伊豆高原シニア・ライフ日記

「老い」を受容しながら自然の恵みに感謝しつつ「残躯天所許不楽復如何」の心境で綴る80老の身辺雑記 

「三金会雑記」秋号の原稿 「我が家の『農政改革』」

2009年08月29日 | 三金会雑記
ものを書くことが多かった時代に比べて、最近は年に4回だけの「三金会雑記」の原稿を書くだけでも結構負担を感じるようになった。

だが、そうしたストレスを感じながら少しはまともな文章?を書くのも、それなりにボケ防止になるのではないか。書くことをやめるよりはましだろう。

それにしても、最近の字句の忘れようのひどい事!なかなか適切な言葉が浮かんでこないし、こんな表現があったかしら、と不安を感じることも多く、ろくな文章が書けなくなっているようである。

情けないことではあるが、これも加齢がもたらす現象、あまり気にしてもはじまるまい。達観に徹することにする。


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我が家の「農政改革」

政権交替を賭けた選挙戦たけなわである。

今回の選挙では自民党の長期政権が崩壊することはほぼ間違いないであろう。これまでの自民党そのものが必ずしも悪かった訳ではない。戦後日本の繁栄を築いたのが、その長期の独占政権がもたらした安定した施策によるものであったことは否定しがたい。

ただ、余りに長く続くことになった権力が時と共に硬直化し腐敗の種を宿すようになるのは、洋の東西を問わず歴史の示すところであり、また人間の愚かさに由来する自然の理でもある。モンテスキューの「三権分立」の思想的基盤もその洞察から出発したものであった。

補助金・交付金にせよ、天下りにせよ、長期政権が作り出した様々のシステムがいろいろな利権を生み、それが既得権益化することで当初の目的から離れ、極言すれば国家予算を通して合法を装う私益追求のコラプション的構造になっていることが問題なのである。

そうした利権構造に位置づけられたものとして、すぐ念頭に浮かぶのは不要不急の土木・道路といった建設行政、制度設計から乖離してしまった医療・介護・年金の厚生行政であり、農村に疲弊をもたらし山野を荒廃させてきた農林行政であろうか。

これまで政府が行ってきた農業政策について言えば、関連団体を通じて補助金・交付金ばらまきの常態化で、それが自民党の大票田となっていたが、方向の見えないままにずるずると行われ、農業従事者の高齢化もこれに加わって、既存のシステムはもはや限界にきている。

今度の選挙の帰趨にかかわりなく、抜本的な「農政改革」は否応なく行われるであろうが、それがどのようなものとなるか、これからの行方を刮目して見守っていきたい。

ところで、そのような国家レベルにおけるだいそれた問題ではないのだが、私の個人レベルでも深刻な農業問題が現在進行しつつある。私の場合も高齢化が進んだことに起因する。

齢八〇歳に近付き、体力・気力が以前のようには行かなくなり、これまで続けて来た私の農業政策=「園芸のやり方」に先行きの見込みがなくなり、我が家においても抜本的な「農政改革」が必至のものとなったのである。

我が家における「農政改革」は、営農の基本となる「菜園」の存続か廃止か、あるはその規模の縮小か、という選択にかかっている。

「菜園」を全廃するか、そのまま惰性的に続けていくかはかねてからの問題であった。
このまま続けることで我が体力の及ぶ限度を超え「菜園」が次第に荒廃していくのをいたずらに待つのか(存続すれば規模の縮小は必然的に生じる)、それとも思い切って土地を売り払って老後の趣味生活を支えてきた園芸を捨て去るべきなのか?

これは体力の衰えを自覚するようになって悩み続けてきたものであった。

現在、私が菜園として使用している土地は、バブルの最中にサラリーマン生活を終え生まれた初めて退職金なるものを手にし、なんだか急に懐が豊かになったような錯覚に陥って手を出してしまったものである。

不要不急のものなのに、ついつい自宅の土地とは別に余分な土地を購入してしまった。

伊豆で新築した我が家の取柄は、南面に広がる相模湾と伊豆七島の「海一望」だが、地続きの南側斜面に九〇坪の変則的な空地があり、建蔽率二〇%という当地の厳しい制限にもめげず、この土地に物好きがいて小さな二階屋でも建てたら折角の海の展望が一挙に失われるのではという危惧があり、不動産屋にその土地の購入を持ちかけたのが今思えば失敗のもとだった。

結局土地所有者に売却の意向はなくこれは実現しなかったが、それがはずみとなってそこから道を一つ隔てた一三〇坪の宅地を買う羽目になってしまったのである。

その頃は現在のように土地の価格が暴落するなど夢にも思わなかった時代で、退職後の新しい趣味として園芸をやってみたいという気分もあり、当分の間は畑として使い、身体が利かなくなる七〇歳半ばくらいになったら、売り払ってその代金を老後の資金に当てようなどと至極虫のいいことを考えたのである。

だが、その後、バブルの崩壊で土地の価格は暴落し、老後の資金のあては全く外れたし、当初の予想どおり七〇歳半ばを過ぎれば一三〇坪の菜園を管理することは容易ではなくなった。

特に夏季には一、二時間くらいの作業であっても全身汗まみれ、くたくたになり家内が熱中症を心配するまでになった。

作業能力が徐々に低下していくに伴い、土地の周囲を囲った樹木も伸び放題、畑は雑草にまみれ、荒地同様の無残な姿を呈することも次第に多くなっていった。

こんな状態をいつもでも続けるわけにはいかない。大損を覚悟で土地の売却を決断するかどうかは別にしても、思い切って園芸趣味を諦めて「菜園」を廃止することが差し迫った現実的な課題になってきたのである。

そんなところに、これを解決してくれる強力な「助っ人」が現れた。

最近、近所に引っ越してきて親しくなり、なにかとお付き合いするようになったA氏である。退職したばかりの前期高齢者だが、そのバイタリティは並大抵のものではなく、活力をもてあまし身体を動かすことを積極的に探しているといった趣きの人で、私が「菜園」に使っている土地の四囲をめぐらしている貝塚伊吹の垣根が伸び放題で無様になっているのを見かねて、半日二日をかけてあっという間に綺麗に刈込んでくれたのである。

私としてもその作業を傍観するわけにもいかないので刈落とした枝や葉っぱを持ち運ぶだけの作業に加わったが、そんな作業でも正直くたびれた。





そんなことから、手が及びかねる菜園管理に話が及び、自宅の庭の畑だけではもの足りないらしいA氏が我が家の畑の一部を使う……という話になり、二人で菜園全体を眺めたうえでこれを二分割しその半分をA氏にお任せすることになった。

「どうぞご自由にお使い下さい」ということで、現在植わっているピーマン、茄子、里芋などの収穫が終わる秋口からはA氏の菜園が本格的に稼動することになる(その後、A氏が親しく付き合っているB氏をも誘い二人でその半分の農園を管理することになった)。

農作業というものは、一人でやるより複数でやる方が楽しいし、お互いにいろいろと智慧の貸し借りもできる。

「菜園」の規模が半分になれば、ほとんど負担を感じることなく管理できそうだし、趣味としての園芸をこれからも楽しむことができよう。

それに、無理に頑張らなくても、それなりにやってさえいれば、少しは手伝ってもくれるのではという期待もある。

また、作りすぎて貰い手が見付からず困惑することの多かった野菜も二人を通じればなんとか処理できそうだし、私が作れなかった野菜も少しは分けて貰えるのではないであろうか。

こうして、二〇年近くも続けてきた我が農園だが、その管理方式に抜本的な改革がついに断行されることになったのである。

こうした大改革に加えて、もうひとつ、我が「菜園」における営農の基礎となる施肥の改善が、現在すでに部分的に進行していることも付け加えておきたい。
無農薬・無化学肥料による「自然農法」の採用である。

これまでも、せっかくの自宅菜園だからと化学肥料や農薬の類はなるべく避けてはきた。そのため、収穫された野菜は見た目には必ずしも自慢できるものばかりではなかったのである。

ところが、化学肥料を使用せずとも「EM菌」というのを利用すれば良質の肥料が作れるという耳寄りな情報を得たのである。
「EM菌」とは土壌改良用として開発された有用微生物群(Effective Microorganisms)のことで、生ゴミをこの菌で処理すれば生ゴミが良質の堆肥に化するという。

畑に設置しこれまでも生ゴミ用として使用していたコンポストだが、数ヶ月前から「EM菌」を使った素材「ぼかし」を投入することで生ゴミ減らしと堆肥作りに励むことになり、以来、我が家の生ゴミはゴミステーションには一切持ち込まず、すべて畑で堆肥の材料にしている。

インターネットで「ぼかし」(商品名「スイートコーン」)を購入し、畑の倉庫に保管しておき、生ゴミをコンポストに投入したらその上にスイートコーンを一握りふりかけ、更にその上に沢山の土をかぶせて蓋をする(EM菌は嫌気性)のが毎日の仕事になっている。

これを繰り返すことで三台のコンポストを順次使い回し、コンポストが一杯になったら一番最初に使ったコンポストを開けて土に返す。「スイートコーン」の説明書によると夏期は二週間もすれば生ゴミは堆肥化するとある。

開けてみると確かに生ゴミは真っ黒い土に変っており、肥沃な土壌になっている証拠にはその土の中にはミミズが入り込んでいる。この有機質をたっぷり含んだ良質の土壌を使って野菜を作れば、化学肥料に頼らずとも栄養豊富で美味な野菜ができる。

まだ具体的にその成果をみる段階には至ってないが、この自然農法による「エコ菜園」の成立に期待するところは大きい。

成果は出ていないが、はっきり言えることは、それ以来、畑にミミズが大量に発生するようになったことである。

そこで、ここでミミズについての一講釈をしておきたい。

ミミズは「黄金の鍬」といわれ、農作業にとって極めて重要な友とされる。
進化論で著名なチャールズ・ダーウィンは、後半の約四〇年間をミミズと土壌についての地味な研究に費やし、死の前年には『ミミズの作用による腐植土の形成』(邦訳『ミミズと土』)を出版したことでも知られている。そこではミミズが「大地の虫」(Earthworm)としてその有益性を高く評価している。

ミミズは土を食べ、そこに含まれる有機物や微生物、小動物を消化吸収した上で粒状の糞として排泄する。これによって、栄養豊富な土壌に変り、植物の生育に適した団粒構造の形成に大きな役割を果たすという。

ミミズの糞は窒素が三倍、燐酸が二・五倍、植物に吸収されやすい無機のカルシウム、カリウム・マグネシウムが一~二倍、また植物の腐食物質である腐食酸が一四倍にまで高められるというから植物にとってこのうえない土壌が出来上がる。

近所の奥さんはミミズは身震いするほど嫌いだというが、今の私にとってグロテスクなミミズの姿はとても可愛らしくみえ、愛しくさえ思える。畑を耕すとよくミミズが姿を現すが、殺さないよう傷つけないようにと、そっと他所へ移してやっている。

「EM菌」利用による生ゴミ処理が私の畑にミミズを沢山繁殖させ「黄金の畑」が成立し、これからの収穫に反映することを楽しみにしている。


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1 コメント

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2009-09-03 00:11:22
EM菌のコンポストとミミズのお話は非常に興味深いですね。ぜひそのうちそのエコなコンポストを試してみたいものです。私もミミズはあまり好きではありませんが、昔から「ミミズは畑の土を肥沃にしてくれる」と聞いているので、伊豆高原の家に行って庭を掘り返した時、にゅるにゅると現れてもあまり邪険にしないようにしています。(ミミズも好んであの姿カタチに生まれてきたわけではありませんものね。)
ダーウィンがミミズの研究に後半の40年を費やしていたとは知りませんでした。
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