を見ずに立っている。
ラルフも彼の表情を見る事も無い。

宙に浮いた棺は ラルフが膝を付いた位置に ちょうど幼顔のシオンが覗けるように寝かされていた。 いつものようにウーラヴの傍に仕える姿 白いシャツとサテンの黒いズボンを履き
ぴかぴかの靴を履いている。

その形の良い尖ったつま先が上に向き・・・・・。さらによそよそしい

そっと胸の上に汲まれた手に手を乗せると ラルフは頭を下げ 何かブツブツと祈りをささげた。

そこに・・・・・




背の高い黒髪 大人のシオンがやって来た。
彼は ウーラヴよりもすこし年上の30後半の年齢で 精悍な体つきはウーラヴとは対照的な男だった。

肩から黒いローヴを掛け颯爽と入って来る所は 征服者のように威圧的でも有る。

ラルフは立ちあがり 入って来た男と対峙するが すぐに一種の嫌悪感を共有する。それをお互いに顔に出すと 二人は距離を置いた。それとは別に



「さて・・・・・久しぶりに 貴方に合えた事は光栄なのですが、このような事になって非常に・・・・・。」

俯くウーラヴに近ずくと シオンは 彼の顔をまともに見ず 呟くように 自分の為に哀悼の意を表した。

シオンが 白いローブを掛けたウーラブの肩に そっと触れ 
表情が見えるまで近ずくと お互いの額をくっつける。


「・・・・貴方のせいでは無いのですから・・・・気にしないで下さい。・・・・・・・貴方の目がねにかなった者とは言え 所詮は劣勢遺伝者なのですから・・・・・」

と優しくウーラヴに囁いた。

「いや・・・アイリスのせいではないのだよ・・・シオン。」

ウーラヴが答えると 額は離され二人は初めて見つめあう。
シオンは 何年かぶりに直に見るウーラヴの瞳の色に痺れながらも 気丈に


「・・・・ならば、アイリスに劇薬を与えた者が 悪いと言うのですか・・・・?。そのせいで 私は死んだのだと?。」

「・・・・・・。」

ウーラヴが黙る。

シオンは自分の死体を眺め ラルフをちらっと視界に入れる。

ごくりとラルフは唾を飲み込み シオンが言わんとする事を考え始めた。
どう考えても 大事な自分の体から命を奪った者を 見過ごす訳はない。
それが自分の敬愛する者の心を掴んで 壊してしまいそうな者ならば・・・・

尚更 ただでは置かないだろう。


ラルフはすぐウーラヴに

「ウーラヴ・・・・・あれのオーナーの件、すぐに了承して欲しい!。・・・・つい、うやむやになってはいたが、本人も了承していた事だし 私にも異存はないので。」

ラルフは 二人の間に割って入りウーラヴに声を掛けた。 
シオンは眼中になかったが、ラルフを睨みつけると こう言った。

「問題のペットの事ですか?・・・・・今、貴方に横やりを入れられる筋合いはないですよ。ラルフ。 だいたいお忙しい方が・・・何故ここに入らっしゃるのですか?。」

と露骨に帰れと言われた。
ラルフはカチンときたが、
ウーラヴにも


「あれの・・・了承は取ってないだろう?。」

と言われ それにすぐに 答える。

「・・・・・好きだと 言われたよ。」


とラルフ


「・・・いや、嫌いでは無いと・・・・言われたんだろう・・・?。」

と、ウーラヴ。

「いや・・・・嫌いではないと言う事は 好き と言う事だろう?。」

「それは 極大解釈と言う物だ。」


暫しラルフとウーラヴは シオンの前で言い合った。



「その話・・・・・私と どんな関係があるんです?。」

業を煮やしたシオンが 二人に問いかけると ラルフはすかさず

「それは 俺のせいで、彼は誘惑に負けてしまったんだ。だから悪いのは俺で・・・・。」

とシオンに近ずいて許しを求めた。

ウーラヴはその後ろから 心外だと言わんばかりに

「・・・だから君にその資格はないと言ってるだろう?・・・責任を取るのはオーナーの役目 つまり私だ。・・・君じゃない。」

と言い放った。








そこに


医療器具のモニター音が近ずいて来た。

ウーラヴとラルフは言い合いに水を差され 静かになる。
ずるずると足を引きずって ひとりで目覚めたアイリスが
大きめの医療用のローブに身を包み よたよたと客間に歩いて来たのだ。

彼の長い袖から手は見えず コードが流れ出て 後ろにいくつも機械を引きつれている。
表情は 寝ていた為かぼーっと ほとんど無意識に近い状態だった。

彼は何かを探す様に 歩き続けて居た。


「おい・・・アイリス!目ざめたのか?・・・・。」

そう言ってラルフは駆け寄ると 抱きついて 彼の歩みを止める。



「・・・・眠って居れば・・・・処分もしやすかったのに・・・・最後まで世話の焼けるペットだ・・・。」

シオンが憎悪の目でアイリスを睨みつける。
そして彼はウーラヴを振り返ると 
信じられないという表情で アイリスを見つめて居た。 また怒りがシオンの中で膨れ上がる。

「ラルフ・・・・・ウーラヴ。・・・彼には酷だが・・・・貴方達の為に 私は彼の罪を断罪しなければいけない。彼が なぜ高額なペット契約を結びながら自らを殺し、管理者で有った私のクローンまで死に追いやらなければならなかったのか・・・・。私には理由を知る必要がある。ペットと言えど 違法な薬は契約違反、・・・・私の死も、計画的で故意の殺意があったとしか・・・。」


「・・彼は シオン だ・・・怖がらなくても良い・・・・。ゆっくりでいいから あの時に何が有ったか思い出せないか・・・?。」

ラルフはシオンが糾弾するのを聞きながら 
優しくアイリスに寄り添い 問いだした。
彼は自分の置かれた状況が全く 飲み込めずに ラルフを見つめている。





生きている事実
ナオト達が居ないという事。

・・・・こうなってしまった原因。


全てが重くて 頭を脳天から叩かれているようだった。


思い出すのは
・・・・・大丈夫だナオミ・・・・。

と言われて 

白い空間からいきなり 暗い部屋に辿りついていた事。
自分を呼んだ仲間を探す為 重くなった体を引きずって探しまわった。




ラルフと もう一人とウーラヴ・・・そして 寝て居る・・・マスター シオン。

彼らが 言い争いをしていた。
疲れて膝を付くと ラルフが・・・・・




「だから・・・今聞いても まともな答えが返って来ないと言っているだろう!?もう少し時間を置いてからだな・・・。」

「何を言ってるんだ!もう犯罪者だと判り切っている事じゃないか?・・・私のクローンと一緒に連れて行くと言っている・・・・・・時間を置けば、いらない情が・・・更に悲劇を招くだけだと何故 わからないんだ??。」

どうやら・・・彼らは自分の事に付いて話しているようだった。


シオン様・・・・・・彼は死んだのだろうか・・・・
俺を・・・忌み嫌って視線のキツイ彼だったが・・・・・・・

ふーっとアイリスは息を吐くと 前にのめり倒れてしまいそうだ、腕は重く 機械のせいで前に付けない。

ウーラヴが近寄ってこようとしたが・・・・シオンが自分に触れさせまいと彼の体を止めた。

「アイリス・・・。」




「目を覚ましなさい!・・・・・彼は 貴方が待っていたアイリスでは無いのですよ!。」

と、シオンが耳元でウーラヴに声を張る。

「欺瞞に満ちた・・・貴方を裏切る為に生れて来た 悪魔だ!。」

とアイリスを罵った。
ウーラヴはショックを受けたように固まったが・・・
ラルフは


「違う!!・・・こいつのせいじゃない!・・・変な奴に!薬を騙されて飲んだ だけだ!。な・・・・そうなんだろう?アイリス?。」

とラルフは膝をつきアイリスに問う。



薬・・・・・




「彼は・・・・・友達です・・・。」

ナオトにやった薬を くれた人・・・俺にくれた人。

初めて助けてくれた友達・・・・・。
大きな森の中に有る管理棟から
自分が帰ろうとした時 手を振りながら走って来た・・・・

つなぎの中の白いシャツが 外の光に照らされて真っ白に輝いていた。

まるでナオトの様に 笑い ナオトの様な声で

「これやるよ・・・・お前は うなされて寝れないみたいだから・・・・眠りたくなったら飲めばいい。」

そう言って取った手の中に置いてくれた 

あの薬。




「友達って・・・・どんな友達なんだ?・・・前からの知り合いなのか・・・?。」

ラルフが 否定するようにアイリスの目の前で首を振って見せたが 

「・・・・・・・?。」

答えられない。

「もういい!ラルフ!そんな事が 問題なんじゃない・・・!。」

シオンはどさくさにまぎれ ウーラヴの体を引き寄せた。

腕を掴んでいるので抱きしめた事にはならないが・・・・彼の・・・・何十年来の夢が叶った瞬間でも有った。しかし、その喜びを ウーラヴの一言で 味わう気になれなくなった。

「私のせいなんだシオン・・。」

と、ウーラヴはどうしていいかわからずに おどおどしている。

こんな風に慌てたウーラヴを見るのは 100年も前の 初恋が破れたと知った時以来だった。
天才にしては頼りなげだが その視界の中に入れば世界が止まってしまったのかと思う様な・・・・

美しい少年のころからの記憶は シオンにとって今でも眩しいままだった。
柔らかな視線と物腰。

それが 半身をちぎられたように泣いていた・・・・。



**************************************



すいません この先書いたデータが吹っ飛んだためちょっと飛びますが

申し訳有りません。



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9 君に・・・

2013-06-08 | 悪坂を転がる

はだしで歩くと 
硬い床には感じられないが 
宇宙空間の 中途半端な重力で引きとめられている・・・と言う感じもしない。

ちゃんとした自分たちの為に有る 場所 だった。

白い場所
そこに誰かが居なければ 只の平面で奥が無く見えるが、歩いて行く先には

白い物を被った子供が座って 笑いながら寛いでいた。


ここは天国・・・・・ あの殺菌集会に来たのだろうか。

薬臭い風も吹かないし ぼよぼよとしたチュウブの廊下も無い。

向こうが気が付いて 手を振ってくれた。自分も歩みを速めて そこに行くと

見知った顔しか無かった。

ナオトと弟のミロク 名前もろくに覚える前に死んでしまった子供たちに 
ナオジロウが小さな子を膝の中に座らせている。
ムサシは自分たちより早く 誰かに買われていった先輩だった。
シロオに イク ニオ・・・・


はーーっと 安堵の溜息を付くと 誰かが小突いて来て冷やかされた。

皆の事を聞くと ずっとこうしているという。
そうなのかと また安堵してにこにこすると ミロクとナオトはじゃれ合っていた。

もう離れる事はないと 泣きそうになっていると ナオジロウが自分に腕を廻しながら 
お帰り と言ってくれた。

俺は早く馴染もうと ナオジロウの膝の弟の一人を受け取ると抱きすくめて 匂いを嗅いだ。
まだミルク臭いその子は 小さな手で自分を離そうと 俺の顔を押して来て その指が口に入る。
指を舌で舐めるとその子は 喉を転がす様に喜んで笑った・・・。


これが俺・・・・・。


眠たくなるまでゴロゴロしていた。

皆で手を繋いで寝ていると 自分の死に際に ここの誰かが手を繋いでくれた事を思い出した。礼を言うべく 誰なのかと聞こうと思ったが、
思い出すと不吉なので そのままうとうとする事にする。

両手をギュッと握ってくれた・・・・。

誰かの唇が当たり・・・しかし目を開けると真っ白で・・・気のせいだろうと眠る。
するとまた

首から頬まで包むように 何か触れている。
ナオジロウが寂しくなったのかと目を開けると 皆は黙って寝ていた。

嫌な予感がして横を向き 隣の子を引き寄せ抱くと また眼をつぶる。




「・・・・・シオン・・・シオン・・・。」

と誰かが悲しそうに呼び続けていた。
耳を塞いで身を縮めると 何やら地面がぐらぐらと動き出す感じがした・・・・・。


・・・・・あーあ。・・・・・

と誰かが 言いながら起きろと言う。
えっ・・・・

自分が目を開けると ナオジロウが手を引っ張って 起きろ と言う。
・・・・なんで?・・・・
と聞くと
・・・・家に帰る・・・・。
というのだ。

ナオトもミロクを抱きながら こっちを見るので
・・・・家なんてないだろう?・・・・
というと
・・・・・自分たちの家は 有るだろう?・・・忘れたのか・・・?・・・・・
と言った。
俺は 皆が覚えている物を 忘れるはずがない 知っていると言うと

・・・・なら・・・また明日・・・・。
といって彼らは歩いて行ってしまう。

自分は帰り道が判らないので ナオトとミロク ナオジロウの後を付いて行った。
3人は 変だと言う様に何度も自分を見ている。

・・・・俺も・・・・ナオトの家に行く!・・・・・
と言うと、ナオトはお前の家はちゃんと有るだろう? 
と言った・・・・・。















「・・・・・・・もう・・・手が有りません・・。」

シオンが医療ポッドの前で 機械の波形を見ているウーラヴに悲鳴に近い声で言うと 
彼は微動だにしない。シオンより何もかも理解している、しかし諦められないウーラヴに対してはっきりと告げたのだ。

「・・・・・。」

シオンはアイリスに並々ならぬ感情を持つウーラヴをずっと見て来た。

本体であるシオンとは旧知の仲で、お互いに生命ポッドの管理さえ コピーを交換し操作させている。

主であるシオンは ウーラヴを敬愛して止まず コピーで有る自分は
高齢のウーラヴの為に いつでも切り取って使えるように ナチュラル体にしてあった。
もし本体であるウーラヴに何か有った場合、コピーである己の体を使う様に成っている。

コピーはシオンの体なのだが シオン型を消して フラットに誰の体にも合う様に作られた。
脳以外は 誰にどこでも移植する事も出来るはずだった。
それをウーラヴには言って居ないが・・・・彼は 多分判っている。

ほとんど生命維持装置の力によって生かされているアイリスを ポッドに入れ眺めているウーラヴ・・・・・
彼の仕事である体のパーツを 彼の医療船から取り寄せれば アイリスはまた動きだすのだろうが・・・・・それは違反行為だった。

いくつもの生命体を 維持管理できる仙人は 法律違反は許されない。
すぐに延命停止処分になってしまう。そうなれば自分の寿命を超えて生きているウーラヴは 死ぬしか無い。

もはや自分かアイリスの死しか選べない状況だった。


ウーラヴの手元にあるのは自分のパーツだけ・・・・。
シオンは

「・・・・ウーラヴ・・・・・私はマスターに・・・あなたの為に体を使う様に 言われています・・・。」

と言うと、

ウーラヴは堅く首を振った。

「・・・・でも・・・。」

と続けると

「いらない・・・。」

と彼は答えた。










残る選択肢は一つ・・・・・。


超高層タワーの先端のデッキ
ガラス窓は朝日の偏光時間はおわらせ 通常の透明度に戻っている。
窓を20パーセント開け風を入れると 部屋の淀んだ空気は廻ってどこかに流れ始めた。

開けたと言っても空気だけ通しているだけで実際には窓は動いている訳ではない。

この部屋のどこかに 選択肢 を持つ者がいるはずだった。
隅に毛布の掛かった人が座っている。
かれこれ10時間ほど経ったので 彼はここにずっとそうしていたのだろう。

シオンはお構いなしに毛布をはぎ取ると中に居る者に 声を掛けた。


「お願いがあります。」

「・・・・。」

ゆっくり顔を上げた ラルフにシオンは いらいらした顔で

「貴方にしか出来ない事なので 仕方なく お願いしたい。」

普段なら 頼みごとにしては乱暴な言い方だと怒る所だが 
ぼやーっとしたラルフは 黙っていた。

シオンはその様子を見て説明しても聞けなさそうなので 勝手に準備をする事にした。

手早く準備を済ませるとまたラルフの所に戻って来て

「立ってください。」

という。













迷っていると 止まってしまう。考えている時間が そう見える

それを ドカンと怒られたような気がした。

シオンに 間接的に殴られた気がしたのだ・・・。

ふらふらと 腕に抱えた者が重くて

誰かにバトンタッチしたい気分だった。

気分などと言う・・・生易しい物ではなく どうにかししてそれから逃れたい。

ふらふらとたどり着いた・・・言葉も発せず 愛の言葉を唱えている彼に・・・・。





「ウーラヴ・・・・・・。」

何度か呼んでようやっと 彼が振り向く、 ウーラヴは自分の抱えた者をみつめると 
一呼吸した。

ゆっくり近ずくと 彼は自分の手の中の彼に 話しかける様に抱きあげ 自分から受け取った。



自分で自分を処理したシオンは自分の所にやって来て

「ウーラヴの所に 私を持って行って下さい。」

と言う。

なぜかと聞くと・・・・
シオンは 彼 の記憶に自分のせいでアイリスを失ったという傷を 残したくないと言う。

彼が次を探したとしても、このアイリスの事を忘れるはずはなく。
自分を見る事で アイリスの事を思い出す様を見るのを耐えられないと言う・・・。

優性遺伝の聖人とまで言われているシオンが 性的ペットに献体する事など
本体が許さないはずだと言うと、
本人の人格が自分の中に有るからこそ 行うのだと言う。

あの鼻高々だったシオンが
自分に跪いて哀願している。
その事が 自分のした事をより一層深く刺して来る。

そして

「・・・・彼が生き残るか死ぬかは 判らないが、その後の責任は 貴方が取るべきだ。」

とシオンがいう。
それがシオンの為ウーラヴの為、そしてアイリスの為。


そして・・・・・
倒れたシオンを抱いて ウーラヴの所に来たのだ・・・・。


それから 二人を連れてウーラヴは自分の部屋に籠った・・・・。
















あれから 1か月ほどは近寄らなかったがラルフは 余りにも連絡がなさ過ぎて

とうとう痺れを切らせてウーラヴの部屋にやって来た。

もはやそこは宇宙船上のラボに代わり果て 怪しげな機械がずらっと並んでいる。
あきらめてこの地上でクローンでも精製し始めたのだろうか?

そうなると この地区の知事としてほおっては置けないが、知らぬふりをして帰る事も出来なかった。


丸いポットの中を映したコンソールの前で 色々な波形を流す画面を凝視している。
ポットは二つ向き合う様に並んでいた。

つかつかとうす暗い部屋には入って行き ウーラヴを見ると彼は顔も向けずに

「・・・・やあ・・・。」

と挨拶をした。
声とは裏腹に 切羽詰まった様に動けない様だった。


「・・・・・。」

ポットの中と言う事は 治す事は出来なかったらしい。
ラルフは言葉が見つからず ここに来る前に合った人物の事を考えた



「・・・起きる気配が無いんだ・・・・。シオンの血液と臓器 細胞まで入れ変えたのに・・・・。全く 理由が判らない・・・。」

と呟いた。

「・・・・・シオンは・・・?。」

「・・・・・・あのままさ。・・・・・脳死したまま・・・・だが・・・彼に・・・・生命を・・送り続けてくれてる・・・。」

と 脳死と 言う言葉を言うのに苦しみながら ウーラヴは手で顔を 覆った。

そのまま暫くそうしている姿をラルフは見ていたが・・・・・


「・・・・・シオン本体が 突然起きて来たんだ。・・・大事な星間協議会でも有るのかと思ったが・・・・お前が心配で起きたそうだ。・・・・・明日 ここにも来る。」

ラルフがシオンの話をすると ウーラブはがっくり肩を落とすと両手で顔を押さえたが、
コンソールのパネルをいじりだすと 立ちあがった。


「どう・・・するんだ・・・?。」

ラルフがびっくりして聞くと

「シオンを返さないと・・・・。これ以上彼を苦しめる訳にはいかない、シオンを機械から外してやらなければ・・・。」

「え・・?だって・・・シオンで いま持ってるようなもんだろう・・・アイリスは・・・。」

「・・・・・そう。」

この前会った時より伸びたのか髪は 彼の高い鼻以外を覆い隠す様に別れて顔に掛かっていた。
ウーラヴは髪を掻きわけるなどと言う事はせず 
髪に隠れる様に俯くと シオンのハッチの中をながめた。


彼には 馴染みが薄い最後の時間
ゆっくり続いて行くような・・・終わった時間。
いつからか終わりだと それは告げるのだが、

徐々に沁み込んで近ずいたのか 見て居ない隙にやって来たのか・・・・
もともと有った物かもしれないが 

死は そこで生きて居た 
シオンと言う死者になって 彼を違う形にしようとしている。

彼と戦ってきたはずのウーラヴは 彼を憎まず敬意を払う様に 
悲しみと共にシオンを委ねようとしていた。

二人を繋いでいたすべての物が取り除かれると 少しだけ生きていたシオンは完全に沈黙する。その時を片時も離れず ウーラヴは抱いたまま見取ると 
彼は暫くシオンに重なる様に覆いかぶさっていた。

それを機械とモニターに繋がれたアイリスのベッドを動かしながら ラルフは見ていたが

胸が痛んだ。


シオンは 手に負えないアイリスを俺に託し、目を離した事を 後悔していた。
彼には ウーラヴの愛人を育てる事に抵抗があったのかもしれない。

俺は・・・・・普通のおもちゃだと思ってしまった。
ただの遊びと思っていたが こんなに重い命とは 思わなかった。

確かにシオンが言う様に 彼に頼まれただけの相手。
よく知れば 不遇ゆえ 我々への嫌悪感は理解出来た、
マスターでは無いので 自分はそれを治してやる様な立場でもない・・・・・・。

だが、そのまま放置しなければ どこかの反逆者から違法な薬を手に入れる事も無かったはずだ・・・・・・・。

ウーラヴやシオンの名前が出てしまうので おおっぴらには出来ないが、
いつでもあの公園を捜査できる。
その話もしなければならない、
とにかく誰かに責任を 取らせたい・・・・。


ラルフはベッドに寝たままのアイリスを眺めながら ベッドエンドに手を掛けた。
そしておもむろに押すと ベッドのモーターは迷惑そうに唸りを上げる。

それを無視するように アイリスを自分の部屋に押して行き 
寝たままのアイリスは連れられて行く・・・・。





あれから 数時間が経った・・・・。


そう思ったのは 動かないアイリスの腕を握り 手相を見 裏返し 起きていたら嫌がっただろうに・・・・頬に当てて見た時だ。

彼の手の平を自分の顔に当てその中に 何度目かに呟いた。

「起きろよ・・・。」


手を借りたままアイリスを見るが 彼の睫毛は下向きになったまま動かない。
ラルフは 彼の頬に手を伸ばそうとするが・・・・止め・・・・

相棒という・・・・大事な者を失った彼はどうしているだろうか・・・・。
と、考えた。
アイリスを見ながら立ちあがり


「ちょっと・・・待ってろよアイリス。・・・お前のご主人さま 見てくるからな・・・・。」

と言ってみる。

言いながら・・・・黙りつづけるアイリスに・・・・体を倒し近ずくと


「・・・・いつまで 死にそうな顔して寝るつもりなんだ?・・・・・・・もう大丈夫だから 起きたらどうなんだ?・・・・・ナオミ。」

とキスをした。


何も言わない彼を見ながら 
 
変な自分がいた。

ついこの前までは 最低な子供だとおもっていたのに・・・。
今は 目を覚ましてくれるなら 

何でもしたい気持ちだった・・・。

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