夜中の紫

腐女子向け 男同士の恋愛ですのでご興味のある方、男でも女でも 大人の方のみご覧下さい。ちょっと忙しいので時々お休みします

沁みる 17!

2017-05-24 | 紫 銀

有村は、総悟に老舗の茶屋に、部屋を取り

酒をふるまった。

細い格子窓の宿屋は どことなく色町の優美で華奢な部屋に感じられた。

どこからか三味の音が鳴り、体の中にある 押さえている物を弾かれ続ける。

総悟は硬派なイメージの有村しか知らなかったので、

目の前にある光景に目が いつまでも慣れない。

有村はさっきから気に入らない気に入らないと

言い続けている、

彼の周りをぐるっと囲んだ雅な着物の女達が

その度に膝を緩め 有村に酒を注ぐ。

体まで斜めになって酒をを注ぐと大きく開いた襟から、とがった肩が見える


女たちも 彼の扱いは心得ているらしく、腕には触らないのだが、背中や肩には触り放題で

総悟が・・・・有村のぼやきの種を尋ねる前に・・・・

女たちが有村に 兄さんどうしたの?

と小さな声を掛けている。

有村は・・・自分と酒を飲んでいるのか

女となのか、

はたまた、有村と酒を飲んでていいのか・・・・良く判らない。

 


 

「全く 気に入らん!。」

有村は 総悟に酒を勧めた、どうやら自分に聞いて欲しいのだと悟り・・・

「何がですか?。」

と聞いてみることにした。


「・・・あの男だ。」

有村が即答する。・・・・でしょうねぇー、気に入らないでしょうねぇ。

「万屋っていって・・ただの何でも屋ですがねぇ・・・。」

と、総悟は女が注ぐ酒を眺めながら答えた。

広がった盃には真っ赤な唇が映り込み、女の髪飾りがちらちら光って動く。

すぐ目の前には細い肩 手が届きそうな位置まで女の鎖骨が迫っていた。

耳元に吐息がかかるので、それを手で虫のように払いのけると、女の喉が少し悲しそうに あん と鳴る。

うっとおしい女・・・手は回っては居ないのだが、自分を覗き込む視線は無数に感じている。


「無刀だな?、あの真っ白い髪・・・ただ者 か?。」

有村が 総悟に聞いた。


・・・維新志士やってたので・・・・ただでは無いかもですねぇ?

何て言う訳にはいかないので。

「・・・・どうしてそんなに 気になるんですかぁ?。」

と聞き返してみた。

「・・・いや。別に」

有村はやっと自分のしつこさに気が付いたらしく、溜飲し

女がここぞとばかりに、兄さん兄さんといって難り、膝や背中に取りすがる

が、

有村が女に押し倒される前に、総悟を見て

あいつは港の家の者だぞ!と言うと、

びっくりするぐらい女たちは行儀良くなった。


「お姉様に 宜しく。」

と 皆次々にそう言い 口惜しそうに有村を眺めている

しかし、出て行ってしまった。

あっけにとられた総悟は

すぐさま、港家のおばあ様の顔が浮かぶ 確か、舞踊の家元だとか師匠だか何だか・・・だった気がする。。

男の世界よりも何やら 根が深そうな女の世界に少し尻込みしていると・・・


「・・・・まあ、あの男の事は置いておくが、今回は・・・お前を呼ぶように言ってきたのが、港なのだ。道場で会わす前に、二人で話そうと思ってな。・・・・お前はまだ師範代筆頭、田嶋先生が指名したままだからな。」

と有村が言う。

沖田 総悟は 座布団から降りそれを脇に帰し 

両こぶしで畳を一押しして下がり 有村から距離を取る

そのまま頭を下げ

「その事 港先生に・・。」

と言いかけた

有村から適切ではないと言ってもらえれば・・・・だが、言わせてもらえなかった。

「まあ聞け!、俺は港じゃないから、言いたい事も言える。」

と、有村が 総悟の言葉を遮った・・・

大きめのお銚子を持ち上げ 彼はとぷとぷと音を立てるようにふる。

総悟が恐る恐る頭を上げると、

有村が酒を飲めと総悟の盃を見ていた。

総悟が近寄って、有村が総悟の盃に 酒を注ぎ、


「俺の・・・姉が・・立派な侍にしたいと言う事で俺は この道場に入門したんだが。最初はぐれて道場飛び出し、遊郭に・・・姉の所に逃げ込んだ。ガキの頃はただで合わせてもらっていたが、その内姉に会うにも金がかかるようになった・・・ある日女衒の金を盗んで、空の財布を その頃好きじゃなかった田嶋に渡したのだ。・・・田嶋は2日後 ぼろぼろになって帰って来た・・・・・・・あいつは、最後まで俺から財布を渡されたと言わなかった。」

総悟は 有村の顔を覗き込む。


「俺は田嶋を、ますます嫌になった。だが、本当にまじめな奴だから、・・・俺たちを飛び越して師匠に指名されてな、・・・・やはり取り入ってうまい事やったのだと思った。」

有村は、自分が飲み、総悟が杯を干すのを待った。

「・・・・で・・?。」

総悟が言うと、有村は

「・・・だが奴は・・・奴だった。・・・・・・道場の為、・・・それが 田嶋だ。」

有村は総悟に 苦笑に満ちた顔をして見せた。

「あいつが江戸から帰って来て・・・嫁さんが 城主の甥大学に殺された時も・・・弟子達でユキの敵を討ちに行くと言ったが、相手は一刀流道場の・・・後ろ盾。やりあえば我らが潰されると言って・・・奴は一人で話を付けに行ったよ。」

 

ぐいっと総悟も酒を飲み、有村に注いだ。

「・・・俺はな・・・。田嶋に借りがあるんだ。」

「はい・・・。」

良く判らないが返事をする。

「・・・姉はなぁ・・・年季が明けても・・ずっと遊郭で女たちの姉役をやってた。・・・病気になっても・・・俺の世話には なりたがらなかった。・・・ずっと何かに怒って、怒鳴った自分を怒ってみたり、・・・姉に育ててもらった俺は・・・・・・何も出来なかったのだ。」

有村は表情を固めたまま 徳利を持ち上げ・・・。

眺めた

「・・・・。」

総悟は、盃をずっと上げたまま待つ。

・・・とくとくと注がれたので飲み干して、有村に返杯した。


「・・・・田嶋が・・・。姉の最後の一か月、・・・夫婦の真似事に付き合ってくれた・・・。その時だけ・・・姉貴は 俺の事を考えなくて済んだんだ。」

「・・・。」

総悟はうつむく 

確かに先生は・・・・そういう人だった。


「田嶋に・・・借りを返したいと思っている奴は大勢いる。・・・だがな、お前以外に 返せる者は居ない・・・。なぜだか判るか?・・・あいつは、あいつの為にされる事を喜ばなかった。道場と仲間をささえ、その仕事を任されたのは、お前たちと港だけだ・・・。」

有村は 酔ったのか・・・・

三味が泣き、二人は黙って酒を吞んだ。

 






次の日の朝、


総悟は道場の前の竹林の音を聞く。まだ寒いが・・・

空気が春に溶け始めて 流れているのが分かる。

このどこかに 田嶋先生の最後の息も流れて行ったのかと思うと

ずっと探して 目を凝らし 胸の奥深くで何かつぶやいた。

一歩一歩踏み締めて道場の門の敷居をまたぎ、入って行く。


広い道場の端に座り 深々と頭を下げ・・・田嶋先生に挨拶をした。

何も言葉が返ってこない 

体に力を込めて立ち上がる

その時に、神坐の田嶋の太刀がちらっと眼に入り、・・・何かが胸にぐさっとささる。


「・・・兄貴!ご無沙汰していますぅ!。」

後ろから・・・チャラい挨拶をされ、まさか自分の事じゃないだろうなと

振り返って見て見ると、

素人臭い着方の 道着に袴、へらへらしている男が

自分を見ていた。

一瞬血の気が引くほど、嫌になる

総悟にぺこっと頭を下げてから道場に入って来る

その男の顔に 全く覚えがない。


「やだなぁ・・・へへへ、兄貴。・・・有村先生に言われたとおりにしただけで、本当に起訴なんかしませんぜ?。へへ。」

「あ?。」

総悟がいらっとして、殴ろうかどうしようか考える。

「ほら!・・・俺!・・・バイクで 兄貴に、いちゃもんつけたでしょ?。」

と手を伸ばしてきた。

総悟はその手を思いっきり下から叩き上げると、

夜中に殴った男の顔が浮かんで 余計にいらいらする、思い出したくない物が蘇った。

でも、もう2人・・・居た気がしたが

悪夢は・・・こいつだけで十分だな

総悟は無視を決め込んで ずかずかと道場を出て、奥に進む。

すると広間の方から来た男が


「ぁ・・・居た居た!・・・沖田先生!・・・ご無沙汰しておりますー。」

と悪夢がもう一人増えた、それが足を擦りながらやってくる。

総悟はつい眉間に手が行った 頭が痛くなってきた。

振り払えるものなら 払いたい。


「足がしびれちゃってー。」

「・・・。」

言葉が出ないでいると

「ここに来て そのまま入門させて頂く事になりました。宜しくお願いしやーす。」

と二人が 揃って頭を下げる。



沖田は二人を睨みつけて、道場の奥に進む。


離れに繋がる渡り廊下を進むと、複雑な感情が沸き上がる。

雨の日に 良く雨だれを草で切っていた低い屋根。


静かな廊下を周るとあの 中庭が見える。

開け放たれた雨戸の向こうをじっと眺め、畳の端に座り 剣を右脇に真っすぐに置き

畳に手を置いてから

「・・・沖田総悟です・・・ただいま 戻りました。」

と名乗る。

「・・・入れ。」

かつて自分と先生を分けていた襖 立ち上がってから近づき、もう一度座る。

手を掛けるとき 胸が鳴った。

「入ります。」

と言ってすっと引き・・・その部屋に入って行く。

何かが大きくかけた部屋・・・



港先生に今までの報告をして 非礼を詫びた・・・。

田嶋先生もそうしただろうが、

港は何も言わず、労を労ってくれた。

良く見ると、港先生は少し瘦せてはいたが、目の光はそのままだ。

「田嶋に 報告したか?。」

少し微笑んでから港が総悟に聞いた。

 

「はい・・・。」

総悟は頷く。

庭に空気は変わらず 草の匂いを部屋に運び、冷気を部屋に忍ばせた。

「お前は来ないと思っていたが・・・、これであいつの望みをかなえてやれるな。・・・」

と港がつぶやく・・・

「昨日 江戸から何か持って来たんだろう?・・・。」

総悟に聞いた。

「ああ・・はい。俺がバイクです。借りたままだったので、今日それを持ってきました。」

「特別車両仕立てでか?。」

「別な・・・容疑者も・・・護送してまして・・・。」

ぎくっと内臓が動く。

ここで嘘はつきたくないが・・・。

「そうか・・・忙しそうだな・・?。」

そういいながら港は 総悟と一緒に茶を飲んだ。

コメント
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